ホルモン補充療法の認知症発症リスク(フィンランドの観察研究) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
女性ホルモン補充療法と認知症発症リスクとの関連についての論文です。
認知症と女性ホルモンとの関連については色々な議論があります。
女性ホルモンに神経細胞を保護するような作用のあることは、
動物実験レベルでは複数のデータが存在しています。
そのことと高齢者に認知症が発症するという事実からは、
女性ホルモンの使用が認知症の予防になるのでは、
という考えが示唆されます。
しかし、2003年から2004年に発表された、
女性ホルモンの認知症予防効果を検証した、
偽薬を使用した大規模で信頼性の高い臨床試験の結果では、
閉経後の女性に対する女性ホルモン補充療法は、
認知症の発症リスクを低下はさせませんでした。
その原因として考えられたのは、
投与のタイミングの影響で、
女性ホルモンの使用は閉経後すぐに行わないと、
認知症予防効果には繋がらないのではないかと想定されたのです。
今回の研究は国民総背番号制を取り、
国民規模の健康データが抽出可能なフィンランドの疫学研究で、
1999年から2013年に掛けて、
閉経後にアルツハイマー病の診断を受けた84739名の女性を、
年齢などをマッチングさせたアルツハイマー病ではない84739名と比較して、
閉経後の女性ホルモンの補充が、
アルツハイマー病の発症に与える影響を検証しています。
その結果、
女性ホルモン補充療法は、
その後のアルツハイマー病と診断されるリスクを、
意外にも9から17%有意に増加させていました。
このリスクの増加はホルモン補充療法が、
エストロゲン単独でも、
エストロゲンとプロゲステロンでも有意な差はなく、
女性ホルモンの補充が若い時期からであっても、
高齢になってからであっても違いはありませんでした。
その影響はホルモン補充が10年を超えると有意に高く、
内服ではなく膣剤での使用では認められませんでした。
このホルモン補充療法による認知症発症リスクは、
70から80歳の女性10000名当り年間18名の発症に繋がったと考えられ、
これは105件の発症を18件底上げする、
というくらいの頻度です。
このように、
これまでの女性ホルモンが認知症を予防するという推測に反して、
今回の大規模な住民研究では、
むしろ女性ホルモンの補充が、
認知症のリスクに繋がるという予想外の結果が得られました。
ただ、そのリスクの増加は軽微である上に、
経膣投与では全くリスク増加が見られないなど、
疑問を感じるような部分もあり、
まだこの結果を事実と考えるのは時期尚早のようにも思います。
今後の検証の積み重ねを注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
女性ホルモン補充療法と認知症発症リスクとの関連についての論文です。
認知症と女性ホルモンとの関連については色々な議論があります。
女性ホルモンに神経細胞を保護するような作用のあることは、
動物実験レベルでは複数のデータが存在しています。
そのことと高齢者に認知症が発症するという事実からは、
女性ホルモンの使用が認知症の予防になるのでは、
という考えが示唆されます。
しかし、2003年から2004年に発表された、
女性ホルモンの認知症予防効果を検証した、
偽薬を使用した大規模で信頼性の高い臨床試験の結果では、
閉経後の女性に対する女性ホルモン補充療法は、
認知症の発症リスクを低下はさせませんでした。
その原因として考えられたのは、
投与のタイミングの影響で、
女性ホルモンの使用は閉経後すぐに行わないと、
認知症予防効果には繋がらないのではないかと想定されたのです。
今回の研究は国民総背番号制を取り、
国民規模の健康データが抽出可能なフィンランドの疫学研究で、
1999年から2013年に掛けて、
閉経後にアルツハイマー病の診断を受けた84739名の女性を、
年齢などをマッチングさせたアルツハイマー病ではない84739名と比較して、
閉経後の女性ホルモンの補充が、
アルツハイマー病の発症に与える影響を検証しています。
その結果、
女性ホルモン補充療法は、
その後のアルツハイマー病と診断されるリスクを、
意外にも9から17%有意に増加させていました。
このリスクの増加はホルモン補充療法が、
エストロゲン単独でも、
エストロゲンとプロゲステロンでも有意な差はなく、
女性ホルモンの補充が若い時期からであっても、
高齢になってからであっても違いはありませんでした。
その影響はホルモン補充が10年を超えると有意に高く、
内服ではなく膣剤での使用では認められませんでした。
このホルモン補充療法による認知症発症リスクは、
70から80歳の女性10000名当り年間18名の発症に繋がったと考えられ、
これは105件の発症を18件底上げする、
というくらいの頻度です。
このように、
これまでの女性ホルモンが認知症を予防するという推測に反して、
今回の大規模な住民研究では、
むしろ女性ホルモンの補充が、
認知症のリスクに繋がるという予想外の結果が得られました。
ただ、そのリスクの増加は軽微である上に、
経膣投与では全くリスク増加が見られないなど、
疑問を感じるような部分もあり、
まだこの結果を事実と考えるのは時期尚早のようにも思います。
今後の検証の積み重ねを注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-03-11 06:15
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