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腸内細菌の多様性と食物繊維が肥満を予防する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
腸内細菌の多様性と体重.jpg
今年のInternational Journal of Obesity誌に掲載された、
腸内細菌の種類や多様性と、
体重の増加のし易さとの関連についての論文です。

肥満が心血管疾患や糖尿病の大きな原因であることは、
間違いのない疫学的な事実です。

これまでの双子の研究などの結果によると、
肥満の原因の40から75%は遺伝により決まっています。
これは裏を返せば、
全く同じ遺伝子を持っていても、
環境要因により肥満になることもあり、
またならないこともある、
ということを示しています。

肥満の原因はカロリーの摂り過ぎと運動不足である、
というように良く言われます。
それは事実ではありますが、
その一方で、
全く同じ食事量と運動量であっても、
矢張り太りやすい人とそうでない人とは存在しています。

それは代謝量など遺伝的に決まっている因子もありますが、
それだけで説明が付くものではありません。

それでは、
生まれつき決まっているものではないのに、
同じカロリーを摂って太りやすい人と、
太りにくい人との間には、
どのような違いがあるのでしょうか?

最近この点で注目をされているのが、
腸内細菌叢の違いです。

腸内細菌が身体の代謝に大きな影響を与えていることは、
最近の研究のトレンドの1つで、
その違いにより食物の身体での利用のされ方が異なり、
同じカロリーを同じように摂っていても、
体重の増加の仕方が違うということは、
ほぼ間違いのない事実です。

しかし、それではどの腸内細菌が体重増加に繋がり、
どの腸内細菌が体重増加を抑制しているのか、
というような点については、
研究によってもその結果には大きな違いがあり、
ある論文では悪の権化のようにされている細菌が、
他の論文では正義の味方のような評価を受けている、
というような食い違いも稀ではありません。

動物実験ではなく、
人間を対象とした臨床データも、
現時点では不足しています。

今回の研究はイギリスの双子研究のデータを活用したもので、
時間を追った体重増加の経過と、
腸内細菌の遺伝子レベルでの分析結果との関連を検証しています。
双子の研究であるので、
遺伝の影響を簡単に除外出来ることが利点です。

トータルな対象者数は1632名で、
便のサンプルを採取して、
遺伝子の種別による解析を行い、
どのような腸内細菌が含まれているのかをマッピングして、
個々の操作的分類単位毎の体重増加との関連と、
その多様性との関連を分析しています。

その結果、
まず長期間の体重増加における遺伝の関与は41%程度で、
腸内細菌の多様性、つまり多くの種別の細菌がバランス良く存在していることが、
体重増加の抑制に有意に結びついていました。
個別の腸内細菌については、
草食動物の胃などに多く存在している、
ルミノコッカスという菌群と、
ラクノスピラと呼ばれる菌群が増加していると、
体重増加の抑制に結び付き、
最近肥満予防効果があるとする報告の多い、
日和見菌のバクテロイデスについては、
単独では体重増加のリスクとして働くものの、
菌叢の多様性が保たれていれば、
体重増加には結び付かない、という結果になっていました。
また、食物繊維の摂取量が多いことは、
これも体重増加の抑制と相関を持っていました。

要するに今回の検討では、
個々の腸内細菌よりも、
その多様性のバランスが、
健康の維持に重要で、
それが乱れることが病的な体重の増加に結び付く可能性が高い、
という結果になっています。

今回の研究は平均で9年くらいという長期の体重増加を見ていて、
例数も多く、双子の研究で遺伝の因子を除外出来るなど、
これまでの研究にはない多くの利点があり、
今後の腸内細菌叢と健康との関連の議論において、
一石を投じるような知見であることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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