「午後8時の訪問者」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
デンマークの名匠、
ダルデンヌ兄弟監督の新作映画を観て来ました。
2016年のベルギー・フランス合作で、
舞台はベルギーです。
地味な映画ですが、
臨床の医者であれば、
誰でも心当たりがあるような導入になっていて、
予告を見てそのことに興味があったので、
それほどの期待はせずに鑑賞しました。
主人公は若い女性の臨床医で、
大学の研究室にポストを得て、
そこに移るまでの短い間だけ、
高齢で引退する開業医の代診をしていたのですが、
ある日診療時間を1時間オーバーした午後8時過ぎに、
玄関のブザーが鳴らされます。
主人公はその時クリニックの中にいて、
生意気な若い研修医の指導をしていたのですが、
その男性研修医の態度が悪いのでいらだっていて、
普段なら応対するところを、
ドアを開けることなくブザーを無視してしまいます。
ところが翌日警察がクリニックを訪れ、
防犯カメラの画像を解析した結果、
その時のブザーを鳴らしたアフリカ系の少女が、
その夜に殺されていたことを知ります。
彼女がその夜ブザーに応えてドアを開けていれば、
少女は殺されないで済んでいた可能性が高かったのです。
少女の死を自分の責任と捉えた主人公は、
大学の職を投げ打ってクリニックを継ぐことを決め、
それと同時に少女の死の真相を探り始めます。
意外にありそうでなかった設定で、
なかなか臨床医としては興味の沸く展開です。
ただ、これは医療ミステリーという性質のものではなくて、
移民の少女が助けを求めている時に、
それを見て見ぬふりをする心理を非難するという、
反トランプ主義のようなものが主題の作品です。
なので、それほど意外な真相があるとか、
サスペンスに富んだ展開がある、
という訳ではありません。
一応納得のゆく結末には至るのですが、
ミステリ―として考えると凡庸に思えます。
ただ、これは反トランプ主義が主題の映画なので、
その意味ではこれで充分なのだと思います。
こうした「思想押し付け映画」は大体そうなのですが、
脇筋に「人間ってそれでも捨てたものじゃない」的な、
大甘の人間賛歌のようなエピソードを持ってきていて、
この映画でも最初は批判していた研修医は実は良い奴で、
途中で主人公の説得に感じ入り、
一度はあきらめた医師への道を、
また目指すようになる話などを入れていました。
ただ、ケン・ローチ作品などでもそうですが、
主題の厳しいリアルな感じと比較して、
そうした脇筋があまりにご都合主義で楽天的で絵空事なので、
オヤオヤという気になるのです。
主人公が大学での就職を断って、
開業医を継承するという決断も、
何か身体がムズムズ痒くなるような感じがします。
それでもこの映画を結構面白く観られたのは、
ベルギーの医療事情などが割と語られていたり、
クリニックでのプライマリケアの診察などが、
割と詳細に演じられていて、
その辺りが興味深かったからです。
ベルギーもかかりつけ医制のようで、
かかりつけ医を登録し、
基本的にはその医師が初期診療は全てするようです。
それほどの必要がなくても、
往診には気軽に応じています。
ただ、かかりつけ医の開業医は、
かなり下に見られているようで、
クリニックを継承すると言うと、
引退する開業医は、
「保険の患者ばかりで儲からないし大変だよ」
みたいなことを言います。
大人も老人も診ますし、
子供も診ます。
お子さんの咽頭炎では、
解熱剤の屯用と共に、
生理食塩水を使って家で喉を洗浄することが指示されていました。
腰椎ヘルニアが疑われる疼痛の患者さんの依頼では、
往診してすぐにモルヒネを注射してから、
病院の受診を指示していました。
クリニックでの検査は原則せず、
検査は外に依頼したり病院に紹介するのですが、
その代わり聴診を詳細に取ったり、
診察は慎重に行なっています。
映画はテンポは遅くはないのですが、
音効は自然音のみで基本的にはなく、
ラストまでほぼ同じテンポで進行するので、
内容に興味が持てないと退屈に感じるかも知れません。
カットの1つ1つは意外に長く、
ドアの前で横向きの2人が長々と対話するような、
映画文法的にはオヤオヤと思うような場面もあるのですが、
車で主人公が襲われる場面などは、
車に乗せたキャメラでワンカットで撮っていて、
その辺りはさすがベテランという気がしました。
総じて丁寧な作りの良心的な映画ですが、
地味なので退屈には感じます。
あまり期待をし過ぎることなく、
リラックスして観ると、
意外に悪くないね、
というくらいにお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
デンマークの名匠、
ダルデンヌ兄弟監督の新作映画を観て来ました。
2016年のベルギー・フランス合作で、
舞台はベルギーです。
地味な映画ですが、
臨床の医者であれば、
誰でも心当たりがあるような導入になっていて、
予告を見てそのことに興味があったので、
それほどの期待はせずに鑑賞しました。
主人公は若い女性の臨床医で、
大学の研究室にポストを得て、
そこに移るまでの短い間だけ、
高齢で引退する開業医の代診をしていたのですが、
ある日診療時間を1時間オーバーした午後8時過ぎに、
玄関のブザーが鳴らされます。
主人公はその時クリニックの中にいて、
生意気な若い研修医の指導をしていたのですが、
その男性研修医の態度が悪いのでいらだっていて、
普段なら応対するところを、
ドアを開けることなくブザーを無視してしまいます。
ところが翌日警察がクリニックを訪れ、
防犯カメラの画像を解析した結果、
その時のブザーを鳴らしたアフリカ系の少女が、
その夜に殺されていたことを知ります。
彼女がその夜ブザーに応えてドアを開けていれば、
少女は殺されないで済んでいた可能性が高かったのです。
少女の死を自分の責任と捉えた主人公は、
大学の職を投げ打ってクリニックを継ぐことを決め、
それと同時に少女の死の真相を探り始めます。
意外にありそうでなかった設定で、
なかなか臨床医としては興味の沸く展開です。
ただ、これは医療ミステリーという性質のものではなくて、
移民の少女が助けを求めている時に、
それを見て見ぬふりをする心理を非難するという、
反トランプ主義のようなものが主題の作品です。
なので、それほど意外な真相があるとか、
サスペンスに富んだ展開がある、
という訳ではありません。
一応納得のゆく結末には至るのですが、
ミステリ―として考えると凡庸に思えます。
ただ、これは反トランプ主義が主題の映画なので、
その意味ではこれで充分なのだと思います。
こうした「思想押し付け映画」は大体そうなのですが、
脇筋に「人間ってそれでも捨てたものじゃない」的な、
大甘の人間賛歌のようなエピソードを持ってきていて、
この映画でも最初は批判していた研修医は実は良い奴で、
途中で主人公の説得に感じ入り、
一度はあきらめた医師への道を、
また目指すようになる話などを入れていました。
ただ、ケン・ローチ作品などでもそうですが、
主題の厳しいリアルな感じと比較して、
そうした脇筋があまりにご都合主義で楽天的で絵空事なので、
オヤオヤという気になるのです。
主人公が大学での就職を断って、
開業医を継承するという決断も、
何か身体がムズムズ痒くなるような感じがします。
それでもこの映画を結構面白く観られたのは、
ベルギーの医療事情などが割と語られていたり、
クリニックでのプライマリケアの診察などが、
割と詳細に演じられていて、
その辺りが興味深かったからです。
ベルギーもかかりつけ医制のようで、
かかりつけ医を登録し、
基本的にはその医師が初期診療は全てするようです。
それほどの必要がなくても、
往診には気軽に応じています。
ただ、かかりつけ医の開業医は、
かなり下に見られているようで、
クリニックを継承すると言うと、
引退する開業医は、
「保険の患者ばかりで儲からないし大変だよ」
みたいなことを言います。
大人も老人も診ますし、
子供も診ます。
お子さんの咽頭炎では、
解熱剤の屯用と共に、
生理食塩水を使って家で喉を洗浄することが指示されていました。
腰椎ヘルニアが疑われる疼痛の患者さんの依頼では、
往診してすぐにモルヒネを注射してから、
病院の受診を指示していました。
クリニックでの検査は原則せず、
検査は外に依頼したり病院に紹介するのですが、
その代わり聴診を詳細に取ったり、
診察は慎重に行なっています。
映画はテンポは遅くはないのですが、
音効は自然音のみで基本的にはなく、
ラストまでほぼ同じテンポで進行するので、
内容に興味が持てないと退屈に感じるかも知れません。
カットの1つ1つは意外に長く、
ドアの前で横向きの2人が長々と対話するような、
映画文法的にはオヤオヤと思うような場面もあるのですが、
車で主人公が襲われる場面などは、
車に乗せたキャメラでワンカットで撮っていて、
その辺りはさすがベテランという気がしました。
総じて丁寧な作りの良心的な映画ですが、
地味なので退屈には感じます。
あまり期待をし過ぎることなく、
リラックスして観ると、
意外に悪くないね、
というくらいにお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。