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喫煙と甲状腺との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タバコと甲状腺.jpg
これは2013年のClinical Endocrinology誌のレビューですが、
甲状腺の病気と喫煙との関連をまとめたものです。

タバコは勿論多くの有害物質を含み、
肺気腫などのCOPDと呼ばれる慢性の肺疾患や、
食道癌、肺癌、喉頭癌を始めとする多くの癌が、
タバコを原因として発生することは、
精度の高い疫学データで実証された事実です。

ただ、喫煙の人体に与える影響は、
その含まれる成分の多彩さからよるものか、
かなり複雑であることもまた事実です。

上記のレビューは甲状腺と喫煙との関連について、
主にこれまでの疫学データをまとめたものですが、
非常に興味深い知見を含んでいます。

甲状腺の自己免疫疾患と言えば、
甲状腺機能亢進症になるバセドウ病と、
機能低下症になる橋本病がその代表です。

この2つの病気はそれぞれ別個の自己抗体が原因となっていますが、
両者が合併することも稀ではないので、
全く別の病気とも言えません。

これまでの複数の疫学データにおいて、
喫煙は橋本病のリスクを低下させる一方、
バセドウ病のリスクは増加させるという結果が報告されています。

これは同じ炎症性腸疾患でありながら、
クローン病は喫煙者で増加し、
潰瘍性大腸炎は喫煙者では減少するのと似ています。

甲状腺の腫瘍については、
良性の結節が複数出来る腺腫様甲状腺腫は、
喫煙者で多い一方、
甲状腺癌は喫煙者では少ないことが報告されています。

これは2003年に発表されたメタ解析において、
現在の喫煙者は非喫煙者と比較して、
甲状腺癌のリスクが40%(95%CI;0.6から0.9)有意に低下し、
以前の喫煙者では10%低い傾向はあるものの有意ではありませんでした。
この検証では吸っているタバコの本数が多いほど、
甲状腺癌のリスクもより低下していて、
この用量依存性があるという事実は、
喫煙と甲状腺癌との直接的な関連を示唆するものです。
2010年と2012年に発表された独立した疫学データでも、
同様の傾向が見られています。

甲状腺癌のリスクとして、
環境要因での関与が確実とされているのは、
放射線の被ばくですが、
放射線作業従事者の疫学データによると、
女性では喫煙により甲状腺癌のリスクは、
46%有意に低下していました。

また甲状腺乳頭癌のみの検証では、
閉経後の女性において、
喫煙者は非喫煙者と比較して、
乳頭癌のリスクは66%有意に低下していました。
(95%CI;0.15から0.78)

このように甲状腺癌が喫煙者で少ないという知見は、
そのメカニズムは現時点では不明ですが、
ほぼ事実と考えられ、
今後そのメカニズムを含めて、
検証が必要であると考えられます。

念のための補足ですが、
勿論喫煙は健康には多くの害があり、
甲状腺癌のリスクが低下するからと言って、
喫煙が推奨されるということはなく、
万が一にもそのために喫煙をするようなことは、
しないようにお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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