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乳酸菌は小児の腸炎には効かない?(2018年の介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

2018年11月のthe New England Journal of Medicine誌に、
乳酸菌製剤の小児の腸炎に対する有効性を検証した、
2編の論文が同時に掲載されました。

今日はその背景から、
2編の論文の内容についてご説明したいと思います。

人間は多くの腸内細菌と共存しており、
その腸内細菌叢がバランスの取れた状態であることが、
人間の健康のために非常に重要であることが、
最近これまで以上に注目されています。

そして、腸内細菌叢の乱れが、
顕著に表れた症状の1つが下痢です。

その中でもウイルスや細菌など多くの原因による、
乳幼児を含む小児の急性胃腸炎は、
嘔吐や下痢などの症状により脱水を来して点滴が必要となることも多く、
特に衛生環境や医療環境の悪い途上国では、
深刻な問題となっています。

急性胃腸炎において腸内細菌叢が乱れることは間違いがなく、
このため症状の改善を期待して、
乳酸菌製剤がしばしば使用されます。

現行幾つかの治療指針において、
小児の急性胃腸炎に対する乳酸菌製剤の使用が、
一定の有効性があるとして推奨されています。

しかし、こうした慣用的な治療の常で、
この治療にはそれほどしっかりと裏付けがある訳ではありません。

臨床試験は幾つか行われてはいるのですが、
例数もそれほど多くはなく、
偽薬を使用したような厳密なデザインの試験も、
あまり行われたことがありませんでした。

そこで今回、世界的には最も使用頻度の高い乳酸菌製剤である、
ラクトバチルス・ラムノーサスGG株(LGG乳酸菌と称されて有名)
を用いた厳密なデザインの臨床試験が、
2つの別個の研究グループによって施行され、
今回のNew England…の紙面を飾っています。

まず1本目がこちらです。
LGG乳酸菌の腸炎への効果単独.jpg
こちらはアメリカの小児救急の10施設において、
生後3ヶ月から4歳で急性胃腸炎で病院を受診した、
トータル971名をくじ引きで2つに分け、
本人家族にも担当医にも分からないように、
一方はLGG乳酸菌を1日2回5日間使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
開始後1ヶ月までの経過観察を行っています。

その結果治療開始後14日の時点での胃腸炎の重症度と、
下痢や嘔吐の継続期間、1ヶ月までの家族への感染率には、
乳酸菌群と偽薬群とで有意な差はありませんでした。

要するに乳酸菌は効果がなかったという結果です。

次にもう1つの論文がこちらです。
LGG乳酸菌の腸炎への効果混合.jpg
こちらはカナダの6カ所の小児救急医療機関において、
同じく生後3から4歳までの急性胃腸炎の小児827名を、
くじ引きで2つに分けると、
一方はラクトバチルス・ラムノーサスとラクトバチルス・ヘルベティカスの合剤を、
同じように使用して、偽薬との比較を行っています。
ラクトバチラス・ヘルベティカスはカルピスに含まれている乳酸菌です。

その結果矢張り使用14日の時点での症状には、
乳酸菌群と偽薬群との間で、
有意な差はありませんでした。

このようにこれまでで最も大規模かつ厳密なデザインで施行された、
2つの臨床試験の結果はほぼ同じで、
乳酸菌製剤を病初期に5日間使用してもしなくても、
急性胃腸炎の経過には関連はありませんでした。

これはLGG乳酸菌に限ったことである可能性もありますが、
急性胃腸炎の下痢に乳酸菌が良いというのは、
腸内細菌叢の乱れを補正するのではないか、
というイメージによるところが大きく、
実際にはあまり効果がないというのが、
どうやら事実であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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