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加藤拓也「いつぞやは」(シス・カンパニー公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
いつぞやは.jpg
新進気鋭の劇作家加藤拓也さんの新作が、
今シス・カンパニー公演として上演されています。

加藤さんのことは大好きなので、
これはもう見逃せないと駆けつけました。

今回の公演は窪田正孝さんが主演の予定であったのですが、
病気のために急遽降板となり、
加藤作品ではお馴染みの平原テツさんが代役となりました。

内容は「ドードーが落下する」に非常に良く似ていて、
劇団を主宰している、
加藤さん自身の分身のような橋本淳さん演じる人物の視点から、
先輩の役者で引退していた、
平原さん演じる男の人生の最後が描かれます。

「ドードーが落下する」では、
平原さんの演じる役柄は、統合失調症であったのですが、
今回の作品では末期癌で薬物依存症、
ということになっています。

ただ、おそらくは同じ1人の人物が、
モデルになっているように思われ、
同じ平原さんが演じていることもあって、
両者は違う作品というより、
同じ1つの作品の変奏曲のように思われます。

構成も同じ場面を複雑に反復しつつ展開するのは、
「ドードーが落下する」と同じなのですが、
今回は末期癌の平原さんから、
橋本さんは「自分の人生を芝居にして欲しい」と頼まれる、
という設定になっていて、
その劇作に向けての試行錯誤が、
そのまま舞台上に表現され、
ラストは実際の戯曲が書かれる場面で終わります。

個人的には「もはやしずか」が素晴らしくて、
加藤さんのファンになったので、
もっと古典的でガッチリした構成のお芝居が観たいな、
というような思いはあります。

あの作品はイプセンみたいだったですし、
イプセンを超えるような台詞劇の傑作を、
加藤さんは日本を舞台に描いてくれる人だと思っています。

その意味では「ドードーが落下する」や今回の作品は、
悪い意味で小劇場演劇的で、
作者の意識の流れをそのまま舞台に載せた、
というような感があり、
個人的にはあまり納得がいきませんでした。

友人から自分の人生を芝居にして欲しい、
と依頼されたとして、
矢張その経緯を芝居にするのではなくて、
最終的に仕上がった作品をこそ、
上演するべきではないでしょうか?

勿論こうした変化球の舞台作りも、
小劇場では当たり前のようにあるものですが、
僕は加藤さんは古典的な台詞劇を書ける人だと思っているので、
こうした変化球はあまり見せて欲しくないな、
というが正直な思いなのです。

今回の舞台はただ、
窪田正孝さんが予定通り出ていれば、
かなり印象の変わるものになっただろうな、
ということは予想が出来ます。
彼の独特の執着的お芝居が中央にあると、
作品世界そのものがその様相を変えたと思いますし、
内容は同じでも鑑賞後の感想は違うものになったと思います。
その点は不可抗力で仕方のないことなのですが、
観客としては非常に残念ではありました。

それから鈴木杏さんと夏帆さんという、
今女優さんとして絶好調と言って良い2人が、
出演されているのですが、
特に夏帆さんは非常に勿体ない使い方で、
何か役柄が小さいことは理由があったのかも知れませんが、
彼女の魅力が発揮されているとは言い難いという点も残念でした。

そんな訳でちょっとモヤモヤする観劇ではあったのですが、
加藤拓也さんが今最も注目すべき劇作家の1人であることは間違いがなく、
これからもその舞台を期待して待ちたいと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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非びらん性胃食道逆流症の食道癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
非びらん性胃食道逆流症の食道癌リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年9月13日付で掲載された、
胃酸の食道への逆流のリスクについての論文です。

胃食道逆流症というのは、
本来胃の中だけで働く筈の胃酸が、
胃の入り口の緩みなどを原因として食道に逆流し、
胸やけや咽頭痛などの症状を出すことをそう呼んでいます。

そうした症状があって胃カメラの検査をすると、
食道の粘膜にびらんや潰瘍などの変化が見られることがあり、
バレット食道と言って、
食道の粘膜が胃の粘膜のように、
赤く変性しているような所見が見られることもあります。
このように食道の粘膜に目で見て分かるような変化のあるものを、
「逆流性食道炎」と呼んでいます。
一方で同じように胃酸が逆流して症状があっても、
胃カメラをしてみると食道粘膜は全く正常、
ということもあります。
これを「非びらん性胃食道逆流症」と呼んでいます。

胃食道逆流症は、
食道腺癌のリスクになることが知られています。

ただ、それが全ての胃食道逆流症について当て嵌まるものなのか、
それとも胃カメラで所見のある、
逆流性食道炎に限定したものなのか、
という点については、
それほど確かなことが分かっていません。

今回の臨床研究は、
北欧のデンマーク、フィンランド、スウェーデンにおいて、
胃内視鏡検査で「非びらん性胃食道逆流症」と診断された、
トータル285811名の患者を、
31年を上限とする長期の観察を行って、
その間の食道腺癌発症のリスクを、
病気のない一般集団と比較検証しているものです。

その結果、
非びらん性胃食道逆流症の患者における食道腺癌の発症リスクは、
年間10万人当たり11.0件と算出され、
これは一般住民で算出された発症リスクと、
有意な差はありませんでした。
一方でびらん性の逆流性食道炎の患者における同様のリスクは、
年間10万人当たり31.0件で、
これは一般住民と比較して、
2.36倍(95%CI:2.17から2.57)有意に増加していました。

このように、
胃食道逆流症で食道癌のリスクが高くなるのは、
びらん性の逆流性食道炎に限定された現象で、
非びらん性胃食道逆流症においては、
そのリスクは一般と同等と、
そう考えて大きな誤りはないようです。

逆に言えば胃食道逆流症を疑わせる症状のある時は、
可能な限り胃内視鏡検査でのチェックを行い、
そのリスクの判定を行うことが重要であると言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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進行心不全における心房細動アブレーション治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
末期心不全におけるアブレーションの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年8月27日付で掲載された、
進行した心不全の状態にある心房細動の患者さんに対する、
アブレーション治療の有効性についての論文です。

心房細動というのは、
心臓の心房という部位が不規則に収縮する不整脈で、
脳梗塞や心不全のリスクとなることで知られています。

心房細動の治療の第一選択は、
心臓にカテーテルを入れて、
不整脈の原因となっている部位を焼却する、
カテーテルアブレーションと呼ばれる治療です。

ただ、心臓の機能が診断の時点で高度に低下している、
進行心不全の状態にあると、
その時点でのアブレーション治療が、
患者さんの予後の改善に結び付くかどうかは明らかではありません。

通常の臨床試験においては、
そうした患者さんは除外されていますし、
心機能が高度に低下している患者さんでは、
全身状態が治療により改善するかどうかを、
推測することは難しいと思います。
またそうした患者さんは全身状態も悪いことが多く、
アブレーション治療の合併症などのリスクも、
高くなることが想定されます。

今回の臨床試験においては、
ドイツの単独施設において、
左室機能の指標である駆出率が35%以下に低下し、
臨床的な心不全の指標であるNYHA分類でも、
クラスⅡ以上(日常的な動作でも息切れなどの症状がある)の、
心房細動を伴う進行心不全の患者さんを、
くじ引きで97名ずつの2つの群に分けると、
一方は登録20日以内にカテーテルアブレーション治療を施行し、
もう一方は標準的な心不全の治療のみを施行して、
その経過を比較検証しています。

試験は3年の観察の予定でしたが、
1年の時点で明確な差が認められたため、
早期で終了となっています。

登録後1年の時点で、
総死亡と人工心臓や心臓移植の施行を併せたリスクは、
通常治療群では30%に発生したのに対して、
アブレーション施行群では8%に留まっていて、
アブレーションの施行は総死亡などのリスクを、
76%(95%CI:0.11から0.52)有意に低下させていました。
処置関連の合併症はアブレーション群で3例に認められました。

今回の検証においては、
進行心不全の患者さんにおいても、
アブレーション治療の明確な有効性が確認されていて、
単独施設の結果であるなど、
今後検証が必要なデータではありますが、
アブレーション治療の適応については、
今後議論が進むことになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。


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MIND食の認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は在宅診療などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
MIND食の認知症予防効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年9月17日付で掲載された、
認知症の進行に与える食事の影響についての論文です。

心血管疾患や高血圧症の予防のために、
有効とされている食事療法が、
認知症の予防にも役立つという知見は幾つかあります。

その代表は「MIND食」と呼ばれるもので、
これは心血管疾患のリスクを下げる地中海ダイエットと、
高血圧の予防効果があるとされるDASH食を組み合わせたものです。

具体的には、
全粒穀物や野菜、豆、鶏肉、オリーブオイル、
魚などを多く摂り、
赤身肉、バターやマーガリン、チーズ、
白いパンやお菓子などは控えるという食事です。

こうした食事習慣が認知症を予防したとする、
観察研究のデータは幾つかあるのですが、
くじ引きで対象を選んで比較するような、
より厳密な介入試験のデータはこれまで殆どありませんでした。

そこで今回の研究はアメリカの2施設において
年齢が65歳以上でBMIは25以上、
登録の時点で認知機能低下はなく、
認知症の家族歴のある604名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はMIND食を継続し、もう一方は軽度カロリー制限のみの通常食を継続して、
3年の経過観察を施行しています。

その結果、
両群で認知機能には軽度の改善が認められ、
両群間の明確な差は認められませんでした。
MRI所見での検証でも、
両群に差は認められませんでした。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

不摂生が認知症の進行にも影響を与えることは事実だと思いますが、
自分で注意出来るレベルの食事改善でも、
科学的に検証されたMIND食でも、
少なくとも3年程度の期間においては、
それほどの違いはないようです。

このように観察研究では有効性が認められても、
厳密な介入試験を行うと差がない、
というケースは、
他のサプリメントや食事療法でも、
しばしば見られる現象で、
サプリメントや食事の効果は、
「そのレベルのもの」と考えて、
可能な範囲で気楽に継続することが吉であると、
そう考えて大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者の心臓カテーテル治療の方法とその予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
責任病変以外のカテーテル治療の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年9月7日付で掲載された、
高齢者における心筋梗塞の治療戦略についての論文です。

急性心筋梗塞というのは、
心臓を栄養する冠動脈という血管が、
動脈硬化などを原因として狭窄し、
そこに血栓が詰まるなどして、
完全に狭窄部より先の血流が途絶した状態のことで、
通常急性心筋梗塞と診断された患者さんは、
速やかに専門施設で心臓カテーテル検査を行い、
途絶した部位の血流を、
再開させるような治療を行います。

特に高齢者の場合、
ある部位の血管が詰まった心筋梗塞を疑って検査を行い、
確かにその部位に高度の狭窄や閉塞はあるものの、
冠動脈の他の複数の部位にも、
将来閉塞の可能性があるような、
狭窄病変が見つかることがあります。
この場合、心筋梗塞の原因となっている病変のことを、
「責任病変」と呼んでいます。

このような多枝病変をどのように治療すれば良いのでしょうか?

高齢で治療のリスクもあるような患者さんの場合、
責任病変のみを治療して、
他の狭窄病変については、
保存的な治療で様子をみる、
というのが1つの考え方です。

もう1つの考え方は、
将来狭窄を来す可能性のあるような、
50%以上の狭窄のある病変については、
責任病変以外も漏れなくカテーテル治療を施行する、
という考え方です。

患者さんの予後という観点から見た時に、
そのどちらがより予後の改善に結び付いているのでしょうか?

今回の研究はイタリア、スペイン、ポーランドの複数の専門施設において、
75歳以上で急性心筋梗塞に罹患し、
カテーテル検査の結果多枝病変であった、
トータル1445名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は責任病変のみの血流再開の治療を施行し、
もう一方は責任病変以外の狭窄病変も全て治療して、
その1年後の時点での予後を比較検証しています。

その結果、
術後1年の時点での死亡、心筋梗塞の再発、脳梗塞、
心臓カテーテル治療の施行を併せたリスクは、
責任病変のみ施行群の21.0%に発症したのに対して、
完全治療群では15.7%の発症に留まっていて、
多枝病変の全てを治療することは責任病変のみの治療と比較して、
そのリスクを27%(95%CI:0.57から0.93)有意に低下させていました。
両群の合併症の発症には有意な差はありませんでした。

このように、
リスクの高い高齢者においては、
多枝病変の全てを治療する治療戦略の方が、
責任病変のみの治療に留める戦略よりも、
1年後の予後においては優れていることが確認されました。

今後の心臓カテーテル治療の施行において、
非常に参考になる知見であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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セマグルチドによる早期1型糖尿病治療効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
セマグルチドの1型糖尿病治療効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年9月7日付で掲載されたレターですが、
最近注目されている糖尿病治療薬の、
通常は禁忌とされているような使い方により、
画期的な効果があったとする、
非常に興味深い報告です。

GLP-1アナログというのは、
低血糖を来しにくい糖尿病治療薬で、
心血管疾患リスクを低下させるという臨床データがあり、
体重減少効果もあることより、
最近注目されています。
セマグルチドはその代表的な薬剤の1つで、
元々は注射薬ですが、
最近では飲み薬のタイプも開発されています。

GLP-1アナログは、
基本的に膵臓を刺激してインスリンの分泌を促す作用があるので、
膵臓の働きが一定レベル保たれていることが、
その使用の条件になります。
そのため、
インスリンの分泌低下は軽度の2型糖尿病がその適応で、
インスリンとの併用が事例により行われることはありますが、
膵臓に自己免疫系の炎症が起こり、
インスリンの分泌が高度に低下する1型糖尿病は、
使用の対象としないことが定められています。

しかし、1型糖尿病でも、
その初期においては膵臓のインスリン分泌は回復する可能性があり、
そうした時期にGLP-1アナログを使用することで、
その予後を改善する可能性があるのではないでしょうか?

今回の試験的な研究では、
年齢が21から39歳で1型糖尿病と診断されて3か月以内の、
10名の患者に強化インスリン療法と共に、
GLP-1アナログのセマグルチドを、
週1回0.125㎎から皮下注射を開始。
有害事象に留意しながら0.5㎎まで増量し、
その後1年の経過観察を施行しています。

その結果、
10人全員が3か月以内に食前インスリン投与が不要となり、
基礎インスリンについても、
6か月以内に7名が不要となりました。
インスリンの生涯に渡る使用が不可欠の筈の1型糖尿病で、
本来使用禁忌に近いの筈のGLP-1アナログのみの治療により、
インスリンなしでのコントロールが可能となったのです。

これが事実であるとすれば相当画期的な知見です。

ただ、事例は10例と少なく、
コントロール群も設定されていませんから、
まだ試験的な結果に過ぎないものです。
1型糖尿病の診断自体は厳密に行われていますが、
一見そのように見えても、
実際には2型糖尿病の一時的な増悪という可能性も、
完全には否定は出来ません。
また、GLP-1アナログには急性膵炎などの有害事象の報告もありますから、
安易な使用は却って病状を悪化させる可能性もあります。

従って、現時点でこうした治療を、
安易に行うことは厳に慎むべきですが、
今後コントロール群も設定して、
より多数例での検証が早急に必要であると思いますし、
その結果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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木ノ下歌舞伎「勧進帳」(2023年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
勧進帳.jpg
木ノ下裕一さんが、
古典歌舞伎を現代的に大胆にアレンジして上演する、
木ノ下歌舞伎の代表的な演目の1つ「勧進帳」が、
今池袋で上演されています。

最近歌舞伎からはすっかり足が遠のいてしまいましたが、
一時期はほぼ毎月歌舞伎座に昼夜足を運んでいた時期もあったので、
歌舞伎にはそれなりに愛着があります。

歌舞伎は勿論古典ですから、
現代の感覚には合わない部分もあり、
難解な部分もあります。
歌舞伎のマニアになると、
むしろその現代の感覚と違う部分こそが、
得難い魅力に感じるのですが、
一般の多くの方にとっては、
もっと分かり易く現代に通じる作品を、
と期待する意見のあることは理解出来ます。

そこで歌舞伎を現代演劇と同じ土俵で捉え直す、
というような試みをする演劇もあり、
現行その代表的なものの1つが、
木ノ下歌舞伎です。

以前代表作の1つとされる「黒塚」を観ました。
小劇場的な演技スタイルの役者が、
軽妙なやり取りで話を進める辺りは面白かったのですが、
原作の見せ場である中段の舞踊や、
後半の荒事の部分が、
原作を超えるような新たな見せ場にはなっていない、
という点が物足りなく感じました。

単独の演劇作品としてはまずまずなのですが、
歌舞伎舞踊の「黒塚」を、
どのようにリニューアルするのだろう、
という視点で観ていると、
やや肩透かしのように感じたのです。

今回は歌舞伎の代表的人気演目の1つ「勧進帳」で、
評価も高い作品の再演ですし、
原作をどのように換骨奪胎させるのか、
楽しみにして出掛けました。

鑑賞後の感想は微妙なところで、
今にも通じる暴力と権力の悲劇として、
義経と弁慶の物語を立ち上がらせている点は、
良かったと思いますし、
富樫の人物像に絞った作劇も面白いと思います。
ただ、原作を知っていると、
一番の盛り上がりは、
勧進帳を弁慶が読み上げるところ、
中段で両群が荒事的に対峙するところ、
最後の弁慶の飛び六方、の3か所でしょ。
その3か所とも、
原作を超える盛り上がりには到底なっていないんですね。
読み上げと対峙するところは、
基本的に原作の動きに近い演出になっているんですね。
それでは芸がないな、と思いました。
そして最後の飛び六方に至っては、
カットしてしまって、
別役実さんの「壊れた風景」のような、
空虚なエンディングにしているんですね。
勿論空虚なエンディングでも良いけれど、
飛び六方は何か別の形で、
原作の最大の見せ場なのですから、
残して欲しかったな、と思いました。

弁慶を関西弁を喋る白人種の大男にしていて、
その発想自体は面白いのですが、
ビジュアル重視で演技もダンスのスキルもあまりないので、
結果として弁慶主役のドラマでは、
なくなってしまっているんですね。
それが狙いではあるのでしょうが、
それなら原作の弁慶の見せ場を、
他の見せ場に変換するような工夫が、
必要ではなかったかと思いました。

総じてスタイリッシュな演出で、
個々のキャストの演技も練り上げられていて、
戦争の時代の現代に繋がるテーマ性も良かったと思います。
ただ、歌舞伎の人気作の「勧進帳」の新演出として考えると、
どうしても主役不在の物足りなさを感じてしまいました。

木ノ下さんの考える歌舞伎とは、
僕は少し相性が悪いようです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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プロトンポンプ阻害剤の認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIの認知症リスク.jpg
Neurology誌に2023年8月9日付で掲載された、
胃酸を強力に抑える胃薬の、
認知症リスクについての論文です。

プロトンポンプ阻害剤は、
強力な胃酸分泌の抑制剤で、
従来その目的に使用されていた、
H2ブロッカ-というタイプの薬よりも、
胃酸を抑える力はより強力でかつ安定している、
という特徴があります。

このタイプの薬は、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療のために短期使用されると共に、
一部の機能性胃腸症や、
難治性の逆流性食道炎、
抗血小板剤や抗凝固剤を使用している患者さんの、
消化管出血の予防などに対しては、
長期の継続的な処方も広く行われています。

商品名ではオメプラゾンやタケプロン、
パリエットやタケキャブなどがそれに当たります。

このプロトンポンプ阻害剤は、
H2ブロッカーと比較しても、
副作用や有害事象の少ない薬と考えられて来ました。

ただ、その使用開始の当初から、
強力に胃酸を抑えるという性質上、
胃の低酸状態から消化管の感染症を増加させたり、
ミネラルなどの吸収を阻害したりする健康上の影響を、
危惧するような意見もありました。

そして、概ね2010年以降のデータの蓄積により、
幾つかの有害事象がプロトンポンプ阻害剤の使用により生じることが、
明らかになって来ました。

現時点でその関連が明確であるものとしては、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用により、
急性と慢性を含めた腎機能障害と、
低マグネシウム血症、
クロストリジウム・デフィシル菌による腸炎、
そして骨粗鬆症のリスクの増加が確認されています。

その一方でそのリスクは否定は出来ないものの、
確実とも言い切れない有害事象もあり、
その1つが今回検証されている認知症リスクの増加です。

近年発表された複数のメタ解析の論文では、
プロトンポンプ阻害剤の使用と認知症リスクとの間には、
明確な関連は認められないという結論が得られていますが、
個々のデータのバラツキは大きく、
それだけで両者の関連を否定することは出来ません。

今回の研究はアメリカにおいて、
心臓病を対象とした疫学研究のデータを活用して、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用と認知症リスクとの関連を、
比較検証しています。

登録の時点で認知症のない平均年齢75.4歳の5712名を、
中間値で5.5年の経過観察を施行したところ、
トータルでの解析ではプトロンポンプ阻害剤の使用と、
認知症の新規発症との間に、
有意な関連は認められませんでした。
一方でプロトンポンプ阻害剤の累積の使用が、
4.4年を超える長期使用者に限定して解析すると、
プロトンポンプ阻害剤の使用は、
その後の認知症発症リスクを、
1.3倍(95%CI:1.0から1.8)有意に増加させていました。

このように、
今回の単独の調査でも、
プロトンポンプ阻害剤の使用と認知症リスクとの関連は、
あまり明確な結論には到っていません。
ただ、累積で4年を超えるような長期の使用には、
一定のリスクがある可能性は否定出来ず、
その使用は適応を厳密に定めて、
必要最小限で行うことが重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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口蓋裂の適切な手術時期は? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
口蓋裂の適切な手術時期は?.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年8月31日付で掲載された、
口蓋裂という頻度の多い先天異常の、
治療開始時期についての論文です。

上の唇が左右に分かれている「口唇裂」と、
咽喉の奥の口蓋と呼ばれる部分が左右に分かれていて、
鼻腔と口腔が繋がっている「口蓋裂」は、
先天的な外面の異常の中では、
非常に頻度の多いものとして知られています。

妊娠中の風疹感染などが原因となることもありますが、
その多くは原因は不明です。
また他の先天異常と合併することも多く、
その場合症候群として病名が付けられているものもあります。

その治療は手術ですが、
口唇裂の閉鎖手術が生後3から6か月で施行されることが多いのと比較して、
口蓋裂の形成手術は言葉を覚え始めるくらいの時期が良いとされ、
通常生後1歳以降の時期に施行されています。
この形成手術の目的は、
鼻腔と咽頭を分離して、
スムースな言語発達を促すことですが、
上記文献の記載によると、
形成手術後も鼻咽喉閉鎖機能不全が、
およそ3割のお子さんで認められると報告されています。

言語発達への準備は早い方が良く、
そのため口蓋裂の形成手術も、
もっと早い時期に行うべきではないか、
という見解があります。

それでは従来より早期に手術を施行すれば、
鼻咽喉閉鎖機能不全のリスクも低下するのでしょうか?

その問題を検証する目的で、
今回の臨床研究では、
ヨーロッパ及び南米の23か所の専門施設において、
他の先天異常を伴わない口蓋裂のお子さん、
トータル558例をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は生後6か月で早期の手術を施行し、
もう一方は通常の生後12か月での手術を施行して、
5歳の時点での鼻咽喉機能を比較検証しています。

その結果、
5歳の時点での鼻咽喉閉鎖機能不全は、
6か月の早期手術群では8.9%であったのに対して、
12か月の従来手術群では15.0%で、
早期手術は従来手術と比較して、
5歳時での鼻咽喉閉鎖機能不全のリスクを、
41%(95%CI:0.36から0.99)有意に低下させていました。

これは敢くまで他の先天異常を合併しない、
口蓋裂単独事例のみでの検証である点に注意が必要ですが、
生後6か月の早期に手術を行った方が、
その後の鼻咽喉機能的に見た予後が良い、
という今回の結果は興味深く、
今後の治療指針にも、
少なからず影響を与える可能性がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「スイート・マイホーム」(斎藤工監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スイート・マイホーム.jpg
神津凛子さんのサイコホラーを原作にした、
斎藤工さん監督の新作映画が今公開されています。

家を舞台にして禍々しい存在のために、
家族が崩壊してしまうというような話は、
昔からホラーの定番ですが、
今回の作品は住宅展示場で契約した、
ありふれた注文住宅で暮らし始めた家族に、
幽霊の仕業のような奇怪な事件と、
身近な人が殺される殺人事件や脅迫などの、
人間によるとしか思えない事件の、
双方が振るかかるという点が面白いポイントです。

ミステリーとして考えるとすぐに底が割れてしまうプロットに、
超常現象(らしきもの)を組み合わせることで、
真相を読みづらくしているんですね。

映画版では家に苦しめられる主人公を、
当代きっての曲者役者、窪田正孝さんが演じていて、
いつもの癖の強い演技を全開で演じています。
最初はこんなに癖のある芝居だと、
主役に感情移入するのが難しいなあ、と思っていたのですが、
後半はそれがむしろ活きて来るというのか、
異様な世界への窪田さんが道案内的に見えるので不思議でした。
物語では窪田さんのお兄さんが、
窪塚洋介さんですから、
何とも癖の強い兄弟だと思いました。

結果として、窪田さんが主人公を演じているので、
結末がより見えにくくなった、
というように思います。
これが狙いであれば冴えていますね。

斎藤工さんは俳優の中でも、
映画の見識が高いことで知られていますから、
どうしても作品の期待は高くなります。

たとえば黒沢清監督のような、
どんな平凡な話であっても、
誰が観ても黒沢監督だと分かる個性的な絵作りを、
期待してしまったのですが、
結果的にはあまりそうした感じではなく、
原作を丁寧に分かり易く映像化する、
というスタイルで一貫していました。

全体に画面にチープな感じが漂うのと、
窪田さんの演技のせいか、
場面のお尻が常に長いのが残念な感じで、
獲物を狙う蜘蛛のカットとか、
役者の正面の象徴的アップなどを、
場面の間に挟む演出も、
何か自主映画的であまり乗れませんでした。

何処か一か所でも、
「あっ、ここ凄い」と言えるような絵が、
あれば印象はかなり変わるのではないでしょうか?

少し残念に感じました。

総じて悪くはないのですが、
映画館に足を運ぶほどのことはなく、
配信で充分かな、という感じの映画ではありました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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