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橋本病における妊娠中甲状腺反応 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中の甲状腺反応.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
橋本病の患者さんの妊娠中の甲状腺機能についての論文です。

橋本病は慢性甲状腺炎とも呼ばれ、
抗ペルオキシダーゼ抗体などの、
甲状腺に対する自己抗体のために、
甲状腺に慢性の炎症が起こり、
進行すれば甲状腺の機能低下に至ることがあります。

通常軽症の機能低下であれば治療はせず、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値が、
10を超えるくらいから、
甲状腺ホルモンの補充療法を開始するのが、
通常の治療方針です。

ただ、その例外になっているのが妊娠中です。
妊娠中の女性ではTSHが2.5を超えないように、
甲状腺機能を調節することが流早産の予防には必要と考えられ、
日本とアメリカのガイドラインにおいては、
甲状腺ホルモン剤(T4製剤)の使用が推奨されています。

それでは、
何故橋本病では流早産が多く、
それが甲状腺ホルモン剤により予防されるのでしょうか?

妊娠の早期には、
胎盤からhCG(ヒト絨毛ゴナドトロピン)というホルモンが分泌され、
それがTSH様作用を持っているため、
一時的に甲状腺ホルモンが増加します。
妊娠中期には甲状腺機能は正常化します。

この一時的な甲状腺ホルモンの増加が、
妊娠中の胎児の必要量に合致していて、
胎児の正常な発育に必要であると考えられます。

それでは、
橋本病による自己抗体が存在していると、
hCGによる甲状腺の反応に違いがあるのではないでしょうか?

その仮説のもとに今回の研究では、
2つのオランダでの妊娠中の疫学データを活用して、
甲状腺機能と甲状腺の自己抗体、
そして血液のhCGレベルを測定し、
hCGによる甲状腺の反応が、
橋本病の有無により異なるかどうかを検証しています。
対象となった女性はトータルで7587名です。

その結果、
抗ペルオキシダーゼ抗体陰性の女性では、
hCGレベルの増加に伴って、
血液の遊離T4濃度は増加し、
TSHは低下します。

その一方で、
抗ペルオキシダーゼ抗体陽性の女性では、
hCGと遊離T4、そしてTSH値との間には、
有意な相関関係は認められませんでした。

抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性の女性は、
陰性と比較して流早産のリスクが1.7倍有意に高くなっていました。
そして、全体の平均よりhCGによる遊離T4の増加が多かったグループでは、
抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性であっても、
流早産リスクの増加が認められなかったのに対して、
平均よりhCGによる甲状腺の反応が悪いグループでは、
流早産のリスクはより高く、
2.2から2.8倍とより高値となっていました。

ちょっと検証は厳密性に欠ける部分があるのですが、
つまりはこういうことです。

橋本病による自己抗体が存在している女性では、
妊娠初期のhCGによる甲状腺の刺激への反応が悪く、
甲状腺ホルモンが増加しないので、
そのために流早産のリスクが増加している、
という可能性が示唆されたのです。
仮にこれが事実であるとすれば、
橋本病の患者さんに対して妊娠中に甲状腺ホルモンを補充することは、
そのリスクの軽減につながることも、
納得がゆくのです。

これはまだ仮説に過ぎませんが、
橋本病では甲状腺の刺激に対する反応が異なる可能性が高い、
という指摘は大変興味深く、
今後のデータの蓄積と検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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