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オメガ3脂肪酸の心血管疾患に対する予防効果(2018年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オメガ3脂肪酸の心血管疾患メタ解析.jpg
2018年のJAMA Cardiology誌に掲載された、
オメガ3脂肪酸と呼ばれる青身魚の脂の成分を、
サプリメントとして使用することの、
心血管疾患、特に虚血性心疾患予防効果についての論文です。

青い魚の油が健康にいい、
という話は、
皆さんもよくお聞きになることだと思います。

魚、特にサバやイワシなどの青身魚には、
EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、
などの多価不飽和脂肪酸と呼ばれる脂質が多く含まれていて、
疫学研究などから、
魚を多く摂る人の方が、
心臓病や脳卒中の発症率が低い、
などの報告があり、
このEPAやDHAが、
動脈硬化の病気の予防や予後改善に、
効果があるのではないか、
という推測があります。
EPAやDHAのことを、
色々な呼び方がありますが、
上記文献ではω(オメガ)3脂肪酸と呼んでいます。

EPAには中性脂肪を下げ、
血管の内皮障害や炎症の抑制など、
動脈硬化の進展抑制に結び付くような、
多くの作用が実験的には報告されています。

しかし、このEPAやDHAを、
薬やサプリメントとして使用することにより、
他の有効性を確認された薬剤と同じような、
臨床的な効果があるかどうかについては、
まだ意見が割れています。

日本ではEPAやEPAとDHAの合剤が、
薬として使用されていますが、
これは世界的にはかなり特殊で、
通常はサプリメント的な扱いです。

2007年にLancet誌に発表された、
JELISと呼ばれる日本人のみを対象とした、
大規模臨床試験があり、
これは商品名エパデールという、
高純度のEPA製剤を、
コレステロールの高い患者さんに、
通常のコレステロール降下剤に上乗せして使用したところ、
心筋梗塞などの発症が有意に抑えられ、
特に脳卒中の発症は、
相対リスクで20%程度低下した、
という結果でした。

ただ、海外でサプリメントを使用した試験では、
このような明確な心血管疾患予防効果は再現されていません。

今回の検討は、
JELISを含むこれまでに施行されたオメガ3脂肪酸の臨床試験のうち、
対象者が500名以上で1年以上の観察を行なった、
心血管疾患予防についての10の介入試験をまとめて解析したものです。

10の臨床試験に参加した、
トータルで77917名のデータをまとめて解析したところ、
観察期間の中央値が4.4年において、
EPAに換算して1日226から1800mgのオメガ3脂肪酸のサプリメントは、
虚血性心疾患の発症リスクや死亡のリスク、
心血管疾患の発症リスクや死亡のリスクに対して、
有意な影響を与えていませんでした。

今回の解析は主に虚血性心疾患の予防効果に限ったもので、
JELISのサブ解析で印象的だった、
脳卒中の予防効果については、
検証しているデータも少ないことから、
あまり明確には触れられていません。

現状精度の高い臨床データで、
オメガ3脂肪酸の心血管疾患予防効果は、
確認されているとは言い難いのですが、
かと言って完全に否定されたとも現時点では言い切れず、
今進行中のより高用量のEPA製剤を使用した、
臨床試験の結果を含めて、
今後まだ結論までには時間が掛かりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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小児の喘息発作を起こし易いウイルスは何か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ライノウイルスとインフルエンザウイルスの喘息への影響.jpg
2018 年のClinical & Experimental Allergy誌に掲載された、
小児の喘息発作を起こし易いウイルスの種類についての論文です。

気管支喘息は慢性のアレルギー性の気道の炎症ですが、
喘息発作自体は特にお子さんの場合には、
通常かぜなどの感染症をきっかけとして起こります。

小児の喘息発作の少なくとも85%は、
何らかのウイルス感染をきっかけとして起こり、
成人でも40から80%はウイルス感染が誘因と報告されています。

このうちでも、
最も喘息発作を誘発しやすいと報告されているのが、
風邪の原因ウイルスであるライノウイルスです。

ただ、これがライノウイルスの特徴によっているのか、
それとも風邪の原因としてライノウイルスが多いだけで、
他の呼吸器感染の原因となるウイルスでも、
同様の性質があるのか、
といった点はこれまでにあまり検証をされていません。

そこで今回の研究では、
ギリシャにおけるインフルエンザ様疾患の疫学データを活用して、
生後6ヶ月から13歳のインフルエンザ様症状で入院した、
1207名の症状と原因ウイルスとの関連を検証し、
主にライノウイルスとインフルエンザウイルスの、
喘息発作に対する影響を比較しています。

その結果、
ライノウイルスに感染すると、
喘息症状の起こる頻度が高く、
その一方でインフルエンザウイルスの感染では、
発熱などの全身症状が多いという特徴が、
全体で見られました。

また、喘息発作の既往のあるお子さんに絞った解析では、
ライノウイルスもインフルエンザウイルスも、
共に喘息発作の原因となりましたが、
ライノウイルス感染が喘息症状は多くても、
それ以外は比較的軽症であったのに対して、
インフルエンザウイルスでは、
喘鳴より発熱やリンパ節腫脹などの全身症状が強く、
重症化が多いという傾向が認められました。

このように同じウイルス感染による喘息症状の悪化と言っても、
ウイルスの種類によって症状の差がある、
という知見は非常に興味深く、
今後より広範なウイルスでの検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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超加工食品の発癌リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ウルトラ加工食品のリスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
超加工食品(ウルトラ可能食品)の発癌リスクについての論文です。

超加工食品(ultra-processed foods)というのは、
ちょっと耳慣れない言葉かと思います。
これは2016年に国連の関連する食品についての会議で提唱されたもので、
食品をその加工の度合いによって、
4種類に分類するNOVA分類がその元になっています。

このNOVA分類では、
食品をその加工度によって、
第1群;加工されていないか、最小限しか加工されていない食品
第2群;加工された調味料
第3群;加工食品
第4群;超加工食品
の4つに分類しています。

第1群は果物や野菜や肉、豆は牛乳など、
その由来が見て分かるような食品のことです。
第2群は砂糖や塩などの加工された調味料です。
第3群は一定の加工をされた食品のことで、
たとえば缶詰の桃や自然の製法で作ったパンやチーズ、
ミックスナッツやミックスベジタブルなどがそれに当たります。

そして、第4群の超加工食品は、
通常5種類以上の食品が組み合わされ、
そこに複数の調味料などが加えられたものを意味しています。
こうした食品は他の群の食品では、
使用されないような添加物や化学物質が添加されることが通常です。

これは要するに、
僕達がお店などで手に入れることの出来る、
食事の材料となる食品の分類なのです。

たとえばラーメンを食べようと思った時に、
その材料として、
自然の岩塩などを調味料に使い、
自然の小麦や豚肉、野菜などを調達して、
それを組み合わせて調理すれば、
第1群のみを使用したことになりますし、
塩や砂糖などの調味料は市販の物を使うと、
第2群も使用したことになります。
袋詰めの麺を買い、
スーパーの焼き豚などを買って、
それを組み合わせてラーメンを作ると、
第3群も使用したことになり、
最初からカップ麺やインスタントラーメンを買って、
それを使用すると第4群を使ったことになるのです。

健康のためには、
極力超加工食品を減らそう、
というのがこの国連の会議の、
基本的な考え方です。
超加工食品は料理の手間を減らしてくれますから、
確かに便利ですが、
最初からパッケージ化されているので、
その成分を確認することは出来ませんし、
栄養バランスの調節も難しくなります。

添加物を全て危険視するような考え方にも問題はありますが、
人間の手間を省くために、
本来は必要のない物質を、
多く使用してそれを食べるということ自体が、
人間本来のあり方ではないことも、
また事実だと思います。

それでは実際に超加工食品を多く食べることで、
健康上の害はどの程度あるのでしょうか?

今回の研究はフランスの疫学データですが、
10万人以上の住民の栄養調査の結果と、
その後の癌の発症との関連を検証したものです。

その結果、
トータルな癌と乳癌の発症リスクは、
超加工食品の摂取量が10%増加すると、
概ね10%有意に増加することが確認されました。
大腸癌と前立腺癌については、
同様の関連は認められませんでした。

今回のデータのみから、
超加工食品を多く摂ると癌が増える、
とまで言い切ることは出来ませんが、
今後様々な病気について、
超加工食品との関連が調査され発表されると思いますので、
今後のデータの蓄積を待ちたいと思います。

なるべく調理に手間を掛けることが、
健康への1つのスタンダードであるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大竹野正典「夜、ナク、鳥」(瀬戸山美咲演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日最後の記事は演劇の話題です。

それがこちら。
夜、ナク鳥.jpg
2002年の所謂「黒い看護婦」事件を、
大竹野正典さんが2012年に大阪に舞台を移して書いた戯曲を、
オフィス・コット-ーネの企画で瀬戸川美咲さんが演出し、
松永玲子さん、高橋由美子さん、松本紀保さん、安藤玉恵さんという、
小劇場的にはこれ以上はないくらいの、
豪華絢爛な実力派女優陣が出演した期待の舞台に足を運びました。

これはちょっと微妙な舞台で、
4人の名女優の共演は、
文句なく素晴らしくて楽しむことが出来たのですが、
戯曲は悪くはないものの、
山場に乏しく人間の造形にも疑問があって、
瀬戸山さんの演出も、
良いところも沢山あるのですが、
男優陣の戯画化されたような扱いなど、
賛同しかねるような部分も多くありました。

内容は4人の看護師が保険金を掛けて、
付き合っている男性を殺害するというもので、
3人が結託して1人の男性を殺害した後の時点から物語りは始まり、
もう1人の看護師を巻き込んで、
その夫を殺害使用とするところで終わります。

キャストは4人の看護師と、
彼女達と関わりのある4人の男性で、
最初に殺された男性も、
幻覚か幽霊のように登場するという趣向です。

実際の事件は主犯格の女性に、
半ば支配され操られるようにして、
3人の共犯が犯行に及んだ、
ということのようですが、
この作品ではそうした支配被支配の関係はあまりなく、
心の奥底にある情念や渇望のようなものへの共感が、
4人の女性を結びつけた、
というような描かれ方をしています。

ただ、個人的には支配被支配の関係が明確にあった方が、
こうした物語は成立しやすく、
より説得力を持ったのではないかと思います。
実際の事件にあったレズビアン的関係の部分も、
この戯曲では省かれていて、
あくまで人間同士の共感的部分で、
関係が成立しているように描かれているので、
余計観念的で理解が難しかったように思いました。

勿論意図的にそうした作劇となっているのは分かるのですが、
観客の共感を得るのは、
かなり難しい挑戦ではなかったかと思います。

演出は鋭角なセットを組み、
巧みに舞台の奥行きを利用するところなど、
瀬戸山さんの手腕の見事さが感じられました。
抽象的なセットであるのに、
リアルに感じられると言う点の計算もさすがです。

ただ、いつものことですが、
脇役的な人物は極端に戯画化され、
非常に軽くしか扱われないので、
その点のバランスの悪さは強く感じました。

今回では女優さんに比較して、
男優さんの扱いは非常に軽く、
リアルな芝居も排除されています。

しかし、本来の戯曲のニュアンスは、
もっと両者を同じに扱っていると思うので、
この軽さは違和感がありました。

女優さんの芝居自体は見応えがありました。
僕の大好きな松永さんは、
さすがの風格でとらえどころのない悪を演じきり、
凜々しさが最近増して来た、
松本さんの迫力も良い感じです。
お話の軸となる4人目に巻き込まれる女性を演じた、
高橋さんの土に塗れたような芝居も凄みがあり、
安藤さんは今回はちょっとひいた感じでしたが、
独特の存在感でアンサンブルを高めていました。

そんな訳で素敵な芝居ではありましたが、
戯曲の世界には個人的にやや抵抗があり、
演出もややバランスに問題を感じました。

微妙です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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「密やかな結晶」(鄭義信脚本・演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は演劇の話題です。

それがこちら。
密やかな結晶.jpg
小川洋子さんの1994年作のファンタジーを、
鄭義信さんが台本化して演出し、
石原さとみさんが主演を勤めた舞台が、
本日まで池袋で上演されています。
その後地方公演もあるようです。

これは一言で言えば、とても珍妙な舞台でした。

宣伝のチラシを見ると、
何かスタイリッシュで繊細な舞台を、
想像してしまいます。

原作を読むと、
一筋縄ではいかない、
非常に繊細で微妙な作品で、
小川さんらしい際どくてエロチックで、
危険な感じも潜んでいます。
それでいて表面的には純然たるファンタジーなので、
こんなものはとても演劇には向かなそうだな、
というように感じます。

こうした裏のあるファンタジーの舞台化としては、
蜷川幸雄さんの「海辺のカフカ」の演出が、
さすが蜷川という1つの超絶技巧を見せてくれました。
オープニングの光り輝くボックスが、
宝物を入れてシガー・ロスの曲に乗り、
無数に乱舞する情景の素晴らしさは、
今も脳裏に焼き付いています。
また、ケラさんは意外にこうした世界を、
オリジナルで巧みに見せるという藝を持っている演劇人です。

鄭さんはもっと泥臭いスタイルの、
アングラ志向の人間ドラマが持ち味ですから、
誰がキャスティングしたのかは分かりませんが、
およそ小川さん作のファンタジーの舞台化には、
向いていないように思えます。

果たしてその結果は如何に…
と持って劇場に足を運ぶと、
前半は何と「子供向けミュージカル」となっているので、
脱力してしまいました。

ある架空の島で、
1つずつ「物」が消滅してゆき、
心の中ではその消滅を記憶している人を、
秘密警察が探し出して捕らえてしまう、
という話なのですが、
秘密警察の連中が歌って踊り、
物語を説明するのです。

ベンガルさんが秘密警察のボスの山内圭哉さんに対して、
「関西弁を話すと、架空の島という設定に合わないよ」
みたいな「糞セリフ」を発するところなど、
あまりのひどさと詰まらなさに、
頭を抱えて下を向くしかありませんでした。

酷い芝居でした。

ただ、後半はかなり鄭さん得意のアングラ芝居に、
強引に内容を寄せていて、
それなりに見応えが出て来ました。

従って後半は、
ほぼ原作とは無関係な世界になります。

主人公の石原さとみさん演じる島の小説家は、
記憶を失わない体質の、
鈴木浩介さん演じる編集者を、
自分の家の隠し部屋に匿うのですが、
その編集者と山内圭哉さんが兄弟という設定になっていて、
2人の愛憎が表現されるのは、
いつも鄭さんのドラマに共通する、
兄弟の愛憎に物語りを寄せていますし、
ラストで鈴木さんが抱きしめる中、
石原さんが消滅してゆくのは、
唐先生の「少女都市」で、
ガラスになった少女を田口が抱きしめる、
という場面に明らかに寄せています。
こうした設定はいずれも原作にはないのです。
また原作では病死する「おじいさん」を、
島の老女達のリンチで殺害するのも、
如何にも鄭さんの世界です。

ラストでは最初に消滅した「薔薇」が、
舞台奥の暗闇で乱舞し、
そこに向かってセットが後退するのは、
要するにテント芝居のラストをやっているのです。
「愛してる」という言葉が消滅し、
それが最後に帰って来るという、
気恥ずかしくて死にそうになる展開も、
勿論原作にはない鄭さんのオリジナルです。

キャストでは石原さとみさんは、
なかなかの熱演を見せていましたが、
声が悪く、ラストなどは耳障りな金属音のように、
なってしまっていました。
彼女にアングラ芝居は似合わないと思いましたし、
もっと声を大切に使ってくれるような、
スタッフと仕事をして欲しいと思いました。
彼女の持ち味はこんなところにはない筈です。

ベンガルさんは好きなのですが、
今回はほぼアンサンブル的扱いで、
最近お元気のない感じではありますが、
この扱いは酷いな、と感じました。

そんな訳で、
どうしてこの企画が鄭さんだったのだろう、
という疑問ばかりが残る珍妙な舞台で、
小川さんの繊細な原作とは、
全くの別物ですし、
今年の観劇の中でも落胆度の高い芝居となってしまいました。

とても残念ですが、
企画をされる方は是非、
もっと適材適所ということを、
お考え頂きたいと思います。

それでは最後の記事に移ります。

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「犬猿」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日は映画の記事が1本と、
演劇の記事が2本の3本立てです。

まずはこちらから。
犬猿.jpg
シンプルに2組の家族の愛憎を描いた、
吉田恵輔監督の「犬猿」を観て来ました。

窪田正孝さんのやや卑屈で真面目な会社員の弟と、
新井浩文さんの刑務所帰りで家族でも鼻つまみのの兄、
江上敬子さんの印刷会社の社長で、
容姿にコンプレックスを持っている姉と、
筧美知子さんの頭は弱いけれど美人で、
姉の会社に勤めながら芸能活動もしている妹、
という兄弟、姉妹の2つのペアが、
窪田さんの会社が江上さんの会社に印刷を依頼する、
という仕事の関係から、
複雑な愛憎入り交じるドラマを展開します。

4人の役者さんのコンビネーションが絶妙で、
演技は素人のニッチェ江上敬子さんは、
演技賞なみのあっぱれ芝居ですし、
窪田さんはいつもの屈折ぶりが役柄にフィットしています。
新井さんの凶悪さには磨きが掛かり、
本気で殺されそうな凄みがありますし、
筧さんも顔と身体だけが取り柄の女性を、
如何にもそれらしく好演しています。

オープニングが洒落ていて、
ネタバレになるので書きませんが、
意表を突いていて楽しいのです。
その後でタイトルが出るのですが、
とても小さくしか出ないのも面白いと思います。

その後4人の関係をテンポ良く説明する辺りも、
軽快で面白いと思いました。
ただ、クライマックスの4人の喧嘩を、
途中で音効を入れて最後までやらないのは、
あまり好みではありませんでした。
その後一旦兄弟と姉妹が和解して、
ラストにまた喧嘩が始まるというのも、
何かすっきりとしないラストで、
少しモヤモヤしてしまいました。

窪田さんの役にある秘密があるのですが、
それをもっと効果的に使う方法があったようにも思います。
秘密の暴露も無造作で、
ただ、窪田さんが悪く見えるだけ、というのも、
構成上如何なものかと思いました。

総じてオリジナルの台本は、
少し詰めが甘いように感じました。
役柄の設定や肉付けは悪くないと思うのですが、
展開が如何にも凡庸で、
意外な展開や盛り上がり、
クライマックスに向けての集束感に乏しいのです。

そんな訳でキャストの演技など、
見所も多い作品でしたが、
個人的には1本の映画としては物足りなさを感じました。

それでは2本目の記事に移ります。
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アガリスクエンターテイメント「卒業式、実行」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
卒業式、実行.jpg
こだわりのコメディを上演し続けている、
アガリスクエンターテイメントの新作公演が、
今サンモールスタジオで上演されています。

この作品は2015年に同じ劇場で上演された、
「紅白旗合戦」という作品のリニューアル版です。

この初演は僕が最初に観たアガリスクの公演でしたが、
演技などには稚拙な点があったものの、
高校の卒業式で「君が代」を歌うかどうかで、
生徒の代表と教師が対立して議論をするという、
非常に難しい話題に挑戦し、
お互いに合意の出来る到達点に達する、
という段取りを、鮮やかにコメディにしていて、
とても感心しました。
特に一旦決裂した議論が、
最後になって奇策により合意に向かう辺りの段取りが巧みで、
これは新しい才能だとちょっと興奮すら感じたのです。

今回再演されるということでとても嬉しかったのですが、
前回から3年が経って、
劇団員の皆さんが高校生を演じるのは、
正直ちょっと厳しい感じがしたので、
前回の生徒役が先生役にスライドして、
生徒は若手を起用するのではないかしら、
完成度の高い台本でしたから、
基本ラインは変えずに行くのでは…
というように予想していたのですが、
実際にはその予想は全て外れました。

まず、熊谷有芳さんの生徒会長など、
劇団員の生徒役はその多くが初演と同じに生徒を演じ、
内容自体は大幅に書き換えられていて、
初演は卒業式直前のやり取りであったものが、
今回は直前から始まって、
卒業式開始後のドタバタにスポットが当てられていました。

三谷幸喜さんの「ショー・マスト・ゴー・オン」という、
東京サンシャインボーイズ時代の人気作があり、
これはトラブル続出の舞台を、
舞台袖から描いたものでしたが、
今回の作品はそのオマージュとなっていて、
舞台袖から卒業式のトラブルを回避する、
というものになっていました。

正直高校生役には違和感のあるメンバーも、
多かったことは確かですが、
今回はおそらくそれは承知の上で、
「学生役から卒業」というニュアンスもあったのではないか、
というように感じました。
熊谷さんの生徒会長も、
沈さんの美術部員に淺越さんの吹奏楽部員など、
名人芸を見る気分で楽しむことが出来ました。

ラスト前の伏線回収の部分など、
コメディとしての精度もなかなか冴えていて、
セットの工夫も面白く、
僕が今まで観たアガリスクの舞台の中では、
一番セットは充実していてプロ仕様になっていた、
と感じました。

ただ、正直なことを言えば、
無理矢理「ショー・マスト・ゴー・オン」に寄せた、
という感じがあって、
構成的にはやや破綻しているようにも感じました。
三谷さんの作品では、
舞台を続行しようという気持ちでは、
一致している中でのトラブルなので良いのですが、
今回の作品では、卒業式が始まっていてもなお、
君が代を歌うかどうかで揉めているので、
そこに更にトラブルというのが、
未整理な感じがして、
卒業式を無事乗り切ろう、
という気分で観客が一致しづらくなるからです。

初演を変えたいという思いは分かるような気もするのですが、
君が代を巡る生徒と教師の議論のドラマとしては、
前作のような形式の方が矢張り正攻法で、
今回のような作品にするのであれば、
素材も含めて完全な新作であって欲しかった、
というのが正直なところです。
今回の内容なら、卒業式を邪魔するものは、
君が代や国旗以外のトラブルで、
良かったのではないでしょうか。

キャストは皆好演で、
個人的にファンの熊谷さんの生徒会長は抜群でしたし、
今回は主演と言って良い、
榎並夕起さんの頑張りが光っていました。

そんな訳で初演版を愛する者としては、
ちょっと違和感を覚えるところはあったのですが、
アガリスク版「ショー・マスト・ゴー・オン」として、
いつもながら「熱量」の高い、
コメディ愛に満ちた力作であったことは確かで、
これからも活躍に期待をしたいと思います。

頑張って下さい!

何も出来ませんが陰ながら応援しています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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肥満と糖尿病が癌の発症に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
BMIと糖尿病と癌.jpg
2018年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された、
肥満と糖尿病とが癌のリスクに与える影響についての論文です。

BMIという指標で25を超える「過体重」と糖尿病は、
いずれも癌の発症リスクとなることが、
多くの精度の高い疫学データから確認されています。

過体重は2型糖尿病のリスクになりますから、
この2つのリスクは互いに影響を受け合っています。

今回の研究は2012年の時点において、
世界175カ国の疫学データをトータルで集計した、
非常に大規模なものですが、
BMIが25以上の過体重と糖尿病が12種類の癌の発症に与える影響を、
個別にまた複合的に検証しているものです。

その結果2012年に世界中で報告された、
14067894件の新規に診断された癌のうち、
5.6%に当たる792600件は過体重もしくは糖尿病の影響によって、
生じたものと推計されました。

過体重の影響と糖尿病の影響には差があり、
過体重は乳癌の6.9%、子宮体癌の31.0%に影響していたのに対して、
糖尿病は乳癌の2.2%、子宮体癌の10.8%の影響に留まっていました。
一方で糖尿病は肝臓癌の14.5%、膵臓癌の12.8%に影響していたのに対して、
過体重の影響は肝臓癌では10.1%、膵臓癌では5.8%に留まっていました。

これは必ずしも、
体重や血糖が減少すれば癌がそれだけ予防される、
というようにも言い切れないのですが、
過体重や糖尿病が、
世界的に癌のリスクとして大きなものである、
ということは事実で、
その影響は今後より大きくなることもまた、
ほぼ間違いのないことのように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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GLP1アナログの心血管疾患に対する効果(2018年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
GLP1アナログの心血管疾患に対する効果.jpg
2018年のLancet Diabetes & ENdocrinology誌に掲載された、
GLP1アナログという糖尿病治療薬の、
心血管疾患の予後に与える影響についてのメタ解析の論文です。

2型糖尿病の治療の目的は、
合併症の予防にあります。

そのうち網膜症や神経症については、
HbA1cが7%を切るような血糖コントロールを継続することにより、
その発症は一定レベル予防されることが確認されています。
腎症については、
尿への微量蛋白の発症というような指標を用いれば、
そうしたコントロールにより予防可能ですが、
それで腎機能の低下が抑制されるかについては、
あまり明確には証明されていません。

もっと問題が多いのは動脈硬化の進行に伴う、
心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患です。

心血管疾患のリスクは2型糖尿病により増加しますが、
そのリスクはHbA1cが7%台のコントロールでは、
十分には低下しません。
しかし、それを下回るような強化コントロールは、
今後は低血糖の増加を招き、
却って患者さんの生命予後の低下に結びついてしまうのです。

インクレチンは一種の消化管ホルモンで、
食後のみのインスリン分泌を刺激して、
インスリンの拮抗ホルモンであるグルカゴンの低下作用を併せ持っています。

インクレチン関連薬には、
インクレチンそのものであるGLP1アナログという注射薬と、
その分解酵素の阻害剤である、
DPP4阻害剤の2種類があります。

このインクレチン関連薬は、
血糖値の上昇時のみに働くので、
低血糖のリスクが少なく、
動物実験では膵臓のインスリン分泌細胞を増加させるなど、
これまでの糖尿病治療薬にはない特徴も有しています。

そのためインクレチン関連薬を使用することにより、
心血管疾患の予後が改善することが期待されました。

しかし、
これまでの複数のDPP4阻害剤
(アログリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン)
の臨床試験結果は、
その上乗せによる心血管疾患の予防や予後の改善効果が、
確認されませんでした。

それでは、GLP1アナログはどうなのでしょうか?

これまでにリクセナチド、リラグルチド、
セマグルチド、そして長期作用型のエキセナチド、という、
4種類のGLP1アナログについて、
心血管疾患に対する数年という期間での効果が検証されています。

その一部はブログでも過去に記事にしています。

その中で最も良い結果であったのはリラグルチドの臨床試験で、
中間値で3.8年の観察期間中の心血管疾患の死亡と心筋梗塞、
および脳卒中の発症を合わせた頻度は、
偽薬群では14.9%であったのに対して、
リラグルチド群では13.0%で、
リラグルチドは心血管疾患をトータルで13%、
有意に抑制していました。(0.78から0.97)

心血管疾患による死亡のみで見ると、
偽薬群よりリラグルチド群は、
死亡リスクを22%有意に低下させていました。
(0.66から0.93)

総死亡のリスクについても、
リラグルチド群で15%の低下が有意に認められました。
(0.74から0.97)

ただ、心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院については、
偽薬群とリラグルチド群との間に、
有意な差は認められませんでした。

4種類のGLP1アナログのいずれも、
偽薬と比較して心血管疾患の予後を悪化はさせませんでした。

リラグルチドとセマグルチドは、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクを、
有意に低下させていましたが、
総死亡と心血管疾患による死亡のリスクを、
単独で有意に低下させていたのは、
リラグルチドのみでした。

また、脳卒中単独のリスクを有意に低下させていたのは、
セマグルチドだけでした。

このように同じGLP1アナログでも、
臨床試験によってその結果には大きな差があります。

GLP1アナログのトータルな効果が、
現時点で確認されている、という訳ではないのです。

今回の研究では、
これまでのGLP1アナログの臨床データをまとめて解析する、
メタ解析という手法で、
GLP1アナログ全体の、
心血管疾患に対する効果を検証しています。

これまで4種類の臨床試験をまとめて解析したところ、
偽薬と比較してGLP1アナログは、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクを、
10%有意に低下させていました。
(95%CI: 0.82 から0.99)
また心血管疾患による死亡のリスクを13%
(95%CI: 0.79から0.96)
総死亡のリスクも12%
(95%CI: 0.81から0.95)
それぞれ有意に低下させていました。
ただ、個々のGLP1アナログの効果には、
かなりのばらつきが見られました。
要するに、現時点ではリラグルチドと、
他のGLP1アナログとの間には、
ある程度の開きが見られます。

心筋梗塞と脳卒中と心不全による入院のリスクについては、
有意な低下は認められませんでした。

このように、
GLP1アナログは心血管疾患の予後に、
悪影響を与えない糖尿病治療薬である、
という点はほぼ間違いがなく、
生命予後にも良い影響を与えるという可能性がありますが、
リラグルチド以外の薬でもそうした効果があるかどうかは、
まだ確定的なものとは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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風邪ウイルスの感染はアレルギー鼻炎ではどう変わるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ライノウイルスとアレルギー粘膜.jpg
2016年のClinical and Experimental Immunology誌に掲載された、
2種類の風邪ウイルスの感染の仕方が、
アレルギー性鼻炎の粘膜では、
どのように変わるかを検証した論文です。

これも花粉症と風邪との関連を示した、
一連の研究成果の1つです。

昨日と一昨日の記事でもご紹介しましたように、
インフルエンザの感染は、
鼻粘膜の防御機能の低下により、
アレルギー性鼻炎では起こりやすく、
ウイルスの増殖自体も亢進していることが示唆されています。

それは他の風邪の原因ウイルスでも同じなのでしょうか?

今回の研究はアレルギー性鼻炎(花粉症)の患者さんと、
アレルギー素因のない人の鼻の粘膜の細胞を採取して、
それを培養した上で、
いずれも代表的な風邪の原因ウイルスである、
パラインフルエンザウイルス(3型)と、
ライノウイルス(1b型)を感染させ、
感染の仕方と反応する免疫反応の強さなどを比較検証しています。

その結果、
鼻粘膜細胞における感染後48時間でのウイルス遺伝子の複製は、
パラインフルエンザウイルスではアレルギー性鼻炎において、
有意に抑制されていました。
ただ、ライノウイルスではそうした傾向はありませんでした。

2種類のウイルスに対するインターフェロンの産生能は、
いずれもアレルギー性鼻炎においては低い傾向を示しました。

このようにインフルエンザウイルスより鮮明ではありませんが、
他の風邪の原因ウイルスにおいても、
鼻粘膜における自然免疫は、
アレルギー性鼻炎の患者さんにおいて低下していました。

ただ、ウイルスの増殖自体も、
今回の研究ではパラインフルエンザウイルスでは低下していて、
風邪ウイルスの感染に対するアレルギー性鼻炎の影響は、
ウイルスによっても異なる可能性があるなど、
どうも一筋縄ではいかない点がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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