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三谷幸喜「エノケソ一代記」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
昨日バタバタでレセプトを出したりしたので、
とても疲れていて昼まで寝ていました。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
エノケソ一代記.jpg
三谷幸喜さんの久しぶりの新作が、
猿之助さんの主演、今絶好調の吉田羊さんをメインにして、
今三軒茶屋のパブリックシアターで上演されています。

三谷さんは大河ドラマの執筆もありましたから、
かなりきついスケジュールであったと思います。
吉田羊さんも主演ドラマもあり大河もありですから、
こちらも大変であったのだと推察します。

その中での作品としては、
抜群のスタッフワークで、
まずは無難にまとめていたと思います。

ただ、三谷さんの新作が、
こうした無難な作品で良かったのか、
という点は正直疑問には思います。

お話は最初から告知された通りで、
昭和30年代を舞台として、
喜劇王エノケンの偽物で、
地方でエノケンを騙って舞台を上演していた、
猿之助さん演じるエノケソが主人公で、
その一代記が古典的なタッチで描かれます。

エノケソの1人の生涯の物語を、
藝道という不思議さを隠し味として描き、
偽物を描きながら、実は本物のエノケンの、
晩年の物語でもある、という趣向です。

発想はさすが三谷さんという感じで、
かつての菊田一夫さんの東宝の喜劇を、
お手本として下敷きにしながら、
菊田さんならエノケン一代記とするところを、
エノケソ一代記という偽物にしています。
ただ、エノケンを持ち出した意味や面白みが、
あまりあったようには思えませんし、
展開にも意外性がなく、
別にエノケン一代記と変わりがないではないか、
という感想が最後まで払拭されませんでした。

以下ネタバレを含む感想です。

巻頭まずナレーションが流れ、
エノケンの扮装の猿之助さんが登場して、
1曲歌い踊ります。
それから田舎町の舞台の楽屋になり、
偽物のエノケソ一座が、
地元の人から偽物を疑われて、
開き直るというパートになります。

これがエノケンが最愛の息子を亡くした、
昭和32年という設定になっていて、
それからもエノケンが紫綬褒章を受章した昭和35年、
右足を壊疽で切断することになった昭和37年と物語は進みます。

要するに戦後のエノケンの足跡を、
それぞれの時期に地方で偽物として巡業していたエノケソが、
合わせ鏡のように映し出し、
それぞれに反応してドラマは進みます。

水上京香さん演じる女優志望の少女が、
入団を希望して来たり、
三谷幸喜さんが自ら演じるエノケンのライバル古川ロッパが、
エノケソの舞台に会いに来て、
実はそちらも偽物であった話などがあり、
それからエノケンが壊疽で足を切断すると、
自分もその苦しみを共有することで、
偽物であることから脱却したいと、
偽医者に健康な足を切断され、
それから病に倒れて壮絶な死を遂げます。

エノケソに猿之助さん、
その妻の偽物に吉田羊さん、
座付き作家で得体の知れない男に浅野和之さん、
劇団員に春海四方さん、
複数の脇役を1人で演じる田中崇さんとキャストは揃っていて、
スタッフワークも安定しているので、
1時間50分余り退屈はせずに楽しむことは出来ます。

ただ、エピソードはいずれも平凡ですし、
足を切断して死ぬというラストは、
あまりに暗くて引いてしまう感じがします。
劇中劇やレビューの場面は、
猿之助さんが口パクなのがガッカリしますし、
エノケンっぽく見せたかったのか、
猿之助さんの技芸をショーとして見せたかったのかも、
中途半端であったように思いました。

吉田羊さんはさすがに光っていましたし、
舞台を最近降板された浅野和之さんも、
お元気そうでまずは良かったのですが、
三谷さんとしては会心作とは言えない感じであったと思いますし、
主役の猿之助さんについては、
今回は香川照之さんを彷彿とさせる芝居でしたが、
この芝居だったら、
中車さんも猿弥さんも歌舞伎座に立っているのですから、
歌舞伎に出て欲しかったな、
というのが正直な感想でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

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