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「ブラック・クランズマン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みのの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ブラックウラングスマンン.jpg
黒人警官が白人至上主義の秘密結社KKKに潜入捜査する、
という1979年の実話を外連味たっぷりに映像化した、
スパイク・リー監督の新作映画を観て来ました。
カンヌ映画祭のグランプリ受賞作です。

これは観る前には結構期待したのです。
スパイク・リーは嫌いではないし、
今回は社会派色は少し抑えて、
かつての黒人主演のB級活劇(ブラックスプロイテーション映画)を、
今の目線で再構成するという趣向なので、
ぶっ飛んだ面白い映画になるのではないかしら、
とワクワクしたのです。

ただ、観終わってみると、
かなりアジテーション映画に近いもので、
最後にはトランプ大統領が登場して、
トランプを人種差別主義者として糾弾する、
というタイプの作品でした。

それはそれでいつものスパイク・リー節なので、
良いと言えば良いのですが、
今回は敢くまでフィクションの世界で、
そこで完結する物語を紡いで欲しかったな、
というのが正直なところです。

映画は1979年が舞台になっていて、
1970年代前半に主に流行していた「コフィー」や「ハンマー」、
「クレオパトラ・ジャガー」などの黒人ヒーローのB級アクション映画のスタイルで、
全編描かれています。

「クレオパトラ・ジャガー」は僕は大好きで、
空手の名手の黒人の女性刑事が、
白人の悪党をボコボコにしまくるという、
ただそれだけのお話です。

それと共にこの映画は一種のアメリカ映画批判にもなっていて、
オープニングは「風と共に去りぬ」の1シーンで始まり、
この映画における「良い黒人」としてのメイドの描写などが批判されますし、
後半ではKKKの復活を後押ししたとも言われる、
グリフィスの「国民の創世」が槍玉に挙がり、
徹底的に批判されます。

お話的には黒人警官が、
まだ人種差別が残る警察署の中で、
友人となった白人警官と協力しつつ、
KKKの狂信的な白人会員が企む、
爆弾事件を未然に阻止する、
という物語が主軸になっています。

ただ、敵方のKKKが要するに「おバカの集団」として描かれているので、
主人公達にやられ放題という感じで、
アクション映画としてのスリルは皆無です。

作品中で黒人運動の指導者の演説のようなものが、
かなり時間を掛けて描かれるので、
内容もかなり過激なものですし、
何か裏の意図があるのかしらと思っていると、
結局は観客にその演説を聴かせたかった、
ということのようでした。

KKKの当時の幹部として、
今も政治家として活動している白人至上主義者の、
デビット・デュークが実名で登場し、
徹底しておちょくられるのですが、
どうやらこうしたことが、
監督としてはやりたかったことのようです。

クライマックスでは爆弾を追跡する主人公達と、
「国民の創世」を批判する黒人指導者の演説、
そしてその映画を観て喜ぶKKKの団員の姿が、
交互に描出されますが、
これはグリフィス監督が「国民の創世」や「イントレランス」で用いた、
映画の編集技術のモンタージュ理論で、
「国民の創世」批判をモンタージュで描く、
というようなひねった趣向が、
多分カンヌでは受けたのかな、
というようにも感じました。

そんな訳でもう少しアクション映画としての高揚感やサスペンス、
フィクションとして完結する世界観のようなものを期待したのですが、
実際にはそうしたものは希薄で、
監督の主張と今のアメリカの状況に対する危機感が、
生の形で描出されたような作品でした。

ちょっと期待外れでしたが、
それはこちらの期待が的外れであったためで、
映画自体の瑕ではないのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「運び屋」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は中村医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
運び屋.jpg
クリント・イーストウッドが製作・監督・主演を務めた、
新作映画を観て来ました。

最近のクリント・イーストウッドの映画は、
本人は出演せずに実話を元にし、
上映時間は1時間半弱という短いものが多く、
別にダラダラ長ければ良いというものではないのですが、
内容的にも必要なカットが、
しっかりとは撮れていない、
という感じの不満が残るものでした。

もうイーストウッドの映画は、
こんな感じで楽しむべきものなのかしら、
と思っていたのですが、
今回は久しぶりにイーストウッド自身が主役を演じ、
上映時間も2時間弱と最近では最も長尺です。
勿論これも長ければそれで良いということはないのですが、
今回の作品については、
イーストウッド自身の芝居も良く、
内容もちょっとラストは説教臭が鼻につくものの、
場面も過不足なくしっかり撮り切っていて、
最近になく充実した作品になっていました。

これは主人公が90歳で、
家族を顧みないダメ親父という設定になっていて、
それがひょんなことから麻薬の運び屋になるのです。

イーストウッドがこうした役柄を演じるのは、
かなり珍しいと思いますが、
なかなか説得力のある渋い芝居で、
90の駄目男の最後の切ない挑戦を、
リアルに肉付けしていたと思います。
良い芝居でした。

周囲はおつきあいという感じで、
豪華キャストが脇を固めています。
捜査側の描写など、
段取り的で味気ない描写も混じりますが、
トータルにはこちらも単なるにぎやかしではない、
適材適所の熱の入った芝居で、
イーストウッドをもりたてていたのも好印象でした。

最近のイーストウッド映画としてはベストの出来映えで、
高齢者が主役の映画としても、
映画史に残る出来映えだと思います。

なかなかのお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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砂糖加糖飲料と人工甘味料の健康影響について(アメリカの大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
砂糖加糖液と人工甘味料の健康リスク.png
2019年のCirculation誌に掲載された、
砂糖や果糖などの自然由来の甘味料と、
人工甘味料の健康リスクを比較した論文です。

糖質は身体にとって必要な栄養素ですが、
ブドウ糖や果糖、およびそれが結合した糖質は、
甘くてどうしても摂取過多になりやすく、
その過剰摂取は肥満の原因となって、
健康に悪影響を来すことが指摘されています。

特にアメリカでは、
ブドウ糖と果糖を混合した、
フルクトース・コーンシロップが、
ジュースやお菓子などの甘味料として多用され、
その健康への悪影響が問題となっています。

その代わりに最近多用されているのが、
0カロリーの人工甘味料ですが、
こちらも過食の原因となったり、
インスリン分泌を刺激して高インスリン血症を惹起するなどの、
別個のリスクが危惧されるという側面があります。

それでは、
実際に生命予後に対して、
砂糖加糖飲料と人口甘味料とは、
どの程度の影響を与えているのでしょうか?

今回の検証はアメリカの医療従事者を対象とした、
大規模な疫学データを活用して、
この問題の検証を行っています。

他のリスク因子を補正した結果として、
砂糖加糖飲料を殆ど飲まない場合と比較して、
毎日1本の砂糖加糖飲料を飲んでいると、
総死亡のリスクは14%(95%CI: 1.09から1.19)、
毎日2本以上飲んでいると、
総死亡のリスクが21%(95%CI: 1.13から1.28)、
それぞれ有意に増加していました。
死亡原因では心血管疾患によるものが高く、
癌による死亡単独でも有意な増加が認められました。

一方で人工甘味料を含む飲料の摂取では、
殆ど飲まない場合と比較して、
毎日2本以上飲んでいる場合のみ、
総死亡のリスクは13%(95%CI: 1.02から1.25)、
有意に増加しており、
死亡原因では心血管疾患によるもののみ、
有意な増加が認められました。

このように砂糖加糖飲料の摂取は明確に生命予後と関連があり、
人工甘味料を含む飲料の摂取も、
若干ながら生命予後に影響を与える可能性が示唆されました。

ただ、人工甘味料そのものが影響しているのか、
それに伴う生活習慣などによるものなのかはまだ不明で、
今後より詳細な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病へのGLP1アナログとSGLT2阻害剤の併用の効果(2019年セマグルチド) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤とGLP1アナログ併用の有効性.jpg
2019年のLancet diabetes & endocrinology誌に掲載された、
SGLT2阻害剤とGLP1アナログという、
2種類の糖尿病治療薬を併用した場合の効果を検証した論文です。

2型糖尿病の治療薬として、
近年注目が集まっているのがGLP1アナログとSGLT2阻害剤です。

この2種類の薬剤は、
いずれも低血糖を起こし難いタイプの血糖降下剤ですが、
それに加えて患者さんの生命予後を改善したり、
心血管疾患のリスクを低下させる作用が報告されています。

それまで血糖を下げる薬はあっても、
心血管疾患のリスクを明確に低下させたり、
生命予後を改善するような治療薬は存在していなかったので、
糖尿病の患者さんの予後を改善する薬として、
にわかに注目を集めることになったのです。

ただ、
厳密に言うと明確にそうした作用が認められ、
安全性への懸念もあまりないというデータがあるのは、
GLP1アナログのリラグルチドと、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジンだけで、
それ以外の薬の臨床試験においては、
そこまで明確な結果は出ていません。

GLP1アナログとSGLT2阻害剤はそのメカニズムが異なるので、
両者を併用することでより効果が高まるのでは、
という可能性が指摘されています。

併用を行なった臨床試験も複数報告されていて、
代表的なものでは2016年のLancet diabetes & endocrinology誌に、
GLP1アナログのエキセナチド(週1回の徐放剤)と、
SGLT2阻害剤のダパグリフロジンを併用した臨床試験の結果が報告されています。
結論としては両者の併用によりHbA1cは2パーセント程度低下し、
体重は減少傾向を示し、
重篤な有害事象は発生しませんでした。

今回の臨床試験は、
週に1回注射するタイプのGLP1アナログのセマグルチドを、
SGLT2阻害剤を含む治療に上乗せした効果を検証しているもので、
日本を含む世界6か国で2型糖尿病でSGLT2阻害剤を含む治療を受け、
HbA1cが7.0から10.0%である302名を、
本人にも主治医にも分からないようにくじ引きで2つの群に分け、
一方は上乗せでセマグルチドの注射を施行し、
もう一方は偽薬の注射を施行して、
30週の経過観察を行なっています。

使用されているセマグルチドは、
日本でも発売準備中ですが、
若干のトラブルがあり足踏みをしているようで、
現在発売の見込みが明確ではないようです。

今回の臨床試験においては、
30週の時点でセマグルチドの上乗せにより、
HbA1cは平均で1.42%低下し、
吐き気などの有害事象はありましたが、
重篤なものは僅かでした。

今回の検証によりSGLT2阻害剤を含む治療への、
セマグルチドの上乗せの、
有効性と安全性が30週という期間においては確認されました。

ただ、今回の研究においても、
併用治療の生命予後や心血管疾患リスクへの影響は検証されておらず、
今後併用のより長期的な効果についても、
検証が進むことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ナッツの摂取と心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナッツの摂取と心血管疾患リスク.jpg
2019年のCirculation Research誌に掲載された、
ナッツの摂取と心血管疾患リスクについて、
2型糖尿病の患者さんおいて検証した論文です。

アーモンドやカシューナッツなどのナッツ類は、
植物由来の不飽和脂肪酸や蛋白質、繊維やミネラル、
ポリフェノールなどの多くの栄養素を含み、
その摂取量が多いことで、
心血管疾患や高血圧などのリスク低下に繋がり、
生命予後にも良い影響を与えることが、
多くの疫学データにより示されています。

ただ、その多くは一般住民においてのもので、
糖尿病の患者さんでも同じことが成り立つかどうかについては、
あまり明確なデータが存在していません。

糖尿病の栄養指導においては、
高脂質、高カロリーの食品であるナッツは、
逆効果であるという可能性もあるからです。

今回の研究ではアメリカで看護師を対象として行われた、
大規模な疫学データを活用して、
2型糖尿病の患者さんにおける、
ナッツの摂取量と心血管疾患リスク、
及び生命予後との関連を比較検証しています。

その結果、
月に28グラム未満しかナッツを摂取していない場合と比較して、
週に140グラム(週5日28グラム摂取に相当)以上摂取していると、
心血管疾患のリスクが17%(95%CI: 0.71から0.98)、
虚血性心疾患のリスクが20%(95%CI: 0.67から0.96)、
心血管疾患による死亡のリスクが34%(95%CI: 0.52 から0.84)、
総死亡のリスクが31%(95%CI: 0.61から0.77)、
それぞれ有意に低下していました。
ただ、脳卒中のリスクや癌による死亡のリスクについては、
有意な関連はありませんでした。

ナッツをピーナツとそれ以外の木の実とで比較すると、
クルミやアーモンド、マカデミアナッツやピスタチオなどの木の実では、
その摂取量が多いほど、
心血管疾患リスク、虚血性心疾患リスク、
心血管疾患による死亡リスク、癌による死亡リスク、
総死亡のリスクの全てを有意に低下させていましたが、
ピーナツ単独は総死亡のリスクのみを有意に低下させていました。

このように糖尿病の患者さんにおいても、
毎日28グラム(アーモンドで20から25個程度)くらいのナッツの摂取は、
その生命予後と心血管疾患リスクを、
低下させる可能性が高く、
その効果はピーナツ以外でより明確であるようです。

ただ、ナッツはかなり高脂肪で高カロリーの食品でもあり、
その上限量も明確ではありません。
糖尿病の患者さんにどのようなバランスで、
ナッツを摂取してもらうことが一番適切であるのか、
今後より具体的でバランスの取れた、
食事指導の指針が作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵とコレステロールの摂取量と心血管疾患リスク(2019年の新知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コレステロールの摂取量と心血管疾患リスク.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
コレステロールや卵の摂取量と動脈硬化の病気との、
関連についての論文です。

コレステロールや卵と健康との関連については、
色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。

これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。

ところが

2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。

これは、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。

ポイントは血液のコレステロール濃度を指標とした時、
食事のコレステロールを制限したり卵を制限しても、
明確なコレステロールの降下作用は確認出来ない、
ということです。

従って、コレステロールの摂取が多いと、
それだけ心血管疾患のリスクが高まるかどうかは、
疫学データにおいても相反する結果があり、
明確にどちらと言い切れる事項ではないのです。

今回の研究はアメリカの6つの大規模疫学データを、
まとめて解析したもので、
29615名の一般住民を中央値で17.5年の経過観察を行っています。

その結果、
コレステロール以外の心血管疾患のリスク因子を補正して解析したところ、
1日に300ミリグラムのコレステロールを余計に摂ることにより、
心血管疾患のリスクは17%(95%CI:1.09から1.26)、
総死亡のリスクは18%(95%CI: 1.10から1.26)、
それぞれ有意に増加していました。
ここにおける心血管疾患とは虚血性心疾患と脳卒中、心不全、
そしてそれ以外を含む心血管疾患による死亡を併せたものです。

また、卵を1日半個余計に摂ることにより、
心血管疾患のリスクは6%(95%CI: 1.03から1.10)、
総死亡のリスクは8%(95%CI: 1.04から1.11)、
こちらも有意に増加していました。

この卵による心血管疾患リスクの増加は、
コレステロールの摂取量で補正すると有意ではなくなることから、
卵によるリスク増加は、
含まれるコレステロール量によるものと想定されました。

このように今回の大規模な検証においては、
コレステロールや卵の摂取量が多いと、
それが明確に血中コレステロールの増加に反映はされなくても、
心血管疾患のリスクの増加や生命予後の悪化に影響する可能性が高く、
心血管疾患の予防のためには、
一定の食事のコレステロール制限は、
必要と考えておいた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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熱いお茶と食道癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
熱いものと食道癌リスク.jpg
2019年のInternational Journal of Cancer誌に掲載された、
熱いお茶の飲用と食道癌リスクとの関連を検証した論文です。

食道癌(扁平上皮癌)のリスクとしては、
飲酒(特にアルコール濃度の高いもの)と喫煙、
そして熱い物を飲んだり食べたりすることが知られています。

ただ、喫煙やアルコールと比較すると、
熱い物を摂る習慣のリスクについては、
あまり明確なことが分かっていません。
食道癌の患者に聞き取りをして比較した、
といったデータが殆どで、
対象者を登録して長期の経過を追って癌の発症を比較した、
というような研究は存在していませんでした。

今回の研究はイランで施行された、
大規模な疫学研究のデータを活用して、
登録時のお茶の好みの温度や飲み方と、
その後の食道癌の発症リスクとの関連を検証しています。

対象となっているのは、
40から75歳の50045名の一般住民で、
登録時にお茶の飲み方や温度を聞き取りし、
その後中央値で10.1年の経過観察を行っています。

その結果、
観察期間中に317件の食道扁平上皮癌が診断されました。

アルコールや喫煙など他の関連リスク因子を補正した上で、
好みのお茶の温度と癌リスクとの関連を見てみると、
温度が60度未満と比較して60度以上では、
食道扁平上皮癌の発症リスクは1.41倍(95%CI: 1.10 から1.81)、
有意に増加していました。

また、ぬるいお茶が好きな場合と比較して、
非常に熱いお茶が好きと答えた人では、
食道扁平上皮癌の発症リスクが2.41倍(95%CI: 1.27から4.56)、
これも有意に増加していました。

更に、お茶1杯を6分以上掛けてゆっくり飲む習慣と比較して、
2分未満で早く飲む人は、
食道扁平上皮癌の発症リスクが1.51倍(95%CI: .1.01から2.26)、
これも有意に増加していました。

このように、
初めて大規模な前向け研究で、
熱い飲み物を早く飲むことが、
食道扁平上皮癌の発症リスクとなることが、
示された意義はあり、
今後別の地域や集団においても、
同種の研究が積み重ねられることを期待したいと思います。

熱いものはほどほどに…

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マスネ「ウェルテル」(2019年新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ウェルテル.jpg
新国立劇場のレパートリーとして上演された、
マスネの「ウェルテル」を聴いて来ました。

これはゲーテの「若きウェルテルの悩み」を原作として、
マスネが作曲したフランスオペラの代表的な作品の1つで、
マスネの作品としても「マノン」に次いで上演頻度の高いものだと思います。

ともかくテノールが歌いっぱなしという感じの作品で、
テノールが良くないと話にならないオペラです。

僕はこれまでに生では2回聴いていて、
最初は2002年に新国立劇場が初めて上演した時。
テノールはジョゼッペ・サバティーニでした。
歌唱は素晴らしかったのですが、
年上の女性に失恋して自殺する青年、
という役柄には違和感はありました。
2回目はリヨン歌劇場が演奏会形式で上演し、
大野和士さんが指揮した舞台でしたが、
これは若手のテノールが確か代役だったと思うのですが、
とてもウェルテルを歌う水準には達しておらず、
学生の練習に立ち会っているような悲惨な舞台でした。
大野さんの指揮するオペラは、
これまで何故か歌手との連携の悪い、
ギクシャクしたものが多いという印象があります。
何故なのかしら?
ひょっとしたら、
たまたまそうした舞台ばかりを聴いているのかも知れません。

今回の演出は2016年が初演ですが、
その時は聴いていません。

演出はクラシックなものですが、
細部に安普請の感じはあるものの、
なかなか美しくて好印象でした。

さて、今回は主役のテノール以外は日本人というキャスト、
ただし相手役のシャルロットは、
ヨーロッパで活躍されている藤村実穂子さんです。

テノール役はサイミール・ピルグという若手で、
ハンサムでビジュアルも役柄にどんぴしゃりですし、
声も伸びがあって声量と繊細さを兼ね備えた、
なかなかの逸材でした。
対する藤村さんはビジュアル的には微妙ですが、
歌は非常に素晴らしくかつ堂々としていて、
世界の第一線で活躍している凄みが感じられました。
ただ、彼女の歌い方はワーグナーのヒロインのようなので、
あまりに堂々としていて、
この作品の持つある種軟弱な優しさのようなものが、
陰に隠れてしまった感はありました。

テノールは藤村さんほどではないのですが、
矢張りかなり堂々とした歌いっぷりなので、
マスネの繊細さが、あまり表現されず、
「なんでこんなウジウジした話なのに、
そんなに堂々と歌い上げちゃってるの?」
という違和感が伴うような印象がありました。

本当のマスネは多分、
もっと繊細で弱々しくないと、
物語の切実さに届かないのではないでしょうか?

そんな訳でこれまで聴いた「ウェルテル」の舞台の中では、
最もクオリティの高い素敵で音楽的に優れた舞台でしたが、
その表現自体にはマスネの繊細さはあまりなかったようにも感じました。
音は素敵で情感に溢れていて、
何も起こらない1幕が、
個人的には一番気に入りました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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歌舞伎座三月大歌舞伎(2019年夜の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
3 月大歌舞伎2019.jpg
今年初めて歌舞伎座の大歌舞伎に足を運びました。

夜の部で眼目は仁左衛門の「盛綱陣屋」です。

平成8年から10年に掛けてくらいの間が、
僕が一番歌舞伎にのめりこんでいた時期で、
ほぼ毎月一度ずつは歌舞伎座に通い、
現行上演されている全ての演目を制覇することを目標にしていました、

ただ、巡り合わせで観ることの出来なかった名作もあり、
その筆頭がこの「盛綱陣屋」と「新薄雪物語」です。

首実検というと、
「寺子屋」と「鮨屋」、「熊谷陣屋」は、
それぞれ何度か観ているのですが、
この「盛綱陣屋」は前3つの演目をお手本として、
それを更にひねって構成されているもので、
名戯作者でトリッキーで技巧的な構成を得意とする、
近松半二の代表作の1つです。

元々長編の浄瑠璃「近江源氏先陣館」の八段目ですが、
歌舞伎で上演されるのはほぼこの幕のみで、
記録を見る限り、戦後通し上演的な試みも、
これまで行われたことはないようです。

通常の首実検というのは、
主君の若君を守るために、
忠臣の子どもが犠牲になり、
それを知りながら敵側に心ならずも組みしているかつての忠臣が、
本物の首であると嘘を言う、
というパターンですが、
この「盛綱陣屋」は父親の計略のために、
父の偽首でありながら捕まっている息子が、
自分が腹を切って父親であることを証明しようとし、
それを目撃した今は敵方に組みしている兄の検分役が、
本物の兄の首だと嘘を言う、
という込み入った構造になっています。

父親が逃げ延びるために、
子どもの方が命を差し出すという話で、
今では絶対お話としても許されないようなプロットですが、
首実検の途中で急に子どもが腹を切るという場面があり、
それを見て兄が弟の偽首と知りながら、
その計略を悟り、
甥を無駄死ににさせまいと嘘を言うという心理を、
無言劇として数分掛けてじっくり演じるというのが、
他の歌舞伎劇にはあまりない特殊な見せ場になっています。

当代を代表する盛綱役と言えば、
東の吉右衛門と西の仁左衛門で、
今回仁左衛門丈の見事な盛綱の芝居を、
じっくり観られたことはしあわせでした。

盛綱の母親である微妙は、
三婆の1つと言われる難役ですが、
録画で歌右衛門の名演技などを観ているので、
今回の秀太郎丈の微妙は、
今ひとつの感が拭えませんでした。

女形の老け役は、
今はまともに出来る役者さんが殆どいませんよね。
残念なことだと思います。

それでもひさしぶりに重厚な時代物の雰囲気を、
堪能することが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者の尿路感染症に対する早期の抗菌剤治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
尿路感染症における抗菌剤の効果.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載されて、
高齢者の尿路感染症に対する抗菌剤治療の効果についての論文です。

多くの抗菌剤が効かない耐性菌の問題などのために、
抗菌剤の使用を減らそうという動きが、
世界的に加速しています。

重篤な感染症ではなくて、
抗菌剤が適応となっている病気というと、
溶連菌感染による急性の扁桃炎と、
単純性尿路感染症(膀胱炎)がその代表です。

女性は尿道が短いなどの構造的な理由があって、
男性よりも膀胱炎を起こし易いので、
女性の膀胱炎に対する抗菌剤の使用は、
短期間であれば必要な処方であると考えられます。
現行の国際的なガイドラインにおいて、
単純性尿路感染症の第一選択の治療薬剤は、
ホスホマイシンとニトロフラントインです。

この2種類の抗菌剤はいずれも古い薬ですが、
効果が通常の尿路感染の病原体などに限定されていて、
耐性菌の誘導を起こし難いと考えられていることから、
こうしたチョイスになっているのです。

ホスホマイシンは日本でも使用可能な薬ですが、
ニトロフラントインは日本未発売の薬です。

抗菌剤はむしろ古い薬の方が有用性が高いのですが、
日本においては製薬会社が新薬を出すと、
同様の効能の古い薬は販売しない流れになるので、
本当に有用性の高い薬の多くが、
日本では流通していない、
というような皮肉な事態となっているのです。

医学は進歩しているので、
新しく出る薬の方がより優れた薬の筈だ、
という誤った進歩史観が、
こうした歪んだ現状を生んでいるように、
個人的には思います。

さて、単純性尿路感染症の治療において、
症状出現後するに抗菌剤を使用するべきなのか、
それとも数日は様子をみて、
改善がなかったり悪化した場合のみ抗菌剤を使用するべきなのか、
といった点についてはまだあまり明確な指針が示されていません。

単純性尿路感染症は通常は軽症で終わる病気なので、
その意味では数日の経過を見てから、
抗菌剤使用の判断をしても良いような気がします。
しかし、一方で高齢者においては、
尿路感染症から敗血症に移行して重症化するというケースも、
少なからず報告されているので、
その点を重視するのであれば、
より早期に抗菌剤治療を開始した方が良いようにも思います。

それでは、実際に抗菌剤の使用のタイミングによって、
高齢の患者さんの尿路感染症の予後には違いがあるのでしょうか?

その点を検証する目的で今回の研究では、
イギリスのプライマリケアのデータベースを活用して、
65歳以上で1回は尿路感染症と診断を受けている、
トータル157264名のデータを解析し、
尿路感染症の診断と抗菌剤の使用のタイミング、
そして敗血症への進行などの予後との関連を検証しています。

その結果、
尿路感染症の診断後60日以内に、
全体の0.5%に当たる1539件の事例で敗血症を発症しており、
診断後速やかに抗菌剤が処方された場合と比較して、
診断同日には処方されず1週間以内に処方されたケースでは、
敗血症のリスクは7.12倍(95%CI: 6.22から8.14)、
抗菌剤が未使用のケースでは8.08倍(95%CI: 7.12から9.16)、
それぞれ有意に増加していました。

入院のリスクも速やかに抗菌剤が使用された場合と比較して、
抗菌剤の使用が遅れても未使用でも、
ほぼ2倍に増加していました。

また総死亡のリスクについても、
抗菌剤が即日使用された場合と比較して、
遅れて使用された場合には1.16倍(95%CI: 1.06から1.27)、
未使用の場合には2.18倍(95%CI: 2.04から2.33)、
それぞれ有意に増加していました。

使用頻度も最も高かった抗菌剤は、
ST合剤でした。

このように、
今回のイギリスのデータにおいては、
65歳以上の高齢者の尿路感染症は、
診断と同時に抗菌剤を使用することで、
敗血症の予防のためにも生命予後の改善のためにも、
有益である可能性が高い、
という結果になっています。

これは介入試験のようなものではないので、
まだ確定的な知見ではありませんが、
高齢者(データによれば特に85歳以上の男性)においては、
尿路感染症は診断と同時に抗菌剤を使用開始することが、
その予後改善のために有用な可能性が高いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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