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小児期の鉛濃度が脳の発達に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
鉛と認知機能.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
小児期の鉛の過剰摂取が、
その後の脳の成長発達に与える影響についての論文です。

鉛は自然に存在する重金属の一種で、
土や水にも微量には含まれています。
その鉱石は重くて腐食しにくく、
また加工も容易であることから、
古くから様々な用途に使用されて来ました。
古代ローマ帝国の水道管として使用されたことは有名ですし、
日本では弾丸や貨幣、屋根瓦などして使用され、
明治以降は水道管としても使用が始まります。

その使用は現在では控えられる傾向にありますが、
輸入の塗料や金属製のアクセサリー、おもちゃなどには、
今でも鉛が使用されています。

最近その使用が控えられている理由は、
勿論鉛の中毒にあります。

鉛は脳と肝臓に蓄積し、
神経症状や肝機能障害を起こします。
また、血液のヘモグロビンの合成を阻害するため、
貧血の原因になります。

大量の鉛は急性中毒として、
ショックや嘔吐、腹痛などを起こしますが、
より少ない量の鉛であっても、
慢性に身体に蓄積されると、
特に小児期においては脳の機能低下や発達障害の要因になる、
というように考えられています。

ただ、実際に小児期の鉛の摂取が、
どの程度大人になってからの脳の働きと関連があるのか、
というような具体的なデータは、
実際にはあまり存在していませんでした。

今回の研究はニュージーランドにおいて、
1972年から73年に出生した1037名を登録し、
38歳まで経過観察するという、
大規模な成長と発達の疫学データを活用して、
11歳の時点の血液の鉛濃度と、
38歳の時点のIQや認知機能との関連を検証しています。

11歳時点で血中鉛濃度が測定されていたのは、
全体の56%に当たる565名で、
その平均は10.99μg/dL(SD 4.63)でした。

そして、11歳時の鉛濃度が高いほど、
38歳時のIQは低いという相関を示しました。
ちょっと嫌らしい話ですが、
鉛濃度が高いほど、
38歳時の社会経済的ステータスが低い、
という相関も同時に認められました。

このように、中毒を起こすようなレベルでなくても、
小児期の鉛の摂取量が多いと、
それがその後の脳の発達に悪影響を及ぼす可能性が、
示唆されたのです。

日本での測定データはあまり多くはありませんが、
概ね小児期の鉛濃度は2μg/dL以下とされています。
ただ、ニュージーランドでの一般の住民のデータと、
かなりの差があり、
本当に測定値がその程度と考えて良いのか、
やや疑問に感じる部分もあります。

日本においては、
まだ水道管の多くで残存している、
鉛管からの水道水への鉛の混入や、
金属製のアクセサリーやおもちゃなどを介する、
お子さんへの鉛の摂取が主な問題となりますので、
特に小児期の鉛の摂取を控えることは、
より慎重に考えた方が良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。