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COPDの予後を血液検査で予測する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDの予後と血液検査.jpg
今年のInternational Journal of COPD誌に掲載された、
簡単な血液検査で、
COPDの余郷を推測する試みについての論文です。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)というのは、
喫煙を主な原因として発症する、
肺気腫や慢性気管支炎といった肺の慢性の病気の総称で、
特に高齢者においてその増加が世界的に大きな問題となっています。

COPDにおいては気道に慢性の炎症が起こり、
それが肺胞の破壊や、気道の狭窄などの変化に結び付いてゆきます。

同じように炎症で気道が狭くなる病気に喘息があり、
気管支喘息における炎症はアレルギー性で、
好酸球という白血球が主体で浸潤が起こっているのに対して、
COPDでは好中球という白血球が主体の炎症が起こっている、
という違いがあります。

好中球という白血球は、
主に細菌感染の時に増加して、
細菌を攻撃する細胞なので、
COPDでは慢性的に細菌の感染が起こっている、
という考え方があります。
ただ、実際には細菌感染以外でも、
COPDにおいては気道で好中球の炎症が起こりやすい、
というメカニズムが存在しているようです。

一方で喘息においては好酸球という白血球が主体の炎症が、
慢性に起こっていることがその特徴です。
ただ、これも実際にはCOPDにおいても、
好酸球が多く浸潤している事例が結構あり、
それが喘息との合併と考えるべきなのか、
COPD自体の特徴であるのかも、
まだ議論のあるところです。

さて、COPDの経過を考える上で、
問題となるのは、
急性増悪と呼ばれる、
急激な呼吸状態の悪化です。

この急性増悪は気道感染をきっかけとして起こることが多く、
それを繰り返すことで呼吸機能は低下し、
COPDの予後は悪くなります。

それでは、簡単な血液検査をすることで、
COPDの状態や予後を予測することは出来るのでしょうか?

実際に気道の炎症部位における、
好中球や好酸球の数を測定出来れば、
それが一番病勢を反映していると考えられますが、
実際にはそうした検査を簡単にすることは出来ません。

血液の白血球の数と、
そこに含まれる好中球や好酸球の数は、
血算という簡単な検査で測定が可能です。

それがどの程度肺での炎症の状態を反映しているのかについては、
まだ明確な結論が出ていませんが、
COPDの増悪時には好中球が増加していて、
特にリンパ球との比率で見た時に、
好中球数をリンパ球数で割り算した数値
(好中球/リンパ球比)が、
上昇しているという報告があります。

また、血液の好酸球が白血球全体の2%以上であると、
アレルギー性の炎症の関与が一定レベルあると想定され、
COPDとしての予後は良く、
喘息の治療薬である吸入ステロイドの有効性が期待出来る、
という報告もあります。

今回の研究は中国において、
40歳以上のその時点では安定した状態にあるCOPDの患者さん、
トータル368名を登録し、
296名の年齢などをマッチさせたコントロール群と比較すると共に、
3か月毎に検査を行い2年間の経過観察を行って、
血液の好中球や好酸球の数や比率と、
患者さんの生命予後の関連を検証しています。

その結果…

コントロール群と比較してCOPD群では、
血液の好中球数と好塩基球数が有意に高く、
好酸球とリンパ球数が有意に低くなっていました。
従って、それを割り算した、
好中球/リンパ球比はCOPD群で有意に高く、
好酸球/好塩基球比は有意に低くなっていました。

経過観察期間中に登録されたCOPDの患者さんのうち、
96名がCOPDのために死亡していました。
その死亡群と生存群とを比較すると、
好中球/リンパ球比は死亡群で有意に高く、
好酸球/好塩基球比は有意に低くなっていました。

多変量解析を行うと、
多くの指標の中でCOPDによる死亡のリスク増加と、
最も高い相関を示していたのは好中球/リンパ球比の増加で、
好酸球/好塩基球比の増加は、
最も死亡リスクの低下と結びつく指標となっていました。

具体的には、
好中球/リンパ球比が3.3以上では死亡リスクが高くなり、
また好酸球/好塩基球比が4.2以下でも死亡リスクが高くなる、
という関係が認められました。

問題はこうしたリスクの高い患者さんに対して、
どのような治療を行なえばそのリスクを低下させることが出来るのか、
ということになるのだと思いますが、
いずれにしても何処の医療機関でも可能な、
簡単で安価な検査によって、
COPDの予後がある程度予測出来るという結果は興味深く、
複数回測定したデータの扱いがあまり明確に書かれていないなど、
信頼性にはやや疑問の点もあるのですが、
今後の検証を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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