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亜鉛ドロップの風邪治療効果(風邪予防のエビデンス③) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

サーバーのメンテナンスのため、
今日は遅い更新になりました。

それでは今日の話題です。

今日は風邪予防のシリーズの3回目です。
今回は亜鉛製剤の風邪への効果を検証します。

亜鉛は身体に必要不可欠な微量元素で、
貝類などに多く含まれ、
その欠乏は湿疹や口内炎、
味覚障害などの原因となります。
そして、体内において酵素活性など多くの代謝経路において、
必要な物質であると考えられています。

この亜鉛が風邪の治療に効果があると考えられたのは、
まず亜鉛の欠乏により感染症が起こりやすくなる、
という知見によっています。

それから1974年に亜鉛が風邪の原因ウイルスの代表である、
ライノウイルスの増殖(複製)を抑制する、
という基礎実験の知見があり、
それから亜鉛が細胞膜の毒素などによる障害を、
予防する働きがあるという、
これも基礎実験のデータが1983年に発表されています。

こうした知見からは、
風邪の治療として亜鉛を用いることにより、
有効性があるのではないか、
という仮説が導かれます。

そして、その効果を検証するために、
介入試験を含む多くの臨床試験が行われました。

当初使用されたのは点鼻のスプレーで、
これは鼻の粘膜に付着したウイルスの、
増殖を抑える効果が期待されました。
ただ、スプレーの効果は不安定で、
明確な治療効果は殆ど確認されませんでした。

そこで次に用量は様々な亜鉛の飲み薬が、
風邪の治療薬として試みられました。

こちらをご覧下さい。
亜鉛の風邪治療効果.jpg
2000年のJ Nutr.誌に掲載された、
亜鉛を風邪の治療に使用した介入試験と呼ばれる臨床試験を、
まとめて解析したメタ解析の論文です。

10の介入試験が対象となり、
そのうちの2つは点鼻のスプレーなので除外されています。
残りの8つの介入試験の結果をまとめて解析したところ、
風邪症状が1週間を超えて継続するリスクは、
亜鉛の使用により48%低下する傾向を示しましたが、
統計的に有意ではありませんでした。
(95%CI; 0.25から1.2)

このように明確に亜鉛の使用で風邪症状が改善する、
という根拠は現状ではありません。

ただ、論文によっては、
亜鉛ドロップ(亜鉛を1錠に13から23㎎含有)を、
風邪症状出現時に2時間毎に使用したところ、
症状の持続期間が、
1.3から6.9日短縮した、
というような結果も報告はされています。
通常1日の亜鉛の摂取は10㎎もあれば充分ですから、
これはかなり過剰な使用と言うことが出来ます。

また亜鉛ドロップに含まれている、
ソルビトールやマンニトールなどの糖質により、
亜鉛の吸収が阻害されて有効ではない、
というような指摘もあります。

亜鉛はビタミンCとは対照的に、
治療の研究は沢山あっても、
風邪予防の研究はありません。

従って、予防効果は未知数で、
治療効果については一定の有効性は否定は出来ないけれど、
証明されたものとは言えない、
というくらいの理解が妥当なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。