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大腸癌の予防としての消炎鎮痛剤の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸がんの化学予防.jpg
昨年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
大腸癌の予防ために消炎鎮痛剤を使用した場合の、
効果と安全性とを検証した論文です。

大腸癌は世界的には3番目に多い癌で、
その85%以上は、
腺腫という良性の病変から、
遺伝子の変異を繰り返して発癌に至る、
というメカニズムで発症することが分かっています。

これが所謂「大腸ポリープ」で、
良性の腺腫性のポリープがある程度の期間を経て、
癌になるのです。

癌にも幾つかの進行のパターンがあり、
甲状腺乳頭癌は良性の腺腫が癌になるのではなく、
最初から癌細胞が増殖すると考えられています。
こうした癌では、早期に発見することが、
必ずしも予後の改善には繋がりません。
つまり、早期発見のための癌検診に、
あまり意味がない、ということになります。

その一方で高分化型の胃癌の一部や、
大腸癌の大部分は、
腺腫という良性のしこりが、
ある程度の期間を経て癌になるので、
こうした癌になる前の状態、
つまり「前癌性病変」の段階でしこりを見つけ、
切除することにより、
癌を予防することが可能になります。

これが胃癌検診や大腸癌検診に、
一定の有効性が期待出来る理由です。

胃癌に関しては、
欧米ではその発症が少ないという点や、
スキルスなど予後の悪い癌は、
腺腫からは進展していないという点などから、
必ずしも胃カメラによる胃癌検診の効果が、
実証はされていません。

その一方で大腸癌については、
大腸ファイバーによる癌検診を行なうことにより、
癌の死亡の低下に繋がることが、
ある程度確認をされています。
50歳代で1回大腸ファイバーを行なうことにより、
総死亡のリスクも低下したというデータもあります。
便潜血による検診も、
その後の二次検査が適切に行われれば、
一定の有効性が期待出来ます。
(遺伝性の明確な癌は除きます)

ただ、問題はどのような間隔で、
どのような検査を行なうことが、
最も効果的で合理的であるか、
ということです。

初回の検査で腺腫性ポリープが発見された場合、
どのくらいの間隔で次の検査を行なうべきでしょうか?
5年ごとという間隔を設定しても、
その間に癌が進行することは、
ない訳ではありません。
それでは、毎年検査を行なうべきでしょうか?
勿論それは必要性にもよるでしょうが、
画一的にそうした検診を行なえば、
コストは膨大になりますし、
無駄な検査や過剰診断も問題となります。

ここで1つの考え方は、
最初の検査で腺腫性ポリープが発見され、
その切除を行なった患者さんに対して、
その再発予防のための治療を行なう、
という方法です。

腺癌の進展予防や遠隔転移の予防に対して、
アスピリンやNSAIDsのような消炎鎮痛剤に、
一定の有効性のあることが知られています。

これはCOXという酵素を阻害することが、
炎症を抑えるとともに、
癌の増殖や転移に関わる経路を抑制することが、
そのメカニズムと考えられています。

ただ、消炎鎮痛剤には胃腸障害や急性の腎障害などの、
副作用のリスクがあり、
全ての方がそうした薬を継続的に使用することが、
適切な方針とは言えません。

従って、腺癌の発症リスクが高い集団として、
大腸ファイバーで腺腫性のポリープもしくは早期癌が見つかり、
その切除を行なった人たちに限定して、
そうした治療を行なうことが考えられました。

今回の研究ではこれまでの臨床データをまとめて解析する方法により、
使用する消炎鎮痛剤の種類と、
癌予防の効果と安全性とを検証しています。
ネットワーク・メタ解析という、
新しい手法が活用されています。

対象となっているのは、
年齢が18歳以上で大腸ファイバーにより、
腺腫性ポリープや大腸癌が発見されてその切除を受けた方で、
その後アスピリン、
もしくはNSAIDsと呼ばれる消炎鎮痛剤、
カルシウムや葉酸など、
癌予防の効果が想定される薬剤なサプリメントを使用して、
その3から5年後の大腸ファイバーにより、
転移性の癌が、
どれだけ未使用と比較して予防されたかを比較検証しています。

15のこれまでの介入試験のデータを解析し、
トータルで12234名の患者さんが対象となっています。
その結果、癌の転移の予防効果が、
未使用と比較して最も高かったのは、
セレコキシブスリンダクという、
アスピリン以外のNSAIDsで、
未使用と比較して癌の転移を、
63%有意に低下させていました。
(95%CI;0.24から0.53)

次に有効性が高かったのは、
低用量(1日160mg以下)のアスピリンで、
29%癌転移のリスクを低下させましたが、
これは有意ではありませんでした。
(95%CI;0.41から1.23)

ただ、薬剤の安全性という点で見ると、
そのリスクが相対的に低かったのは、
低用量のアスピリンでした。

従って、有効性という点で言うと、
セレコキシブとスリンダクが、
最も高いのですが、
有害事象とのバランスという点で考えると、
低用量のアスピリンが勝っているという結果になりました。

このように、
大腸腺腫が見つかったような場合に、
消炎鎮痛剤の使用には進行癌予防として一定の有用性があるのですが、
有害事象とのバランスも考えると、
その選択にはまだ確実というものはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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