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2016年の演劇を振り返る [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

大晦日、皆さん如何お過ごしでしょうか?

今日は今年の演劇を振り返ります。

今年は以下の公演に足を運びました。

1.秋元松代「元禄港歌ー千年の恋の森」(2015年再演版)
2.劇団鹿殺し「キルミーアゲイン」
3.東葛スポーツ「食道楽」
4.野田地図「逆鱗」
5.根本宗子「ねもしゅーのおとぎ話 ファンファーレ・サーカス」
6.星屑の会「星屑の町 完結編」
7.佐藤信「キネマと怪人」(2016年西沢栄治演出版)
8.TRASHMASTERS「「猥リ現(みだりうつつ」
9.オイスターズ「この声」
10.刈馬演劇設計社「クラッシュ・ワルツ」
11.パルビジョン「本のない書店」
12.少年王者館「思い出し未来」
13.劇団☆新感線「乱鶯(みだれうぐいす)」
14.MONO「裸に勾玉」
15.シアターシュリンプ第2回公演「ガールズビジネスサテライト」
16.マクドナー「イニシュマン島のビリー」(2016年森新太郎演出版)
17.つじたく(2016サンシャイン劇場)
18.コンボイショー「1960」
19.ハイバイ「おとこたち」
20.鴻上尚史「イントレランスの祭」
21.細川徹「あぶない刑事にヨロシク」
22.サディスティックサーカス 2016 「ギンザ大宴会」
23.月刊「根本宗子」第12号「忍者、女子高生(仮)」
24.堀内夜明けの会「なりたい自分になーれ!」
25.20歳の国「保健体育B」
26.Wけんじ企画「ザ・レジスタンス、抵抗」
27.アガリスクエンターテイメント「わが家の最終的解決」
28.唐十郎「秘密の花園」(唐組・第57回公演)
29.イキウメ「太陽」(2016年再演版)
30.鈴木おさむ「美幸ーアンコンディショナルラブ」
31.CABARET「阿部定の犬」
32.瀬戸山美咲「埓もなく汚れなく」(オフィスコットーネプロデュース)
33.地下空港「ポセイドンの牙」
34.道学先生「丸茂芸能社の落日」
35.シベリア少女鉄道「君がくれたラブストーリー」
36.別冊「根本宗子」第5号「バー公演じゃないです。」
37.北村想「ただの自転車屋」(劇団乾電池40周年記念公演)
38.ロベール・ルパージュ「887」
39.青年団「ニッポン・サポート・センター」
40.ロ字ック「荒川、神キラーチューン」
41.ナカゴー「いわば堀船」
42.松尾スズキ「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」
43.ミナモザ「彼らの敵」(2016年KAAT版)
44.ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~
45.「レディエント・バーミン Radiant Vermin」
46.「飴屋法水 本谷有希子 Sebastian Breu くるみ」
47.青年団リンク ホエイ「麦とクシャミ」
48.唐十郎「ビニールの城」(2016年金守珍演出版)
49.劇団☆新感線「ヴァン!・バン!・バーン!」
50.「娼年」(作 石田衣良 脚本・演出 三浦大輔)
51.アガリスクエンターテインメント「笑の太字」
52.三好十郎「浮標(ぶい)」(2016年長塚圭史演出版)
53.倉持裕「家族の基礎~大道寺家の人々~」
54.SPAC「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」(2016年奈良平城宮跡上演版)
55.「ディスグレイスト-恥辱」(2016年栗山民也上演版)
56.北村想「遊侠沓掛時次郎」(シスカンパニー 日本文学シアターvol.3)
57.マームとジプシー「クラゲノココロ」「モモノパノラマ」「ヒダリメノヒダ」(2016年3作品再構築上演)
58.川村毅「荒野のリア」(2016年再演版)
59.風煉ダンス「スカラベ」(2016年立川野外劇)
60.サディスティックサーカス2016
61.月刊「根本宗子」第13号「夢と希望の先」
62.竹内銃一郎「あたま山心中~散ル、散ル、満チル~」(2016年寺十吾演出版)
63.タクフェス「歌姫」
64.内藤裕敬「愛の終着駅」(友近客演)
65.唐十郎「夜壺」(唐組・第58回公演)
66.維新派「アマハラ」(奈良平城宮跡上演 最終公演)
67.劇団チョコレートケーキ「治天の君」(2016年再演版)
68.カンニング竹山「放送禁止2016」
69.長塚圭史「はたらくおとこ」(2016年再演版)
70.「メトロポリス」(串田和美演出版)
71.「遠野物語・奇ッ怪其ノ参」(脚本・演出前川知大)
72.鴻上尚史「サバイバーズ・ギルト&シェイム」
73.KARA・MAP「キネマと恋人」
74.城山羊の会「自己紹介読本」
75.月影番外地その5「どどめ雪」(福原充則)
76.三谷幸喜「エノケソ一代記」
77.ハイバイ「ワレワレのモロモロ 東京編」
78.倉持裕「磁場」(直人と倉持の会VoL.2)
79.藤田貴大「ロミオとジュリエット」(シェイクスピア原作)
以上の79本です。

それ以外に歌舞伎を今年は数本観ています。
1.歌舞伎座七月大歌舞伎(昼の部)
2.歌舞伎座八月納涼歌舞伎(2016年第二部)
3.歌舞伎座秀山祭九月大歌舞伎(2016年夜の部)

昨年より少し本数が減っているのは、
今年は映画を観る機会が増えたことと、
後半に体調不良や仕事の呼び出しなどで、
急遽キャンセルした公演が複数あったためです。

今年の私的なベスト5はこちらです。
今年は新作は昨年より充実していたと思います。
①城山羊の会「自己紹介読本」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-12-10-1
これぞ小劇場の醍醐味、という小さな傑作で、
台本、舞台装置、演出、役者と、
すべてにおいてクオリティが高く、
それでいて遊び心にも溢れています。
別役実や岩松了に近い味わいですが、
別役にはないエロスが楽しく、
岩松了ほど難解ではありません。
クライマックスにはある種のカタルシスがあって、
あの瞬間、小劇場を観続けている至福を感じました。

②KARA・MAP「キネマと恋人」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-12-04-1
これも年末に観てとても感銘を受けました。
ケラさんは、時々こうした、
誰でも楽しめる娯楽作を作るので目が離せません。
「カイロの紫のバラ」の翻案ですが、
映像などのクオリティが素晴らしく、
主役の緒川たまきさんの熱演が忘れられません。
ケラさんの夫婦愛のたまものかも知れません。

③「飴屋法水 本谷有希子 Sebastian Breu くるみ」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-08-12
ここからはちょっと迷うところですが、
本谷有希子さんの久しぶりの舞台復帰作を。
飴屋さんの嗜好が出た感じの、
いつもの「家族奉仕芝居」なのですが、
本谷さんの存在感が圧倒的で、
1人の本物の藝術家を前にした時の、
心が揺さぶられるような興奮を感じました。
ただ、演劇ととして優れている、
というのとは少し違います。

④維新派「アマハラ」(奈良平城宮跡上演 最終公演)
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-10-29
これは矢張り入れない訳にはいきません。
野外劇の雄維新派の最終公演です。
亡くなった松本雄吉さんに捧げる最終公演としては、
素晴らしい作品だったと思います。
特にオープニングの信じられないほど美しい、
実際の平城宮跡の夕景には心を奪われました。
ただ、維新派の作品として優れていたかと言うと、
そこはちょっと疑問です。

⑤「娼年」(作 石田衣良 脚本・演出 三浦大輔)
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-08-28-1
これは今年1番の問題作で、
松坂桃李さんを主役にしておきながら、
全編セックスシーンの連続、
しかも偽物とは言えザーメンが飛び、
フェラチオの効果音まで流れ、
男女ともほぼ全裸で絡み合うという、
前代未聞の怪作です。
それでいて、ストーリーは少年の成長物語という、
極めて保守的な世界です。
如何にも三浦大輔さん的世界であることは、
間違いがないのですが、
正直このキャストでこの劇場でなくても良かったのではないか、
という思いが拭い切れませんでした。
ただ、今年を代表する異常な芝居として、
5本には入れない訳にいきません。

これ以外にも、
アガリスクエンターテインメント「笑の太字」は、
「笑いの大学」を笑いのめした、
メジャーでは上演不能の快作でしたし、
月刊「根本宗子」第13号「夢と希望の先」は、
改訂版とは言え基本的には再演なので入れなかったのですが、
根本宗子ここにあり、
という彼女の特質が良く出た作品でした。
倉持裕さんの活躍も面白かったですし、
竹内銃一郎「あたま山心中~散ル、散ル、満チル~」(2016年寺十吾演出版)は、
寺十吾さんのアングラ演出と、
平岩紙さんのアングラ演技が最高でした。
そんな訳で今年は結構演劇は充実していたと思います。

最後にこれだけは言いたい、
再演での絶品です。

①長塚圭史「はたらくおとこ」(2016年再演版)
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-11-12
何度も書いていますが、
この作品は長塚圭史さんの最高傑作であると共に、
2000年代の前半を代表する小劇場演劇の至宝です。
それがほぼ同一キャストで、
ほぼそのままの演出で再演されました。
役者の演技はより円熟味を増し、
現代社会に突きつけられた刃の鋭さも、
より研ぎ澄まされていたと思います。
これはもう最高の再演でした。
大傑作!

②イキウメ「太陽」(2016年再演版)
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-05-28
これはイキウメの現時点での最高傑作と言って良い叙事詩で、
初演より磨きがかけられ、
非の打ちどころのない舞台となっていました。
かなり再演でも出来不出来の差が激しいイキウメですが、
この作品は演出の改変もピタリと嵌っていました。
伊勢佳世さんと岩本幸子さんのイキウメ最後の舞台となったことも、
忘れがたい要因です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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(付記)
コメントでご指摘を受け、
公演名の誤りを修正しました。
(2017年1月5日午後10時修正)

「この世界の片隅に」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は年末でクリニックは休診です。
神奈川県の実家に戻る予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
この世界の片隅に.jpg
こうの史代さんの漫画の原作を、
片渕須直監督が映画化し、
主役の北條すずさんの声を、
能年玲奈さん(本名表示)が演じた、
話題の映画を観てきました。

昭和19年から20年の広島と呉を主な舞台にして、
ある平凡な若い女性が、
そこでどのように生きたのかを詩的に美しく綴った物語で、
現在の視点から過去を批評したり評価したりするのではなく、
ある時代に普通に生きた人間の心に、
寄り添うような視点が非常に新鮮で魅力的です。
言うのは簡単ですが、
物語として悲劇的というレッテルの張られた過去を描けば、
どうしても上から目線の批評性は出てしまうのが常なので、
それがほぼない、
という世界が実現されているという点は、
極めて稀有なことだと思います。

これは、
ちょっと頭のネジが緩んでしまったのではないか、
と不安になるほど、
大絶賛をされる方が沢山いらっしゃるので、
褒めるのはそうした方に、
任せておけばいいのかな、
と思わなくもありません。

褒める言葉というのも、
あまりに仰々しく大袈裟になると、
読む方は何となく引いてしまうと言うか、
「たかが映画じゃん」
と敢えてそんな風にも思ってしまいます。
少しでも悪口を言ったりすれば、
後ろから弓矢でも飛んできそうな勢いです。

ただ、良いことは間違いなく良くて、
淡々としたテンポで物語は進みますし、
展開にもそれほどの意外性や突飛なところはないのに、
126分という上映時間が、
全く長いとは感じませんし、
短いとも感じません。
つまり、かなり完璧に構成されていて、
観客の生理をガッチリと掴んで離すことがありません。
普通ここはなくてもいいな、
というような場面や台詞が、
1つや2つは絶対にあるものですが、
この作品は、
ラストの表現はやや好みが分かれるところですが、
それ以外はほぼそうしたところがありません。
物語映画として、
ほぼ完璧に成立している、
というところは非常に見事だと思います。

これはほぼ原作通りの映画で、
唯一主人公が広島で出逢う娼婦との、
関係性のエピソードが、
説明として省かれているのですが、
これは全体として考えると、
ない方が全然いいので、
その取捨選択も上手くいっています。

原作は事前に読みました。

原作も確かに優れた漫画なのですが、
さりげない家庭劇としてのエピソードはとても繊細で楽しい一方、
空襲から原爆、そして終戦という、
スケール感をもって戦争を描く部分は、
ちょっと力不足の感じがあります。
主人公が絵が得意ということから、
時々絵が塗り絵のような画面に変わるのですが、
漫画だとそれが何となく手抜きのようにも感じられるところがある一方、
映画では現実の風景が主人公の絵の世界に変化する様が、
より説得力を持って美しく描かれていたと思います。

作品の一番の成功のポイントは、
何と言っても主人公のほんわかとした魅力的な性格にあります。
残酷な時代を本当に普通に素直にまっすぐに生きている姿は、
人間というものの本質的な部分、
本質的な生の美しさのようなものを、
突きつけられるような思いがします。
能年さんの声がまた確かにバッチリと嵌っていて、
オープニングの子供時代の第一声には、
「おいおい、いつもの声じゃないか」
と違和感を持つのですが、
聞いているうちにそれが画面のイメージと合致して、
溶け込んでからは、
主人公の北條すずの声そのものとしか思えなくなります。
彼女が担当した時点で、
この作品の成功が決まったことは間違いがないと思います。

原作と映画とは補完し合っていて、
活字の方言の台詞は、
映画では意味を取りにくいところもあるのですが、
原作では台詞のニュアンスが分かりにくいところもあり、
映画を観てなるほどと思うところも随所にあります。

これまでの戦争ものの漫画映画とは、
間違いなく一線を画する作品で、
どんな方にも安心してお勧め出来る傑作であることは、
間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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第16回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは年末年始の休診に入っています。
今日は事務作業と昼は往診に行きます。
夜は妻と2人で「この世界の片隅に」を、
見に行く予定です。

今日は告知です。

それがこちら。
第16回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
来年の1月21日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

テーマは今回はシンプルに「風邪の予防と治療」です。

うがい、手洗い、マスクの効果から、
体質によるかかりやすさの違い、
サプリメントや食事の効果など、
風邪の予防は健康記事の定番で、
医者と称する人たちも、
「風邪に抗生物質を使ってはダメ」など、
うるせえな、もう聞き飽きたぜ、
というような発言を、
ロボットのように繰り返しています。

これまでの情報をまとめ、
私なりに正しいと思えることを、
お話したいと思います。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
1月19日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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焼酎は水よりも血糖を下げる!? [ゆるい論文]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前中で診療は終わり、
午後は事務作業や大掃除の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
飲酒後の血糖値.jpg
今年のPeerJ誌に掲載された、
非常に不思議な雰囲気の論文です。

PeerJというのは、
比較的掲載のハードルが低い、
オープンアクセスでウェブのみの医学誌です。

そこに発表された論文の評価は、
発表されたこと自体にあるのではなく、
いわばウェブの読者がその値打ちを決める、
というタイプの雑誌です。
PLOS oneというのも同じタイプの医学メディアです。

今日ご紹介する論文は、
鹿児島大学の研究者によるものです。
鹿児島大学の医学部には心身内科学という講座があり、
二日酔い防止薬の特許を取っていたりする、
ほんのりと香しいにおいがするような教室なのですが、
そこの研究者と、
農学部の焼酎・発酵学教育研究センターの、
共同研究ということのようです。

内容はなかなかに凄いもので、
焼酎が身体に良いことを証明するために、
おそらくスタッフか学生でしょうか、
6人のボランティアに、
別々の日にビール、焼酎、日本酒、水を、
食事と一緒に飲んでもらい、
その後の血糖やインスリンの数値と、
飲酒後の睡眠時の脳波などの解析を行っています。

食事は病院食ということのようで、
お酒の量はアルコールで40グラムというのですから、
なかなかの酒量です。

ビールは1リットル、
焼酎は1.5合、日本酒も1.5合で、
それぞれ水で1リットルに薄め、
そして水も1リットルです。
これを病院食の夕食と一緒に、
午後7時からの30分で飲み干します。

こんなことをして体調を崩さないのかと不安に感じるところですが、
案の定、6人のうち1人の女性は飲み干すことが出来ずに、
リタイアしたと書かれています。
(これはパワハラではないのでしょうか?
非常に気の毒です)

その結果がまた驚くべきもので、
ただの水を飲んでも食後1時間の血糖値は、
140mg/dLに上昇しているのにも関わらず、
焼酎を飲んだ時には100mg/dLくらいしか上がっていません。
一方でビール1リットルを飲んだ後では、
血糖値は180mg/dLくらいまで上昇しています。

つまり、これを見る限り、
焼酎は糖尿病の治療薬としても有効なレベルで、
水を飲むよりも食後血糖を低下させ、
インスリン分泌も抑えています。

本当にこんなことがありうるのでしょうか?

焼酎には糖質が少ないので、
あり得ない結果ではないのですが、
だからどうなんだ、
それでトータルに健康的とか、
糖尿病を予防するとかと言って良いのか、
と突っ込みどころは色々とありそうです。

まずデザイン的に疑問なのは、
短時間で1リットルの水分やアルコール飲料を、
一気飲みするという人工的な条件です。

こうしたことをするのであれば、
まず食事とは別に空腹でアルコールや水を飲み、
その時の血糖値の推移を測定してから、
そこに食事を加えた効果を比較するべきではないでしょうか?

1日アルコール換算で25グラムを超える飲酒を継続することは、
健康に害のある可能性が高い、
というのが現在の基本認識であるかと思いますが、
40グラムという、
それを遥かに超える量のアルコールを一気に飲ませて、
それで食後血糖が低下したから焼酎は健康的だ、
というような結論は、
何処かお花畑のにおいを感じてしまいます。

ただ、読むとケトン体や乳酸なども測定をされていて、
冗談でこんな実験をしたとも考えにくいのです。

睡眠時の脳波も真面目に計測されています。
その結果は水とビールと比較して、
REM睡眠に至るまでの時間が、
日本酒と焼酎ではより短かった、
というものでした。
要するに深酒をすると眠りが浅くなっているという結果で、
こんなことをわざわざ証明するために、
ボランティアに焼酎の水割りを1リットル飲ませたのか、
と思うと、
何か頭がぼんやりとしてしまいます。

結論はなかなかに興味深いのですが、
食事内容も病院食だと言うだけで、
完全に同一とは書いてありませんし、
どのくらいの間隔でこの飲酒実験が繰り返されたのかも分かりません。
人数も5人ではちょっとな、と思います。
飲酒量はせめて健康に害がないとされる、
1日20グラム程度にとどめるのが、
倫理的には適切ではなかったかと思います。

この論文をそのまま真に受けて実行される方も、
いないとは思いますが、
内容的に焼酎の水割りを1リットル食事の度に飲めば、
糖尿病が予防出来ると読めなくもないのですから、
真面目に引用をされている医療者の方もいるのですが、
ちょっとおかしいのではないかと、
個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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心臓以外の手術前後のスタチン使用効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
手術前後のスタチンの使用効果.jpg
今月のJAMA Intern Med誌にウェブ掲載された、
コレステロール降下剤のスタチンを、
手術前後に使用して、
患者さんの生命予後が改善するかどうかを検証した論文です。

スタチンはコレステロールの合成酵素の阻害剤で、
コレステロール降下剤として広く使用されている薬です。

このスタチンには、
コレステロールの降下作用に加えて、
抗炎症作用などが別個にあるとされていて、
それが大きな手術後の、
急性腎障害や心筋梗塞、脳卒中などの発症予防に、
有用なのではないか、
という考えが以前よりありました。

ただ、これまでの臨床データは、
必ずしもその予測を証明していません。

たとえば、今年のJAMA誌に掲載された論文では、
心臓手術の前に高用量のスタチンを使用して、
その後の急性腎障害の予防効果を見たのですが、
急性腎障害の予防効果は確認されず、
事例によってはむしろ逆にリスクが増加する、
と言う結果になっていました。

ただ、これは心臓手術に限ったデータなので、
心臓以外の手術においても、
同じことが言えるとは限りません。

そこで今回の研究では、
アメリカの退役軍人の大規模な疫学データを活用して、
心臓以外の手術の前後1週間以内にスタチンを使用した患者さんを、
未使用の患者さんと比較して、
スタチンの使用と術後の生命予後との関連を検証しています。

その結果…

98486例の手術事例を解析した結果として、
術中もしくは術直後のスタチンの使用により、
術後30日間の総死亡のリスクは、
18%有意に低下していました。
(95%CI; 0.75から0.89)
術後の合併症のリスクも18%有意に低下していて、
(95%CI; 0.79から0.86)、
特に心臓関連の合併症が27%と、
最も大きな減少を示していました。
(95%CI;0.64から0.83)

このように、今回のデータにおいては、
心臓手術以外の大手術において、
手術前後のスタチンの使用は、
生命予後を含めて、
患者さんの予後を改善するという結果が得られました。

ただ、これは最初から患者さんを登録して、
スタチンを使用するかしないかをクジ引きで決めるような試験ではないので、
別個の患者さんの背景因子などが、
結果に影響をしている可能性はあります。

最近はこうしたコレステロール降下作用以外を期待した、
スタチンの研究はあまり良い結果が出ていないのですが、
今回のものはそこをかろうじて踏みとどまったというような内容で、
今後の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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手洗いの温度はどのくらいが良いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
手洗いの温度.jpg
1995年のContact Dermatitis誌に掲載された、
手洗いに使用する水の温度は、
どのくらいが一番手を傷めないかを検証した論文です。

古いものですが、
手洗いのガイドラインに記載されているので、
興味を持って読んでみました。
他にもこうした検証の論文は幾つかあり、
いずれも同様の結論に達しているようです。

手洗いが感染の予防効果があるという点については、
医療現場においても、
一般の生活においても実証された事実です。

ただ、通常の石鹸による手洗いであっても、
その中に含まれている界面活性剤により、
皮膚の粘膜は障害され、
界面活性剤誘発性の接触皮膚炎が発症します。

アルコールなどを含む消毒剤を使用すれば、
それによる皮膚の障害も起こります。

医療機関などにおいて、
それでも医師や看護師が1日に何度も手洗いをするのは、
感染のリスクのある病原体が、
手に付着することが多く、
それを洗い流すことで、
感染予防の効果があるからです。

つまり、石鹸や消毒剤を使って手を洗う限り、
全く皮膚の粘膜を傷めないということはあり得ないのです。

石鹸でも起こることがある、
手洗いの有害事象の1つである界面活性剤誘発性の接触皮膚炎は、
手洗いをする水の温度に影響されることが知られています。

今回の研究では、
10名のボランティアに、
ボディソープなどに含まれている界面活性剤の、
ラウリル硫酸ナトリウムによる手洗いを4日間継続し、
水の温度が4℃と20℃と40℃にして、
皮膚の角質のバリア機能の低下を比較しています。

その結果、
水温が4℃においての手洗いが最もその障害は少なく、
水温が高くなるほど、
角質のバリア機能は低下していました。

要するに、
手洗いによる肌の荒れを最小限度に食い止めるには、
冷水による手洗いが有効だという結果です。

寒い時期には水仕事はつらい作業ですが、
それでも温水は使用しない方が、
手洗いによる皮膚炎の予防には良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。

よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


ロッシーニ「セビリアの理髪師」(2016/2017新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
昨日は色々あって、
昼近くまで寝ていました。
今日は何もなければ1日家にいるつもりです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
セビリアの理髪師.jpg
12月の初めに、
新国立劇場のレバートリーとして、
ロッシーニの「セビリアの理髪師」が上演されました。

このプロダクションは、
20世紀の内戦時代のスペインに舞台を移したもので、
そのセンスはあまり好きではないのですが、
原色の回り舞台のセットがなかなか上手く出来ていて、
レパートリーとしてこれまでに何度も再演がされています。
僕もこれまでに3回くらいは観ています。

この作品には、
テノールの非常に技巧的な大アリアがあって、
1990年代くらいまでは、
難易度が高くカットされることが多かったのですが、
1990年代後半からファン・ディエゴ・フローレスという、
超高音とアジリタと呼ばれる装飾歌唱を得意とする、
スターテノール歌手が世界を席巻し、
フローレスが歌ったのが最初かどうかは分かりませんが、
この大アリアは2000年代からは復活されることが多くなりました。
日本でもボローニャ歌劇場の来日公演で、
フローレスはこの大アリアを披露して、
絶賛を浴びました。

共演はカサロヴァとレオ・ヌッチで、
僕も実際に聴きましたが、
圧倒的な名演と言って良い舞台だったと思います。

さて、この新国立劇場のレパートリー版は、
初演時の演出が大アリアなしのものであったので、
再演以降、大アリアを歌った経験のある歌手の来日もあったのですが、
実際には歌われないままに終わっていました。

それが今回初めて、
ロッシーニが得意のマキシム・ミロノフが、
アルマヴィーヴァ伯爵を歌い、
この演出で初めて、
ラストのテノールの大アリアが復活されました。

マキシム・ミロノフさんは、
以前来日したこともあるロシア出身のロッシーニ歌いですが、
その技術は確かなものなので、
今回は大変期待して劇場に足を運びました。

実際の感想としては、
フィガロのイェニス、
ベルキナのロジーナを筆頭に歌手陣は粒が揃っていて、
アンサンブルの妙味を楽しめる公演になっていました。

ただ、期待のミロノフさんは、
アジリタの技巧はまずまずなのですが、
高音で声が張れないタイプで声量もイマイチなので、
フローレスやシラグーザの胸のすくような高音のカタルシスを期待していると、
ちょっと元気のない感じが減点になっていました。

フィガロとの二重唱でも、
もっと盛り上がって良い筈なのに、
要所が締まらない感じがありました。

それでも、
矢張り大アリアがあると、
作品全体の満足度は全く違います。
今になって思うと、
あの大アリアをカットした「セビリアの理髪師」は、
一体何だったのだろう、
とそんな思いにも囚われるのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


月影番外地その5「どどめ雪」(福原充則) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日は所要のため、
午後の診療は休診とさせて頂きます。
ご了承下さい。

午前中は石原が外来を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
どどめ雪.jpg
先日高田聖子さんが主宰の月影番外地のシリーズとして、
福原充則さんの新作「どどめ雪」が、
峯村リエさんや利重剛さんの魅力的なキャストと、
木野花さんの演出で下北沢ザ・スズナリで上演されました。

これは牛久を舞台とした「細雪」のパロディで、
オリジナルの4人姉妹を、
峯村リエさん、高田聖子さん、内田慈さん、藤田記子さんという、
いずれ劣らぬ芸達者が演じ、
高田聖子さんの夫に利重剛さん、
内田慈さんの婚約者に田村健太郎さん、
という布陣です。
物語はオリジナルと同じように、
内田さんの結婚を巡る騒動から始まり、
天変地異などもあり、
多くの理不尽な不幸が家族を襲うのですが、
最後にはちょっとした奇跡が用意され、
家族はそれでも文句は言いながら、
運命に抗いつつ、たくましく生きてゆきます。

オリジナルの「細雪」とは異なり、
アーヴィングやガルシア・マルケスに似た、
所謂「マジック・リアリズム」の物語で、
現実ではありえないような事件が起こり、
主人公の高田さんにはちょっとした超能力が備わっています。
クライマックスでは事故で死んだ峯村さんが甦ります。

ただ、現実の牛久を非現実世界に反転させる手際は、
あまりレベルの高いものとは言えず、
主人公の超能力も、
平凡で面白みのないものなので、
あまりワクワクするような感じで、
主人公達の人生を見守る、
という気分にはなりません。

福原さんの作品としては、
正直凡庸で、
意外な展開や、
生き生きとした人物描写には乏しい、
という感じがします。

更には木野花さんの演出が、
鵜山仁さんを思わせるような渋くて地味な感じのもので、
地味な物語が更に地味な感じになって、
正直かなり退屈を感じました。

セットも色彩が乏しく、
素通しの骨組みだけのような舞台に、
背後の茶色い壁には、
古新聞のようなものがペタペタ貼り付けてあるだけです。

こうしたイメージ重視の地味な芝居であるからこそ、
舞台にはある種の華やかさが必要ではないでしょうか?
牛久の大仏も、
何等かの形で登場をして欲しかったな、
と思いました。

キャストは皆ベテランで演技も成熟しているので、
それなりに楽しく観ることは出来るのですが、
高田聖子さんが地味なおばさんを演じるというのも、
どうもあまり面白いという気持ちになれなくて、
暗く全体が沈んだ舞台の中で、
もう少し光る部分や瑞々しい部分が、
何処かにあると良いな、と思いました。

峯村リエさんは僕が大好きな女優さんですが、
たとえばケラさんの舞台では、
彼女が上手く嵌るようなポジションが用意され、
他に若い女優さんなども華やかに出演されるので、
そのバランスが取れているのですが、
今回の芝居では峯村さんタイプの女優さんが、
4人並んでしまったという感じになり、
互いが潰しあうような舞台になったのは、
非常に残念に思いました。

木野花さんの演出は昔から堅実なのですが、
台本の良さと悪さが、
そのまま舞台に出てしまうような感じがあり、
今回は作品の地味さと暗さが、
そのまま演出されて増幅されてしまった、
という感じがありました。

そんな訳で今回は乗れない観劇であったのですが、
また次には期待をしたいと思います。
出来れば高田さんには、
関西ノリらしい派手な世界を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


藤田貴大「ロミオとジュリエット」(シェイクスピア原作) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などは休まず行う予定です。

今日は祝日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ロミオとジュリエット.jpg
今飛ぶ鳥を落とす勢いの「マームとジプシー」を主宰する、
藤田貴大さんが、
東京芸術劇場とのコラボで、
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を、
ズタズタに切り刻んで、
パッチワークのように再構成し、
1時間45分ほどにまとめた舞台が、
先日まで東京芸術劇場のプレイハウスで上演されました。

「マームとジプシー」は観るようになったのは最近で、
「Cocoon」の再演が最初です。
それから先日のさいたまでの過去作品を再構成したような舞台も観ました。

その昔アングラの頃に、
「理解不能の芝居」としてよくパロディ化されたような、
意味不明の言葉を叫んだり繰り返したりして、
そこに様式的な動きを付けるような感じの芝居で、
当時は実際にはそうした芝居はあまりなく、
おそらくはモデルになったであろう早稲田小劇場も、
もう少し物語性があったのですが、
今回の舞台などは、
そのかつてのパロディ通りのもので、
シェイクスピアの台詞をバラバラに解体して、
同じ遣り取りや台詞を執拗に繰り返し、
ダンスと言うには下手くそで、
日常的な動きと言うのは不自然な動作を、
これも執拗に繰り返します。

それでは面白くないのかと言うと、
それは決してそうではなく、
最初に「マームとジプシー」を観た時には、
かなり詰まらない、と感じたのですが、
何度か観ると大分やり口が分かって来るので、
ははあ、また物語から遊離した人を1人おいて、
途中で詩を朗読したりするやつだな、
というように予測が付き、
そうなってみると、
意外にそれが心地良く、
正攻法とはとても言えないし、
決して好きではないのですが、
それなりの面白みはあるのです。

原作があるものだと、
それをバラバラにして再構成するので、
元の作品を理解していないと、
その面白さも理解出来ません。

今回はシェイクスピアで、
これまで何度か舞台にも接し、
映画も見ているので、
比較的理解のハードルは低く、
まずは興味深く観ることが出来ました。

以下ネタバレを含む感想です。

舞台には折り畳み式の壁が置かれ、
役者はメインの配役は若い女優さんが演じ、
男優は脇役とそのほか大勢、そして、
大道具を動かしたりの裏方を演じています。
衣装も男優は黒子的なものですが、
女優さんの衣装は、
シェイクスピアを現代で上演するにおいて、
割と標準的なスタイルのものです。

台詞は基本的には原作の台詞を、
一旦バラバラにして再構成したもので、
時系列もバラバラにされていて、
一旦2人が相次いで死ぬラストに至るのですが、
そこから再び死ぬ前の場面に戻り、
フラッシュバックのように、
何度も過去と未来が反復されます。

原作の1幕4場の町中で、
ロミオとマキューシオが、
夢と正夢についての何気ない会話をするのですが、
それが執拗に反復され、
夢と現実と未来というのが、
何度も何度も登場して、
この舞台の通底音となっています。

夢を操るマブの女王がそこからクローズアップされ、
原作にある11年前の大地震という台詞が、
震災の記憶を引き寄せて、
背後に瓦礫の山が登場したりもします。

原作の登場人物以外に、
ひよちゃんという日本の少女が登場し、
マブの女王に関わる詩を舞台で朗読し、
舞台から客席に飛び降りるという形で、
自死を遂げるという、
オリジナルのパートも差し挟まれます。

昔のアングラの感覚では、
ひよちゃんがロミオとジュリエットの夢を見た、
というような相対化が、
明確に舞台上で視覚化されるのですが、
今回の藤田さんの舞台では、
ある種のイメージの深層の連鎖として、
そうした日本の情景が差し挟まれるだけで、
特に重要視はされることなく、
イメージの1つとして提示されるに留まっています。

また、ロミオがティボルトを殺す場面は、
そこのみが過激に執拗に反復され、
これも現代の少年のリンチ殺人などを、
想起させるように演じられています。

要するに「ロミオとジュリエット」の世界を、
イメージの中で現在と結び付けようとする、
藤田さんのイメージの世界、深層心理の世界が、
そのままに展開されているような作品で、
その混沌を楽しめるかどうかが、
この作品の個人の評価、
ということになるのかも知れません。

役者は意図的な棒読みと機械的な身体表現による、
女優陣の魅力がその多くを占めていて、
ロミオ役の青柳いづみさんや、
パリス役の川崎いずみさん、
可憐なジュリエットの豊田エリーさんなどは、
確かに魅力的で心に残ります。

その一方で棒読みでない普通の芝居をする部分は、
かなり稚拙な演技がイライラします。
特にジュリエットが死んだと分かる時の、
キャピレットと乳母の芝居などは、
あまりに稚拙で台無しに感じました。

こうしたところは、
仮に意図的であるとすれば大失敗で、
何とかして欲しいと思います。

トータルには藤田版シェイクスピアとして、
悪くない上演でしたが、
このままではあまりに未成熟で中途半端にも思い、
ラストが野田マップそっくりというのも、
如何なものかな、という気はします。
この路線であれば、
より進化したものを、
今後は見せて欲しいと思いました。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。

よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
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3種類のダイエットの糖尿病発症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今週の土曜日(24日)は、
所用により午後を休診とさせて頂きます。
ご了承下さい。
24日午後以外は受診が難しいという場合には、
事前にご連絡を頂ければと思います。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
3種類のダイエットの比較.jpg
2012年のArch Intern Med誌に掲載された、
世界的にその有用性が確認されている、
3種類の食事パターンと、
その糖尿病予防効果を比較検証した論文です。

過去から現在に至るまで、
様々な健康のための食事療法が考案されています。

その中で糖尿病や虚血性心疾患のリスクを低減することが、
精度の高い複数の臨床データによって、
ほぼ確実と考えられている食事パターンが3つあります。

それが、
地中海ダイエットとDASH食と、
代替健康食指数スコアによる健康食です。

地中海ダイエットというのは、
ギリシャなどの地中海地方の伝統食で、
オリーブオイルとナッツを沢山摂ることがその特徴です。

DASH食というのは、
アメリカで研究開発された、
高血圧の予防と改善のための食事です。
飽和脂肪酸とコレステロールを減らし、
野菜や果物を増やして蛋白質はバランス良く摂取する、
というのがその特徴です。

代替健康食指数スコアというのは、
これもアメリカで研究開発されたもので、
食品をプラスとマイナスでスコア化して、
そのトータルが高いほど健康的であると判断するものです。
野菜や果物は増やし、
精製していない全粒穀物の比率も増やし、
赤身肉や加工肉は摂らない、
というような特徴があります。

この3種類の食事パターンは、
野菜や果物を増やし、
ナッツや豆類も増やし、
飽和脂肪酸や赤身肉や加工肉は減らす、
というような全体的なバランスに関しては、
ほぼ同一です。

ただ、
地中海ダイエットでは魚介を多く摂り、
ワインの摂取も推奨するという点は異なり、
DASH食はコレステロールを減らすことに力点があり、
代替健康食指数スコアは、
アルコールや塩分を制限し、
トランス脂肪酸の制限も明記している点などに、
その特徴があります。

今回の研究では、
その後糖尿病を発症するリスクの高い、
妊娠糖尿病の既往のある女性4413例を登録し、
その食事調査からの食事パターンと、
その後の糖尿病の発症との関連を検証しています。

これは有名なアメリカの看護師の女性を、
長期間観察した大規模疫学データを元にしています。

その結果、
摂取カロリーや年齢、喫煙の有無などの要素を調整した上で、
3種類の食事パターンに合致している人は、
そうでない人と比較して、
いずれも有意に糖尿病の発症リスクが低下していました。
個別には、地中海ダイエットが40%のリスク低下(95%CI:0.44から0.82)、
DASH食が46%のリスク低下(95%CI:0.39から0.73)、
代替健康食指数スコアが57%のリスク低下(95%CI:0.31から0.59)
となっていました。
ただ、体格の指標であるBMIで補正を行うと、
この発症リスクの低下はかなり小さなものになりました。

つまり、
こうした3種類の食事パターンは、
いずれも糖尿病の予防効果が認められ、
その一部はダイエット効果によっている、
ということになります。

色々な食事指導が存在していますが、
現状は科学的に良い結果が蓄積されているのは、
この3種類の食事パターンであり、
そこには飽和脂肪酸や赤身肉、加工肉の制限、
野菜や豆類、オリーブオイルなどの植物油やEPAの摂取量増加など、
ほぼ同じ理念が組み込まれているということは、
事実と考えて良いような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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