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カフェインの動脈硬化に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カフェインの動脈硬化予防効果.jpg
2018年のMayo Clin Proc.誌に掲載された、
カフェインと動脈硬化との関連についての論文です。

コーヒーを飲む習慣は、
それが1日にカップ3杯から4杯くらいまでであれば、
概ね健康上の害はなく、
むしろ病気を減らし生命予後にも良い影響を与える、
という報告が多く見られています。

2017年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
アンブレラレビューという手法で、
これまでの疫学データをまとめて解析した論文によると、
妊娠中と閉経後の女性の場合を除けば、
概ね病気のリスクは低下していて、
総死亡のリスクも17%有意に低下していました。

病気としては心血管疾患と共に、
癌のリスクが2割弱程度有意に低下していました。

それではこのコーヒーの健康への効果は、
どのような成分によってもたらされているのでしょうか?

現状では生理活性物質のカフェインが、
その作用の主体であると考えられています。

ただ、カフェインの過剰摂取は、
エナジードリンクなどの大量摂取で問題となっていて、
血圧の上昇や不整脈の原因となることも指摘されています。
カフェインの急性影響としては、
動脈硬化の進行を指摘する報告もあります。

これは摂取量の問題なのでしょうか?
それとも、コーヒーの動脈硬化性疾患などの予防効果は、
カフェイン以外の物質によるものなのでしょうか?

そうした点を検証するには、
コーヒーの摂取量ではなく、
カフェインの摂取量を定量して、
それと動脈硬化の進行との関連を、
検証する必要があります。

そこで今回の研究では、
スイスにおいて、
高血圧と腎臓病との関連をみた臨床研究のデータを活用して、
脈圧(上の血圧と下の血圧の差)とPWV(大血管の動脈硬化の指標)という、
動脈硬化を反映する指標と、
尿中のカフェインの代謝産物の濃度との関連を検証しています。
対象となっているのは登録された一般住民863名です。

対象地域においては、
カフェインの摂取量の70%はコーヒー由来で、
体内に入ったカフェインは、
肝臓にある代謝酵素CYP1A2によって代謝され、
80%がパラキサンチンに、
12%がテオブロミンに、
4%がテオフィリンになります。
カフェインそのものにも、
その肝臓での代謝産物にも、
利尿作用と塩分排泄作用、交感神経刺激作用があり、
平滑筋の弛緩作用があります。
そのためテオフィリンは喘息の薬として使用されているのです。

代謝産物の1つであるテオブロミンは、
フォスフォジエステラーゼを阻害することにより、
血管拡張作用のあることが報告されています。

24時間のカフェインの尿中排泄量を4つに分けて検討すると、
最も少ない群では上腕動脈の脈圧が平均43.5mmHgであったのに対して、
最も多い群では平均40.5mmHgとなっていて、
カフェインの排泄量が多いほど、
脈圧は有意に低下していました。
大動脈の動脈硬化の指標であるPWVについても、
カフェイン排泄が多い群において、
少ない群より数値の低下が有意に認められていました。
同様の傾向はカフェインの代謝物のうち、
パラキサンチンとテオフィリンでも認められましたが、
テオブロミンでは認められませんでした。
高血圧とPWVや脈圧との間にも相関が認められましたが、
高血圧のある人とない人に分けて解析しても、
カフェインやその代謝産物と、
脈圧やPWVとの関連はなくなりませんでした。

脈圧やPWVは基本的には動脈硬化に従って増加する指標ですから、
それがカフェインやその代謝産物の排泄量が低い群で、
より増加しているということは、
間接的にカフェインの摂取が動脈硬化を予防している可能性を示唆しています。
また、高血圧のあるなしで結果に違いのない点は、
その予防効果が血圧の降下作用とは、
別個の減少である可能性を示唆しています。
ただ、患者さんを登録して経過を長く見たようなデータではありませんから、
その意味合いはまだ、可能性を示唆する、
というレベルで考えるべきだと思います。

上腕動脈の脈圧の上昇もPWVの増加も、
いずれも動脈硬化の指標の1つです。
加齢によっても増加しますし、
再現性もそれほど高い数値とは言えませんから、
それがカフェインの摂取が少ない群で、
若干増加しているからと言って、
カフェインの摂取量が多いほど動脈硬化が進みにくい、
とまでは言えないと思いますが、
これまでのコーヒーと動脈硬化との関係というのは、
コーヒーを1日何杯飲むか、というような質問の結果が、
その主なデータでしたから、
今回の尿中排泄量による検討は、
今後の研究の進歩においては、
その方向性を示すという意味で、
意義のあるものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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