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本能寺ホテル [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
本能寺ホテル②.jpg
万城目学さんが台本に関わってトラブルになったのでは…
という事実は不明ですが変な噂が先行した、
フジテレビ印の映画を観て来ました。

多分詰まらないだろうな、とは思ったのですが、
仕事帰りに妻と映画を観るのに、
タイミングが合う上映時間のものが、
この作品しかなかったので足を運びました。

予想をかなり超えるくらいに詰まらない映画で、
封切り初日にも関わらず、
映画館は閑散としていました。
ほぼ確実に短期間で打ち切りになるので、
ご興味のある方は早くご覧になった方が良いと思います。

以下ネタバレを含む感想です。

もしこれから観たいと思う方は、
鑑賞後にお読み下さい。

ただ、お勧めはしません。

これは歴女人気を当て込んだ作品だと思うのです。

綾瀬はるかさんが古都京都で、
本能寺の変前日の本能寺に紛れ込み、
信長に感化されて、
最後は歴史教師を志します。

彼女は人生の目標があまりなく、
勤めていた会社が倒産したために、
何となく付き合った男性と結婚を決めてしまったのですが、
婚約者の実家のある京都で、
ホテルの予約を間違えてしまい、
そのために「本能寺ホテル」という不思議なホテルに迷い込みます。

そこのエレベーターで金平糖を噛むと、
何故か1982年の本能寺にタイムスリップしてしまいます。

そこで現代にはいないタイプの信長という男性に、
恋をしてしまった主人公は、
歴史を変えても構わないと、
信長に光秀が裏切ることを前日に告げるのですが、
信長は自分の命より大切なものに殉じると、
秀吉に密かに手紙を送って後を託し、
自らは死んでゆきます。
それを知った主人公は、
愛のない婚約を解消し、
歴史教師になる道を選びます。

秀吉の中国大返しが成功したのは、
事前に信長から手紙を受け取っていたからだった、
というのが一応のポイントで、
それ以外には特に目新しい点はありません。

万城目さんが盗られたという小ネタとは何でしょうか?
金平糖?
そのくらいしか思いつきません。
そもそも筋の工夫など皆無に近いからです。

タイムスリップものということではなく、
人生の岐路に立っている若い女性が、
神秘的な経験をして、
それをきっかけに人生を問い直す、
という物語で、
日本映画にはありがちな古典的趣向です。

先に数少ない良い点から言うと、
京都に広範にロケをしていて、
馴染みのある場所が綺麗に撮影されていて美しく、
綾瀬はるかさんの主人公と、
堤真一さんの信長は、
綺麗にそして格好良く撮られています。
あと本能寺の変の場面はスケール感があります。
これだけ大掛かりで綺麗な本能寺の変は、
あまりこれまでの映像にはなかったという気がします。

ただ、オリジナル・ストーリーで、
万城目さんが関わっていた、と言う話の真偽はともかくとして、
台本にはかなり紆余曲折があり、
色々と凝ろうとしては失敗し、
結局は何も新味のない物語に、
ならざるを得なかったのかな、
というようには感じました。

綾瀬さんの物語が、
もっと書き込まれていないといけない筈ですが、
オープニングから過去と現在を、
交互に切り替えるというような編集になっていて、
分かりにくいですし、
中途半端です。
主人公がホテルの予約の間違いに気づくところなど、
ミュージカルもどきの変なコメディ演出をしているのですが、
全体からは浮いていて訳が分かりません。

綾瀬さんの役柄もちょっと分裂気味で、
本来は歴史に詳しい女性でなければならない筈なのに、
「天然キャラ」を活かしたかったのか、
途中では歴史のことなど何も知らない、
というような感じにしているので、
ラストで歴史教師になる、
というのが完全に矛盾しています。

現在から過去に持ち込まれたものとして、
胃薬のビンと勧誘のチラシがあるのですが、
何の意味もありませんし、
最後は燃えておしまいです。

風間杜夫さんの役も八嶋智人さんの役も意味ありげなだけで、
何も明らかにされないままに終わってしまいます。

このようにすべてが未整理で、
意味ありげなだけに終わっています。
「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」
のオープニングの巧みさはどうでしょうか?
比較するのも恥ずかしい感じがしますが、
映画というものを、
かなり舐めているように思えてなりませんでした。

ただ、よく考えてみると、
かつての角川映画の多くも、
質的にはあまり変わらなかったような気もします。

凡作でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

収縮期高血圧の健康に対する影響(1990年から2015年の大規模データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
世界の高血圧と病期リスク.jpg
昨年のJAMA誌に掲載された、
収縮期血圧とその健康への影響を、
世界レベルで解析した論文です。

2014年のLancet誌に掲載された、
1997年から2010年にイギリスで、
125万人という膨大なデータを解析した論文によると、
診察室で測定された収縮期血圧が、
90から114mmHgを超えると、
心血管疾患のリスクは増加しています。

つまり、100から110mmHgくらいより高い血圧は、
それだけで病気のリスクになるのです。

その一方で降圧剤などによる治療の効果が、
明確に現れるのは収縮期血圧が140を超えるくらいからで、
2015年のSPRINT試験では、
120未満を目標とする血圧コントロールにより、
生命予後にも有意な改善が認められたとする結果が報告されて、
センセーションを巻き起こしましたが、
血圧を何処まで下げるべきか、
というような点については、
まだまだ相反する知見もあり意見もあります。

2014年のLancet誌の論文はこれまでにない規模のものでしたが、
イギリスのみのデータです。
世界的に見て、
人間の血圧値はどのように推移し、
仮にこれまでの疫学データが正しいとすると、
どれだけの影響を健康に及ぼしているのでしょうか?

今回の研究では、
1980年から2015年の間に発表された、
世界154か国の844の臨床研究のデータから、
869万人に及ぶ収縮期血圧の数値と、
生命予後を含む病期の発症との関連を検証しています。

これまでにない、
世界規模の検証です。

収縮期血圧値としては、
過去の疫学データで心血管疾患のリスクが増加するとされる、
100から110mmHgを超えているかどうかと、
従来の高血圧の指標である140mmHgを超えているかどうかの、
2つの指標で検討を行っています。

その結果、
1990年から2015年という25年の間に、
血圧が100から110mmHg以上の人の頻度は、
人口10万人当たり73119人から81373人に増加し、
140mmHg以上の頻度は、
人口10万人当たり17307人から20526人に増加していました。

つまり、この間に人間の血圧は世界的に上昇している、
という結果です。

ここから年間人口10万人当たりの、
血圧が高いことより発生する死亡を推計すると、
血圧が100から110mmHg以上で135.6人から145.2人に増え、
140mmHg以上で97.9人から106.3人に増えるという計算になります。

つまり、収縮期血圧値のコントロールというのは、
近年その影響はより大きくなっていて、
その目標の設定は緊急性が高い、
と言うことが出来ます。

降圧剤の治療における目標設定というのは、
これとはまた別個の問題で、
仮に収縮期血圧が100から110mmHg以上の全員に、
降圧剤を使用するようなことになれば、
医療費は天文学的に跳ね上がることは明らかで、
またそのことの有効性も確立はしていません。

どちらかと言えばこのデータは、
生活習慣の改善から、
どれだけ適正に血圧をコントロールするかを、
考えるための指標と考えるべきで、
コレステロールや血糖値と同様、
「私たちは健康的なレベルより高い血圧を持っている」
という意識を持つことが、
まずは必要な第一歩であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

男性ホルモンを使うと嘘を吐かなくなる? [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
テストステロンが嘘を予防する..jpg
2012年のPLOS ONE誌に掲載された、
男性ホルモンの使用により嘘を吐かなくなるという、
ちょっと信じがたいような心理研究の論文です。

非常に面白いのですが、
そんなことがある訳がない、
というのが常識的な考えで、
特に追試が行われている、という感じもなく、
掲載されているのが、
速報性重視でネットのみのPLOS ONEですから、
ゆるい論文という扱いが妥当だと思います。

どうか真顔では読まないようにお願いします。

テストステロンは男性ホルモンで、
脳の発達にも大きな影響を及ぼし、
また社会生活における行動の仕方にも、
影響を少なからず及ぼしている、
と言われています。

男性ホルモンは男性の攻撃的な言動と、
関連があるとする報告があります。
こうしたネガティブな面がある一方で、
プライド(自尊心)や向上心にも、
影響を及ぼしているという、
ややポジティブな側面もあります。

誰も見ていない場所で、
目先の損得のために嘘を吐くという行為は、
プライドが低いと発生しやすいという考え方があります。

それが事実であるとすると、
男性ホルモンであるテストステロンの使用により、
男性は嘘を吐かなくなるのではないでしょうか?

この仮説を大真面目に検証しているのが今回の研究です。

対象は平均年齢24歳の健康な男性91名で、
試験の実行者にも本人にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方は試験の前日に男性ホルモンのゲルを皮膚に塗り
(テストステロン50㎎相当)、
もう一方は偽薬を同じように塗って、
その翌日に心理テストのような試験を行います。
外用剤の効果は21から24時間は持続すると想定されています。
検査が終了してから血液検査を行い、
テストステロンの外用剤が有効であったかを確認します。

心理テストの項目の中に、
サイコロを振ってその目を申告すると、
その目の数に従って報酬が支払われる、
というものがあります。

これが誰も見ていないので、
実際にはサイコロの目は違っていても、
高い報酬の数字を申告すれば、
要するに嘘を吐けば、
報酬は高く支払われるということになるのです。

その試験の結果を解析すると、
最も報酬の高い目の申告された頻度は、
実際に想定される確率分布より遥かに高かったのですが、
偽薬より男性ホルモン使用群で、
その頻度は有意に低くなっていました。

つまり、嘘を吐いて報酬を高く受け取った人は、
偽薬より男性ホルモン使用者で少なかったということになります。

検査法も厳密で結果も比較的クリアなものなのですが、
健康な若者の男性ホルモンの濃度を、
少し上昇させただけで嘘を吐かなくなる、
というのは如何にも不自然で、
何か別個の要因があったのではないか、
とどうしても考えたくなります。

ただ、はっきり嘘とも断定は出来ません。

これが事実なら男性ホルモンが低下する高齢男性は、
全て嘘吐きということになりますが、
「うーん。ひょっとしたらそうかもね…」
などと思えてしまうところが、
なかなかしたたかな結果だとも思うのです。

今日は男性ホルモンを使用すると、
たちどころに嘘を吐かなくなるという、
ゆるい論文についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

妊娠中の遊離甲状腺ホルモン濃度の信頼性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中のT4濃度の測定の不正確さ.jpg
2009年のAmerican Journal of Obestetrics&Gynecology誌に掲載された、
妊娠中の甲状腺ホルモン測定検査の信頼性を検証した論文です。

これは先日ご紹介した、
2017年版の妊娠中と授乳期の甲状腺疾患のアメリカのガイドラインに、
引用されていた文献で、
ちょっと興味を持って読んでみました。

妊娠中の甲状腺機能の判定には、
通常はTSH(甲状腺刺激ホルモン)と、
遊離T4という甲状腺ホルモンの測定値を用いています。

甲状腺ホルモンにはT3とT4とがありますが、
それぞれがTBG(甲状腺ホルモン結合グロブリン)などの、
結合タンパクにくっついた形でその多くが血液中に存在しています。

T4の場合、総T4の99.9%以上は、
結合タンパクにくっついた形で存在していて、
タンパクから離れて存在している遊離ホルモンは、
全体の0.02から0.03%に過ぎません。

しかし、実際にホルモンとして働いているのは、
実はこのごくわずかな遊離ホルモンなのです。

今は酵素免疫法などの間接的な方法によって、
この遊離ホルモンの数値を測定しています。

しかし、昔はそうした方法がなかったので、
総T4の濃度と、
TBGのうちでどれだけがホルモンと結合していないか、
という比率を測定して、
そこから遊離T4インデックスという数値を計算して使用していました。

総T4の濃度はTBGの影響を受けるので、
TBGが増加すると、
遊離T4は増加していなくても、
総T4濃度は増加します。

これが如実に現れるのが妊娠中で、
妊娠により血液中のタンパクは全て増加しますから、
見かけ上総T4は妊娠中は高い値を取ります。

これを甲状腺機能亢進症と誤解しては判断を誤るので、
妊娠中の甲状腺ホルモンの測定は、
TBGの影響を受けない遊離T4が適切だと考えられたのです。

面倒な遊離T4インデックスを計算するようなことは、
医者は誰もやらなくなりました。

ところが…

このTBGの変動に関わらず、
甲状腺機能を正確に判定すると考えられていた遊離ホルモンの測定系が、
妊娠中には低く測定され過ぎるのではないか、
という疑問の声が最近寄せられるようになりました。

実際、特に妊娠の中期から後期において、
TSHは正常であるのに、
遊離T4の値が異常低値になる、
というような報告が多かったのです。

そこで今回の検証では、
134名の妊娠された女性と、
コントロールとして107名の妊娠はしていない女性で、
血液中のTSHと遊離T4の2種類の免疫法による測定値、
総T4濃度とTBGからホルモンのタンパク結合率を割り出し、
そこから計算した遊離T4インデックスとの関係を、
妊娠の時期毎に検証しています。

その結果、
TSHは妊娠初期にやや低下して、
それから妊娠中期から後期においては、
非妊娠時と違いのないレベルで推移します。

総T4濃度はTBGが妊娠で増加するので当然のことですが、
妊娠中には概ね1.2から1.3倍程度に上昇します。
タンパクとのホルモンの結合率は、
非妊娠時が1.1程度で、
妊娠初期には1.2程度、
妊娠中期から後期には1.4倍程度に増加します。
ここから遊離T4インデックスを計算すると、
その数値は妊娠初期に増加して、
妊娠中期から後期には非妊娠時の水準にほぼ戻ります。

しかし、2種類の方法で測定された、
現在一般的に使用されている遊離T4濃度の測定値は、
非妊娠時より妊娠中を通して低値となり、
特に妊娠中期から後期にかけて有意に低下していました。

要するに、
TSHと相関した変動をしているのは、
昔の方法で産出された遊離T4インデックスの方で、
全ての専門の先生が今推奨している、
遊離T4濃度は、
理屈に合わない低値を示している、
ということになります。

僕が以前師事していた甲状腺を研究されていた先生は、
当時から「遊離T4の測定は当てにならない」と言われていて、
TBGと総T4濃度を測定していました。
そうした意見に賛同される方は当時から少なく、
今も少ないのですが、
僕は個人的には先生の意見が正しくて、
遊離ホルモンの測定というのは、
不安定で不正確なことが実際には多いのではないかと、
これは一貫してそう思っています。

総ホルモンの0.02%しか遊離ホルモンではなく、
機能しているのは遊離ホルモンだ、
それを直接測るのだから一番正確なのだ、
と言われると、
そりゃもっともだ、と多くの方は思います。

ただ、遊離ホルモンを直接測ると言っても、
実際にはマーキングした抗体をくっつけて引き算をしたりして、
結構複雑な操作をして測定を行っているのです。
それで、0.02%しかない遊離ホルモンを、
本当に正確に測定しているのでしょうか?

遊離テストステロンの測定法というのも、
日本以外ではあまり使用されず、
今では総テストステロンの方が、
安定した指標として海外では使用されています。

確かに遊離ホルモンを「正確に」「安定して」測定が可能であれば、
その方がより適切な指標であることは間違いがありません。
しかし、往々にして、
総ホルモンの測定系は安定していても、
そのうちの一部がタンパクから解離して遊離ホルモンになるので、
遊離ホルモンは微量な上に変動しやすく、
その測定は不安定なものになりやすいのです。

LDLコレステロールの測定系やHbA1cの測定でもそうですが、
日本の臨床の研究者は、
どうも新しい検査法や「直接測定」「遊離なんチャラの測定」と言った言葉に弱く、
臨床検査的な知識がそれほどないのに、
新しい検査の精度のデータを、
メーカーの宣伝の通りと鵜呑みにしてしまう傾向があるように、
個人的には思います。

甲状腺機能については、
現状TSHの測定が一番信頼性が高く、
そこを最初の指標として、
他の数値がそれに見合うものかを見る必要があると思います。
そこで総T4とTBGを測定して、
それが通常どの程度妊娠中に変動するものかを知っていれば、
別に遊離T4を測定する必要性は、
それほど高くはないのです。

特に妊娠中においては、
遊離T4の測定はあまり当てになるものではない、
という認識を持つことが、
重要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


亜鉛ドロップの風邪治療効果(風邪予防のエビデンス③) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

サーバーのメンテナンスのため、
今日は遅い更新になりました。

それでは今日の話題です。

今日は風邪予防のシリーズの3回目です。
今回は亜鉛製剤の風邪への効果を検証します。

亜鉛は身体に必要不可欠な微量元素で、
貝類などに多く含まれ、
その欠乏は湿疹や口内炎、
味覚障害などの原因となります。
そして、体内において酵素活性など多くの代謝経路において、
必要な物質であると考えられています。

この亜鉛が風邪の治療に効果があると考えられたのは、
まず亜鉛の欠乏により感染症が起こりやすくなる、
という知見によっています。

それから1974年に亜鉛が風邪の原因ウイルスの代表である、
ライノウイルスの増殖(複製)を抑制する、
という基礎実験の知見があり、
それから亜鉛が細胞膜の毒素などによる障害を、
予防する働きがあるという、
これも基礎実験のデータが1983年に発表されています。

こうした知見からは、
風邪の治療として亜鉛を用いることにより、
有効性があるのではないか、
という仮説が導かれます。

そして、その効果を検証するために、
介入試験を含む多くの臨床試験が行われました。

当初使用されたのは点鼻のスプレーで、
これは鼻の粘膜に付着したウイルスの、
増殖を抑える効果が期待されました。
ただ、スプレーの効果は不安定で、
明確な治療効果は殆ど確認されませんでした。

そこで次に用量は様々な亜鉛の飲み薬が、
風邪の治療薬として試みられました。

こちらをご覧下さい。
亜鉛の風邪治療効果.jpg
2000年のJ Nutr.誌に掲載された、
亜鉛を風邪の治療に使用した介入試験と呼ばれる臨床試験を、
まとめて解析したメタ解析の論文です。

10の介入試験が対象となり、
そのうちの2つは点鼻のスプレーなので除外されています。
残りの8つの介入試験の結果をまとめて解析したところ、
風邪症状が1週間を超えて継続するリスクは、
亜鉛の使用により48%低下する傾向を示しましたが、
統計的に有意ではありませんでした。
(95%CI; 0.25から1.2)

このように明確に亜鉛の使用で風邪症状が改善する、
という根拠は現状ではありません。

ただ、論文によっては、
亜鉛ドロップ(亜鉛を1錠に13から23㎎含有)を、
風邪症状出現時に2時間毎に使用したところ、
症状の持続期間が、
1.3から6.9日短縮した、
というような結果も報告はされています。
通常1日の亜鉛の摂取は10㎎もあれば充分ですから、
これはかなり過剰な使用と言うことが出来ます。

また亜鉛ドロップに含まれている、
ソルビトールやマンニトールなどの糖質により、
亜鉛の吸収が阻害されて有効ではない、
というような指摘もあります。

亜鉛はビタミンCとは対照的に、
治療の研究は沢山あっても、
風邪予防の研究はありません。

従って、予防効果は未知数で、
治療効果については一定の有効性は否定は出来ないけれど、
証明されたものとは言えない、
というくらいの理解が妥当なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

乳酸菌製剤の風邪予防効果(風邪予防のエビデンス②) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日は風邪予防の根拠を考えるシリーズの2回目でです。

今回はプロバイオティクスの効果を考えます。

最近腸内細菌叢が多くの病気に結び付いている、
という知見があり、
風邪予防についても多くの研究結果が報告されています。

その中にはヨーグルトを使用したようなものもあり、
また個別の乳酸菌を薬のようにして摂取する、
というタイプのものもあります。

その効果の検証として、
現時点で最も信頼性が高いのは、
コクラン・レビューの論文で、
その2015年版がこちらです。
プロバイオティクスの効果.jpg
これはこれまでのプロバイオティクス(その内容は問わない)の、
急性下気道感染症の予防効果についての介入試験の結果をまとめて解析したものです。

急性下気道感染というのは、
こじらせた風邪と言うニュアンスで、
上気道炎から、
気管支炎や肺炎などの状態に移行したものです。
元はウイルス感染であっても、
気道の細菌感染を併発することもあり、
その場合には抗生物質の適応となります。

12の介入試験の3720名のデータを解析した結果として、
偽薬と比較したプロバイオティクスの効果は、
1回以上の急性下気道感染症を来すリスクを、
47%有意に低下させていました。
(95%CI; 0.37から0.76)

また急性下気道感染症の持続期間についても、
1.89日有意に短縮させていて、
抗生物質を使用する頻度も、
35%有意に低下させていました。

ただ、実際の下気道感染症の頻度で見ると、
偽薬との間には有意差はありませんでした。

個別な腸内細菌の知見としては、
まずビフィズス菌(Bifidobacterium)があります。

実験的にはインフルエンザを感染させたネズミにおいて、
ビフィズス菌の1種であるBifidobacterium longumは、
臨床症状を改善させ、死亡リスクを減らし、
下気道の炎症を抑制する効果を示しています。

そのため、多くの食品メーカーがこの乳酸菌を含む商品を開発販売していて、
それにタイアップしたような臨床研究も多く発表されています。
ただ、その多くは実際には企業からお金をもらって行われた、
一種の宣伝研究なので、
その結果については慎重に考える必要があると思います。

日本では食品メーカーのサポートの元に、
こうした研究が盛んに行われていて、
この方面のレビューを見ると、
肯定的な評価の論文の多くは、
日本の研究者によるものです。

Lactobacillus acidophilusはL-92乳酸菌とも言われていますが、
ナチュラルキラー細胞の活性を高めることにより、
インフルエンザ感染をネズミの実験で予防した、
というデータが報告されています。
この乳酸菌は抗アレルギー作用があるとして、
肌荒れ防止などの効果を謳って商品として販売されています。

Lactobacillus brevisという乳酸菌はラブレ菌と呼ばれ、
これもKB-29乳酸菌として販売されていますが、
小学生に継続的に使用したところ、
インフルエンザの感染が予防されたという、
これも日本発のデータが報告されています。

その一方で乳酸菌の高齢者予防効果を検証して、
無効であるという結果も発表されています。
こちらです。
シロタ株の高齢者風邪予防効果.jpg
2012年のAm J Clin Nutr誌に掲載された論文ですが、
偽薬を使用した二重盲検法という非常に厳密な方法で、
乳酸菌のシロタ株、つまりヤクルト菌の、
施設入所の高齢者における気道感染予防効果を見たもので、
乳酸菌を使用しても、
感染症の予防には効果はなかった、という結果になっています。

乳酸菌とインフルエンザワクチンとの関連は興味深く、
ワクチンが未接種である方が、
乳酸菌の感染予防効果が高かった、
という報告がある一方で、
ワクチンによる免疫反応や効果を増強した、
というような報告もあります。

このように、乳酸菌製剤には、
それを継続的に使用することにより、
一定の風邪予防効果がありそうなのですが、
その効果は成人よりむしろ小児で高いものの可能性が高く、
どの乳酸菌がより有益であるか、
というような点については比較したような試験は殆どなく、
風邪になってからの予後改善については、
あまり効果は望めないと考えた方が良いようです。

今日は乳酸菌製剤の風邪予防効果を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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ドント・ブリーズ [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ドント/ブリーズ.jpg
昨年のアメリカホラー映画、
「ドント・ブリーズ」を観て来ました。

この作品は「死霊のはらわた」で有名なサム・ライミが制作を務め、
リメイク版の「死霊のはらわた」のフェデ・アルバレス監督が、
監督を務めた作品で、
サム・ライミ印のホラー映画と言って良いと思います。

内容はトビー・フーパーの傑作ホラー
「悪魔のいけにえ」に良く似ていて、
頭のいかれた殺人鬼オヤジに、
3人の若者がさんざん酷い目に遭う話です。

血まみれの女性が家の外に出ると、
朝になっているところなど、
そっくりの場面もあり、
かなり意識して作られた作品であることが分かります。

黒沢清監督の「クリーピー」も、
「悪魔のいけにえ」を意識した作品でしたが、
その青を基調とした画面の色合いや、
秘密の地下室のヴィジュアルなど、
かなりこの作品とも似た部分がありました。

ただ、「クリーピー」は単純なホラーではありませんが、
この作品はそれ以外の要素は微塵もない、
純粋なホラーであり、サスペンス・スリラーで、
上映時間も88分と心地良い短さです。

3人のおバカな若者が、
1人の父親が警備会社を経営しているところから、
警備している家の合鍵を頂いて、
それで家に侵入して泥棒を働く、
という身もふたもないような悪事に手を染めています。

色々あって、最後の仕事にしょうとして選んだのが、
ある盲目の退役軍人が1人暮らしをしている家で、
相手は盲目なので楽勝と思って、
家にいるのを知りながら深夜に忍び込むと、
実はその盲人こそ、
頭のいかれた怪物オヤジだった、
ということが分かり、
閉じ込められた3人と、
殺人オヤジとの闘いが始まる、
という物語です。

家は広くはない寂れた一軒家で、
登場人物も4人だけ、時間は夜中で画面も暗いだけ、
ということになると、
幾ら上映時間は短いとは言っても、
それだけで観客を怖がらせるのは、
そう簡単ではないように思います。

ところが、
それが意外に面白くてスリリングで、
時々はドキリともしますし、
物語にも結構変化がついているのですから、
ライミ印はなかなか侮れません。

怪物の方が盲目、という趣向が、
意外にも上手く作用していて、
気が付かれないように、
同じ部屋で息をひそめる場面などがスリリングです。
観客が固唾を飲んで見守る、
というような瞬間が何度もあって、
劇場が全くの静寂になる、
というのが効果としても斬新でした。

物語もかなり練り上げられていて、
細部にも工夫があります。
醜悪の極みのような場面もありますし、
意外な展開もあり、
完全に明かりが消えると暗視カメラのような画像になったり、
外に出た瞬間の朝日の高揚感など、
色彩も工夫をされています。

何も超自然的なことなどは出さずに、
ただの一軒家の追いかけっこでこれだけ盛り上げるのですから、
凡手ではないと思いました。

そんな訳でこうしたB級映画が僕は大好きなので、
地味なホラーをシネスコの大スクリーンで観られて、
幸せを感じました。

趣味は良くないので、
お上品な方にはお勧めは出来ませんが、
意外に拾い物で楽しい鑑賞になりました。

悪くないですよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ファンタスティック・ビースト.jpg
ハリー・ポッターの新シリーズが、
原作者のローリングが制作にも関わり、
台本も担当するという新しい形で始まりました。

その第1作がこの作品で、
ハリー・ポッターシリーズより2世代くらい前、
1920年代のニューヨークが舞台となっています。
それが数作で元のハリー・ポッターの前日談に移行するという、
スター・ウォーズのような仕掛けになることが想定されます。

禁酒法の時代には魔術も迫害をされていた、
という趣向になっていて、
そこにエディ・レッドメイン演じる、
魔法動物研究家の青年が現れます。

僕はハリー・ポッターシリーズは、
原作は3作目までは読み、
映画も映画館で観たのは2作目までなので、
あまりシリーズのファンという訳ではありません。

でも、この作品はとても楽しめました。

1920年代のニューヨークがそれらしく綺麗に描かれていて、
そこでの魔法合戦というのは、
現代を舞台にするより遥かにしっくりと来る感じです。

ストーリーラインは、
ああいつものこの感じなのね、
というようなものですが、
それでも期待は決して裏切ってはおらず、
133分がたっぷり贅沢に楽しめます。

特にオープニングで、
魔法新聞の見出しをダダッと並べて、
時代背景を語り、
そこから主要人物を、
あっと言う間に巧みに紹介しながら本編になだれ込む、
という冒頭が鮮やかです。
路上から銀行、魔法省と目まぐるしく舞台は変わり、
それぞれのビジュアルが非常に丹念で綺麗です。
この辺りの語り口には非常に感心しました。

本題に入ると、
今度は沢山の魔法動物が登場するのですが、
博物学の教科書の細密画のように、
次々と登場する架空の動物達が、
とても楽しくかつ見事なまでに美しく、
想像していたより、
沢山の種類が登場するのも贅沢に感じます。

そしてラストには「禁断の惑星」のイドの怪物、
みたいなものが登場するのですが、
そのビジュアルもあまり従来にないような、
工夫が凝らされていました。

エディ・レッドメインはもちろんのこと、
魔法省の大物を演じたコリン・ファレルが、
如何にもの曲者ぶりで良いですし、
意外に泣ける大人の恋を演じた、
ダン・フォグラーも良い味を出していました。

シリーズで時代が過去に戻るのは、
スター・ウォーズのようですが、
あちらより遥かに堅牢な世界観を持っていて、
「ローグ・ワン」というような珍品よりも、
個人的には遥かに和み楽しめましたし、
ハリウッド映画にありがちな、
政治的な裏のある嫌らしい感じなどが、
あまりないことも好印象でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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ビタミンCの風邪予防効果(風邪予防のエビデンス①) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
風邪の予防のエビデンス.jpg
今年のJournal of Evidence-Based Complementary & Alternative Medicine誌に掲載された、
風邪の予防に使用されるサプリメントなどの効果を、
まとめて解析した総説の論文です。

やや代替医療やサプリメントに傾斜した内容なのですが、
文献の引用やまとめなどは、
しっかりされていると思います。

ここから、
数回に分けて風邪予防のエビデンスを考えます。

今日はよく議論になるビタミンCについての風邪予防効果です。

ビタミンCが風邪予防に効果的だというのは、
理論物理学者で分子生物学者のノーベル賞受賞者ポーリング博士が、
1970年代に広めたものです。
その代表的な文献の1つがこちらです。
ポーリング博士のビタミンC.jpg
1971年のProc. Nat. Acad. Sci. USA誌の論文ですが、
それまでの4つの偽薬を使用した介入試験の結果をまとめ、
ビタミンCが風邪に無効という命題が、
統計的に否定されるという手法で、
その効果を証明したものです。

ビタミンCの効果については、
1日1000㎎の継続的な使用により、
風邪の発症は45%予防され、
その罹患率は63%低下したとされています。

この時点での科学的な検証としては、
これは決しておかしなものではないのですが、
引用されている介入試験は、
プロのスキーヤーを対象としたもの以外は、
例数も少なく、
内容も不充分であったことは確かです。

その後多くの介入試験がより大規模に行われました。

それをまとめて検証したのがコクランレビューで、
2013年にアップデートされたものがよく引用されています。

それによると、
1日200㎎以上のビタミンCを継続的に使用することにより、
偽薬と比較して、
風邪の罹患率は3%低下する傾向を示しました。
(95%CI; 0.94から1.00)
これは要するにほぼ効果はないという結果です。
ただ、マラソンランナーやスキーヤーなどを対象としたデータに限ると、
風邪の罹患率は52%有意に低下していました。
(95%Ci; 0.35から0.64)
つまり、こうした対象群にはかなりの有効性がある、
ということが分かります。

またビタミンCの常時摂取により、
風邪の症状の持続期間は成人では8%短縮し
(95%CI;0.88から0.97)、
小児では14%有意に短縮しています。
(95%CI;0.79から0.93)
特に小児で1日1000㎎から2000㎎という大量を摂取したケースでは、
その持続期間は18%の短縮を認め、
重症度も低下しています。
(95%Ci; 0.70から0.93)

ただ、風邪になってからの治療目的での使用については、
はっきり有効という結果になってはいません。
中には1日4000㎎の使用と比較して、
8000㎎の使用で風邪の期間と重症度が有意に短縮した、
というような報告もあるのですが、
量も大量でかなり特殊な結果です。

ただ、短期効果を期待するには、
かなり大量を使用しないと意味がない、
ということはあるのかも知れません。

ではこちらをご覧下さい。
風邪予防の指針.jpg
最初の文献に引用されている、
2011年の風邪予防のレビューです。

これは2011年のコクランレビューを主なネタ元にしているのですが、
基本的には2013年のものと違いはありません。
若干数字が変わっていますが、
結論は同じです。

子供の風邪罹病期間短縮効果は、
平均の風邪症状が7から10日持続するとすると、
それを1.5から2日短縮する効果があるとしています。

仮にビタミンCに風邪予防効果があるとして、
そのメカニズムはどうなのか、
ということになりますが、
これまでの知見で言われていることは、
ビタミンCの持つ抗酸化作用が、
免疫の活性化に繋がっているのではないか、
と言う点と、
好中球や単球といった白血球の、
機能を高めるのではないか、
と言う点が報告はされています。

以上をまとめると、
ビタミンCによる風邪の予防効果とされるものは、
少なくとも最初にポーリング博士が言われていたほどには、
効果のないことは確かですが、
かと言って、
一部の方が声高に言われているように、
「全く役に立たない」
というのも言い過ぎという気がします。

治療効果としては、
あまり有効でないことは間違いがありませんが、
継続的にビタミンCを摂ることにより、
風邪に少しかかりにくくなり、
かかっても軽く済む、
という点には一定の期待が持てます。
この場合の使用量は、
200㎎以下では意味がなく、
概ね1000㎎の摂取が妥当と考えられます。

安全に使用が継続出来るビタミンCの量がどのくらいかというのは、
これも明確な結論が出ていませんが、
確実に悪いとされるのは10000㎎以上ですから、
かなりの安全域があることは事実です。
ただ、なりやすい体質の人は尿路結石になったり、
下痢をしたりすることはありますから、
このくらいが妥当ではないかと思います。

その使用効果は特に小児と、
カナダのウインタースポーツをされている方で、
高いという報告があるのですが、
それが明確に意味のあることかどうかは、
何とも言えません。
スポーツや軍隊など、
心身のストレスに強くさらされている状況では、
より抗酸化物質の必要性が高まる、
という推測は可能ですが、
それが証明されている訳ではありません。

毎日の摂取にメリットがあるかどうかも微妙ですが、
寒い時期で風邪を引きたくないと思われる方は、
そうした時期のみビタミンCを継続することは、
悪くない判断のように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「恋愛をするとボケない」のエビデンス [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
恋愛で神経成長因子が増加する.jpg
2006年のPsychoneuroendocrinology誌に掲載された、
脳神経の再生を促す物質が、
恋愛の初期には沢山分泌されるという、
「ほんまかしら…」という感じの論文です。

内容的には面白いのですが、
なるほど、と思う反面、でもなあ…という側面もあり、
Medline などで検索しても、
その後目立った追試のようなものはないようです。

従って、「ゆるい論文」というカテゴリーにさせて頂きました。

事実としてではなく、
雑談のネタ程度に思って頂ければと思います。

昔は脳神経の細胞は、
再生はしないで減少するだけ、
というように考えられて来ました。

しかし、現在では一定の条件があれば、
脳神経細胞も再生したり、
それまでにない神経ネットワークが作られたりすることが、
大人になってからもあると考えられています。
中でも間違いのないのが、
認知症で減少することが知られている、
海馬の神経細胞の再生です。

こうした一旦障害を受けたり減少した神経細胞が、
再生したり分化する時に必要な物質が、
神経栄養因子(neutrophins)です。

この神経栄養因子のうちの1つが、
神経成長因子(NGF)と呼ばれている蛋白質で、
神経細胞や免疫細胞などで産生分泌され、
神経細胞や神経ネットワークの再生や分化に携わります。

このNGFは情動に関わる神経の興奮にも関連があり、
アルツハイマー型認知症ではその分泌が早期に減少しますし、
うつ病でも減少します。
その一方で強迫性障害や全般性不安障害では、
NGFの濃度は血液中でも増加することが複数報告されています。

それでは、恋愛はNGFにどのような影響を与えるのでしょうか?

それを大真面目に研究したのが上記の論文です。

イタリアにおいて、
情熱的な恋に堕ちたばかり、
という若い男女(平均年齢24.4歳で19から31歳まで)を募集し、
恋に堕ちて半年以内という条件で、
恋愛スケールのようなもので、
その熱愛レベルを数値化します。

それを同年齢で恋などしていない、
という寂しい人達をコントロールにして、
両群で各種の神経栄養因子を血液で計測、
その違いを比較しています。

更には最初の調査から1年から2年後に、
同じ対象群に同様の調査と血液検査を行います。

恋愛群とコントロール群は、
共に58名が登録され、
恋愛群のうちの39例では、
1から2年後の再検査も行われています。

その結果…

神経栄養因子の中でNGFのみが、
恋愛群ではコントロール群より有意に増加していました。
そして、熱愛のスコアの数値と、
NGFの血液濃度も有意な相関を示しました。
つまり、熱愛度が高いほど、
熱烈な恋愛ほどNGFは上昇していた、
という結果です。

更に同じパートナーとその後1年以上過ごしている時点で、
同じ検証を行うと、
当然ですが熱愛のスコアは以前より低下していて、
それに伴ってNGF濃度も、
コントロール群と同じレベルまで低下が認められました。

つまり、
NGFは恋愛の初期の「くるったような」状態では、
明確な増加を示していましたが、
恋愛も安定期に入ると、
その増加は認められなくなったのです。

NGFが強迫性障害の時に増加する、
という現象から考えて、
恋愛もある種の強迫であって、
その時に脳で起こっていることは、
それほど違わない、と考えると、
なるほどと思えなくもない結果です。

ただし…

NGFは精神的に不安定な状態や変動のある状態では、
結構変動することが知られていますから、
単純にそうしたことを示しているだけで、
「恋愛すると認知症が予防出来る」
というのはちょっと飛躍があるようにも思います。
また、これはそもそも持続する反応ではないので、
それが脳に及ぼす影響も、
また一時的なものであるようにも思います。

そもそも恋愛というのはかなり主観的な現象ですから、
この結果をもって恋愛と神経成長因子との関連を論じるのも、
かなり無理があるようにも思い、
そんな訳でこうした研究は、
何処か香ばしく、ゆるいものになっているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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