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大腸癌の予防としての消炎鎮痛剤の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸がんの化学予防.jpg
昨年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
大腸癌の予防ために消炎鎮痛剤を使用した場合の、
効果と安全性とを検証した論文です。

大腸癌は世界的には3番目に多い癌で、
その85%以上は、
腺腫という良性の病変から、
遺伝子の変異を繰り返して発癌に至る、
というメカニズムで発症することが分かっています。

これが所謂「大腸ポリープ」で、
良性の腺腫性のポリープがある程度の期間を経て、
癌になるのです。

癌にも幾つかの進行のパターンがあり、
甲状腺乳頭癌は良性の腺腫が癌になるのではなく、
最初から癌細胞が増殖すると考えられています。
こうした癌では、早期に発見することが、
必ずしも予後の改善には繋がりません。
つまり、早期発見のための癌検診に、
あまり意味がない、ということになります。

その一方で高分化型の胃癌の一部や、
大腸癌の大部分は、
腺腫という良性のしこりが、
ある程度の期間を経て癌になるので、
こうした癌になる前の状態、
つまり「前癌性病変」の段階でしこりを見つけ、
切除することにより、
癌を予防することが可能になります。

これが胃癌検診や大腸癌検診に、
一定の有効性が期待出来る理由です。

胃癌に関しては、
欧米ではその発症が少ないという点や、
スキルスなど予後の悪い癌は、
腺腫からは進展していないという点などから、
必ずしも胃カメラによる胃癌検診の効果が、
実証はされていません。

その一方で大腸癌については、
大腸ファイバーによる癌検診を行なうことにより、
癌の死亡の低下に繋がることが、
ある程度確認をされています。
50歳代で1回大腸ファイバーを行なうことにより、
総死亡のリスクも低下したというデータもあります。
便潜血による検診も、
その後の二次検査が適切に行われれば、
一定の有効性が期待出来ます。
(遺伝性の明確な癌は除きます)

ただ、問題はどのような間隔で、
どのような検査を行なうことが、
最も効果的で合理的であるか、
ということです。

初回の検査で腺腫性ポリープが発見された場合、
どのくらいの間隔で次の検査を行なうべきでしょうか?
5年ごとという間隔を設定しても、
その間に癌が進行することは、
ない訳ではありません。
それでは、毎年検査を行なうべきでしょうか?
勿論それは必要性にもよるでしょうが、
画一的にそうした検診を行なえば、
コストは膨大になりますし、
無駄な検査や過剰診断も問題となります。

ここで1つの考え方は、
最初の検査で腺腫性ポリープが発見され、
その切除を行なった患者さんに対して、
その再発予防のための治療を行なう、
という方法です。

腺癌の進展予防や遠隔転移の予防に対して、
アスピリンやNSAIDsのような消炎鎮痛剤に、
一定の有効性のあることが知られています。

これはCOXという酵素を阻害することが、
炎症を抑えるとともに、
癌の増殖や転移に関わる経路を抑制することが、
そのメカニズムと考えられています。

ただ、消炎鎮痛剤には胃腸障害や急性の腎障害などの、
副作用のリスクがあり、
全ての方がそうした薬を継続的に使用することが、
適切な方針とは言えません。

従って、腺癌の発症リスクが高い集団として、
大腸ファイバーで腺腫性のポリープもしくは早期癌が見つかり、
その切除を行なった人たちに限定して、
そうした治療を行なうことが考えられました。

今回の研究ではこれまでの臨床データをまとめて解析する方法により、
使用する消炎鎮痛剤の種類と、
癌予防の効果と安全性とを検証しています。
ネットワーク・メタ解析という、
新しい手法が活用されています。

対象となっているのは、
年齢が18歳以上で大腸ファイバーにより、
腺腫性ポリープや大腸癌が発見されてその切除を受けた方で、
その後アスピリン、
もしくはNSAIDsと呼ばれる消炎鎮痛剤、
カルシウムや葉酸など、
癌予防の効果が想定される薬剤なサプリメントを使用して、
その3から5年後の大腸ファイバーにより、
転移性の癌が、
どれだけ未使用と比較して予防されたかを比較検証しています。

15のこれまでの介入試験のデータを解析し、
トータルで12234名の患者さんが対象となっています。
その結果、癌の転移の予防効果が、
未使用と比較して最も高かったのは、
セレコキシブスリンダクという、
アスピリン以外のNSAIDsで、
未使用と比較して癌の転移を、
63%有意に低下させていました。
(95%CI;0.24から0.53)

次に有効性が高かったのは、
低用量(1日160mg以下)のアスピリンで、
29%癌転移のリスクを低下させましたが、
これは有意ではありませんでした。
(95%CI;0.41から1.23)

ただ、薬剤の安全性という点で見ると、
そのリスクが相対的に低かったのは、
低用量のアスピリンでした。

従って、有効性という点で言うと、
セレコキシブとスリンダクが、
最も高いのですが、
有害事象とのバランスという点で考えると、
低用量のアスピリンが勝っているという結果になりました。

このように、
大腸腺腫が見つかったような場合に、
消炎鎮痛剤の使用には進行癌予防として一定の有用性があるのですが、
有害事象とのバランスも考えると、
その選択にはまだ確実というものはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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妊娠中と授乳時の甲状腺疾患の管理(2017年版アメリカのガイドライン) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ATAの妊娠甲状腺ガイドライン.jpg
これは昨年のThyroid誌に掲載された、
アメリカ甲状腺学会による2017年版の、
妊娠中及び授乳期の女性における、
甲状腺疾患の治療ガイドラインです。

非常に興味深い内容が多く含まれていますので、
興味のある方が全文をお読み頂きたいのですが、
かなり長大なものなので、
今日はかいつまんでご説明したいと思います。

妊娠と甲状腺機能や甲状腺疾患との関係は多岐に渡ります。

①妊娠中の甲状腺機能
妊娠中には甲状腺機能に特徴的な変化が起こります。
妊娠初期の7から16週位の時期には、
一時的な甲状腺機能亢進状態が起こります。
これは胎盤からのhCGというホルモンに、
甲状腺を刺激する作用があるためと説明されていて、
一部は妊娠悪阻と関連があるという報告もあります。
この一時的な機能亢進が問題となることは少なく、
仮に動悸などが強く現れれば、
β遮断剤などの一時的な使用が検討されますが、
抗甲状腺剤などは使用をしません。
通常14から18週の間には、
甲状腺機能は正常に復します。

甲状腺機能の計測には、
通常TSHと遊離T4という検査が施行されます。

ただ、上記ガイドラインによれば、
遊離T4の測定系は、
妊娠中には種々の因子に影響され、
必ずしも正確とは言えないと指摘されています。

むしろ総T4濃度の方が、
TSHとの相関は高い、というデータも存在しています。

総T4の濃度は結合蛋白であるTBGに影響され、
妊娠中にかさ上げされる格好になるのですが、
そのことを勘案して補正を行なえば、
より精度の高い指標となる可能性があります。

僕は以前師事していた先生の影響で、
遊離T4より総T4をより信頼して、
TBGと共に測定を行なっているのですが、
決してそれが間違いではなかったと、
やや溜飲が下がるような記述になっています。

②妊娠中のヨードの必要量
ヨード(ヨウ素)は甲状腺ホルモンの原料の1つとなる微量元素で、
その不足も過剰も、
共に甲状腺機能異常の原因となります。

上記ガイドラインの記載では、
妊娠中には1日250μg以上のヨードの摂取が必要で、
ヨード摂取量がそれほど多くはないアメリカでは、
妊娠を計画する女性は、
その3カ月前から1日150μgのヨードのサプリメントを、
摂ることが推奨されています。

ヨードの過剰については、
1日500から1100μg以上の摂取は、
胎児の甲状腺機能低下に繋がる可能性があるので、
控えるべきだと記載されています。

ただ、日本の場合2000から3000μgのヨードを、
食事から摂取している人も稀ではなく、
これが本当に胎児の甲状腺機能に影響を与えないのか、
という点については明確ではありません。

尿中のヨードの測定も、
最近はよく行なわれているのですが、
その日による変動が大きく、
1回測定して正常値であっても、
必ずしもヨードの過剰や不足のないことを、
証明するものではないと考えられています。

③妊娠中のTSHをどうコントロールするべきか?
妊娠中のTSHの正常値は、
妊娠初期では2.5以下で、
妊娠中期以降は3.0以下と考えられています。

TSHがこれを超えて上昇している時には、
潜在性の甲状腺機能低下症の存在を疑います。

橋本病の自己抗体が陽性(特にペルオキシダーゼ抗体)の場合には、
潜在性の甲状腺機能低下症であっても、
流早産が多いというデータが存在しています。

このため、抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性の場合には、
妊娠初期のTSHを2.5以下、
妊娠中期以降のTSHも3.0以下を目標として、
T4製剤による甲状腺ホルモン補充療法を行ないます。

橋本病の抗体が陰性の場合にも、
同じことが当て嵌まるかどうかは明確ではありません。

通常は従って、
橋本病の自己抗体が陰性であれば、
妊娠中のTSHは10以下で問題はないのですが、
流産の既往のある場合や、
不妊治療による妊娠などのケースでは、
甲状腺機能が正常であっても、
1日25から50μg程度のT4製剤の使用により、
流産や不育症の予防が、
期待出来るのではないか、
という報告もあります。

妊娠中の補充は安全性の問題から、
使用するのはT4製剤のみで、
T3製剤や甲状腺末などの使用は、
禁忌の扱いです。

④治療中の甲状腺機能低下症の妊娠中と出産後の管理
妊娠前に治療中の甲状腺機能低下症では、
補充されたT4の量は、
通常20から30%程度増量するとバランスが取れます。
出産後6週間で甲状腺機能を測定し、
1日の補充量が50μg以下のケースでは、
中止も考慮します。

⑤バセドウ病合併妊娠の管理
バセドウ病で治療中の患者さんが妊娠した場合、
妊娠中は甲状腺機能は安定することが多いので、
抗甲状腺剤がMMI(商品名メルカゾールなど)で1日5から10mgくらい、
PTU(商品名チウラジールなど)で1日100から200mgくらいまでであれば、
中止を検討することも1つの選択肢です。

ただ、その場合は1から2週間ごとに検査を行なうなど、
厳重な管理が必要です。

MMIで1日5から10mg以上、
PTUで1日100から200mg以上を使用している場合には、
原則その使用を継続します。

現行の知見では妊娠16週まではPTUの方が、
催奇形性が少ないと考えられているので、
PTUの使用が望ましいとされていますが、
MMIで安定している患者さんの処方を、
妊娠初期に敢えてPTUに変更する必要があるかどうかについては、
まだ議論があります。

MMIをPTUに変更する場合には、
MMI5mg分1を、
PTU200mg分2に交換するのが、
1つの目安と考えられています。

妊娠中のバセドウ病の甲状腺機能は、
T4を通常より少し高めに維持することを基本とします。

僕はバセドウ病の薬物治療において、
MMIとT4の併用療法を好んで使用していますが、
MMIは胎盤を移行する一方で、
T4は移行しないので、
胎児の甲状腺機能低下の原因となり、
妊娠中併用療法は禁忌です。
そのため、妊娠が判明した場合には、
PTU単独に切り替えます。
ただ、原則は治療を終了してから妊娠が望ましいので、
ご希望を聞いた上で治療の選択を行なっています。

妊娠中の女性でバセドウ病の自己抗体が陽性であると、
お子さんに甲状腺機能低下症のリスクが生じます。
従って、放射性ヨードや手術の治療後であっても、
自己抗体が妊娠中に陽性であれば、
新生児の甲状腺機能を測定する必要があります。

⑥授乳中の管理
授乳中のバセドウ病の治療は、
MMIで1日20mg以下、
PTUで1日450mg以下であれば、
使用には特に問題はないと考えられています。
若干は乳汁中に移行しますが、
その影響は軽微と記載されています。
乳児の発育が正常であれば、
特に乳児の甲状腺機能の検査を、
する必要はないと考えられています。
ただ、これが日本の臨床においても、
そのまま当て嵌まるかは、
何とも言えないところがあります。

授乳中の女性のヨードの摂取量は、
1日250μgは必要で、
ちょっと幅がありますが、
1日500から1100μg以上は過剰である可能性があります。

過剰なヨードの乳児への移行は、
甲状腺機能低下症の原因となる可能性があります。

これはあるサイトの記事で見たのですが、
授乳中のバセドウ病の治療に対して、
最近日本の一部の先生が好んでいる、
大量のヨードを使用する治療の可否について、
乳児の甲状腺機能を定期的にチェックすれば、
心配なく使用出来る、
という見解が書かれていました。

ただ、これは大きな問題で、
そもそも1日500μgを超えるヨードの、
授乳中の安全性は確認されていないので、
原則として授乳期に使用するべきではないと思います。
また、簡単に乳児の甲状腺機能を計測すると言いますが、
それも実験的には濾紙法などで測定した論文はあるものの、
一般の臨床で行えるようなものではなく、
その精度にも問題があるので、
安易にそうしたことを書くべきではないと思います。

医療を専門とされる方でも、
臨床をあまりされていない場合には、
研究としてのデータと、
一般臨床とを混同されていることがしばしばあります。
乳幼児の甲状腺機能を頻繁に測定するようなことは、
臨床研究としては確かにされることがありますが、
一般臨床においては、
よほどの必要性がなければ、
するべきではないと思います。

その方の記事にはコメント欄などはなく、
こちらの意見を連絡する方法が全くないので、
あまりこうしたことはしたくはないのですが、
ブログ記事で記載をさせて頂きました。

確かに授乳中や妊娠中にも、
大量のヨードをバセドウ病の管理に使用して、
安全であった、との報告をされている先生も、
いらっしゃるのですが、
それは非常に特殊な治療であって、
その安全性はご自分の少数例の臨床事例のみしか根拠はなく、
少なくとも海外で推奨されている治療ではなく、
むしろ禁忌という扱いになっていることは、
ここに明記しておきたいと思います。

妊娠中の大量のヨード使用が容認されているのは、
妊娠中にバセドウ病の管理のために手術が必要となった際の、
一時的な使用においてのみなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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新橋演舞場 新春大歌舞伎(市川右團次襲名昼の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
2月演舞場.jpg
新橋演舞場で今月、
市川右近が市川右團次を襲名する。
襲名披露興行が行われています。

その昼の部に足を運びました。
夜の部はまた後日足を運ぶ予定です。

襲名は大変お目出度いことですが、
右近さんは澤瀉屋を離れ高嶋屋に屋号が変わります。
春猿さんも新派に移るようですし、
先代猿之助(猿翁)が作り上げた猿之助一座が、
徐々に解体に向かっているように見えるのが、
先代猿之助のファンとしては、
複雑な思いもあります。

当代の猿之助さんは、
自分の舞台には浅野和之さんや佐々木蔵之助さんなど、
歌舞伎以外の役者さんを重用していて、
猿之助一座大活躍というような感じに、
なっていないことが残念に思います。
色々と事情はあるのでしょうが、
猿翁の一座がそのまま引き継がれ、
よりパワーアップされることを、
ファンとしては期待していましたし、
その中心に猿之助さんと中車さんにいて欲しかったので、
今の状況は個人的には残念です。

さて、今回の公演の昼の部は、
「雙生隅田川」で、
元は近松門左衛門の浄瑠璃ですが、
長く歌舞伎としての上演は絶えていたものを、
昭和51年に先代猿之助が復活上演したものです。
そうは言ってもこうした復活上演というのは、
古い台本をそのまま上演するのではなく、
かなり大きくアレンジされているものなので、
実際には創作の部分が多いのです。

この作品については、
これまでに先代猿之助により、
3回の上演が行われていますが、
そのたびに台本にも改訂が加えられていて、
決定版というべきものがある訳ではありません。

今回の上演も再度改訂が加えられているようです。

単独や他の作品の一部としても、
上演されることの多い場面である、
能の「隅田川」を元にした舞踊と、
鯉と人間が立ち回る「鯉つかみ」という趣向が、
オリジナルとして含まれている、
という点がこの作品のポイントで、
それに加えて2幕としてピックアップされている、
「惣太住家の場」がなかなか歌舞伎劇として面白く、
観られて良かったと思いました。

この場面はある大望があって、
心ならずも悪に手を染めていた主人公が、
因果の報いを受け、
自分の本心を語って自害するという、
歌舞伎劇としては典型的な場面ですが、
この作品ではその悪事というのが、
自分の主君の子供を、
人買いとして折檻した上に殺してしまう、
というかなり取り返しのつかないもので、
その上にかつて自分が使いこんだ、
1万両という大金を贖うために、
悪事を重ねて大金をため込んでいて、
それがあばら家のあちこちの隠し場所から、
大判小判の山となって溢れ出し、
その金塊の山の上で切腹する、
という壮絶な場面に結実します。

更に最後は死を掛けた願いにより、
死して魂魄が天狗に転生して飛び立つという、
現代劇では決してない荒唐無稽なラストに繋がります。

これは埋もれるには惜しい、
荒唐無稽の極みのような名場面で、
それを襲名する右團次と海老蔵、笑也の3人が、
濃密に演じていたのが素晴らしく感じました。

元々は先代猿之助が複数の役を早変わりを含めて演じる、
奮闘興行であったものを、
今回当代猿之助は自分の得意な舞踊劇の部分のみを演じ、
それ以外は右團次に任せるという配役で、
こうしたスタイルが、
今後の先代猿之助歌舞伎の継承としては、
無理のないものなのかも知れません。

惜しむらくは、
全体をしっかり見ている演出家が不在のために、
トータルな作品としては綻びが多かったのが残念でした。

当代猿之助さんには、
せめてこうした作品を上演する際には、
演出として細部に目を配って欲しいな、
と思いました。
ただ、そうしたくても出来ない事情があるのかも知れず、
一観客であり一ファンとしては、
今後の舞台を見守る以外にはないようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

天乃石立神社と一刀石 [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日は今年のお正月に参拝した、
奈良北方柳生の里にある神社を見て頂きます。

以前2012年の元旦にも参拝して、
その時にも記事にしています。
5年ぶりということになります。

芳徳寺という柳生家の菩提寺の裏手の山を、
少し上ったところにその神社はあります。
辺りは静寂に包まれ、
ほぼ人に出会うということはありません。

天乃石立神社は、
その昔天岩戸の石の扉が宙を飛び、
地面に突き刺さった場所だとされています。

その石の扉とされる巨石がこちらです。
天石立神社巨石.jpg
なかなかの迫力で、
この2つの巨石を含む周辺の神秘的な岩が、
この神社の祀るご神体そのものです。

こちらをご覧ください。
天石立神社拝殿.jpg
神社の拝殿ですが、
参道から鳥居を潜った位置からは反対側にあります。

ちょっと不思議な感じもするのですが、
まず神様の横を通って、
それから裏の拝殿に廻って、
お参りをする、
ということになります。

奥に見えているのもご神体で、
その裏に廻るとこんな感じになります。
天石立神社巨石②.jpg

周辺はまさにジブリの「もののけ姫」の世界です。
それほどのスケール感はないのですが、
心が洗われる感じがあります。

そして、拝殿から更に奥に進むと、
印象的な巨石があります。

それがこちらです。
一刀石遠景.jpg
一刀石と言って、
その昔剣豪柳生石舟斎が天狗と立ち合いをして、
一刀両断して翌日見たらこの石があった、
ということになっています。

なるほどと思う迫力です。

もう少し近づいてみます。
一刀石近景.jpg

僕の大好きな場所なのですが、
実は背後の山の向こうはもうゴルフ場になっています。
ちょっと悲しい感じもあるのです。

ただ、この場所自体の迫力と凄みは、
失われてはいない、
という思いがしました。

今日は古代の巨石の神秘を見て頂きました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごしください。

石原がお送りしました。

ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ローグワン.jpg
スターウォーズ・シリーズの、
サイドストーリー的な位置づけの作品が、
今世界同時公開中です。

これは物凄く褒めている方が、
ネットなどには多いのですが、
映画館はたまたまかも知れませんが閑散としていました。

僕は正直全然乗れませんでした。

僕はスターウォーズのシリーズは、
全作を封切りの映画館で観ていて、
エピソード4の日本公開の時には、
高校一年で登校拒否をしていた時だったのですが、
生きていても仕方がないかな、
などと思いつつ、
「スターウォーズ」を観るまでは死ねない、
というくらいに思っていました。
有楽町の日劇で観て、
横浜の映画館で観て、
渋谷パンテオンでも観ました。

そんな訳でそれなりにこのシリーズには愛着があるのですが、
この映画はダメでした。

スターウォーズの最高傑作で、
予備知識がなくても楽しめる、
というような絶賛のコメントが、
ネットなどには沢山あるのですが、
本当にそうでしょうか?

だって、これはエピソード4の前日談で、
旧作に登場した人物を、
わざわざ他の役者さんの顔を、
CGで加工してまで登場させ
(こういうのは出演料や肖像権はどうなるのでしょうか?
こんなことがどんどん広がったら、
本当に映画など観るのが嫌になります)、
エピソード4の始まる直前で終了する、
という作品なので、
単独で予備知識なく観て、
それほど楽しめるとは到底思えないからです。

ただ、絶賛の声の全てがステマとも思えないので、
つくづく色々な感想があるものだな、
と思いました。

以下ネタバレを少し含む感想です。

エピソード7の「フォースの覚醒」は、
意外と楽しめたのです。

レトロな感じを意識的に出していて、
かつてのキャラが年を取って登場するのも良いですし、
ロケの場面が多く、
自然の風景と特撮が融合している感じも新鮮だったのです。
キャラの設定も悪くありませんでした。

それに比べて今回の作品はどうでしょうか?

エピソード7以前と同じCGショーで、
人間まで顔を加工して「死人」を登場させるという、
何と言うか人工の極致です。
それでいて設定がエピソード4の前日談なので、
そこに繋がることを重視していて、
ビジュアルは古めかしく、
新鮮な要素は全くありません。

話はあまりに暗すぎませんか?

お家の重宝を巡って底辺に生きるやくざ者達が、
血みどろの殺し合いをする歌舞伎のようです。

ローグ・ワンというのは七人の侍で、
デス・スターの設計図さえ奪取出来れば、
自分の命など捨てても構わないという変わった人達です。
案の定その全員が殺されてしまい、
それでもプリンセスに設計図のデータが渡せれば、
それで良かった、ということのようです。

座頭市と片腕ドラゴンが登場、
というような設定も違和感があってうんざりです。
中国人を何人か出さないと、
興行的に成立しないというのが露骨で嫌になります。

クライマックスのビジュアルはドバイみたいですし、
砂漠の戦争はシリアの内戦のようです。
ある意味ならず者は上手く使って、
殺し合いをさせればそれで良い、
ということのようにも思えます。
この映画のデス・スターは、
明確に核兵器の隠喩です。

エピソード4は別にそんなことはなかったと思うのです。
デス・スターはデス・スターであってそれ以上でも以下でもなく、
巨大な悪の象徴というもっと大らかな世界です。
当時はスペースオペラという言葉がありました。
宇宙を舞台にした派手なおとぎ話がその本質でした。

その大らかさが今回の作品にはまるでありません。
ラスト主人公2人が抱き合って核爆発で死ぬ、
という場面の絶望的な暗さはどうでしょうか?

昔「ディープ・インパクト」という映画があって、
これは世界終末物としては大好きな1本でした。
ラストで仲たがいしていた親子が、
抱き合って最後を迎える場面は非常に感動的でしたが、
スペースオペラでそんなことをしてはいけません。

こんなものはスターウォーズではない、
というのが個人的な意見です。

そんな訳で今回の映画は、
僕の思うスターウォーズではなかったのですが、
これはもう個人的な見解なので、
違うご意見の方も、
どうか寛容にお読み頂ければと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

妊娠中のn-3脂肪酸の乳幼児喘息予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
不飽和脂肪酸の妊娠中の効果.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
青味魚の脂の成分を妊娠中に摂取すると、
生まれたお子さんの喘息や喘鳴が予防されたという、
ちょっとびっくりするような論文です。

青い魚の油が健康にいい、
という話は、
皆さんもよくお聞きになることだと思います。

魚、特にサバやイワシなどの青身魚には、
EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、
などの多価不飽和脂肪酸と呼ばれる脂質が多く含まれていて、
疫学研究などから、
魚を多く摂る人の方が、
心臓病や脳卒中の発症率が低い、
などの報告があり、
このEPAやDHAが、
動脈硬化の病気の予防や予後改善に、
効果があるのではないか、
という推測があります。

EPAには中性脂肪を下げ、
血管の内皮障害や炎症の抑制など、
動脈硬化の進展抑制に結び付くような、
多くの作用が実験的には報告されています。

しかし、このEPAやDHAを、
薬やサプリメントとして使用することにより、
他の有効性を確認された薬剤と同じような、
臨床的な効果があるかどうかについては、
まだ意見が割れています。

日本ではEPAやEPAとDHAの合剤が、
薬として使用されていますが、
これは世界的にはかなり特殊で、
通常はサプリメント的な扱いです。

2007年にLancet誌に発表された、
JELISと呼ばれる日本人のみを対象とした、
大規模臨床試験があり、
これは商品名エパデールという、
高純度のEPA製剤を、
コレステロールの高い患者さんに、
通常のコレステロール降下剤に上乗せして使用したところ、
心筋梗塞などの発症が有意に抑えられ、
特に脳卒中の発症は、
相対リスクで20%程度低下した、
という結果でした。

ただ、海外でサプリメントを使用した試験では、
このような明確な心血管疾患予防効果は再現されていません。

脂肪酸というのは、身体の中の油の総称で、
タンパク質のように窒素は含まず、
炭素と水素、酸素だけからなる、
シンプルな構造物です。
リン脂質や糖脂質、コレステロールやステロイドのような、
脂肪酸から由来する物質も多く、
この中には窒素を含むものもあります。

その大元である脂肪酸は、
二重結合のない飽和脂肪酸と、
二重結合のある不飽和脂肪酸に分かれます。

原子は他と繋がる手を、
決まった数だけ持っていて、
その手がそれぞれ別のものと繋がっているのが、
飽和で、2つの手が同じものと繋がっているのが、
不飽和ということになります。

分子量の大きい「不飽和脂肪酸」は、
その二重結合の位置が端から3番目のものと、
6番目のものとに分かれます。
EPAやDHAは、その3番目の位置のものに分類されるので、
n-3脂肪酸とか、ω‐3系多価不飽和脂肪酸、などと、
呼ばれているのです。

アラキドン酸という油があります。
レバーや卵黄、うになどに多く含まれています。
これはn-6のタイプの多価不飽和脂肪酸です。
脳を活性化すると言われていて、
人間に不可欠な油の1つです。

ただ、このアラキドン酸を取り過ぎると、
細胞の膜がアラキドン酸の多い構造になります。
すると、細胞膜は炎症を起こし易くなり、
動脈硬化の原因の1つとなります。

この時、アラキドン酸は減らさずに、EPAやDHAを多く取ると、
細胞膜のアラキドン酸がEPAやDHAに置き換わり、
血管の動脈硬化を抑えるのです。
これは動物実験のレベルで立証されています。

アラキドン酸はロイコトリエンという物質に変換され、
気管支喘息における気管支の炎症や収縮し易さには、
このロイコトリエンが関連を持っています。
そして、気管支喘息の治療薬として、
ロイコトリエンの拮抗薬が使用されています。

こうした知見からは、
妊娠中にn-3脂肪酸を沢山摂取することにより、
胎児の脂肪酸の組成を変化させ、
乳幼児期の喘鳴や喘息の発症を、
予防出来るのでは、という推測が可能です。

実際に疫学データとしては、
妊娠中のn-3脂肪酸が不足していると、
お子さんの喘息が増加する、
というような結果が報告されています。

そこで今回の研究では、
736名の妊娠中の女性を、
妊娠24週の時点でクジ引きで2つの群に分け、
本人にも臨床試験の施行者にも分からないように、
一方はEPAとDHAのサプリメントを1日2.4グラム使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
出産後のお子さんの経過を、
生後3年観察しています。

使用されているサプリメントは、
55%のEPAと37%のDHAを含むもので、
これまでの診療研究では1日1グラム程度のものが多かったので、
かなり高用量で使用がされています。

その結果…

実際に生まれた695名のお子さんの経過を解析した結果、
生後3年の時点までの持続的な喘鳴や喘息症状は、
n-3脂肪酸使用群の16.9%、
偽薬群の23.7%に発症していて、
サプリメントの使用により、
そのリスクは相対リスクで30.7%有意に低下していました。
(95%CI;0.49から0.97)

どういう妊娠された女性への使用で、
その効果が高いかを検証したところ、
EPAやDHAの血液レベルが3等分して低い群で、
54%の低下とその効果は高いことが認められました。

下気道感染症の発症リスクも25%有意に低下が認められましたが、
喘息の急性増悪や蕁麻疹などの発症リスクについては、
両群で有意な差はありませんでした。

この結果はかなり興味深いもので、
妊娠中にEPAやDHAのサプリメントを摂ることで、
お子さんの喘息が予防出来るとすれば、
画期的なことだと思います。
ただ、試験のデザインは厳密なものなのですが、
明確な差と言えるかは微妙なところで、
この影響がより長期間持続するかなど、
まだ不明の点も多く残っています。

今後の知見の蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


風邪のウイルスと体温との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは通常通りの診療になります。
今年もよろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ライノウイルスと体温.jpg
2015年のPNAS誌に掲載された、
ライノウイルスという風邪症状の代表的な原因ウイルスと、
体温との関連についての論文です。

風邪について、
よく最近如何にも物知り顔の医者と称する人が、
メディアなどで披露するうんちくの1つが、
「風邪の熱は下げてはいけない」
というものです。

その理由は熱が高い方が免疫力が高まる、
ということが多いのですが、
その根拠となるデータが、
明確に示されることはあまりありません。

こうしたことを人間で証明するには、
人為的に風邪のウイルスに感染をさせ、
熱を人工的に下げた場合と下げない場合とで、
その経過や血液中のリンパ球の反応などを、
介入試験で検証する必要があります。

ただ、人工的にウイルスに感染させるような試験は、
倫理的に問題がありますし、
熱をどのように測定し、
どのような方法で下げるか、
と言う点もまた問題があります。
解熱剤を使用するのが簡便ですが、
解熱剤の効果は個人差が大きく、
むしろ薬剤の効果と有害性とを、
検証する試験になってしまいます。

そうなると、
自然に風邪にかかった場合に、
熱を下げた人たちと、下げない人たちを、
後から比較するような試験になるのですが、
この場合は風邪の経過に影響する、
熱以外の要素が非常に多いので、
よほど沢山の集団で検証しないと、
信頼性の高い結果は得られにくいのです。
熱のみで比較すれば、
高熱が出る風邪の方が、
一般的には重症であるのですから、
それはあまり役には立たないのです。

それでは、何故解熱剤を使うと風邪が長引く、
のように言われるのかといえば、
主に動物実験などによる、
免疫と熱に関する基礎的なデータがあるからです。

こちらをご覧ください。
発熱とリンパ球の活性化.jpg
2011年のJournal of Leukocyte Biology誌に掲載された論文ですが、
ネズミを使った動物実験と細胞を培養した実験で、
身体に病原体が侵入した際に、
それを攻撃するリンパ球の活性化が、
温度によりどのように違うのかを検証しています。

風邪のウイルスを駆除するのに、
メインの働きをしているのは、
細胞障害性T細胞、
というタイプのリンパ球ですが、
このリンパ球はまず病原体の刺激に対して増殖し、
それから特定の病原体に特化した細胞に分化します。

特定の抗原に対する刺激を与え、
それから6時間33℃、37℃、39.5℃の条件で培養すると、
細胞の増殖には変化はなかったものの、
温度が高いほど特定の細胞への分化が、
より誘導されました。

これは熱が高いほど免疫が誘導されて、
風邪も早く治るのではないか、
ということを示唆する結果です。

ただ、高温の時間を6時間より長くしても、
その影響には違いはありませんでした。

これはそもそも人間の実験ではありませんし、
初期の高温が重要であって、
それ以降はあまり違いがない、
ということのようにも思えます。

年末くらいに出た週刊誌の健康記事に、
「これが本当に正しい風邪対策だ!」
というような特集があり、
そこに鼻を温めると風邪にかからない、
という不可思議な話がありました。

風邪のウイルスとして最も頻度が高いライノウイルスは、
高温では増殖が出来ないので、
鼻の中を温めると感染しないというのです。

こんなことがあるのでしょうか?

その1つの根拠となっているのが、
最初にご紹介した論文です。

ライノウイルスというのは風邪のウイルスの代表選手の1つですが、
通常重症化は稀だと考えられて来ました。
典型的な「風邪症状」で終わり、
あまり肺炎などは起こさないのです。
風邪は寝ていれば治る、
というようなことが言われるのは、
ライノウイルスによるものが多いからです。

ただ、最近の報告では、
喘息やCOPDの急性増悪の際には、
そのきっかけとしてライノウイルスの関与が大きい、
という複数の報告があります。

そして、もう1つこのウイルスの特徴として、
温度が33℃から35℃という比較的低温の環境では、
このウイルスは増殖が促進されますが、
より高温の37℃くらいの環境では、
あまり増殖しないという性質があります。

通常鼻腔が33℃から35℃くらいで、
肺胞は37℃くらいに保たれているので、
ライノウイルスは肺炎などは起こしにくいと、
考えられている訳です。

ただ、その一方で培養細胞での実験では、
温度が違っても、
ライノウイルスの増殖能や感染力には違いがなかった、
というような結果も報告されています。

それでは、何故ライノウイルスは生体内で、
低温環境でしか増殖しないのでしょうか?

それを検証したのが上記の論文です。
ここではネズミの気道の細胞を使用して、
ライノウイルスの感染力と温度、
そして免疫能との関連をみているのですが、
その結果として、
33から35℃という環境より37℃という環境において、
生体の側の感染防御能が高まり、
それにより気道への感染が防御されていることが確認されました。

これが鼻を温めると良いという、
健康記事の根拠となるのですが、
理屈はともかくとして、
その結論は疑問です。

鼻の粘膜は中心温より低いのが正常な状態なので、
それを無理に温めたからと言って、
感染が予防されるという保証は全くありませんし、
のぼせて鼻血が出るのが関の山という気がします。

このように、
「風邪の時には熱を下げない方が早く治る」
という言説は、
確かに細胞障害性T細胞の分化は、
高温の方が高まり、
ライノウイルスは37℃以上ではあまり増殖しない、
と言う点では一定の根拠があるのですが、
その多くは基礎実験で人間でも同じことがあるかは定かではなく、
風邪の経過において、
どの時期の高温が免疫力を高めるのか、
という点においても検証が不十分であると思います。

個人的には、
上記のようなデータから考えて、
発症早期で細胞障害性T細胞が分化するまでの期間は、
比較的高温であることが、
免疫力を高めるために必要であると想定されますが、
その時期を過ぎて発熱が遷延している状態は、
サイトカインなど炎症物質の増加が、
身体にむしろ有害な影響を与える可能性も高く、
解熱が決して有害とは言い切れないように思います。

先日ご紹介した論文で、
インフルエンザで重症感のある入院時に、
発熱後4日目と5日目のみに消炎鎮痛剤を使用することで、
その予後が改善するというものがありましたが、
サイトカインの上昇の後半にターゲットを当てた、
という意味では理にかなっているような気がします。

つまり、発症当日の発熱は、
原則として下げない方が良い、
というのが、
現行の知見からは妥当な判断ではないかと思います。

今日は発熱と風邪の経過についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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和束弥勒摩崖仏(2017年再撮影) [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はまだクリニックは休診ですが、
グループホームの診療などには廻る予定です。

今日はお正月に奈良でお逢いした、
摩崖仏の画像を観て頂きます。

石仏というのは藝術性は高くても、
風雨にさらされるという特性から、
お堂の中などに安置される仏像より、
風化して消滅することが遥かに多い、
極めて儚い藝術です。

その中でも摩崖仏というのは、
崖の岩のそのまま彫り込まれたものなので、
よりその儚さが強いのです。

街道に目印で置くような小さな石仏は、
特に室町時代の後期からは大量に造仏されるようになります。
これは工房で作られるようなものなので、
商品として作られるようになり、
今作られるものとそれほど変わりはありません。
魂の籠ったもの、と言う感じはあまりしないのです。

矢張り石仏が素晴らしいのは、
室町時代の初期より以前、
より狭めれば鎌倉時代までの石仏です。

ただ、はっきりと鎌倉時代以前に造仏された石仏というのは、
そうざらに残っているものではありません。

その中でも素晴らしい仏様の1つが、
今日ご紹介する和束弥勒摩崖仏です。

和束町は京都南方、宇治市に近い位置にある、
川沿いの小さな町で、
お茶の産地として知られているところですが、
川沿いの抜群のロケーションの岩肌に、
見事な石仏が刻まれています。

そのお姿がこちらです。
和束弥勒摩崖仏遠景.jpg
前回対面したのは2013年のお正月のことでした。
その時は道も整備されておらずに立札などもありませんでした。

それが今回は川沿いの道が整備されていて、
立札も何か所かに設置されていました。
こちらをご覧ください。
和束弥勒摩崖仏への道.jpg
のどかなお茶の畑に沿って、
整備された道が続いています。
でも石仏の周囲は簡単な柵があるだけで、
その辺も自然の雰囲気を壊しすぎずに悪くないのです。

僕が考える良いロケーションの摩崖仏というのは、
遠景があって、
それから近接した見上げもある、
ということです。

その両方がここにはあります。

遠景の画像をもう1枚見て頂きます。
こちらです。
和束弥勒摩崖仏遠景②.jpg
遠くから最初に見えるこの風景が感動的です。
自然物と岩と木々の緑と苔むす岩の中に、
仏様のお姿を見つける瞬間が感動なのです。
大きさは画像では分かりにくいと思いますが、
光背などを含めれば⑦メートル近い大きさがあります。
日本の石仏は概ね小さく、
古仏でここまで大きなものは非常にまれです。

そして、少しずつ近づきます。
以前は石仏の彫り込まれた岩の正面に、
足場のようなものが組まれていたのですが、
それが今回は取り外されています。
そのために、柵の内側からだと、
今は横から石仏を拝見するしかないのですが、
正面に廻ることも出来るようにはなっています。

目の前での見上げがこちらです。
和束弥勒摩崖仏見上げ.jpg

これが室町後期以降の石仏にはない、
古仏の大らかな描線です。
見にくいのですが右側に碑文が刻まれています。
こちらです。
和束弥勒摩崖仏碑文.jpg
ちょっと読めませんが、
1300年に造仏されたことが刻まれています。
このように、鎌倉時代に作られたことが確実、
という摩崖仏は実際にはほとんどありません。
国宝に認定されてもおかしくないと個人的には思いますが、
石仏が重要文化財や国宝になることは、
実際にはほとんどありません。

最後にもう1枚お顔のアップを見て頂きます。
和束弥勒摩崖仏アップ.jpg
素晴らしいですよね。
最高です。

いつ消え失せるか分からない儚い藝術です。
でもだからこその魅力、
摩耗していつかは自然に帰るという無常感が、
それだけに心を打つのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

2016年のオペラと声楽を振り返る [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

お正月はいつものように奈良に行って、
今帰って来たところです。

今日は昨年聴いたオペラと、
声楽のコンサートを振り返ります。

昨年聴いたオペラはこちら。
①東京春音楽祭「ジークフリート」(演奏会形式)
②ウィーン・フォルクス・オパー「こうもり」
③新国立劇場「ローエングリン」
④ローマ・イタリア歌劇団「ラ・ボエーム」
⑤新国立劇場「ワルキューレ」
⑥マリインスキー・オペラ「エフネギー・オネーギン」
⑦ウィーン国立歌劇場「ナクソス島のアリアドネ」
⑧ウィーン国立歌劇場「ワルキューレ」
⑨ウィーン国立歌劇場「フィガロの結婚」
⑩マリインスキー劇場管弦楽団ベルリオーズ「ロミオとジュリエット」
⑪ザルツブルク・イースター音楽祭「ラインの黄金」(ホールオペラ形式)
⑫新国立劇場「ラ・ボエーム」
⑬新国立劇場「セビリアの理髪師」
⑭NHK交響楽団定期公演「カルメン」(演奏会形式)

昨年はワーグナーの上演が非常に充実していて、
新国立劇場のワーグナーは高水準の舞台ですし、
東京春音楽祭の指輪上演も、佳境に入っています。
ウィーン国立歌劇場も珍しく「ワルキューレ」を持って来ましたし、
何と言っても、
ティーレマン指揮によるワーグナーの全曲を、
日本で聴くことが出来たのは至福の時間でした。

最近では引っ越し公演とは言っても、
節約気味の舞台になることがほとんどなので、
中途半端に装置や衣装などがあるよりも、
演奏会形式の方がしっくりと来る感じです。
音楽のイメージがあまり壊されることがないからです。
12月に聴いたN響の「カルメン」も、
カルメン役の歌手が派手な深紅のカクテルドレスで、
全編を歌い踊ってくれるので、
まなじなセットと衣装のあるオペラより、
「カルメン」もこの方が全然良いと思いました。
セットのある「カルメン」では、
意外に貧相な恰好をカルメンはしていて、
それで何となく盛り下がることが多いからです。

それから昨年は以下のような、
声楽のコンサートに足を運びました。
①アンナ・ネトレプコ ソプラノリサイタル
②タラ・エロート メゾソプラノリサイタル
③モイツァ・エルトマン ソプラノリサイタル
④パオロ・ファナーレ テノールリサイタル
⑤レザール・フロリサン リサイタル
⑥アントニーノ・シラグーザ テノールリサイタル

それからヨナス・カウフマンが来る予定で、
チケットは用意していたのですが、
ドタキャンになりました。
来年に延期されましたので、
これまでのことを考えると、
来年は多分来てくれるのではないかと思います。

今年はアンナ・ネトレプコのリサイタルが、
これは待望の来日で、
大分恰幅が良くなられましたが、
さすがプリマドンナという迫力の歌でした、
それから、最近体調と声の調子の悪いことが多かった、
ロッシーニ・テノールのシラグーザが、
本当に久しぶりに、
ほぼ絶好調という歌を聴かせてくれたのが、
非常に感動的でした。

来年は最愛のデセイ様が来日されるので、
もう声はヘロヘロなのだろうなあ、
とは思いながらも、
ドキドキともう落ち着かなくなってしまうのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

2016年の映画を振り返る [映画]

新年おめでとうございます。

北品川藤クリニックの石原です。

今年もよろしくお願いします。

今日は昨年観た映画を振り返ります。
昨年はそれまでより沢山の映画を観ました。
昨年映画館で観た映画がこちらです。

1.劇場霊
2.007スペクター
3.ピンクとグレー
4.マッドマックス怒りのデスロード
5.オデッセイ
6.ディーパンの闘い
7.スティーブ・ジョブズ
8. マネーショート
9.ヘイトフルエイト
10.僕だけがいない街
11.リリーのすべて
12.バットマンvsスーパーマン
13.蜜のあわれ
14.レヴェナント 甦りしもの
15. 怪談せむし男
16.スポットライト
17.アイアムアヒーロー
18.スキャナー記憶のカケラをよむ男
19.ハイル・シーサー
20.アイヒマンショー
21.クリーピー 偽りの隣人
22.デッドプール
23.10クローバーフィールド・レーン
24.教授のおかしな妄想殺人(ウディ・アレン新作)
25.海より深く
26.too young too die
27.貞子vs伽椰子
28.帰ってきたヒトラー
29.シング・ストリート 未来へのうた
30.インディペンデンスデイ リサージェンス
31.ロスト・バケーション
32.シン・ゴジラ
33.秘密
34.君の名は。
35.ゴーストバスターズ(新作)
36.エルクラン
37.怒り
38.聲の形
39.永い言い訳
40.パシフィック・リム
41.ダゲレオタイプの女
42.何者
43. デスノート Light up the NEW world
44.溺れるナイフ
45.この世界の片隅に
46.ルーム
47. ハドソン川の奇跡

以上の47本です。
これも前半は結構詰めて観ていたのですが、
後半数か月は色々と用事が重なったり、
体調を崩したりして、
本数はかなり減りました。

良かった5本を順不同、洋画邦画問わずで、
エントリーしてみます。

①君の名は。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-08-27-1
言わずと知れた大ヒットアニメですが、
初日に観れたのが良かったような気がします。
映像は見事なまでに美しく、
ストーリーも斬新で純粋でした。

②シン・ゴジラ
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-07-31-1
ちょっと乗り切れないところや、
ゴジラ映画にありがちな野暮ったさもあるのですが、
矢張りここまでやってくれると拍手喝采という感じです。
北品川上陸がとても嬉しかったです。

③帰ってきたヒトラー
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-07-10-2
ワンアイデアの地味な映画なのですが、
なかなかどうしてしたたかなコメディで堪能しました。
ドイツの懐の深さを感じさせます。

④レヴェナント 甦えりし者
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-04-24-1
映画としては、こういう感じのものが、
僕は好きです。
人間が執念の復讐劇を繰り広げる中で、
最後に神話の領域、神の領域にまで入ってゆきます。
映像が美しく、
マカロニウェスタンからタルコフスキーまでが、
ごった煮のように投入されています。

⑤この世界の片隅に
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-12-30
今年はもう何と言ってもアニメの年です。
その掉尾を飾るこの作品は、
1人の女性の生きざまを、
博物誌のような膨大な情報量で綴る、
昭和叙事詩です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。