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糖尿病のタイプと生命予後について(スウェーデンの20年間の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病の20年の生命予後.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
この20年間の治療や予防の進歩に伴う、
糖尿病の患者さんの生命予後を検証した、
スウェーデンの大規模な疫学データについての論文です。

糖尿病には、
自己免疫機序によって起こり、
お子さんの時期からインスリンの注射が必要となる、
1型糖尿病と、
通常肥満や運動不足、過食などを誘因として、
中年期以降に起こり、
インスリン抵抗性とインスリン不足の両方が関与する、
2型糖尿病の2つがあります。

この20年あまりの間、
食生活などの生活の変化によって、
2型糖尿病の患者さんは増え続けていますが、
その一方で医療も進歩し、
多くの糖尿病治療薬が発売され使用されるようになり、
また糖尿病の患者さんの予後において、
最も問題となる心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患の発症予防と予後の改善においても、
それぞれ格段の進歩が見られました。

その治療や予防の介入の効果は、
実際にはどの程度のものだったのでしょうか?

今回の研究は国民総背番号制を取っているスウェーデンにおいて、
1998年から2014年の糖尿病患者さんの予後についての全データを解析し、
それを一般人口から無作為に抽出したコントロールと比較して、
この20年の治療のトレンドを検証しているものです。

臨床医としても患者さんとしても、
これは是非知りたい情報だと思いますが、
なかなか正確な統計などを取ることは、
日本では困難だと思います。

トータルで36869名の1型糖尿病の患者さんと、
457473名の2型糖尿病の患者さんが解析の対象となっています。

1998年から2014年の間において、
1型糖尿病の患者さんの総死亡のリスクは、
患者さん年間1万人当たり、
31.4件減少しました。
これは死亡率で29%の低下に相当しています。
(95%CI;0.66から0.78)
コントロールではその間の死亡数の減少は13.9件で、
死亡率の低下は23%となり、
死亡率の低下率という観点からは、
1型糖尿病とコントロールとの間に有意な差はありませんでした。

これがどういうことかと言うと、
コントロールと同じ比率の減少であれば、
それは治療の効果ではなく、
社会の状況などの変化によるものとも考えられますが、
それを超えて減少している場合には、
治療が一定の効果を死亡率の低下に与えている可能性が高い、
ということになる訳です。

同様に心血管疾患による死亡は、
年間患者さん1万人当たり26.0件低下し、
虚血性心疾患による死亡は21.7件、
心血管疾患による入院は45.7件、
この20年間で減少していました。

2型糖尿病について同様の検討を行うと、
総死亡はこの20年で69.6件減少していて、
死亡リスクは21%低下したということになります。
コントロールとの比較においては、
コントロールの総死亡低下率の方が、
13%有意に高い、という結果になっていました。

心血管疾患による入院のリスクについては、
1型糖尿病の患者さんでは20年間で36%、
2型糖尿病の患者さんでは44%の低下を示していて、
これに関してはコントロールより有意に低下していました。

この結果をどうとらえるかは非常に微妙なところです。

トータルに数で見ると、
この20年で亡くなる人の数は格段に減っているのですが、
比率で見ると病気でない方でも、
同じように減っているのです。
ただ、心血管疾患での入院で見ると、
比率で見ても減少していて、
糖尿病の治療の効果は、
その部分では明らかと言って良いと思います。

この20年で糖尿病の患者さんの予後が、
格段に改善していることは間違いがなく、
その原因は治療の進歩と共に、
トータルな住民の健康意識と、
衛生状態の改善や病気の予防などへの取り組みが、
大きな役割を果たしているようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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