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「そして僕は途方に暮れる」(三浦大輔新作) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
そして僕は途方にくれる.jpg
元ポツドールの三浦大輔さんの新作が、
自らの演出で今渋谷のシアターコクーンで上演されています。

前作の「娼年」は全編がセックスシーンという怪作で、
それを東京芸術劇場で松坂桃李さんを主役でやり切る、
という力業に度肝を抜かれました。
今度は映画化するというのですからビックリしてしまいます。

今回の作品は原作ものを除けば、
2014年の「母に欲す」以来の新作ということになります。

オープニング、
藤ヶ谷太輔さん演じるフリーターの主人公が、
前田敦子さんが演じる恋人が仕事から帰って来るのを、
無為にベッドで寝たまま出迎える、
という場面からして如何にもポツドールという感じです。

その後の展開も恋人との喧嘩から始まって、
バイト先の先輩、友達、姉、母親、父親と、
自分に関わる全ての人との関係を、
自分から詰まらないことで断ち切って、
その場を逃亡するというドラマが連続します。

これもまあ、何処を切ってもポツドール、
という感じですね。

一旦はハッピーエンドかという展開がありながら、
ラストはまた主人公の希望は無残に打ち砕かれ、
文字通り主人公が途方に暮れて終わります。

前半の友達や恋人との関係は、
ポツドール時代に主に扱っていたテーマで、
ポツドール解散くらいの時期以降は、
「母を欲す」など父や母との関係に、
作劇のテーマは移って来ていました。

今回の作品はその総ざらいという感じで、
プロデュース公演という特色を活かして、
比較的幅のある年代のキャストが揃い、
物語にリアルな肉付けを与えています。

ただ、物語はポツドールそのものなのですが、
ポツドールにあった暴力性や過激さ、
かなり即物的なエロスなどの小劇場的な要素は、
ほぼ完全に排除されているので、
「地味な人情話がダラダラ続く」という印象になっていて、
シアターコクーンという劇場にも、
華のあるキャストにも、
作品はあまり合っていなかったような印象を持ちました。

設定はかなり三浦さんの一時期の私生活に、
近いものだったと想定されますから、
これまでの世界に一区切りを付ける、
という感じの集大成的な作品、
というように捉えるべきなのかも知れません。

演出は例の2段組の4つの部屋の場面を同時進行させる、
というようなポツドール的演出もあるのですが、
かつてのような緻密なものではなく、
取り敢えずちょっとそうした感じも入れてみた、
という程度に留まっています。

こうした演出は今は根本宗子さんに、
すっかり本歌取りされてしまった、
というような気にもなります。

そんな訳でかつてのポツドールの、
一時期は熱烈なファンの1人としては、
こうした毒気の抜かれた「ポツドールの廃墟」という感じの芝居には、
複雑な思いがあるのですが、
役者さんは皆良い芝居をしていましたし、
おそらくはこの作品も映像化されるのでしょうから、
三浦さんはもうどちらかと言うと、
「映画の人」になってしまったのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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