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ホルモン補充療法の認知症発症リスク(フィンランドの観察研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ホルモン補充療法と認知症リスク.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
女性ホルモン補充療法と認知症発症リスクとの関連についての論文です。

認知症と女性ホルモンとの関連については色々な議論があります。

女性ホルモンに神経細胞を保護するような作用のあることは、
動物実験レベルでは複数のデータが存在しています。
そのことと高齢者に認知症が発症するという事実からは、
女性ホルモンの使用が認知症の予防になるのでは、
という考えが示唆されます。

しかし、2003年から2004年に発表された、
女性ホルモンの認知症予防効果を検証した、
偽薬を使用した大規模で信頼性の高い臨床試験の結果では、
閉経後の女性に対する女性ホルモン補充療法は、
認知症の発症リスクを低下はさせませんでした。

その原因として考えられたのは、
投与のタイミングの影響で、
女性ホルモンの使用は閉経後すぐに行わないと、
認知症予防効果には繋がらないのではないかと想定されたのです。

今回の研究は国民総背番号制を取り、
国民規模の健康データが抽出可能なフィンランドの疫学研究で、
1999年から2013年に掛けて、
閉経後にアルツハイマー病の診断を受けた84739名の女性を、
年齢などをマッチングさせたアルツハイマー病ではない84739名と比較して、
閉経後の女性ホルモンの補充が、
アルツハイマー病の発症に与える影響を検証しています。

その結果、
女性ホルモン補充療法は、
その後のアルツハイマー病と診断されるリスクを、
意外にも9から17%有意に増加させていました。
このリスクの増加はホルモン補充療法が、
エストロゲン単独でも、
エストロゲンとプロゲステロンでも有意な差はなく、
女性ホルモンの補充が若い時期からであっても、
高齢になってからであっても違いはありませんでした。

その影響はホルモン補充が10年を超えると有意に高く、
内服ではなく膣剤での使用では認められませんでした。

このホルモン補充療法による認知症発症リスクは、
70から80歳の女性10000名当り年間18名の発症に繋がったと考えられ、
これは105件の発症を18件底上げする、
というくらいの頻度です。

このように、
これまでの女性ホルモンが認知症を予防するという推測に反して、
今回の大規模な住民研究では、
むしろ女性ホルモンの補充が、
認知症のリスクに繋がるという予想外の結果が得られました。

ただ、そのリスクの増加は軽微である上に、
経膣投与では全くリスク増加が見られないなど、
疑問を感じるような部分もあり、
まだこの結果を事実と考えるのは時期尚早のようにも思います。

今後の検証の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第7回ブス会*「エーデルワイス」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
エーデルワイス.jpg
ペヤンヌマキさんのブス会*の新作公演が、
本日まで池袋で上演されています。
その初日の舞台に足を運びました。

ブス会*はもともとポツドールの別動隊のような形で始まり、
ポツドールの三浦大輔さんが、
ほぼ映像に軸足を移している中、
独自の舞台活動を継続しています。

矢張りポツドール的過激さに溢れて、
その女性復讐版という感じのあった、
「女のみち」が印象深いのですが、
それ以降は様々なスタイルで、
小劇場的テイストを守りつつ、
女性の生きざまを描く舞台を上演しています。

今回は鈴木砂羽さんを主演に据えて、
「美女と野獣」を模した結構大掛かりなセットを組み、
これまでより中劇場的なスタイルの作品となっています。

鈴木砂羽さんはスランプに悩む大物漫画家を演じ、
彼女の過去の純愛と、
それが元になった出世作の漫画、
そして年を重ねた現在迷いが、
交錯するようにして彼女の内面を立体的に浮かび上がらせる、
という作劇です。

高野ゆらこさんや金子清文さんが出演しているので、
ちょっとテイストは毛皮族の雰囲気もあります。

これは凄く良い、というような舞台ではないのですが、
雰囲気は悪くなく、
作劇も分かりやすいので、
まずは心地良く観ることが出来ました。

ペヤンヌマキさんの実際の経験や思いが、
かなり反映されているのだろうな、
ということは推察されますし、
構成的には過去と現在で、
同じパターンの恋愛が繰り返される、
という部分が面白いと感じました。

ただ、欲を言えばもっと過剰な部分、
演劇的な盛り上がりのある場面があれば、
という気はしましたし、
せっかくのセットが、
あまり活かされていない、という気はしました。
後半にもう少し幻想が膨らみを持って、
暴走しても良かったですよね。
その点は少し残念です。

鈴木砂羽さんは舞台がなかなか良くて、
独特のオーラがあり、僕は好きな女優さんです。
ただ、ちょっと桃井かおりさん的な、
「やる気のない芝居」なので、
それを演出がどう修正するのかが、
舞台での成功失敗の分かれ目のように思います。
今回に関しては、
もう少し本人の乗りで、
自由に出来るようなところがあると、
もう少し違ったのではないかしら、
というようには感じました。

そんな訳で今一つではあったのですが、
サラッとして悪くない芝居でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごしください。

石原がお送りしました。
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「七つの会議」(2019年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
7つの会議.jpg
池井戸潤さんの連作短編形式の「七つの会議」が、
映画化されて今ロードショー公開されています。

これは「半沢直樹」や「下町ロケット」のテレビドラマをヒットさせた、
福澤克維監督がメガホンを取ったもので、
日曜劇場の池井戸潤作品の映画版、といった趣のある作品です。

「半沢直樹」のドラマと同時期に、
この作品はNHKで短期の連続ドラマ化をされていますが、
こちらも内容的にはなかなか高評価であったものの、
「半沢直樹」ほどの話題にはなりませんでした。

元々が連作短編による群像劇で、
各話によって主人公が違うという作品なので、
そのままでは映像化しにくく、
NHKドラマの時には脇役の扱いであって、
変わり者で出世競争から外れた一匹狼の社員の八角を、
この映画版では主役級に据えて、
野村萬斎さんに外連味たっぷりに演じさせています。

ツボを押さえた作劇なので、
原作に1本筋が通った感じで映画としては見やすくなり、
キャストも端役にもスターを配した豪華絢爛なもので、
日曜劇場の特別版と言った雰囲気で、
ドラマの好きだった方なら、
まずは楽しめる作品に仕上がっています。

複雑な原作を2時間を切る時間にまとめた点を含めて、
脚色と演出の勝利という感じがします。

ただ、弱い立場の者が逆転する、
というような痛快さがこの作品にはなく、
大企業の中のいざこざに終始しているので、
「半沢直樹」のような爽快感はそもそもありません。

その代わりにラストに萬斎さんによる「お説教」を付けているのですが、
これは蛇足であったように思いますし、
せっかくそれまで渋い仕上がりであったのに、
一気に醒めたような気分にはなりました。
ただ、これは僕の個人的な感想で、
見る人によってはこのお説教が良い、
ということもあるかも知れません。

キャストの中では、
徹底したゲス男を演じた藤森慎吾さんが楽しく、
演技者としての頭角を現した、
と言って良い好演でした。
萬斎さんのオーバーアクトは、
好みの分かれるところだと思います。

そこそこのお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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腕立て伏せ可能回数と将来の心血管疾患リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腕立て伏せと健康.jpg
2019年のJAMA Network Open誌に掲載された、
腕立て伏せの出来る回数とその後の健康との関係を検証した、
ちょっと面白い論文です。

心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の危険因子としては、
高血圧や糖尿病、喫煙などが有名ですが、
筋力などの基礎体力も重要な要素であるという指摘もあります。

以前ご紹介した論文では、
握力の数値が生命予後や心血管疾患のリスクと、
関連しているという報告もありました。

今回の研究はアメリカ、インディアナ州で、
18歳以上の男性消防士、1562名を対象として、
そのうちの1104名の腕立て伏せの可能回数を、
その基礎体力の指標として登録時に測定し、
10年間の経過観察を行なっています。

その結果、
経過観察期間中に37件の心血管疾患が発症し、
腕立て伏せの可能回数が多いほど、
心血管疾患の発症リスクが低くなる、
という関連が認められました。

腕立て伏せの可能回数を5つに分けた解析では、
10回未満と比較して、
40回以上可能であった群では、
心血管疾患のリスクが96%(95%CI: 0.01から0.36)
有意に低下していました。

これは消防士さんのデータで、
比較的若い人が主体なので、
実際に発症した病気の事例も少なく、
一般の方にそのまま当て嵌まる知見ではありませんが、
簡単に測定可能な体力の指標が、
ここまで大きく心血管疾患の予後に関連している、
という結果は大変興味深く、
今後より幅広い対象者において、
同様の検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脳年齢は女性の方が若い? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。

今日はこちら。
男女脳の若さの差.jpg
2019年のProceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)誌に掲載された、
脳の代謝機能から見た性差を検証した論文です。

脳の機能に性差があって、
それが脳の病気の性差に繋がっているのではないか、
というような話は以前からあります。
また、より一般的には、
男女脳のようなものがあって、
それが男女の理解の難しさの要因となっている、
というような内容の本が売れたこともありました。

ただ、これまでに脳の男女差を見た多くの研究は、
年齢をマッチングさせた男と女を比較したもので、
加齢による影響が考慮されていませんでした。

そこで今回の検証では、
PET検査によって測定された脳細胞のブドウ糖の取り込みや代謝能が、
年齢と共に低下することを利用して、
性別毎の脳年齢を推定し、
脳年齢の男女差を比較検証しています。

その結果、
108名の女性と76名の男性の検証において、
男女の脳年齢には有意な差があり、
平均で3.8歳男性より女性が若い、
というデータが得られました。
そして、この性差は20歳代において既に認められていて、
この男女の脳年齢の差は、
思春期には既に決定されていることも示唆されたのです。

これは現状は他愛のないトリビアの域を、
出ないものではないかと思いますが、
脳代謝に性差があり加齢による変化が異なるという知見は、
認知症の経過などにも繋がる可能性があり、
今後意外に臨床的に重要なものとなるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第41回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
第41回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
3月16日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「最新版喫煙と禁煙の基礎知識」です。

たばこを吸うことが多くの生活習慣の中で、
最も健康に悪影響を与えることは間違いがありません。
ただ、そのメカニズムは必ずしも明確に、
全てが分かっているという訳ではありません。
特にたばこが癌を誘発する仕組みなどは、
多くの仮説が浮かんでは消えるという感じで、
決め手に欠けるというのが実際だと思います。

たばこは勿論健康には悪いのですが、
かつては1つの文化として成立していた習慣でもあり、
それを全てないものとするような先鋭的な意見にも、
疑問を感じるところはあります。
一方で一部の喫煙擁護派の見解なども、
非科学的の極みで奇々怪々なものがあります。

この問題はどうも、
冷静な議論や科学的な議論に、
馴染まない部分があるようです。

禁煙は健康のためには絶対に必要なことですが、
多くの「禁煙法」はあるものの、
決め手となるような方法や治療薬などはまだありません。
医療の関与した禁煙治療の成功率も、
さほど高いものではありません。
所謂「電子たばこ」は、
禁煙法の1つとしても可能性を指摘する研究がありますが、
一方で別個の健康リスクを指摘する意見もあり、
可能性は孕みながら、
まだその位置づけは確立はしていないようです。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
3月14日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ネクタイによる脳血流低下のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ネクタイによる首の圧迫.jpg
2018年のNeuroradiology誌に掲載された、
ネクタイを締めることによる脳への影響を検証した論文です。

これはまあ、肩の凝らない小ネタ、
的な性質のものです。

僕はネクタイはそう嫌いな方ではなく、
冬場以外はネクタイを締めて仕事をしています。
(冬場はほぼタートルネック)
緩く締めるのはあまり好きではなく、
固く締めていることが通常です。

ただ、ネクタイが嫌いという方は結構多くて、
その理由は主に、
「首が締め付けられて息苦しくなる」
ということにあるようです。

首を強く締めることにより、
頸静脈の血流が低下することは容易に想定が出来ます。
そのことにより脳内が鬱血することも可能性がありそうです。

これに関してはこれまでに幾つかの研究がありますが、
それほど厳密で実証的なものはあまりないようです。

今回の研究はMRIによる血流測定を使用したもので、
13人の男性ボランティアに、
きつくネクタイをした状態と、
しない状態、
またネクタイをしてからそれを取った状態での、
脳内の血流と頸静脈の血流の変化を計測しています。

その結果、
ネクタイをすることにより脳血流は7.5%低下し、
ネクタイを外しても更に5.7%の低下が持続しました。
一方で頸静脈の血流の低下は確認されませんでした。

脳血流量は脳の静脈圧や脳血管抵抗が高いほど、
低下すると考えられていますから、
首をネクタイで圧迫されることにより、
頸静脈圧が上昇し、頭蓋内圧が上昇するのであれば、
脳血流の低下は説明が可能です。

ただ、実際には今回の計測において、
頸静脈の血流の変化は確認されていません。
しかも脳血流の低下は、
ネクタイを緩めた後も15分は継続していました。

ネクタイによる脳血流低下のメカニズムは、
そう単純なものではなさそうです。

この試験ではネクタイは被験者が「ややきつい」
と感じる程度に締められていて、
血流の低下は最も大きくて10%程度ですから、
病的なレベルのものではありません。

従って、あまり今回の結果を重要視し過ぎる必要はないのですが、
ネクタイがきつく感じる人は、
無理にきつく締めない方が健康的にも良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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喫煙歴に関わらない低線量CTによる肺癌検診の有効性(日立市の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CT検診日立市.jpg
2019年のJapanese Journal of Clinical Oncology誌に掲載された、
茨城県日立市のCTによる肺癌検診の結果をまとめた論文です。
この雑誌はオンラインのみで、
日本の臨床研究を取り扱う英文誌です。

肺癌検診がどうあるべきか、
というのは国内外で議論となっていることで、
概ねヘビースモーカーかかつてのヘビースモーカーに限定して、
低線量CTによる検診を行うというのが、
欧米で現状認められている方法です。

日本においては自治体によっては、
CTによる肺癌検診が行われていますが、
国の癌検診の指針は胸部レントゲンと喀痰検査となっています。

癌検診というのは、
それを行うことによって、
その癌による死亡のリスクが低下することが確認されることが、
世界的にはその大きな要件となっています。

肺癌検診においては、
欧米において精度の高い大規模な臨床試験によって、
ヘビースモーカーに限定した対象者では、
低線量CTによる検診で、
肺癌による死亡のリスクが20%程度低下することが確認されています。

ただ、このようにヘビースモーカーに対象者を限定した検診は、
日本ではあまり馴染まないので実現しないのが実際です。

検討はされても、
「なんで自分は対象にならないんだ」
というようなクレームが必ず後から入って、
結果として限定しない住民検診となることが殆どだからです。

それでは、日本流の肺癌検診手法でも、
低線量CTを用いた肺癌検診には有用性があるのでしょうか?

茨城県の日立市は、日立製作所の創業地で、
1998年から50歳以上の日立製作所の従業員や家族、退職者を対象として、
低線量CTによる検診が始まっています。
その後日立市と日立製作所が協力して、
2001年からは一般住民に対しても同様の検診が開始されています。

その検診の有効性を検証する目的で、
今回の臨床研究では、
日立市の住民で、
低線量CT検診を1回以上施行した17935人を、
胸部レントゲンによる検診のみを受けた15548人と比較して、
その効果を比較検証しています。

例数は多いのですが、
予め対象者を登録して経過を追うような試験ではなく、
後からデータを解析したものです。

その結果、
低線量CT検診群では、1.5%に当たる273件の肺癌が診断され、
0.4%に当たる72名が肺癌のために死亡し、
4.9%に当たる885名が多くの原因により亡くなっています。

一方で胸部レントゲン検診群では、
1.1%に当たる164件の肺癌が診断され、
0.5%に当たる80名が肺癌のために死亡し、
7.6%に当たる1188名が多くの原因により亡くなっています。

年齢、性別、喫煙歴を補正して比較した結果として、
胸部レントゲンのみの検診と比較して、
低線量CTによる検診の受診群は、
観察期間中の肺癌罹患率が1.23倍で、
肺癌による死亡リスクが51%、
総死亡のリスクも43%、有意に低下していました。

これを非喫煙者とライトスモーカーに限って解析すると、
肺癌による死亡リスクは59%、
総死亡のリスクも79%、有意に低下していました。

これはそのまま見れば、
今までの常識を覆すような度肝を抜くようなデータで、
非喫煙者であっても、
CT検診を行うだけで総死亡のリスクが8割近く低下する、
というのですから、
これほど効率的な癌検診はない、
ということになります。

そんなことが本当にあり得るのでしょうか?

個人的な現時点での見解としては、
はなはだ疑問です。

この研究ではCT検診群と胸部レントゲン群の背景が、
かなり異なっているので、
別個の背景の違いが、
死亡リスク低下の原因となっている可能性が否定出来ません。

今後より詳細な検証が必要であると思いますし、
その進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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岩井秀人「世界は一人」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
世界は1人.jpg
ハイバイの岩井秀人さんが作・演出に当り、
前野健太さんの音楽に、松尾スズキさん、松たか子さん、
瑛太さんという、魅力的なキャストが顔を揃えた、
音楽劇が今上演されています。

これは演出は結構ドライな感じで、
トータルなイメージは、
マームとジプシーに近いような雰囲気でした。
鉄骨の骨組みだけみたいな抽象的なセットで、
最初に8歳の林間学校の夜で、
主役の3人の同級生がおねしょを巡る「事件」を起こして、
それが何度も劇中でリフレインされ、
最後もそこに回帰してゆきます。

オープニングがなかなか面白くて、
まず音楽が鳴って前野さんが狂言回し的に歌い出すと、
松尾スズキさんがそこに演技を合わせていって、
音楽が鳴り続けながら、
ボーカルのない合間に、
今度は松尾さんが台詞を合わせていって、
音楽と役者の芝居が、
不思議に混じり合うようにして、
次第にある種の高揚感が生まれて行きます。

この辺の音楽と演技の関係も、
マームとジプシーに近い感じです。
ただ、物語は岩井さんですからもっとウェットで、
ドロドロもしてリアルな感じですし、
音楽自体もアングラの劇中劇に近いような、
懐かしくもウェットな感じなので、
個人的にはとても心地良く聴くことが出来ます。

特にオープニングの「汚泥」の歌や、
何度か歌われる「また巡りあった」というような趣旨のラブソングは、
情緒的な水分が心地良く素敵でした。

ただ、お話自体はやや平板で盛り上がりには欠けました。

舞台が北九州のかつての炭鉱町で、
そこから一旦東京に移り、
後半はまた北九州に回帰する、
という筋立てになっているのですが、
セットも抽象的で変化がありませんし、
キャストも少人数である上に、
台本に情景描写的なものが殆ど書き込まれていないので、
その時間や場の変化が全く分からないというのが、
あまりお話が盛り上がらなかった、
大きな原因であったように感じました。

松たか子さんの役柄が一旦自殺未遂で死にかけたり、
瑛太さんの役柄が一旦引きこもりになったりして、
舞台上から消えてまた再登場するのですが、
その間にもナレーションで登場したり、
別の役柄を演じたりもするので、
そこも混乱の一因のように感じました。
松尾さんと松さんが東京で再会する場面など、
曲も良くてとても素敵なのに、
あまり観客の心に響かないのも、
その辺りに原因があったのではないでしょうか。

松たか子さんは最近の映画での吹っ切れたような芝居が素晴らしくて、
第二の黄金時代ではないかしら、
と密かに思っていて、
今回の芝居でもその歌声や表情など素晴らしかったのですが、
今回の役柄が松さんの本領発揮のものであったかと言うと、
いささか疑問で、
もっと舞台ならではの演技表現が、
観たかったのが本音です。

現在を代表する個性的な演技派が、
3人顔を揃えたと言って良い芝居なのですから、
もう少し演技の魅力に奉仕するような、
劇作であるべきではなかったでしょうか。

そんな訳でとても心地の良い観劇ではあったのですが、
正直物語世界にはかなり物足りなさを感じたお芝居でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「アリータ バトル・エンジェル」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アリータ.jpg
ヒットメイカーのジェイムズ・キャメロンが製作と脚本に関わり、
木城ゆきとさんの人気コミックを原作とした話題作が、
今ロードショー公開されています。

これはA級と考えて、
「アバター」なみのスケールを期待すると、
裏切られるのは確実です。

要するにB級映画で、
キャメロンとしても枝葉の作品的企画なのです。

ただ、B級の肩の凝らない娯楽映画として考えると、
なかなか充実度の高い面白い作品に仕上がっています。
昔「ロボコップ」の1作目や、
キャメロンの「ターミネーター2」を観た時と、
同じくらいの楽しさで、
スターウォーズシリーズの新作より3倍は楽しく、
ハリーポッターシリーズの新作より2倍は楽しいと、
個人的には思いました。

内容的には基本設定の部分と、
主人公のサイボーグ少女と不良少年との恋愛物語は、
原作のコミックをリスペクトした感じで構成されています。
勿論原作の全てを2時間強の尺には納められませんから、
ラストは尻すぼみの中断のような格好にはなるのですが、
それを承知の上でB級SF活劇として楽しめれば、
瑕にはなっていません。
昨年の「甲殻機動隊」の実写映画の、
原作を生かし切れていない脱力のショぼさと比較すると、
子どもと大人くらいの差はあります。

一応コミックの実写映画化ということになるのですが、
映像の9割は「絵」なので、
カット割りもアニメ映画に近い感じですし、
主人公もCGキャラということになると、
本当にこれを実写と言って良いのかしらと、
疑問に思う感じがしなくもありません。
ただ、それだからこその疾走感とアクションの冴えが、
ワクワクさせてくれますし、
主人公の造形はかなり緻密に考えられていて、
実際にはあり得ない大きさの瞳と、
人間のものとは違う表情の動きなどは、
その完成度の高さに感心させられます。

そんな訳でB級の楽しさに満ちた快作で、
何か暇つぶしに面白い映画を、
という向きには是非にとお薦めしたい娯楽作品です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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