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城山羊の会「自己紹介読本」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
自己紹介読本.jpg
山内ケンジさんの演劇ユニット、
城山羊の会の新作公演が、
昔のジャンジャンを思わせる地下の小劇場、
下北沢の小劇場B1で明日まで上演されています。

これは1幕90分の小品ですが、
「これぞ小劇場!」という醍醐味に満ちた、
ユーモラスでブラックでエロチックな快作で、
今年一番と言っても良い感銘を受けました。

抜群に面白く、演出もセンスに溢れていますし、
セットや音効も完成度が高く、
それでいて遊び心も満載です。
キャストがまた素晴らしいのです。

何と言うか、キャスト全員が股の間にハンカチを1枚ずつ挟んで、
それを落とさないようにしながら芝居をしているような作品で、
ラストに1枚のハンカチが鮮やかに落とされて終わるのです。

城山羊の会は昨年、
「仲直りするために果物を」という作品を観たのですが、
まったりとしたテンポで、
即物的な暴力描写の連続する、
あまり趣味が良いとは言いにくい作品で、
僕は好みではありませんでした。

次に観たWけんじ企画というユニットでの、
「ザ・レジスタンス、抵抗」という作品は、
安部公房を思わせる不条理な世界で、
適度にエロチックで、
適度にユーモラスでふざけていて、
通常の起承転結を無視した自由奔放な展開の中に、
「息の詰まるような時代の空気」のようなものを、
濃厚に漂わせた快作で、
非常に感心しましたし、
ワクワクしながら全編を観通すことが出来ました。

つらつら考えると、
「仲直りするために果物を」は東京芸術劇場地下の、
無機的で小劇場とは言えかなり広い舞台で、
得意の微妙なニュアンスが、
客席にダイレクトには届きにくい感じがありました。

城山羊の会の芝居は、
舞台の役者さんの息遣いが、
ダイレクトに届くような環境でないと、
その魅力は味わえないような性質のもののようです。

以下ネタバレを含む感想です。

今回の芝居は冬枯れのさびれた公園のような場所が舞台で、
中央に白い小便小僧の像が立っています。
そこにまず富田真喜さん演じる、
生徒と問題を起こして学校を首になった高校教師が誰かを待っていて、
そこに岡部たかしさん演じる市役所職員が、
「自己紹介をしてもいいですか?」
と初対面にしては違和感のある言葉を掛けるところから、
物語は始まります。

そこに元高校教師の友人のカップルと、
元自衛隊員の市役所職員、
強面の産婦人科医の夫婦などが現れ、
本来無関係な出会う筈のなかった7人の男女が、
何処か不穏な空気の中で、
互いの自己紹介に興じるという奇妙な遣り取りが、
時にユーモラスに、
時には緊張感を持って演じられます。

その遣り取りの中で、
市役所職員の岡部さんが、
元高校教師の富田さんを、
いきなり口汚く罵ります。

それは冗談として処理され、
岡部さんが謝罪して収束したかに見えるのですが、
実は富田さんには秘めたる思いがあって、
それが流れの中で岡部さんと2人きりになった時に、
予想外の爆発をすることになるのです。

オープニングの感じは別役実に似ているのですが、
こういう秘めたるエロスというのは、
別役芝居にはない要素だと思います。
登場人物が表面的な物語とは別個の感情を秘めていて、
それが物語を予想外の方向に進めるというのは、
岩松了作品に似た趣向ですが、
岩松作品ではその意図があまりに隠され過ぎていて、
観客のカタルシスを生むことが少ないのですが、
この作品では明確で鮮やかなクライマックスが用意されているので、
観客が置き去りにされることがないのです。

小劇場ならではの、
微妙な役者の表情の動きや、
オフステージでの小さな音が、
繊細に物語を表現するという趣向が鮮やかで、
ラストに白い尿が小便小僧から放たれて、
そこを注視する全員が、
クルリと振り向くとカーテンコールになる、
という仕掛けも鮮やかです。

まさに「してやったり」という感じの作品で、
個人的には今年の新作のベストに推しても良い、
完成度を持った傑作でした。

上演は明日までですが、
とてもお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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