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ビタミンD濃度と癌リスクとの関連について(多目的コホート研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で外来は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ビタミンDとがん(日本).jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
血液のビタミンD濃度と癌リスクとの関連についての論文です。

基礎実験や動物実験のレベルでは、
ビタミンDは細胞の成長や分化を調節し、
癌の発症を抑制するような効果があると報告されています。

ただ、実際にビタミンD濃度が高いことが、
癌の発症を抑制するかどうかは、
まだ明確ではありません。

観察研究のメタ解析のデータによると、
25(OH)D濃度が高いと大腸癌のリスクが低い、
という結果が報告されています。
乳癌と前立腺癌についても、
それを示唆するデータが報告されています。
ただ、癌になって消耗した状態では。
血液のビタミンD濃度も低くはなることが想定されるので、
これが本当にビタミンDが高いことの影響であるとは、
これだけでは言えません。

2017年に大規模な遺伝子解析のデータを活用した、
メンデル無作為化解析という手法による、
ビタミンD濃度と癌リスクとの関連を検証した研究が、
British medical journal誌に掲載されました。
前立腺癌、乳癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌、膵臓癌、神経芽細胞腫の、
7種類の癌での検証において、
ビタミンDが低下する遺伝子変異と、
癌のリスクとの間には明確な関連は認められませんでした。
弱い関連のある可能性は残るものの、
現時点でビタミンD濃度を測定して癌のリスクを判断したり、
ビタミンDの補充を癌予防のために行うという治療の妥当性は、
現時点では低い、という結果です。

今回の研究は日本の代表的な大規模疫学研究である、
多目的コホート研究(JPHC)のデータを活用して、
日本人における血液のビタミンD濃度と癌リスクとの関連を検証しています。

3301例の経過観察中の癌診断事例と、
4044名の無作為に抽出されたコントロールとが対比されています。

血液中のビタミンD濃度は、
食事からのビタミンDをほぼ反映している、
25(OH)D濃度が測定されています。
それを濃度毎に4分割して検討を行っています。
こちらをご覧ください。
ビタミンD.jpg
これは男女毎に4分割された、
血液のビタミンD濃度の区分けを示した表です。

季節で分かれているのは、
ビタミンD濃度は季節性があって、
紫外線の強い夏には高く、
冬には低くなるからです。

単位はnmol/Lで、
これを2.5で割ると、
通常日本の検査の単位となっている、
ng/mLに変換されます。

たとえば女性で冬の最も低い群は、
通常の単位に戻すと13.68ng/mL未満ということになります。
経験的な印象としては、
かなり低いな、と言うように思います。
一般的には30ng/mL未満は基準値未満という判断です。

この最も低い群を基準とすると、
トータルな癌の発症リスクは、
最も高い群で20%(95%CI: 0.69から0.93)、
有意に低下していました。

ただ、個別の癌のリスクでの検討では、
肝細胞癌のみが同様の比較で、
55%(95%CI : 0.27から0.77)有意に低下していましたが、
それ以外の癌のリスクについては、
有意な差は認められませんでした。

この結果から上記文献の著者らは、
ビタミンDが癌に予防的に働く可能性が示唆された、
というような結論を導いていますが、
果たしてそれは妥当はものでしょうか?

いささか疑問に感じます。

これは僕だけの意見ではなく、
論文のサイトにもコメントが寄せられているのですが、
個別の癌で差が出ているのは肝細胞癌だけで、
該当する患者さんの肝機能は、
実際にはかなり低下しているという可能性があります。
そうなるとビタミンDの水酸化は肝臓で行われますから、
該当する患者さんの25(OH)ビタミンD濃度は、
何もない方より低くておかしくはありません。

他の癌では個別には有意差はなく、
肝細胞癌のみで極端に大きな差が付いているので、
そのバイアスが全体として結果に影響を与えている可能性が、
否定出来ないように思います。

従って、
今後その点を加味した再検証が必要と思いますし、
また別個の疫学データにおいても、
同様の解析が行われてその結果が蓄積されないと、
この問題はまだ解決は付かないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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