慢性腎臓病・心不全・肝障害におけるメトホルミンの使用について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
2型糖尿病の世界的な第一選択薬である、
メトホルミンの慢性内臓障害時の安全性についての論文です。
メトホルミン(商品名メトグルコなど)は、
世界的に2型糖尿病の第一選択薬の位置が確立している薬剤です。
ただ、その評価の経緯には紆余曲折がありました。
アメリカにおいては1994年に承認されましたが、
同系統のビグアナイト系の薬剤であったフェンフォルミンが、
乳酸アシドーシスという重篤な副作用のために、
1997年に販売中止に至ったという経緯もあり、
乳酸アシドーシスのリスクが高い対象についての、
処方制限が多く設けられました。
具体的には慢性腎臓病や心不全、
肝障害の患者さんに対しては、
使用に対して警告が出されました。
ただ、その後の臨床データの蓄積により、
メトホルミンの使用と乳酸アシドーシスとの間には、
それほど明確な関連はないことが報告され、
中等度の腎機能低下や心不全における安全性も報告されました。
そのため、2006年にアメリカのFDAは、
急性な不安定のケースを除いて、
心不全でのメトホルミンの使用に対する警告を外し、
慢性腎臓病についても、
推計糸球体濾過量という数値が30ml/min/1.73㎡以上であれば、
その使用に対する警告を外しました。
一方で日本においては、
心不全は禁忌で、
中等度以上の腎機能低下や肝機能障害も禁忌の扱いです。
更には高齢者も慎重投与の扱いとなっています。
この場合の中等度以上の腎機能障害や肝機能障害が、
具体的にどのような状態を指しているのかは、
必ずしも明確ではないのですが、
日本で行われた臨床試験において、
肝機能障害は正常上限値を2.5倍以上超えたケースを除外し、
腎機能障害では血液のクレアチニン濃度が、
男性で1.3mg/dL以上、女性で1.2mg/dL以上を除外した、
と言う記載があり、
これが一応の目安となっています。
このように、国内外でもメトホルミンの使用の基準には、
差があるのが実際なのです。
今回の研究は2型糖尿病で、
中等度以上の慢性腎臓病や心不全、
慢性肝臓病を伴っている患者さんでの、
メトホルミンのこれまでの使用データをまとめて解析する方法で、
この問題の検証を行っています。
その結果、
慢性腎臓病については、
推計の糸球体濾過量が30ml/min/1.73㎡以上であれば、
メトホルミンの使用は安全で、
患者さんの予後にも良い影響が期待できる、
というデータが得られました。
肝障害や心不全においても、
中等度の肝障害や肝硬変を伴うケース、
中等度の心不全において、
メトホルミンは生命予後に悪影響を与えてはいませんでした。
ただ、肝障害や心不全の重症度の指標は、
臨床研究によって異なっているため、
どの数値までが安全、というような、
明確な指標は得られませんでした。
このように、明らかに重症と考えられるような病態を除いては、
内臓障害があるからと言って、
メトホルミンによる有害事象が増加するという根拠はなく、
幅広い患者さんに安全に使用が可能であるというのが、
最近の世界的な知見の流れだと言って良いようです。
日本の添付文書ももう少し明確な表現に、
改められるべきではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
2型糖尿病の世界的な第一選択薬である、
メトホルミンの慢性内臓障害時の安全性についての論文です。
メトホルミン(商品名メトグルコなど)は、
世界的に2型糖尿病の第一選択薬の位置が確立している薬剤です。
ただ、その評価の経緯には紆余曲折がありました。
アメリカにおいては1994年に承認されましたが、
同系統のビグアナイト系の薬剤であったフェンフォルミンが、
乳酸アシドーシスという重篤な副作用のために、
1997年に販売中止に至ったという経緯もあり、
乳酸アシドーシスのリスクが高い対象についての、
処方制限が多く設けられました。
具体的には慢性腎臓病や心不全、
肝障害の患者さんに対しては、
使用に対して警告が出されました。
ただ、その後の臨床データの蓄積により、
メトホルミンの使用と乳酸アシドーシスとの間には、
それほど明確な関連はないことが報告され、
中等度の腎機能低下や心不全における安全性も報告されました。
そのため、2006年にアメリカのFDAは、
急性な不安定のケースを除いて、
心不全でのメトホルミンの使用に対する警告を外し、
慢性腎臓病についても、
推計糸球体濾過量という数値が30ml/min/1.73㎡以上であれば、
その使用に対する警告を外しました。
一方で日本においては、
心不全は禁忌で、
中等度以上の腎機能低下や肝機能障害も禁忌の扱いです。
更には高齢者も慎重投与の扱いとなっています。
この場合の中等度以上の腎機能障害や肝機能障害が、
具体的にどのような状態を指しているのかは、
必ずしも明確ではないのですが、
日本で行われた臨床試験において、
肝機能障害は正常上限値を2.5倍以上超えたケースを除外し、
腎機能障害では血液のクレアチニン濃度が、
男性で1.3mg/dL以上、女性で1.2mg/dL以上を除外した、
と言う記載があり、
これが一応の目安となっています。
このように、国内外でもメトホルミンの使用の基準には、
差があるのが実際なのです。
今回の研究は2型糖尿病で、
中等度以上の慢性腎臓病や心不全、
慢性肝臓病を伴っている患者さんでの、
メトホルミンのこれまでの使用データをまとめて解析する方法で、
この問題の検証を行っています。
その結果、
慢性腎臓病については、
推計の糸球体濾過量が30ml/min/1.73㎡以上であれば、
メトホルミンの使用は安全で、
患者さんの予後にも良い影響が期待できる、
というデータが得られました。
肝障害や心不全においても、
中等度の肝障害や肝硬変を伴うケース、
中等度の心不全において、
メトホルミンは生命予後に悪影響を与えてはいませんでした。
ただ、肝障害や心不全の重症度の指標は、
臨床研究によって異なっているため、
どの数値までが安全、というような、
明確な指標は得られませんでした。
このように、明らかに重症と考えられるような病態を除いては、
内臓障害があるからと言って、
メトホルミンによる有害事象が増加するという根拠はなく、
幅広い患者さんに安全に使用が可能であるというのが、
最近の世界的な知見の流れだと言って良いようです。
日本の添付文書ももう少し明確な表現に、
改められるべきではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本