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セマグルチドによる早期1型糖尿病治療効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
セマグルチドの1型糖尿病治療効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年9月7日付で掲載されたレターですが、
最近注目されている糖尿病治療薬の、
通常は禁忌とされているような使い方により、
画期的な効果があったとする、
非常に興味深い報告です。

GLP-1アナログというのは、
低血糖を来しにくい糖尿病治療薬で、
心血管疾患リスクを低下させるという臨床データがあり、
体重減少効果もあることより、
最近注目されています。
セマグルチドはその代表的な薬剤の1つで、
元々は注射薬ですが、
最近では飲み薬のタイプも開発されています。

GLP-1アナログは、
基本的に膵臓を刺激してインスリンの分泌を促す作用があるので、
膵臓の働きが一定レベル保たれていることが、
その使用の条件になります。
そのため、
インスリンの分泌低下は軽度の2型糖尿病がその適応で、
インスリンとの併用が事例により行われることはありますが、
膵臓に自己免疫系の炎症が起こり、
インスリンの分泌が高度に低下する1型糖尿病は、
使用の対象としないことが定められています。

しかし、1型糖尿病でも、
その初期においては膵臓のインスリン分泌は回復する可能性があり、
そうした時期にGLP-1アナログを使用することで、
その予後を改善する可能性があるのではないでしょうか?

今回の試験的な研究では、
年齢が21から39歳で1型糖尿病と診断されて3か月以内の、
10名の患者に強化インスリン療法と共に、
GLP-1アナログのセマグルチドを、
週1回0.125㎎から皮下注射を開始。
有害事象に留意しながら0.5㎎まで増量し、
その後1年の経過観察を施行しています。

その結果、
10人全員が3か月以内に食前インスリン投与が不要となり、
基礎インスリンについても、
6か月以内に7名が不要となりました。
インスリンの生涯に渡る使用が不可欠の筈の1型糖尿病で、
本来使用禁忌に近いの筈のGLP-1アナログのみの治療により、
インスリンなしでのコントロールが可能となったのです。

これが事実であるとすれば相当画期的な知見です。

ただ、事例は10例と少なく、
コントロール群も設定されていませんから、
まだ試験的な結果に過ぎないものです。
1型糖尿病の診断自体は厳密に行われていますが、
一見そのように見えても、
実際には2型糖尿病の一時的な増悪という可能性も、
完全には否定は出来ません。
また、GLP-1アナログには急性膵炎などの有害事象の報告もありますから、
安易な使用は却って病状を悪化させる可能性もあります。

従って、現時点でこうした治療を、
安易に行うことは厳に慎むべきですが、
今後コントロール群も設定して、
より多数例での検証が早急に必要であると思いますし、
その結果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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