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ACE阻害剤は心不全のない虚血性心疾患に有効なのか?(2017年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ACE阻害剤と虚血性心疾患.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
心不全のない狭心症や心筋梗塞の患者さんに対する、
レニン・アンジオテンシン系の阻害剤の有効性についての論文です。

レニン・アンジオテンシン系の阻害剤は、
ACE阻害剤とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)がその代表で、
血圧と身体の塩分を保持するシステムである、
レニン・アンジオテンシン系を抑制することにより、
血圧の降下に加えて、
心臓や腎臓などの臓器保護や病気の進行予防に、
有用な薬剤であると考えられています。

2000年にHOPE研究という大規模臨床試験の結果が発表されました。
ここでは、心不全がなく心血管疾患のリスクの高い、
安定した虚血性心疾患の患者さんに対して、
日本未発売のACE阻害剤であるラミプリルを使用したところ、
偽薬と比較して心血管疾患の予後が有意に改善した、
という内容になっています。
その3年後に発表されたEUROPAという大規模臨床試験では、
同じく心不全のない安定した虚血性心疾患の患者さんにおいて、
ペリントプリル(商品名コバシルなど)を使用したところ、
心血管疾患の予後が改善し、
観察期間中の心筋梗塞の発症が22%、
有意に抑制された、
という結果になっています。

こうしたレニン・アンジオテンシン系阻害剤の、
安定期虚血性心疾患における心血管疾患の予後改善作用は、
血圧の低下とは独立して生じている、
というように説明がされています。

ところが…

上記以外の同じ規模の臨床試験においては、
レニン・アンジオテンシン系阻害剤の、
こうした上乗せの効果は確認をされていません。
CAMELOT試験という大規模臨床試験では、
正常血圧の虚血性心疾患の患者さんに、
カルシウム拮抗剤であるアムロジピンを上乗せすると、
心血管疾患のリスクが低下しましたが、
ACE阻害剤のエナラプリルでは、
そうした効果は確認されませんでした。
他にもこうした患者さんに対するACE阻害剤の使用が、
偽薬と比較して有効性を示さなかった、
という研究結果が複数報告されています。

そこで今回の研究では、
これまでの臨床データをまとめて解析する手法で、
この問題の検証を行っています。

対象は心不全のない安定した虚血性心疾患の患者さんで、
レニン・アンジオテンシン系阻害剤を使用して、
未使用と比較した介入試験の結果をまとめて解析しています。

この場合の心不全がない、というのは、
左室機能の指標である駆出率という数値が40%以上で、
息切れなどの心不全症状がないことを示しています。
レニン・アンジオテンシン系の薬剤の多くは、
ACE阻害剤が使用されています。

24の精度の高い臨床試験の、
年換算で198275名の患者さんのデータを解析した結果として、
トータルで見ると、
レニン・アンジオテンシン系阻害剤の使用により、
総死亡のリスクを16%(95%CI;0.72から0.98)、
心血管疾患による死亡のリスクを26%(95%Ci:0.59から0.94)、
心筋梗塞のリスクを18%(95%CI:0.76から0.88)、
脳卒中のリスクを21%(95%CI:0.70から0.89)、
それぞれ有意に低下が認められました。
しかし、これを偽薬との比較ではなく、
カルシウム拮抗剤のような血圧降下剤との比較でみると、
統計的にすべて有意ではなくなっていました。

これはつまり、
効果がレニン・アンジオテンシン系の阻害に特異的なものではなく、
血圧が低下したことによる二次的なものの可能性が高い、
ということを示唆しています。

次に偽薬との試験のみで検討すると、
レニン・アンジオテンシン系阻害薬の付加的な効果は、
年間1000人当たり14.10人以上が死亡していたり、
7.65人以上の心血管疾患による死亡が出ているような、
予後の悪い集団においてのみ、
認められるという結果が得られました。

つまり、レニン・アンジオテンシン系阻害剤、
特にACE阻害剤が心不全の治療に有用であることは、
間違いのない事実ですが、
心機能が保たれている安定した虚血性心疾患の患者さんにおいて、
他の治療に加えてこうした薬を上乗せして使用する効果は、
全ての患者さんで認められる、
という性質のものではなく、
その一部は血圧の低下に伴うものの可能性もあり、
また心不全に近い状態で予後の悪い患者さんにのみ、
効果がある、という可能性もあります。

今後、どのような患者さんに対して、
心不全のない虚血性心疾患におけるACE阻害剤は必要性が高いのか、
より絞り込んだ検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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