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抗凝固剤とプロトンポンプ阻害剤併用の消化管出血予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIと抗凝固剤の併用の効果.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
経口抗凝固剤とプロトンポンプ阻害剤を併用する治療の、
消化管出血予防効果を薬剤ごとに比較した論文です。

経口抗凝固剤というのは、
血液が固まる仕組みの一部を抑えることによって、
脳塞栓症や肺血栓塞栓症などの、
血栓塞栓症を予防するために使用されている薬です。

歴史があり現在でも使用されているのがワルファリンで、
最近では直接作用型経口抗凝固剤として、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンなど多くの薬剤が、
その利便性から広く臨床で使用されています。

ただ、こうした薬剤で常に問題となるのが、
その有害事象としての出血系の合併症です。

出血系の合併症のうち、
特に重症となるリスクが高いのは、
脳内出血と消化管出血です。

日本では脳内出血が元々起こりやすいという特徴もあって、
そちらの方が重要視される傾向にありますが、
欧米ではその頻度は圧倒的に消化管出血が多いので、
研究の多くも消化管出血に比重があります。

直接作用型経口抗凝固剤が発売された当初は、
消化管出血はワルファリンより少ないと考えられていましたが、
その後の臨床データにおいては、
必ずしもそうではなく、
むしろワルファリンよりリスクが高いとする報告もあります。

脳内出血は、
特に抗凝固剤使用時の予防法、
といったものはなく、
血圧が安定した状態を保つことなどしか、
その対策はありませんが、
消化管出血に関しては、
胃潰瘍などの治療薬である、
プロトンポンプ阻害剤を、
抗凝固剤と併用するという方法があります。

実際にこれまで、
ワルファリンとダビガトランについては、
プロトンポンプ阻害剤との併用によって、
消化管出血のリスクが低下した、
という結果が報告されています。

ただ、それ以外の薬において同様のデータはありませんし、
個々の薬剤同士の比較も、
明確な形では行われていません。

そこで今回の研究では、
アメリカの公的医療保険メディケアのデータを活用して、
この問題の大規模な検証を行っています。

年間のべ754389名を解析した結果として、
ワルファリン、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンのうち、
最も上部消化管出血による入院のリスクが高かったのは、
リバーロキサバンで、
最も低かったのはアピキサバンでした。

そして、全ての抗凝固剤において、
プロトンポンプ阻害剤の併用はそのリスクを、
有意に低下させていて、
トータルには34%(95%CI: 0.62から0.69)の低下を認めました。

それをまとめた図がこちらになります。
PPIと抗凝固剤併用の図.jpg
上部消化管出血に関して言えば、
薬剤間の比較ではリバーロキサバンが最も多く、
アピキサバンが最も低い、
ということはほぼ間違いはないようです。
そして、リスクの高い薬ほど、
プロトンポンプ阻害剤を併用することの、
抑制効果は高くなっています。

ただ、これをもって抗凝固剤のプロトンポンプ阻害剤との併用を、
推奨するような結論には少し疑問があります。

上部消化管出血の多くは、
すぐに内視鏡検査が施行可能であるような日本の医療状況では、
多くの場合に対応可能な状況ではある一方、
プロトンポンプ阻害剤の長期の使用は、
総死亡リスクの増加は急性腎障害、感染症リスクの増加など、
多くの有害事象がそれ自体指摘されている薬でもあります。
抗凝固剤の多くが長期間継続的に使用される薬だということを思えば、
これは決して無視出来ない影響です。

この問題は今後より多くの領域の専門家が、
議論を重ねて検証し、
実用的なガイドラインを構築するべき事案ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コレステロール降下剤による空腹時血糖増加作用(2018年韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンの空腹時血糖.jpg
2018年のCardiovascular Diabetology誌に掲載された、
スタチンというコレステロール降下剤と、
血糖上昇との関連を、
個々のスタチン毎に検証した、
韓国の疫学データの論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力なLDLコレステロールの低下作用を持ち、
その使用により、
心筋梗塞などの心血管疾患の、
予防効果のあることが実証されている薬剤です。

ただ、有効性の確立している一方で、
多くの有害事象や副作用のある薬でもあります。

その中で体重増加作用と、
新規の糖尿病の発症リスクを増加させる作用については、
スタチン自体のターゲットである、
HMGCRという酵素の阻害作用自体にその原因のあることが、
遺伝子の解析からほぼ明らかになっています。

HMGCRの活性のみが低下する変異のある人では、
スタチンを使用するのと同じように、
体重増加や糖尿病のリスクが増加することが確認されたからです。

このようにスタチンという薬のメカニズム自体が、
どうやら新規糖尿病の発症リスクと、
関連を持っているということは分かりました。

ただ、それでは複数あるスタチン製剤の間で、
その影響に差があるのかどうか、
と言う点や、
スタチンによる糖尿病新規発症のメカニズムが、
具体的にどのような経路を介するものなのか、
というような点については、
まだ情報は限られています。

たとえば日本以外ではあまり使用されていない、
ピタバスタチン(商品名リバロなど)は、
臨床データ上は糖尿病の発症リスクを上げないと、
メーカーの担当者は言われていますが、
それが実際に薬剤の特徴によるものなのか、
それとも単純に薬剤の効果の弱さや、
使用頻度の少なさによるものなのかは、
明らかではありません。

スタチンは実験レベルでインスリン抵抗性の増加作用が、
報告されていますが、
それが臨床的にも事実であるかどうかも、
まだ分かってはいません。

今回の研究は韓国において、
国民レベルの医療データベースを活用して、
各種のスタチンの使用経過と、
空腹時血糖の上昇との関連性を検証したものです。

379865名の登録時点で糖尿病のない一般住民を対象として、
そのうちのスタチンを使用した96182名の空腹時血糖の上昇率を、
スタチン未使用と比較したところ、
スタチンの使用量が多いほど、また使用期間が長いほど、
空腹時血糖は上昇が認められました。
このスタチンによる空腹時血糖上昇効果は、
スタチン以外のコレステロール降下剤である、
フィブラートやエゼチミブでは認められませんでした。

個々のスタチンで見ると、
アトルバスタチンとシンバスタチンで強く、
ロスバスタチンとピタバスタチンも弱いものの有意な増加が認められましたが、
プラバスタチンやロスバスタチンは単独では有意には認められませんでした。

このようにスタチンによる耐糖能への影響が、
比較的早期に空腹時血糖の上昇でチェック可能な可能性がある、
と言う知見は臨床上有用な知見で、
今後はそうした時のどのような対応が、
適切であるかの検証に進んで欲しいと思います。

スタチンの種類と血糖上昇効果との関連については、
確かに薬剤ごとの違いがあるようにも見えますが、
コレステロール降下作用の強いスタチンで、
単純に血糖上昇効果も強い、
というようにも見えるので、
これも今後より精度の高い検証が必要な事項であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ヴェルディ「フォルスタッフ」(2018年新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フォルスタッフ.jpg
新国立劇場のレパートリーとして、
ヴェルディの「フォルスタッフ」が上演されています。

「フォルスタッフ」はヴェルディ晩年の円熟期のオペラで、
「マクベス」「オテロ」と並ぶ、
シェイクスピア原作ものの最後の作品です。

これは結構難しいオペラなんですよね。

物語は他愛のない喜劇で、
それほどの起伏のあるドラマチックな物語がある、
という訳ではありません。
また聴かせどころのアリアがある、
というような構成ではなく、
メインはアンサンブルを楽しむという音楽作りになっています。

ヴェルディが最後にモーツァルトに回帰した、
という感じの作品で、
何に似ていると言えば、
「フィガロの結婚」辺りに良く似ています。
ラストに妖精の森で大団円を迎える辺りなどそっくりです。

アンサンブルが聴き所なので、
歌手が揃わないと上質な公演にはなりません。

今回の舞台はエヴァ・メイやロベルト・デ・カンディアなどの海外組に、
幸田浩子さんなどの国内組が上手く配分されていて、
突出した歌唱はなかったのですが、
アンサンブルはなかなかの高レベルで、
ヴェルディの音楽の到達点を、
まずはじっくりと鑑賞することが出来ました。

エヴァ・メイは大好きなメゾも歌えるソプラノで、
久しぶりに聴きましたが、
前回リサイタルで聴いた時よりかなり引き締まった体型で、
若返った印象を持ちました。
正直最近は浪速のおばちゃん感があったのですが、
今回は衣装も良く、
素敵な若奥様を楽しそうに演じ歌っていました。
もっと歌える人だと思いますし、
予習で聴いたスカラ座のムーティ指揮版などと比べると、
とても控えめに歌っている印象ですが、
おそらく他とのバランスを取ったのかな、
と思いました。
スカラ座版はファン・ディエゴ・フローレスとインヴァ・ムーラが、
若い恋人同士という豪華版です。

そんな訳でもっと爆発するような「フォルスタッフ」も、
あり得るとは思うのですが、
今回はかなりモーツァルトに寄せたアンサンブル重視で、
今の新国立の水準としては、
充分及第点の出来であったと思います。

演出はこの初演の時に観ていて、
安っぽく感じて印象が悪かったのですが、
今回改めて観てみると、
2つの回り舞台を組み合わせて、
場面転換のストレスを解消した構造は、
決して悪くないなと感じました。
ただ、新国立のオリジナル演出は概ねそうしたものが多いのですが、
構造は悪くなくても美術の細部がおざなりで、
舞台のラフスケッチそのまま、
というような仕上がりになってしまっています。
この舞台もその代表で、
もっと細かいところが重厚に出来ていればなあ、
とそんな風に思えてなりませんでした。

いすれにしてもこの難しい作品にして、
水準を超える聴き応えのある作品となっていたことはとても嬉しく、
まずは充実した気分で劇場を後にすることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。


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別役実「森から来たカーニバル」(2018劇壇ガルバ上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
森の中のカーニバル.jpg
山崎一さんが立ち上げた劇壇ガルバの旗揚げ公演として、
1994年に演劇集団円が俳優座劇場で初演した、
別役実さんの「森から来たカーニバル」が、
山崎さんの演出で上演されています。

これは初演は観ていません。

童話の舞台となるような田舎町が舞台で、
そこでは巨大な像が毎年同じ季節に、
森から町にやって来て、
意図はしていないものの巨大過ぎるので、
必ず多くの人間を踏みつぶして殺してしまいます。
町の人も皆がそのことを知っていて、
象を恐れ殺そうともするのですが、
結局は抗いがたいものとしてそれを受け入れ、
それをカーニバルと呼んで狂騒的な祭りに酔いしれ、
死んで行きます。

別役さんの作品としては、
初期の「スパイものがたり」などに近い雰囲気で、
寓話的な物語がコミカルかつグロテスクに、
歌や生演奏を交えて歌芝居風に表現されています。

ただ、後半は初演では岸田今日子さんが演じた、
老女の1人芝居的雰囲気となり、
若い男女が時空を超えたお茶会を続けて幕が下りるという、
「マッチ売りの少女」的な雰囲気となります。

正直ちょっと前半と後半のバランスが悪いな、
というような印象を持つ戯曲です。

ただ、別役さんの戯曲としては登場人物も多くて、
祝祭的な派手な部分があるので、
そのために今回の上演に選ばれたようです。

今回の上演はとても贅沢でクオリティが高いもので、
小劇場の上演とは思えないキャストも豪華ですし、
衣装や美術、音楽などの舞台効果的な部分にも、
とてもとても手間が掛かっています。

80分という上演時間がとても充実していますし、
細部まで見応えがあって、
一度だけでは勿体ないと思えるくらいです。

山崎さんの演出はケラさん演出の別役作品に近いテイストで、
原作の笑いを活かしてハイテンポで進行させてゆきます。
特に人物の登場のさせ方の間合いが面白いと思いました。
ただ、奇妙で個性的なキャラクターの肉付けと、
笑いの活かし方に関しては、
ケラさんの演出に一日の長があるかな、
というようにも思いました。

本田力さんのカーニバルの男や、
山崎さん本人の演じる牧師などは、
もっともっとヘンテコリンで良いと思うのです。
その辺りにちょっと物足りなさは感じました。

別役さんの戯曲の特徴は、
作品の中で個々の人物が成長したり変化することがなく、
最初から最後まである役割を全うするだけなのですが、
それを観客の側が最初は別の人格のように誤解して、
それが誤解であったと分かるところに、
物語の勘所があり、
上手くゆくとどんでん返しのようなショックを、
観客に与えることになるのです。

その観客に誤解させる、
という部分を理解していないと、
最初から最後まで変化しない人物を、
ただ必死に演じ続けるだけ、
ということになり、
物語が単調に流れてしまうのです。

今回の山崎さんの演出は、
その部分にやや問題があるように感じました。

また、象を恐れていた筈の人々が、
途中で挙って象に殺されたいと願い行動に移すのですが、
その部分の不気味さが、
全体の狂騒的な雰囲気に隠されてしまったようにも感じました。

いずれにしても、
小劇場演劇の英知を結集した素晴らしい上演で、
台本の弱さはありますが、
是非に是非にお薦めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように

石原がお送りしました。
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インクレチン関連薬による胆管細胞癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
健康診断などの仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
DPP4で胆管細胞癌が増える.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
頻用されている糖尿病治療薬で、
胆管細胞癌のリスクが増加するという、
臨床医としては気がかりな疫学データの論文です。

インクレチン関連薬は、
世界的には2006年からその使用が開始された、
新しいメカニズムの糖尿病治療薬です。

インクレチンの代表である、
GLP-1(Glucagonlike Peptide1)は、
主に小腸から分泌される一種のホルモンで、
ブドウ糖と同じように、
膵臓のインスリン分泌細胞を刺激して、
インスリンを分泌させる働きがあります。

このホルモンは食事と共に速やかに分泌され、
その後は速やかに分解されます。

GLP-1を持続的に膵臓の受容体に結合させれば、
血糖を低下させる効果があり、
他の飲み薬の血糖降下剤と比較して、
低血糖などの副作用を、
起こし難いというメリットがあります。

更には糖尿病の病因として、
最近注目されている、
グルカゴンの分泌を抑制する効果も併せ持っています。

また、
動物実験のレベルでは、
膵臓の細胞の再生や増殖に働く、
とされています。

つまり、
血糖を降下させるのみならず、
疲弊した膵臓の細胞を復活させる可能性があると言うのですから、
糖尿病の「夢の新薬」として、
その発売時にはかなりの期待が寄せられました。

このGLP-1関連の薬には、
大きく2つの系統があります。

その1つはGLP-1と同じように、
GLP-1の受容体に結合して作用する薬で、
GLP-1アナログと呼ばれています。

もう1つは身体に存在するGLP-1を、
速やかに分解する酵素である、
DPP4を阻害することによって、
結果としてGLP-1の効果を強めよう、
という薬で、
DPP4阻害剤と呼ばれています。

現行日本においては、
GLP-1アナログとしてリラグルチド(商品名ビクトーザ)と、
エキセナチド(商品名バイエッタ)。
DPP4阻害剤として、
シダグリプチン(商品名ジャヌビアとグラクティブ)、
ビルダグリプチン(商品名エクア)、
アログリプチン(商品名ネシーナ)、
リナグリプチン(商品名トラゼンタ)、
アナグリプチン(商品名スイニー)、
テネリグリプチン(商品名テネリア)、
サキサグリプチン(商品名オングリザ)
などが使用されていて、
糖尿病治療薬の一大勢力となっています。

このタイプの薬は日本においては、
海外以上に評価が高く、
2型糖尿病の第一選択薬に近い位置に、
現在では置かれています。

ただ、膵炎や膵癌のリスクを上げるのではないか、
などの有害事象や副作用の危惧が指摘されている薬でもあります。

今回問題視されているのは、
このインクレチン関連薬と胆管細胞癌との関連です。

胆管細胞癌は稀ですが早期発見が難しく、
予後の悪い癌として知られています。

胆管細胞にはインクレチンの受容体があり、
その刺激が胆管細胞の増殖に繋がる、
という知見があります。
こうした知見からはインクレチン関連薬と胆管細胞癌との関連が示唆されますが、
実際の臨床データにおいては、
胆管細胞癌自体の罹患率が低いこともあって、
これまでにあまり明確な関連が示されてはいません。

今回のデータはイギリスのプライマリケアのデータベースを活用したもので、
2007年から2017年に新規に糖尿病治療薬を開始した、
トータル154162名の糖尿病成人患者を対象として、
胆管細胞癌の発症リスクの差を比較検証しています。

その結果、
年間のべ614274名の観察において、
105件の胆管細胞癌が発症していて、
年間人口10万人当り17.1件という発症率になっています。

インクレチン関連薬以外の糖尿病治療薬の使用時と比較して、
DPP4阻害剤の使用では胆管細胞癌の発症リスクが、
1.77倍(95%CI: 1.04から3.01)有意に増加していました。
一方でGLP1アナログの使用では、
増加する傾向はあるものの有意ではありませんでした。

今回の結果をどう考えるかは微妙なところだと思いますが、
インクレチン関連薬の使用時には、
胆道系の異常の有無にも目を配ることが、
最低限必要なことではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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最も安全な入浴法は何か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
入浴法と身体リスク.jpg
2014年のInternational Journal of Biometeorology誌に掲載された、
色々な入浴法の安全性を比較した論文です。
愛知医科大学などの研究者による日本発の研究です。

日本の伝統的な入浴法は、
40度前後のお湯に首まで浸かるというもので、
これを全身浴(全身温浴)のように言うことがあります。

ただ、この全身浴では全身に水圧が掛かるので、
入浴の前後で血圧の急変動が起こりやすく、
交感神経が緊張して心臓にも負担が掛かります。
頭を除く全身が高温に包まれるので、
体温は過度に上昇する可能性が高くなり、
脱水が進行する可能性もあります。

よく引用されている東京都長寿医療センターの調査によると、
2011年の1年間で全国で17000人余りが、
こうした入浴前後の身体の変化をきっかけとして、
入浴中に急死したと推計されています。
これは交通事故による死亡者数の3倍を超える人数です。

このように危険な行為である全身温浴ですが、
それでも多くの人が好んで行っているのは、
入浴にはリラックス効果があり、
気分が良くなり疲れが取れると、
多くの人が実感しているからです。

それでは、
入浴法を変えることにより、
全身温浴の健康へのリスクを、
軽減させることは可能なのでしょうか?

元々その目的で、
2000年頃に日本の研究者により推奨されたのが、
38度程度のぬるめのお湯に、
お腹の上くらいの部分まで時間を掛けて浸かる、
所謂「半身浴」です。

この半身浴はその後ダイエット効果が高いと称され、
一般に大きく広がりましたが、
温浴効果として全身浴に勝るということはそもそもありませんし、
上半身が冷えることは、
その時の室温にもよりますが、
結構不快に感じることがあります。

それでは温浴効果とリラックス効果があり、
安全性にも優れた入浴法はないのでしょうか?

欧米ではサウナの健康効果が研究されていて、
日本的な入浴と簡単に併用できるものとして、
ミストサウナが注目されています。

そこで今回の検証では、
7人の健康な男性ボランティア(おそらく学生)に、
38℃の半身浴を20分間と、
42℃のミストサウナと半身浴の組み合わせで20分間、
そしてミストサウナに顔面のみ冷風を送風して20分間という、
3パターンの入浴法を比較して、
深部体温の上昇や脈拍血圧の変化などの違いを検証しています。

その結果、
半身浴と比較しても、
血圧や脈拍、体温の上昇は、
ミストサウナでは急激ではなく、
その温熱効果は保たれたまま、
より安全な入浴法であると考えられました。
入浴による水分喪失も、
半身浴と比較してミストサウナでは軽度にとどまっていました。
身体に与える影響には違いはありませんでしたが、
顔に送風することは、
入浴の快適さを高めていました。

最近ではまた全身浴を、
推奨されるような「専門家」の方がいらっしゃるのですが、
「入浴の科学」のまともなエビデンスは少なく、
殆どは日本の小規模の研究に過ぎない、
という点はしっかり押さえておく必要があると思います。

まあ、快適にリラックス出来ると実感される入浴法が、
個人には合っているのではないでしょうか?
怪しげなうんちくに惑わされるのは危険だと思いますし、
そもそも入浴という行為自体、
一定の負担は身体に掛けるものなので、
安全ではないという点も理解しておく必要があると思います。
この点は運動と同じだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第38回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
第38回健康教室の画像.jpg
次回の健康教室は、
12月22日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「最新版入浴と健康の基礎知識」です。

入浴と健康との関係も、
食事と健康との関係と同じように、
テレビや週刊誌などの健康情報では、
お馴染みのテーマの1つです。

毎日のように、
「こんな入浴法が健康に良い」
というような情報が流布されています。

最近ではヒートショックプロテイン入浴法という、
ちょっと不可思議にも思える入浴法なども流行しています。

入浴習慣というのは確かに健康に良い、というイメージがあり、
そうした研究も世界中で行われていて、
一定の健康効果が確認されています。

しかし、それは主にサウナなどの話で、
日本の伝統的な入浴法、
比較的高温のお湯に首まで長く浸かる、
という方法によるものではありません。

半身浴というのが一時期流行しましたが、
これも日本のみの発想で、
海外にそうした習慣や、
それを全身浴と比較するような考え方が、
あるという訳でもありません。

つまり、日本で議論されている入浴健康法なるものは、
ほぼ日本のみのローカルルールで、
科学的裏付けがあるように言われることがありますが、
それはほぼ特定の日本の研究者によるもののみで、
それほど精度の高い研究が多く行われているという訳ではなく、
それも予め結論が想定されているような研究が、
実際には殆どであると思います。

入浴の健康効果は、
実際にどの程度のものなのでしょうか?

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
12月20日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新生児への乳酸菌製剤の敗血症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
LP乳酸菌の敗血症予防効果.jpg
2017年のNature誌に掲載された、
乳酸菌製剤の新生児の使用についての研究です。

昨年発表されてかなり話題になった知見です。

発展途上国においては、
新生児から乳児期の死亡の多くが、
細菌感染症などをきっかけとする敗血症と関連していると、
報告されています。

しかし、その有効な予防法は確立されていません。

新生児においてはまだ免疫系も充分に成熟しておらず、
腸内細菌叢も大人より遙かに少ない細菌で構成されています。

これはつまり、
この時期に特定の乳酸菌製剤を使用すれば、
大人より遙かに大きな影響を身体に与え、
それが腸内免疫を活性化させて、
敗血症に結び付く重症感染症を予防する可能性がある、
ということを示唆しています。

そこで今回の研究では、
インドにおいて新生児4556名を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はラクトバチルス・プランタラムという、
ピクルスやぬか漬けなどに含まれる乳酸菌と。
その栄養源として、腸への定着に有用とされる。
フラクトオリゴ糖との合剤を生後2から3日から7日間継続使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
60日間の経過観察を行っています。

その結果驚いたことに、
敗血症と死亡を併せたリスクは、
乳酸菌製剤群で40%
(95%CI: 0.48から0.74)有意に低下していました。

つまり、乳酸菌が早期に新生児の腸に定着することにより、
敗血症と死亡のリスクが4割も低下するという、
ちょっとビックリするようなクリアな結果が得られたのです。

腸内細菌が健康と大きな関連を持っている、
というようには言っても、
それを明確に証明するような介入試験のデータは、
実際には殆ど得られていません。

その意味で、
ただ一週間プロバイオティクスを飲ませるだけで、
60日間の生命予後が明らかに改善するとすれば、
それはもう画期的な知見です。

ただ、これに匹敵するような追試のデータはまだないようですし、
新生児期に使用するという特殊性が、
こうした結果に結び付いているとすると、
それが果たして長期的にお子さんにとって良い結果になるのか、
というような点についてもまだ未知数ではないかと思います。
新生児期には母乳やミルクだけを飲んでいるので、
シンプルな細菌叢であるのが当然で、
そこに無理に別種の菌を定着させることが、
必ずしも良いことであるとは言い切れないからです。

今後の研究の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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乳酸菌は小児の腸炎には効かない?(2018年の介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

2018年11月のthe New England Journal of Medicine誌に、
乳酸菌製剤の小児の腸炎に対する有効性を検証した、
2編の論文が同時に掲載されました。

今日はその背景から、
2編の論文の内容についてご説明したいと思います。

人間は多くの腸内細菌と共存しており、
その腸内細菌叢がバランスの取れた状態であることが、
人間の健康のために非常に重要であることが、
最近これまで以上に注目されています。

そして、腸内細菌叢の乱れが、
顕著に表れた症状の1つが下痢です。

その中でもウイルスや細菌など多くの原因による、
乳幼児を含む小児の急性胃腸炎は、
嘔吐や下痢などの症状により脱水を来して点滴が必要となることも多く、
特に衛生環境や医療環境の悪い途上国では、
深刻な問題となっています。

急性胃腸炎において腸内細菌叢が乱れることは間違いがなく、
このため症状の改善を期待して、
乳酸菌製剤がしばしば使用されます。

現行幾つかの治療指針において、
小児の急性胃腸炎に対する乳酸菌製剤の使用が、
一定の有効性があるとして推奨されています。

しかし、こうした慣用的な治療の常で、
この治療にはそれほどしっかりと裏付けがある訳ではありません。

臨床試験は幾つか行われてはいるのですが、
例数もそれほど多くはなく、
偽薬を使用したような厳密なデザインの試験も、
あまり行われたことがありませんでした。

そこで今回、世界的には最も使用頻度の高い乳酸菌製剤である、
ラクトバチルス・ラムノーサスGG株(LGG乳酸菌と称されて有名)
を用いた厳密なデザインの臨床試験が、
2つの別個の研究グループによって施行され、
今回のNew England…の紙面を飾っています。

まず1本目がこちらです。
LGG乳酸菌の腸炎への効果単独.jpg
こちらはアメリカの小児救急の10施設において、
生後3ヶ月から4歳で急性胃腸炎で病院を受診した、
トータル971名をくじ引きで2つに分け、
本人家族にも担当医にも分からないように、
一方はLGG乳酸菌を1日2回5日間使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
開始後1ヶ月までの経過観察を行っています。

その結果治療開始後14日の時点での胃腸炎の重症度と、
下痢や嘔吐の継続期間、1ヶ月までの家族への感染率には、
乳酸菌群と偽薬群とで有意な差はありませんでした。

要するに乳酸菌は効果がなかったという結果です。

次にもう1つの論文がこちらです。
LGG乳酸菌の腸炎への効果混合.jpg
こちらはカナダの6カ所の小児救急医療機関において、
同じく生後3から4歳までの急性胃腸炎の小児827名を、
くじ引きで2つに分けると、
一方はラクトバチルス・ラムノーサスとラクトバチルス・ヘルベティカスの合剤を、
同じように使用して、偽薬との比較を行っています。
ラクトバチラス・ヘルベティカスはカルピスに含まれている乳酸菌です。

その結果矢張り使用14日の時点での症状には、
乳酸菌群と偽薬群との間で、
有意な差はありませんでした。

このようにこれまでで最も大規模かつ厳密なデザインで施行された、
2つの臨床試験の結果はほぼ同じで、
乳酸菌製剤を病初期に5日間使用してもしなくても、
急性胃腸炎の経過には関連はありませんでした。

これはLGG乳酸菌に限ったことである可能性もありますが、
急性胃腸炎の下痢に乳酸菌が良いというのは、
腸内細菌叢の乱れを補正するのではないか、
というイメージによるところが大きく、
実際にはあまり効果がないというのが、
どうやら事実であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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イプセン「民衆の敵」(2018年ジョナサン・マンビィ演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日ですが、
午前中は区民健診の当番日なので診療の予定です。

日曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
民衆の敵.jpg
ノルウェーの劇作家イプセンの「民衆の敵」は、
これまでにも何度も国内で上演されていますが、
今イギリスの演出家の演出で、
堤真一さんの主演で上演されています。

イプセンの生の舞台は、
これまでに「民衆の敵」、「ヘッダ・ガブラー」、「幽霊」、
「人形の家」を観ています。
どれも一筋縄ではいかない戯曲で、
ある種異常で変態的でとてもとても面白いのです。

イプセンは異常な天才で、
極めつきの変態です。

現代のような病んだ時代には、
従って非常にマッチしていて、
最近ではチェホフよりイプセンがお気に入りで、
イプセン劇の上演は、
なるべく足を運ぶようにしています。

この「民衆の敵」も、
社会派台詞劇の代表のように言われ、
水俣病訴訟などを持ち出して批評をされるような方が、
非常に多いのですが、
勿論そうした部分もないことはないのですが、
トータルにはもっと破格で異常な作品で、
社会の正義自体を否定しているような部分もある怪作です。

堤真一演じる主人公の医師は、
自分で町に温泉を見つけてそれがきっかけとなり、
温泉はその町の健康資源の目玉になります。
ところが温泉保養が定着しつつあった時期になって、
主人公は水質検査によって、
温泉が工場の排液で汚染されていることを発見、
それを「民衆の声」という新聞に公表しようとします。

主人公の兄は市長で、
妻の父親は汚染に関わる工場の経営者です。
「民衆の声」の関係者も、
民衆の多数の声こそ正義と主張はしていますが、
その内面は決して表の顔と同じではありません。

市長は最初から汚染のもみ消しを図り、
進歩的な新聞は最初は面白がって、
主人公の正義をもてはやしますが、
実際には主人公の言う通りを実行すると、
温泉に頼る町の経済は破綻し、
民衆も重税にあえぐことになることを知ると、
手のひらを反して主人公を攻撃します。

そして、直接町の住民を前に演説をした主人公は、
自分こそ正義で、
一般の住民はただの馬鹿だと、
身もふたもないことを平然と言い放つので、
その場で主人公は「民衆の敵」であると宣言されてしまいます。

通常常識的なストーリーでは、
主人公の正義は市長のような権力者に迫害されても、
最後は一般の大衆の支持を得て、
正義が実現する、というようになって良い筈ですが、
イプセンは悪魔のようなひねくれものなので、
決してそうはならないのです。

最初は観客も主人公に共鳴し、
温泉の不正をただそうとする主人公の正義に、
共感して舞台を見ているのですが、
主人公があまりに空気の読めない身勝手な人物で、
平然と一般の大衆を馬鹿にしたようなことを言うので、
だんだん違和感を感じるようになります。

つまりはこの演説は観客に向けられているもので、
この芝居は独善的な正義の主人公が、
観客という一般市民を愚弄して馬鹿にする、
というひねくれたお芝居なのです。

主人公は「民衆の敵」となりますが、
皮肉なことにその立場は、
彼を影響力のある一種の権力者に仕立てます。
主人公は職を失い、家も追われる四面楚歌の状態ですが、
それでも奇妙なほどに明るく未来を語り、
最後は誰よりも幸せな家族のようにすら見えるのです。

異様で奇妙で、
そして胸騒ぎのするようなラストです。

あらすじを書いただけでもお分かりのように、
イプセンは今の時代に見事にフィットするような物語を、
ずっと昔に書いているのです。

これが天才の天才たる所以です。

この物語の主人公は正義を主張し、
その信念を曲げずに生きていますが、
それは周囲の軋轢や多くの犠牲を生むことなので、
人間社会の中では、
正義であると同時に迷惑行為でもあります。
温泉の汚染を主張するのは良いとして、
その温泉の効能自体、
元々は彼が広めたものだからです。
彼は自分だけが正しく、
自分に賛同しない全ての人間は馬鹿の能無しだと公言するので、
当然のごとく民衆の嫌われ者になりますが、
それは有名人になることでもあるので、
有名であることが価値を持つ世界では、
その「炎上商法」は決して損にはならないのです。

ねっ、今のネット社会とうり二つのような世界でしょ。
ここにこの物語の現代性があります。

元々の発想としては主人公はキリストなんですよね。
真実を話すことによって、
皆に石を投げられるのですが、
それが大衆の心を映す鏡にもなるのです。
凄い俗物のキリストを用意して、
その受難を描くというのがこの物語の裏テーマです。

このように作品は傑作なのですが、
今回の演出は僕は駄目でした。

何か、幕間の部分でエキストラが群舞みたいなことをして、
その動作でテーマを表現しようとしているのですね。
そういうわざとらしい演出が僕は大嫌いです。
不自然ですし、説明過多で嫌らしいですよね。
「俺は演出しているぞ!」というような態度が俗物根性丸出しで、
イプセンの思想の対極にあると感じました。
こんな演出したら駄目ですよ。
また、舞台を少し奥においていて、
演説の場面でも客席と距離があるのがまた駄目ですよね。
あの場面は直接観客に語りかけるというイメージがないと駄目でしょ。
本当に分かっていないな、と感じました。

キャストはまずますで、
特に主役を演じた堤真一さんが、
抜群に良かったと思います。
この役は堤さんのトリックスター的な部分と、
良くフィットしていますよね。
堤さんにはまた別の演出で、
是非この作品を演じて欲しいと思います。

この作品は少し前に森新太郎さんも演出していて、
未見なのでとても残念に思いました。
絶対もっとよかったですよね。

イプセンはまた是非上演して欲しいと思います。
凄いです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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