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バリウム検査と虫垂炎との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バリウムと盲腸との関係.jpg
今年のthe American Journal of Medicine誌に掲載された、
バリウムを利用した消化管の検査と、
その後に起こる急性虫垂炎(盲腸)との関連についての論文です。

バリウムは消化管の造影剤として広く使用され、
胃カメラが普及する前の胃の検査と言えば、
胃のバリウム検査で、
特に二重造影という空気とバリウムとのコントラストによって、
胃粘膜の微細な病変を浮かび上がらせる技術が、
日本で開発をされてからその診断能は飛躍的に向上しました。

肛門からバリウムを注入する大腸のバリウム検査も、
大腸ファイバーが普及する前には、
殆ど唯一の大腸の精密検査でした。

バリウムの検査は、
内視鏡検査にはない利点もあり、
胃や腸の全体としての構造や広がりを、
一目で見ることが出来るので、
今でもその有用性は失われてはいません。

しかし、何より医療被ばくの大きい検査である、
という欠点がありますし、
病気の疑いがある時には、
結局胃カメラや大腸ファイバーもしなければ、
確定診断には至りません。

二重造影の高度な技術とその読影は、
職人芸的な部分があって、
内視鏡検査の普及以降、
その技術レベルは低下していると思います。

それ以外にバリウムの検査により、
バリウムが固まって石のようになって腸に残ったり、
固まったバリウムにより胃腸の病気が起こるような事例が、
バリウムを使用した検査後に報告されています。

そのうちの1つが、
バリウム検査後の急性虫垂炎(盲腸)の発症です。

1954年に最初の症例報告があって以降、
上記文献の記載によれば、
50 例以上の報告が蓄積されています。
ただ、バリウム検査から虫垂炎発症までの期間は、
6時間から数年と幅広く、
関連性が希薄と思えるケースも混ざっています。
また、虫垂炎の原因として、
バリウムが虫垂の中で糞石のようになって溜まり、
通過障害を起こすことが想定されているのですが、
実際にはバリウムの虫垂への残留が確認されている事例を、
多数例観察しても、
虫垂炎は発症しなかった、
という報告もあり、
この問題はまだ白黒が付いていません。

そこで今回の研究では、
台湾の大規模な医療データを活用して、
2000年から2010年に掛けてバリウム検査を受けた、
トータル24885名を、
年齢性別などをマッチングさせて、
バリウム検査を受けていない98384名と比較して、
その後の虫垂炎の発症との関連性を検証しています。

その結果、
平均で6年程度の観察期間中に虫垂炎を発症した比率は、
バリウム検査群で年間1000人当たり1.19件に対して、
検査未施行群では0.8件で、
年齢や基礎疾患などの因子を補正した上で、
バリウム検査後に虫垂炎の発症率は、
未施行と比較して1.46倍(95%CI;1.23から1.73)有意に増加していました。

特にバリウム検査後2か月の期間に限定すると、
そのリスクは9.72倍(95%CI;4.65から20.3)と最も高くなっていました。
その後3から12か月後ではそのリスクは2.11倍(95%CI;1.40から3.18)と、
期間が長くなるにつれて低下し、
バリウム検査後1年を超えると、
有意な虫垂炎の発症リスクの増加は認められなくなりました。
腸が穿孔した重症の事例に限っても、
そのリスクはバリウム後2か月で6.91倍(95%CI;2.72から17.6)と、
最も高くなっていました。
またこのリスクは胃のバリウム検査より、
注腸のバリウム検査でより高くなっていました。

今回初めて多数例の検討により、
バリウム検査後の虫垂炎のリスクが、
特にその検査後2か月以内で増加している、
ということが明確に示されました。

その理由はまだ明確ではありませんが、
バリウム検査によるバリウムの局所の残存と共に、
胃腸に圧力が掛かることによる粘膜の障害なども、
上記文献の考察では言及されています。
ただ、腸に圧力が掛かることが問題であるとすれば、
大腸ファイバーでも同様のリスクはあると想定され、
その検証も必要であるように思います。

バリウム検査を健康診断や人間ドックで行うというケースは、
今後より減ってゆくと思われますが、
バリウム検査後特に2か月以内には、
急性虫垂炎が起こりやすくなるという知見は、
一応頭に置いて検査は受けることが必要であるようです。
ただ、その頻度はそれほど大きなものではなく、
大腸ファイバーにおいても、
理屈の上ではリスクはないとは言えない、
ということも押さえて置く必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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