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「祈りの幕が下りる時」(東野圭吾原作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
祈りの幕が下りる時.jpg
東野圭吾の新参者のシリーズの長編を、
ドラマのキャストそのままに映画化した、
「祈りの幕が下りる時」を観て来ました。

最初に注意点がありますが、
今回の記事の中では、
「祈りの幕が下りる時」および「容疑者Xの献身」、
「砂の器」の内容に少し踏み込んだ部分があります。
完全なネタバレではありませんが、
先入観なく作品をお読みになりたい方は、
この3作品の原作をお読みになった後で、
以下には目をお通し下さい。

よろしいでしょうか?

では続けます。

これは最初に原作を読みました。
東野さんは結構癖のある作家で、
その出来不出来にはかなりの波がありますし、
その内容も読みやすいライトノベルのようでいて、
かなりひねくれた意地の悪い部分があり、
一筋縄ではゆきません。

この作品については、
松本清張さんをかなり意識していて、
特に「砂の器」を下敷きにしています。
それも、原作よりむしろ、
野村芳太郎監督による映画版の「砂の器」です。

映画の「砂の器」は原作を大幅に変えていて、
清張さんとしては本格ミステリーに振れている原作を、
目茶苦茶単純化して、
父と子の宿命の感動作に変えてしまった、
ある意味かなり原作を冒涜するような作品です。

ただ、これが大ヒットしたので、
その後ドラマ化された「砂の器」は、
原作通りではなく、
映画版を元にするようになりました。

「祈りの幕が下りる時」のプロットは、
勿論「砂の器」とは別物なのですが、
ある過去の秘密が善意の第三者に暴かれてしまったために、
その善人を殺さざるを得なくなる、
という基本ラインは一緒です。

そこにもう1人謎の男が登場して、
その正体は誰なのか、
というところに東野さんらしいひねりがあります。

探偵役は世代の違う2人の刑事で、
これは新参者のシリーズの元々の設定である訳ですが、
この作品においては、
2人の捜査は明らかに、
映画版「砂の器」の丹波哲郎と森田健作を、
イメージして書かれています。

そして、映画版「砂の器」の特徴的な場面と言えば、
捜査会議で探偵役の刑事が事件の真相を説明し、
それと実際の犯人の舞台、
そして過去の回想とがシンクロすることと、
父と子が日本の原風景の中を放浪するところですが、
「祈りの幕が下りる時」の原作でも、
ちゃんとそうした場面が用意されていて、
映画的なクライマックスが書かれています。

この原作は相当に映画版「砂の器」に寄せているのです。

今回の映画版「祈りの幕が下りる時」は、
それを理解した映画化になっていて、
かなり映画の「砂の器」に寄せています。

まず、デカデカと字幕を出して、
事件の説明などをしてしまうというあざとい趣向が、
そのままに使われています。
クライマックスでは父と子が放浪し、
そこにテーマ曲が執拗に流れ、
それが捜査本部での事件の説明とシンクロする、
というところまで「砂の器」が模倣されています。

ただ、「砂の器」が、
原作とは別物のお話になっているのとは対象的に、
今回の映画は原作をほぼそのまま活かしていて、
少しカットされた人間関係などはありますが、
ほぼほぼトリックなども含めて、
原作をそのままに映像化しています。

これは原作が元々映画を意識しているということもあるのですが、
それでもこの複雑な原作を、
ほぼそのままに2時間の尺に納めた構成と台本の妙は、
賞賛されても良い見事さだと思います。

また、主人公が真相に気付く場面の、
あざといくらいの迫力や、
阿部寛さんと松嶋菜々子さんが最初に対決する場面の凄みなどは、
なかなか気合いが入っていて見応えがありました。

ただ、この映画で非常に残念だったのは、
話の核でもある小日向文世さんの芝居で、
老け役の場面はそのまま自然に演じれば、
ほぼ同年代の役であるのに、
大河ドラマの悪影響でしょうか、
妙に芝居がかった変な演技で、
不自然で見るに堪えない感じですし、
回想での若い時の場面は、
おかしなカツラを着けての芝居が、
そちらもわざとらしくて見ていられません。

更に及川光博さんが老け役をしているのですが、
メイクがあまりに酷くて稚拙で、
笑ってしまうようなレベルです。

何故こんなことになってしまったのでしょうか?

阿部寛さんや松嶋菜々子さんの芝居は悪くなかっただけに、
実に残念でなりません。

そんな訳で納得のゆかないことも多かったのですが、
ミステリー映画としては、
かなり頑張って作ったと思いますし、
東野作品の忠実な映像化としても、
一定の意義のある作品ではあったと思います。

ミステリーファンにはお勧めは出来る映画です。

ただ、最初に「容疑者Xの献身」のトリックを、
捨てネタで使っているので(原作と映画とも)、
くれぐれも「容疑者Xの献身」より先には、
「祈りの幕が下りる時」は読まないようにして下さい。
相当に後悔します。
こういうところも、
東野さんは意地が悪いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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昼間の眠気とアルツハイマー型認知症との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はプロバイダーのトラブルで、
昼間の更新が出来ませんでした。
それで夜の更新になってしまいました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルツハイマーと昼の眠気.jpg
2018年のJAMA Neurology誌に掲載された、
高齢者の昼間の眠気が、
認知症の進行と関連があるのではないか、
という気になる報告です。

昼間の眠気というのは、
病気のあるなしに関わらず、
年齢と共に増えて来る症状です。

誰でも退屈な授業や会議などの時には、
眠ってはいけないと思いながら眠くなりますし、
食事の後では満足感と共に眠気が襲います。

これは勿論正常な生理現象ですが、
一方で病的な眠気というものもあります。

ナルコレプシーという病気があり、
この病気では緊張しているような時にかえって、
強い眠気が生じて、
場所に関わらず居眠りをしてしまいます。

病気とは言えないものの、
とは言って正常とも言えない眠気は、
加齢に伴う眠気です。

高齢になると、
ほぼ間違いなく覚醒の維持が困難になります。
つまり、居眠りをしやすくなるのです。
おじいちゃんやおばあちゃんが、
縁側で居眠りをしているのは、昭和的な情景としては、
誰でも馴染みのあるものですし、
テレビ番組や映画などを、
最後まで見続けることは難しくなります。

この眠気はおそらくは脳の機能の、
加齢性の低下によるものと思われます。

ところで、認知症というのも、
脳の機能の低下により起こる症状です。

それでは、
認知症の症状のない高齢者の昼間の眠気と、
その後の認知症の発症の間には、
何らかの関連があるのでしょうか?

以前から認知症と昼間の眠気との間に、
ある程度の関連があるという報告は複数認められていました。
ただ、そのメカニズムにまで踏み込んだ検討は、
これまでに殆どありませんでした。

そこで今回の研究では、
アルツハイマー型認知症の原因物質の1つとされる、
アミロイドβという異常タンパクの脳への沈着の経時的な増加と、
高齢者の昼間の眠気との関連を検証しています。

アメリカのメイヨー・クリニックにおいて、
70歳以上で認知症の症状がなく、
昼間の眠気の程度を測定した、
283名の一般住民に、
平均で2年以上の間隔を空けて、
アミロイドβの沈着の程度の検査を行ない、
その沈着の増加と眠気との関連を検証しています。

脳へのアミロイドβ蛋白の沈着は、
アミロイド・ペット(PiB-PET)という画像の検査で診断しています。
アミロイドβと結合し易い物質(Pittsburgh compound B)
を放射線でラベルして注射し、
それを脳画像で分析します。

病的な眠気の診断は、
エプワース眠気尺度という指標で行われています。
これは日本でも病的な眠気の診断として行われているもので、
どんな状況でどのくらいの頻度で眠気があったかを、
簡単に数値化したもので、
点数が高いほど病的な眠気と判断します。
点数は24点が最も高く、
この研究では10点以上を病的な眠気としています。

登録された283名中、
63名では病的な眠気が認められました。
登録時の病的な眠気と、
前帯状皮質、後帯状皮質から楔前部、後帯状皮質、
という脳の3つの領域におけるアミロイドβの沈着との間には、
有意な相関が認められました。

そして、
時間を置いて計測した、
前帯状皮質と後帯状皮質から楔前部においての、
アミロイド沈着量の増加率は、
より強く病的な眠気と相関していました。

つまり、
今回のデータからは、
アルツハイマー型認知症の発病以前の時点で、
アミロイドβの沈着の1つの現れとして、
昼間の病的な眠気が生じるという可能性が示唆されました。

勿論全ての昼間の眠気が、
認知症のサインということではありませんが、
今後認知症の初期診断とその治療についての知見がより整理されれば、
認知症に結び付くような眠気とそうでない眠気との鑑別も、
より臨床的な意味を持つことになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

もう夜ですが今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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カフェインの動脈硬化に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カフェインの動脈硬化予防効果.jpg
2018年のMayo Clin Proc.誌に掲載された、
カフェインと動脈硬化との関連についての論文です。

コーヒーを飲む習慣は、
それが1日にカップ3杯から4杯くらいまでであれば、
概ね健康上の害はなく、
むしろ病気を減らし生命予後にも良い影響を与える、
という報告が多く見られています。

2017年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
アンブレラレビューという手法で、
これまでの疫学データをまとめて解析した論文によると、
妊娠中と閉経後の女性の場合を除けば、
概ね病気のリスクは低下していて、
総死亡のリスクも17%有意に低下していました。

病気としては心血管疾患と共に、
癌のリスクが2割弱程度有意に低下していました。

それではこのコーヒーの健康への効果は、
どのような成分によってもたらされているのでしょうか?

現状では生理活性物質のカフェインが、
その作用の主体であると考えられています。

ただ、カフェインの過剰摂取は、
エナジードリンクなどの大量摂取で問題となっていて、
血圧の上昇や不整脈の原因となることも指摘されています。
カフェインの急性影響としては、
動脈硬化の進行を指摘する報告もあります。

これは摂取量の問題なのでしょうか?
それとも、コーヒーの動脈硬化性疾患などの予防効果は、
カフェイン以外の物質によるものなのでしょうか?

そうした点を検証するには、
コーヒーの摂取量ではなく、
カフェインの摂取量を定量して、
それと動脈硬化の進行との関連を、
検証する必要があります。

そこで今回の研究では、
スイスにおいて、
高血圧と腎臓病との関連をみた臨床研究のデータを活用して、
脈圧(上の血圧と下の血圧の差)とPWV(大血管の動脈硬化の指標)という、
動脈硬化を反映する指標と、
尿中のカフェインの代謝産物の濃度との関連を検証しています。
対象となっているのは登録された一般住民863名です。

対象地域においては、
カフェインの摂取量の70%はコーヒー由来で、
体内に入ったカフェインは、
肝臓にある代謝酵素CYP1A2によって代謝され、
80%がパラキサンチンに、
12%がテオブロミンに、
4%がテオフィリンになります。
カフェインそのものにも、
その肝臓での代謝産物にも、
利尿作用と塩分排泄作用、交感神経刺激作用があり、
平滑筋の弛緩作用があります。
そのためテオフィリンは喘息の薬として使用されているのです。

代謝産物の1つであるテオブロミンは、
フォスフォジエステラーゼを阻害することにより、
血管拡張作用のあることが報告されています。

24時間のカフェインの尿中排泄量を4つに分けて検討すると、
最も少ない群では上腕動脈の脈圧が平均43.5mmHgであったのに対して、
最も多い群では平均40.5mmHgとなっていて、
カフェインの排泄量が多いほど、
脈圧は有意に低下していました。
大動脈の動脈硬化の指標であるPWVについても、
カフェイン排泄が多い群において、
少ない群より数値の低下が有意に認められていました。
同様の傾向はカフェインの代謝物のうち、
パラキサンチンとテオフィリンでも認められましたが、
テオブロミンでは認められませんでした。
高血圧とPWVや脈圧との間にも相関が認められましたが、
高血圧のある人とない人に分けて解析しても、
カフェインやその代謝産物と、
脈圧やPWVとの関連はなくなりませんでした。

脈圧やPWVは基本的には動脈硬化に従って増加する指標ですから、
それがカフェインやその代謝産物の排泄量が低い群で、
より増加しているということは、
間接的にカフェインの摂取が動脈硬化を予防している可能性を示唆しています。
また、高血圧のあるなしで結果に違いのない点は、
その予防効果が血圧の降下作用とは、
別個の減少である可能性を示唆しています。
ただ、患者さんを登録して経過を長く見たようなデータではありませんから、
その意味合いはまだ、可能性を示唆する、
というレベルで考えるべきだと思います。

上腕動脈の脈圧の上昇もPWVの増加も、
いずれも動脈硬化の指標の1つです。
加齢によっても増加しますし、
再現性もそれほど高い数値とは言えませんから、
それがカフェインの摂取が少ない群で、
若干増加しているからと言って、
カフェインの摂取量が多いほど動脈硬化が進みにくい、
とまでは言えないと思いますが、
これまでのコーヒーと動脈硬化との関係というのは、
コーヒーを1日何杯飲むか、というような質問の結果が、
その主なデータでしたから、
今回の尿中排泄量による検討は、
今後の研究の進歩においては、
その方向性を示すという意味で、
意義のあるものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ビタミンD濃度と癌リスクとの関連について(多目的コホート研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で外来は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ビタミンDとがん(日本).jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
血液のビタミンD濃度と癌リスクとの関連についての論文です。

基礎実験や動物実験のレベルでは、
ビタミンDは細胞の成長や分化を調節し、
癌の発症を抑制するような効果があると報告されています。

ただ、実際にビタミンD濃度が高いことが、
癌の発症を抑制するかどうかは、
まだ明確ではありません。

観察研究のメタ解析のデータによると、
25(OH)D濃度が高いと大腸癌のリスクが低い、
という結果が報告されています。
乳癌と前立腺癌についても、
それを示唆するデータが報告されています。
ただ、癌になって消耗した状態では。
血液のビタミンD濃度も低くはなることが想定されるので、
これが本当にビタミンDが高いことの影響であるとは、
これだけでは言えません。

2017年に大規模な遺伝子解析のデータを活用した、
メンデル無作為化解析という手法による、
ビタミンD濃度と癌リスクとの関連を検証した研究が、
British medical journal誌に掲載されました。
前立腺癌、乳癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌、膵臓癌、神経芽細胞腫の、
7種類の癌での検証において、
ビタミンDが低下する遺伝子変異と、
癌のリスクとの間には明確な関連は認められませんでした。
弱い関連のある可能性は残るものの、
現時点でビタミンD濃度を測定して癌のリスクを判断したり、
ビタミンDの補充を癌予防のために行うという治療の妥当性は、
現時点では低い、という結果です。

今回の研究は日本の代表的な大規模疫学研究である、
多目的コホート研究(JPHC)のデータを活用して、
日本人における血液のビタミンD濃度と癌リスクとの関連を検証しています。

3301例の経過観察中の癌診断事例と、
4044名の無作為に抽出されたコントロールとが対比されています。

血液中のビタミンD濃度は、
食事からのビタミンDをほぼ反映している、
25(OH)D濃度が測定されています。
それを濃度毎に4分割して検討を行っています。
こちらをご覧ください。
ビタミンD.jpg
これは男女毎に4分割された、
血液のビタミンD濃度の区分けを示した表です。

季節で分かれているのは、
ビタミンD濃度は季節性があって、
紫外線の強い夏には高く、
冬には低くなるからです。

単位はnmol/Lで、
これを2.5で割ると、
通常日本の検査の単位となっている、
ng/mLに変換されます。

たとえば女性で冬の最も低い群は、
通常の単位に戻すと13.68ng/mL未満ということになります。
経験的な印象としては、
かなり低いな、と言うように思います。
一般的には30ng/mL未満は基準値未満という判断です。

この最も低い群を基準とすると、
トータルな癌の発症リスクは、
最も高い群で20%(95%CI: 0.69から0.93)、
有意に低下していました。

ただ、個別の癌のリスクでの検討では、
肝細胞癌のみが同様の比較で、
55%(95%CI : 0.27から0.77)有意に低下していましたが、
それ以外の癌のリスクについては、
有意な差は認められませんでした。

この結果から上記文献の著者らは、
ビタミンDが癌に予防的に働く可能性が示唆された、
というような結論を導いていますが、
果たしてそれは妥当はものでしょうか?

いささか疑問に感じます。

これは僕だけの意見ではなく、
論文のサイトにもコメントが寄せられているのですが、
個別の癌で差が出ているのは肝細胞癌だけで、
該当する患者さんの肝機能は、
実際にはかなり低下しているという可能性があります。
そうなるとビタミンDの水酸化は肝臓で行われますから、
該当する患者さんの25(OH)ビタミンD濃度は、
何もない方より低くておかしくはありません。

他の癌では個別には有意差はなく、
肝細胞癌のみで極端に大きな差が付いているので、
そのバイアスが全体として結果に影響を与えている可能性が、
否定出来ないように思います。

従って、
今後その点を加味した再検証が必要と思いますし、
また別個の疫学データにおいても、
同様の解析が行われてその結果が蓄積されないと、
この問題はまだ解決は付かないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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身体機能が低下した高齢男性への蛋白摂取追加の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者の蛋白摂取の効果.jpg
2018年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
身体機能が低下した高齢者への、
蛋白摂取の有効性を検証した論文です。

高齢化社会になるにつれ、
高齢者の身体機能が低下して、
特に病気がなくても徐々に歩行などの活動が困難となり、
寝たきりになってしまうことが、
大きな社会問題となっています。

ここで問題となるのは高齢者の筋肉量の低下です。

筋肉の主な原料は蛋白質ですが、
高齢者では同じ量の蛋白質を摂取していても、
筋肉量を維持することが難しくなることが知られています。

それでは、
むしろ若年者より多くの蛋白質を摂取することが、
高齢者の筋肉量の維持に繋がるのでしょうか?

この仮説を推奨するような意見もあり、
「年を取ったら沢山肉を食べるのがいい」
というような意見に繋がっています。

ただ、窒素平衡という考え方があり、
総カロリーに占める蛋白質の比率を多くしても、
身体はそれを効率的には活用出来ない、
と生理的には考えられています。

上記論文にある米国医学研究所の、
蛋白摂取量の基準値は体重1キロ当り0.8グラムで、
それを大きく超えても、
有効に筋肉の材料になるとは期待は出来ません。

しかし、これは身体の代謝が正常であることを前提としているので、
代謝機能が低下し、
また性ホルモンの低下など種々の原因により、
蛋白質の分解が促進されているような高齢者でも、
同じであるという保証はありません。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
標準レベル(体重1キロ当り0.83グラム以下)の蛋白を含む食事を摂っている、
身体機能が低下した65歳以上の92名の男性を登録し、
その蛋白摂取量を変えた食事を半年間摂取してもらい、
その前後で筋肉量(除脂肪体重)の比較を行っています。

登録者はくじ引きで4つの群に分けられています。
第1群は標準とされる体重1キロ当り0.8グラムの蛋白質を摂取し、
第2群は体重1キロ当り1.3グラムという高用量の蛋白質を摂取します。
第3群は0.8グラムの蛋白量で男性ホルモンの注射を行い、
第4群は1.3グラムの蛋白量で男性ホルモンの注射を行います。

この意味は蛋白量を多くした効果と、
それが活用されない可能性を考えて、
男性ホルモンの補充を加えた場合の効果を、
併せて見ているのです。

登録者にはどの群になったから分からないように、
偽の注射が行われていますし、
蛋白の摂取量の調整は、
標準量を含む食事を食べてもらい、
それに加えてサプリメントが使用されています。
勿論偽のサプリメントも使用されているのです。
例数は少ないのですが、
かなり手の掛かった試験であることが、
お分かり頂けるかと思います。

身体機能の低下は、
SSPB( Short Physical Performance Battery)
という指標を用いて、
それが3から10点を対象としています。
これは、バランスや歩行、椅子の立ち上がりなどを、
段階的にチェックする国際指標で、
満点は12点です。
従って歩行自体が困難なレベルの人から、
椅子の立ち上がりなどに、
かなり時間が掛かるレベルの人までが含まれています。

その結果、
蛋白量を増やすことにより、
脂肪の量は低下しましたが、
筋肉量やその強度、
また歩行などの身体機能には、
4群間で有意な差は認められませんでした。

つまり、
蛋白量を増やしても、
そこに更に男性ホルモンの補充を行っても、
比較的身体機能の低下した高齢者で半年程度の期間においては、
あまり有効な身体機能の回復や筋肉量の増加には、
結び付くことはないようです。

ただ、これはあくまで短期間の結果であり、
またかなり身体機能が低下した方のデータなので、
もう少しタイミングを変えれば、
また違う結果となる可能性は残っています。

超高齢化社会を見据えると、
こうした食事やホルモンによる寝たきり予防というのは、
意外に大きなインパクトを持つ医療であるように、
個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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非アルコール性脂肪肝炎の新薬の治療効果(第2相臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
NASHの最新治療の効果.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の新薬の、
第2相臨床試験の効果についての報告です。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
アルコール性の肝障害と非常に似通った病態が、
お酒を飲まない人にも生じるというもので、
従来の脂肪肝という概念とは異なり、
進行性で肝硬変に移行することも稀ではないのが特徴です。

その病態は内臓肥満やメタボと関連が深く、
高血圧や糖尿病、高脂血症などと高率に合併し、
インスリンの効きが悪くなってインスリンの濃度が高くなる、
インスリン抵抗性がその土台にあると考えられています。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
メタボの内臓に与える影響の1つの現れで、
単独でも肝硬変などの命に関わる病気に繋がる一方、
他の動脈硬化性疾患や糖尿病など、
メタボに関連する病気とも、
密接に結びついているのです。

さて、現時点で減量や運動療法などの生活改善以外に、
特効薬のような治療薬のない非アルコール性脂肪肝炎ですが、
ビタミンEやインスリン抵抗性改善剤であるピグリタゾンなどが、
一定の有効性があるという報告があります。
ただ、その効果は限定的で、
たとえばアメリカのFDAが、
現時点でその有効性を認めている治療薬はありません。

今回その臨床試験結果が報告されている新薬は、
初めての有効性の高い薬剤として、
非常に注目をされているものです。

それはどのような薬なのでしょうか?

NGM282と仮に名付けられている新薬は、
FGF19という身体から分泌されているホルモンと、
同じ作用を持つ物質です。

FGF19というのは、
成長因子の一種で、
胆汁代謝と糖質の代謝に関わっています。
FGFは酵素活性を調節して胆汁の産生を抑え、
インスリン作用を持ってインスリンの感受性を改善する作用があります。
このホルモンは非アルコール性脂肪肝炎の患者さんで、
低下するということも報告されていますから、
この病気の抜本的な治療に結び付く可能性があるのです。

今回の第2相の臨床試験は、
アメリカとオーストラリアで登録された、
18歳から75歳の肝生検で確定診断されたNASHの患者さん、
トータル82名を本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで3つの群に分けると、
新薬の3ミリグラム、もしくは6ミリグラム毎日1回の皮下注射と、
偽薬の注射群に割り付けて、
12週間の治療を継続してその有効性を比較しています。

その結果、
12週間の治療により、
MRI検査で計測した肝臓内脂肪量が、
5%以上減少した割合は、
偽注射群では7%でしたが、
NGM282 の3ミリグラム群では74%、
6ミリグラム群では79%に上っていました。

肝生検により肝臓組織が正常化していたのは、
NGM282群3ミリグラム群では26%、
6ミリグラム群では39%認められましたが、
偽薬群ではそうした改善は1例も認められませんでした。

薬の有害事象としては、
接種部位の発赤や疼痛が最も多く、
下痢、腹痛などの順となっていました。

このように、
これまでの非アルコール性脂肪肝炎の治療薬の中では、
間違いなく最も有効性の高い薬剤で、
今のところ問題となるような重篤な有害事象もないことから、
毎日の自己注射が必要という欠点はありますが、
この病気の患者さんには福音となる可能性を、
秘めた薬剤であると言って良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
しあわせの絵の具.jpg
カナダとアイルランドの合作で、
カナダでは有名な障害を持った女性画家の生涯を描いた、
題材的には日本公開が危ぶまれるような渋い素材ですが、
主人公を今をときめく演技派のサリー・ホーキンスが、
その夫をイーサン・ホークが演じているので、
そのキャストの魅力で、
結構上映館数の多い公開となっています。

ただ、もう1回のみの上映になる劇場があるなど、
あまり長い公開にはなりそうにありません。

こうした感動実話という感じのものは、
それほど好きではないので、
この作品も如何なものかなと思って少し躊躇していたのですが、
意外に評判の良い感じなので観てみることにしました。

これは本当に素晴らしい映画でした。

基本的には夫婦の情愛を描いた作品なのですが、
イーサン・ホーク演じる夫は、
粗野で了見が狭くて自分勝手で、
ある意味欠点だらけなのです。
その欠点は2人が夫婦生活を長く続けても、
あまり変わることはないのですが、
自分のキャパの中で、
何度か精一杯妻のために何かをなそうとします。
その努力が些細なだけに胸を打ちますし、
それを受け止める妻の度量の大きさがまた心に染みるのです。
夫婦の危機も何度かあるのですが、
それでもお互いの多くの欠点を含めて、
人生を長く一緒に生きるということの素晴らしさが、
静かに、かつ説得力を持って描かれています。

些細で慎ましい夫婦で生きるということの素晴らしさが、
ここまで静謐に格調高く、
また美しく描かれた映画は、
あまり例がないと思います。

後半はとても静かに泣けました。

主人公2人の演技はともかく素晴らしくて、
ラストにちらっと本物のモード・ルイスの画像が出て来るのですが、
サリー・ホーキンスとその雰囲気がそっくりであることに驚かされます。
ただ、勿論実物に寄せるということだけが見事なのではなくて、
彼女の心の奥底にあるものを可視化したような、
ある種象徴性のある表現が素晴らしいと思います。
一方のイーサン・ホークはご本人に寄せるという感じではなく、
1人の度量が狭く身勝手で不器用な、
それでいて愛すべき男そのものを、
鮮やかに彫り出して見応えがあります。
自然な老いの表現も素晴らしくて、
同じ日に「祈りの幕が下りる時」という日本映画を観て、
老いの演技の不自然さとメイクなどの技術の稚拙さにガッカリしたので、
よりこの映画の自然な時間の表現には感心しました。

ただ、この映画の魅力は、
そうした単純な演技合戦にあるのではなく、
四季の移り変わりを映した映像は美しいですし、
演出も堅実で、説明は最小限であるのに、
分かりにくく感じる部分がありません。
観ていて本当に自然に、
主人公の夫婦それぞれの思っていることが、
素直に感じ取れるのは、
演技と共に演出も優れているからだと思います。

これは本当の本物です。
是非是非大スクリーンでご覧下さい。
勿論テレビで観ても泣けるとは思いますが、
こうした映画を大スクリーンで観ることが出来るのは、
ほぼロードショー公開時だけですから、
このせっかくの機会を逃すのはもったいないと思います。

半魚人との恋も悪くはないのですが、
サリー・ホーキンスには矢張り人間との愛情の方が、
本領発揮となるようです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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KUTO-10[財団法人親父倶楽部」(作・演出後藤ひろひと) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
財団法人親父倶楽部.jpg
工藤俊作さんのプロデュース公演、
KUTO-10の第17回公演として上演された、
後藤ひろひと大王の作・演出による
「財団法人親父倶楽部」を観て来ました。

これは1月に「源八橋西詰」という後藤大王のお芝居を観て、
「3月にもう一度小さな小屋で公演をして、
それからはもう小さなところではやらない」
というコメントを後藤大王がされていたので、
それはとても残念、と思い、
観ることに決めたものです。

主役は工藤俊作さん、保さん、久保田浩さんが演じる、
3人のそれぞれ異なる人生を歩んで来て、
余命幾ばくもないと告知をされた3人のおじさんで、
謎の財団の後藤ひろひと大王演じる男の導きで、
人生の最後にやりたくても出来なかったことを、
思いっきりやるという終活に乗り出します。

要するに3つのエピソードのオムニバスなのですが、
こうしたものが得意な後藤大王は、
硬軟自在、縦横無尽の語り口で、
巧みに物語を紡いでゆきます。

3つの物語にはそれぞれ特徴があるのですが、
個人的には久保田浩さんが演じた、
かつての小劇場のスターの話がツボでした。
とても滑稽でとても切なく、
それを久保田さんが演じるのがまた、
微妙に自虐的な感じもあって良いのです。

途中で後藤大王との割と長い絡みがあって、
これはもうかつての遊気舎時代を思わせて最高でした。
後藤大王の小劇場作品は、
アドリブの案配がとても良いですよね。
こうした呼吸が小劇場の醍醐味です。

4人のおじさん以外に、若手が2人加わっているのですが、
2人とも実に達者で勢いのある小劇場演技で、
これも大変感心しました。
特に藤本陽子さんの七変化と、
久保田浩さんとの惑星ピスタチオ風のインチキパントマイム合戦は、
最高のクオリティの馬鹿馬鹿しさで堪能しました。

ただ、その場面は設定としては、
久保田さんがかつての同僚で、
今はそこそこ売れている女優さんに、
会いに行く場面で、
如何にも後藤大王らしい泣かせの場面になるので、
こうしたところには、
もう少しベテランがキャスティングされないと、
せっかくの名場面が弱くなってしまったな、
というようには感じました。

欲を言えばラストのまとめ方が、
如何にも定番で面白みに乏しい、
という感じはあるのですが、
小劇場の楽しさと醍醐味が詰まった舞台で、
後藤大王本人の芝居も意外にたっぷりあって、
色々な意味で得をした気分で、
劇場を後にすることが出来ました。

これからも頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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低糖質と低脂質ダイエットの効果の比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
低糖質と低脂質のダイエットの比較.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
カロリーには大きな違いはなく、
脂質を減らしたダイエットと糖質を減らしたダイエットの、
体重減少効果を比較した論文です。

肥満は世界的な健康の大問題で、
それは高度の肥満者が欧米に比べると少ない、
日本においても例外ではありません。

肥満の治療の柱となるのは、
減量のための生活指導ですが、
その主体となる食事療法については、
これが確実に他より優れている、
という科学的に立証されたダイエット法は存在しません。

ただ、カロリーを適切に制限すると共に、
脂質を主に制限するか、
糖質を制限するかの、
どちらかをすることがほぼ間違いなく含まれています。
そこには極端な制限を伴うものもあり、
もっと緩い制限に留まるものもあります。

以前は脂質を徹底的に制限することが、
一番の減量法であるような考え方が有力でしたが、
最近では国内外を問わず、
糖質の制限が注目をされるようになっています。

それでは、
脂質の制限と糖質の制限の、
どちらが健康的なダイエットのためには、
より有用性が高い方法なのでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
糖尿病がなく、BMIが28から40という肥満があり、
年齢が18から50歳の一般住民を公募し、
くじ引きで300人余りの2つの群に分けると、
一方は脂質制限を主体とするダイエットを、
もう一方は糖質制限を主体とするダイエットを指導して、
それを12ヶ月間持続してその有効性を比較しています。

脂質制限食は食用油、ナッツ、乳製品、肉の脂身などを制限し、
糖質制限では穀物、米、豆類や芋類などを制限します。
両群とも野菜の摂取は増加させるようにし、
砂糖やトランス脂肪酸、超加工食品などの制限も指導します。
運動の指導なども行っています。

カロリー制限はしていないものの、
両群とも500から600キロカロリー、
指導前より摂取カロリーは減少しており、
両群とも12ヶ月で5から6キロの体重減少効果が得られました。
両群でその効果に有意な差は認められませんでした。

遺伝的に糖質や脂質の代謝が異なる群で比較しても、
その2つのダイエットの間に差はなく、
インスリン抵抗性があるとより糖質制限の効果はありそうですが、
インスリン分泌毎にサブ解析をしても、
その群間の差はありませんでした。

この研究では、
総エネルギーに対する糖質の比率は、
脂質制限食で48%、糖質制限食で30%ですから、
それほどきつい糖質制限という訳ではなく、
その範囲での判断になるのですが、
このような緩い糖質制限と脂質制限は、
体重減少効果という点ではそれほどの差はないと、
そう考えても良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ホットフラッシュの新薬の有効性(2017年Lancet論文のサブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ホットフラッシュの新薬のデータ.jpg
2018年のMenopause誌に掲載された、
更年期の不快な症状であるホットフラッシュの、
新薬の臨床試験データを解析した論文です。

これは2017年のLancet誌に載った論文の、
サブ解析のデータをまとめたものです。
これはその時にブログ記事にしていますが、
その効果があまり明確ではなかったため、
今回はその効果が詳しく分析されています。

ホットフラッシュと呼ばれる顔などのほてり感や、
寝汗などの大量の発汗は、
女性の更年期症状としてポピュラーな症状で、
閉経した女性の70%以上に見られる、
という統計もあります。

これは必要以上に体温を脳が高く認識して、
それが体温を下げようとする自律神経の反応をもたらし、
末梢の血管が広がってほてりになり、
かつ発汗量が増えるのではないかと考えられています。
ネズミでは同様の反応の時に尻尾を小刻みに動かしていることから、
落ち着きがなく体をゆするような動作も、
同様のメカニズムで起こっている可能性があります。

それでは、何故更年期の脳は、
体を実際より暑く感じるのでしょうか?

脳の視床下部に体温調節中枢があり、
そこは女性ホルモンの分泌の調節をする部位でもあります。
閉経になるとGnRHという視床下部のホルモンの調節を行う、
キスペプチン・ニューロキニンB・ダイノルフィンという、
神経ペプチドを産生する神経が肥大して、
過剰に神経ペプチドを産生します。

このキスぺプチンやニューロキニンBは、
GnRHのパルス状と言われる分泌を作る作用があると共に、
体温の調節や性的な欲求のコントロールにも、
大きな働きを持っていると想定されています。

これまでの基礎的な研究により、
ホットフラッシュの症状のない閉経前の女性に、
ニューロキニンBを注射すると、
ホットフラッシュの症状が誘発されることや、
ニューロキニンBの遺伝子に変異があると、
ホットフラッシュが起こり難いことなどが分かっていて、
ホットフラッシュの発生には、
ニューロキニンBの存在が不可欠であると推定されています。

そこで今回の臨床試験では、
ニューロキニンBの受容体の拮抗薬を、
ホットフラッシュのある閉経女性に使用して、
症状が抑制されるかどうかを検証しています。

対象となっているのは、
40から62歳で閉経から1年以上経過していて、
24時間に7回以上、
持続的に不快と感じるホットフラッシュが生じている女性で、
くじ引きで本人にも施行者にも分からないように、
2つの群に分けると、
一方はニューロキニンBの受容体拮抗薬の飲み薬を、
1回40mgで1日2回、4週間継続的に使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
ホットフラッシュの頻度などを、
スコア化して比較しています。

68名の女性が最初に登録され、
そのうちの37名が最終的な解析の対象となっています。
ニューロキニンB受容体拮抗薬は、
1週間のホットフラッシュのトータルなスコアを、
登録時と比較して3日目までに、
ポイントで72%有意に低下させていました。
偽薬との比較でも51%有意に低下していました。
この効果は治療期間4週間を通して認められました。

このように、薬の効果はかなり迅速で、
その有効性も短期的にはかなり高いということが分かります。

更年期のホットフラッシュの治療には、
通常は女性ホルモン剤が補充療法として使用されます。

ただ、女性ホルモンの使用には、
若干ながら乳癌や子宮癌のリスク増加や、
静脈血栓症、脳卒中などのリスク増加などの有害事象があります。

特に乳癌でホルモンを抑制するような治療をしている患者さんでは、
ホットフラッシュに対してホルモン剤は使用できないので、
現状は有効な対処法がない、
という問題点がありました。
代用として使用されるSSRIは、
抗うつ剤でそれ自体の副作用や有害事象もあります。

今回の薬剤は使用されるようになれば、
かなり高額の薬品となると考えられ、
コスト的には問題があるのですが、
ホルモン補充療法が困難な患者さんにとっては、
福音となる可能性を秘めていると思います。

今回の臨床試験は例数も少ないので、
まだまだ多数例での検証が必要であると思いますが、
メカニズム的には非常に興味深く、
様々な別個の病気の治療にも、
有用な可能性もあるので、
今後の知見の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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