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「愚行録」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日最後の映画記事になります。
それがこちら。
愚行録.jpg
貫井徳郎さんの同題のミステリーを映画化した作品が、
今封切り公開中です。

新宿の比較的大きなスクリーンで鑑賞しました。

貫井さんの原作は先に読んでいたのですが、
この方はミステリー作家としてはかなりムラがあって、
面白い作品がある一方で、
殺人事件の謎解きを期待して読んでいると、
結局謎は解かれないままに終わってしまう、
というような脱力系の作品も多く書いています。

「愚行録」はある一家皆殺しの殺人事件について、
関係者がジャーナリストに証言した記録をまとめた、
という体裁の作品になっていて、
事件の謎がメインのテーマという感じではないのですが、
一応ラストには犯人が提示され、
それなりに伏線が回収されるようにはなっています。

慶應大学と早稲田大学が実名で登場して、
慶應については、
内部生と外部生の格差があって妬みあってドロドロ、
というような描写になり、
桐野夏生さんの「グロテスク」のパクリのような感じでした。
どうもあまり上出来とは思えません。

これをそのまま映画にしても、
面白くもおかしくもなさそうだ、
というように感じましたが、
映画の脚本は、
1組の人物をスライドするような感じでリライトしていて、
他の部分はあまり変えていないのに、
原作とはかなり印象の異なる作品に仕上がっていました。

「ラストに3度の衝撃」みたいな宣伝文句があり、
実際に、犯人が分かる、
意外な場面でワンカットで殺人が起こる、
隠されていた秘密が明らかになる、
という趣向になっています。
格別意外性があるということでもないですし、
原作通りのことが起こるだけ、とも言えるのですが、
あまり起伏がなく意外性やサスペンスには乏しい原作を、
かなり上手く盛り上げようとしていた、
というようには思います。

ただ、ここまで頭をひねって原作を作り変えるのであれば、
もっと他に映画向きの原作があったのではないかしら、
という思いは抜けませんでした。

雰囲気的にはハノケのミステリー映画みたいな感じで、
悪くはないムードでした。
オフィス北野の制作で、
北野武映画のスタッフが入っているので、
オープニングのバスで席を譲るというシークエンスなど、
数分のエピソードで起承転結を付け、
ちょっとしたオチを作るやり方や、
必要以上に移動のショットを長く取るところなどは、
北野映画の影響が感じられます。
一方で余白を活かした無機的な空間での、
精神科医と女性とのやり取りや、
意外で唐突な殺人の瞬間を、
ワンカットで見せるやり口などは、
黒沢清監督の影響が顕著です。

僕は北野映画も黒沢映画も大好きなので、
そうした意味ではとても相性は良かったのですが、
まだ統一感を持ってそれが独自の演出に、
昇華しているという感じではないので、
何処かぎこちないパッチワークのようになっていて、
それが不満に感じました。

ワンカットの殺人シーンは、
置物で相手を殴りつけるのですが、
寸止めしているのが明らかに分かる芝居で、
とてもガッカリしました。
黒沢監督でしたら、絶対にああした詰めの甘い描写は、
しないと思います。
あれはガツンと本当に殴ったように見えなければ意味がなく、
そう出来ないのであれば、
カットを割った方が良いのです。

このように不満は多いのですが、
サイコスリラーとして僕好みの題材ですし、
もう少し独自性のある絵作りが出来てくれば、
大化けするのではないか、
という期待も持たせるものではありました。

次作を楽しみに待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「たかが世界の終わり」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日4本目の映画の記事にあります。

それがこちら。
たかが世界の終わり.jpg
カナダの新鋭グザヴィエ・ドラン監督が、
フランスの劇作家の戯曲を原作に映画化し、
豪華キャストの台詞劇として構成した新作映画が、
今封切り公開されています。

昨年のカンヌ国際映画祭のグランプリを獲得しています。

カンヌのグランプリは昨年の「ディーパンの戦い」もきつかったのですが、
今回は更にきつい作品です。
娯楽性はほぼ皆無の台詞劇で、
舞台戯曲の映画化でありがちですが、
台詞の微妙なニュアンスが分からないと、
理解不能という感じの作品なので、
正直ひたすら苦痛な鑑賞になりました。

かと言って、内容が難解だ、ということではなく、
物語は比較的明確で意図も不明な感じではなく、
音効の入れ方などはキャッチャーな感じなのですが、
台詞のニュアンスが分からないと、
何もない物語はひたすら単調で、
急に登場人物が興奮したり怒ったりするところもあるのですが、
その理由が明かされることもないので、
観る側はひたすらモヤモヤしてしまうだけです。

物語は家族から断絶して家を出た主人公が、
劇作家として大成し、
12年ぶりに家族の元を訪ねる、
というところから始まります。

彼はもう死期が迫っている、
ということがモノローグで明かされますが、
その詳細は不明で、
最後まで不明のままです。

彼は実家で自分がもう死ぬ、
という話をする筈だったのですが、
結局は話をすることは出来ず、
何も分からず、何も進展はしないままに、
物語は終わってしまいます。

主人公はどうやらホモセクシャルでHIVに感染し、
それで死期が迫っている、
ということのようです。
ただ、予備知識がないとそんなことは、
本編を観るだけでは全く分かりませんし、
家族がキスを嫌がったりと、
におわすような描写は確かにあるのですが、
それで分かれというのも随分と不親切な話ですし、
分かったところで特に面白いという訳でもありません。

日本映画でもこういうタイプの話はありますし、
ニュアンスが分かると、
もう少し面白く観ることが出来るのだと思います。
多分台詞のディテールにも妙味があるのだと思いますが、
それを察しろというのも無理があります。

ほのかに見える田舎の景色の空気感とか、
面白そうな描写もあるのですが、
タルコフスキーみたいに、
草原を風が渡るだけで物語などなくても気分が良い、
というような感じにはならず、
ああ、ちょっとムードがあるね、
くらいで終わってしまいます。

そんな訳でフランス語のニュアンスが分からないと、
ほぼ理解不能の映画で、
そうした素養のある方以外には、
お薦めは出来ない作品です。

褒めている評論家の方もいらっしゃるのですが、
おそらくは社交辞令か嘘を吐かれているように、
個人的には思います。

無駄に時間を使ってしまいました。

それでは次に続きます。

「スノーデン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日3本目の映画記事になります。
それがこちら。
スノーデン.jpg
社会派のオリバー・ストーン監督が、
アメリカを揺るがしたスノーデン事件を、
得意の虚実ないまぜの手法で映画化した作品を、
もう上映終了スレスレの映画館で観て来ました。

これは、まあまあ面白い、という評が多かったので、
観ることにしたのですが、
あまり面白くはありませんでした。

オリバー・ストーン監督というと、
膨大な情報を駆使した映画作りというイメージがあり、
少し事件についてお勉強出来れば、
という興味で鑑賞したのですが、
今回の作品では主人公の人物像も、
何かぼんやりしていて魅力がありませんし、
どうやって盗聴していたのかという具体的な部分や、
アメリカの諜報機関の内部の雰囲気や様子、
情報が暴露されてからの国家間の駆け引きなど、
面白いと思えるような情報が、
殆ど描かれていません。

物語は香港のホテルで、
スノーデンとマスメディアの記者が会い、
報道に向けての流れが始まるところから、
そのインタビューの回想という形で、
彼の情報機関との関わりが描かれます。
段取り重視の非常に薄っぺらな描写で、
ネットニュースでも分かる程度の情報が、
そのまま流されるだけという印象です。

よくある「世界仰天ニュース」の、
再現VTRくらいのレベルの物語なのです。
これはもう、ガッカリしてしまいました。

基本的にはスノーデンを英雄視しているというスタンスです。
最後は映像でアメリカの聴衆の前にスノーデンが現れ、
拍手喝采して終わるという感じになるのですが、
そんな単純なものだろうか、
と疑問に思ってしまいます。
スノーデンの人間性に全く踏み込んでいないので、
全てが薄っぺらで説得力がないのです。

個人的にはとても時間の損でした。

それでは4本目の映画の記事に続きます。

「ラ・ラ・ランド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事も映画の話題です。
それがこちら。
ララランド.jpg
前評判の高かったミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」を、
初日の新宿の映画館で観て来ました。

これがビックリで最初の5分間、
声やボーカルの音が流れず、
一旦静止画像になってお詫びが流れ、
それから15分押しくらいで再開されました。
ただ、上映された作品の音声も少しバランスが悪く、
問題のある感じでした。
デジタルになってからの映画館で、
こんなことは初めての経験でした。

色々なことがありますね。

これは詰まらない映画ではないのですが、
期待が大きかっただけに、
「それほどじゃないな」というような感想を、
どうしても持ってしまいました。

主役の2人は抜群に良いので、
2人の演技を見ているだけで、
まあ元は取っているな、という感じにはなるのです。

新しい感覚のミュージカル映画、
というようなものをイメージしていたのですが、
あまりそうした感じではなくて、
特に前半30分くらいは、
演技を少しして急に歌いだし踊りだすという、
昔懐かしいミュージカルをそのままやっています。
それが主役2人はミュージカルのプロではないので、
歌も踊りも素人の感じです。
他のダンサーも一糸乱れぬダンス、という感じでもなく、
歌も鼻歌みたいな感じで、
露骨にアフレコである上に、
歌い上げるようなところもありません。

これは素人芸として見せたいのか、
下手糞なプロとして見せたいのか、
良く分からない感じです。

中段以降はあまりミュージカルシーンはなく、
普通のハリウッドメロドラマのパターンになります。
プラネタリウムでデートをすると、
星空にフライングになって影絵になったりするのも、
真面目にそのままやっているのですが、
あまりに古めかしくてその意図を疑ってしまいます。

ラストは「シェルブールの雨傘」みたいになるのですが、
あり得た未来をイメージして、
涙を浮かべてそれで終わりというのも、
どうもあまりに予定調和でクラクラしてしまいます。

台詞などはお洒落でセンスが良いのだとは思いますし、
ダンスに入る段取りなどもパロディめいて面白い部分があります。
ただ、トータルにはミュージカルというには、
あまりにミュージカル場面がお粗末で、
それでいて新しいものを目指したという感じもないので、
「本当にこれでいいの?」
という疑問が最後まで抜けませんでした。

音効は悪いままだったので、
2回くらい観ないとな、とも思うのですが、
正直1回でいいかな、
という感じの作品でした。

ちょっと残念です。

それでは3本目の映画に続きます。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも、
石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はまずこちら。
リップヴァンウィンクルの花嫁.jpg
昨年の春に公開された岩井俊二さんの新作映画が、
先日1回のみ品川のシネコンで上映されました。

これは評価が高かったのですが、
昨年見逃がしていたので、
これはチャンスと思って映画館に足を運びました。

岩井俊二監督の作品は、
「Love Letter」と「スワロウテイル」しか観ていないので、
あまり良い観客ではありません。
両方ともヒットした作品ですが、
正直あまりピンとはきませんでした。

ただ、今回の作品はとても面白くて、
特に前半の1時間半くらいは目がスクリーンに釘付けになり、
作品世界に完全にのめり込みました。

主人公の黒木華さんが次々と理不尽な不幸に襲われるのですが、
先の読めない展開が斬新で、
ディテールも演出も面白く、
岩井俊二さんは天才ではないかしら、
と思いを新たにしました。

実際にはここまでが前置きで、
そこから本筋の「リップヴァンウィンクルの花嫁」の話に入るのですが、
本筋も確かに面白いものの、
バランス的にやや長過ぎる感じがするのと、
そこまで黒木華さんの「移動」で見せる物語が、
本筋に入ると謎のお屋敷という場所に固定されるので、
物語が少し弾まなくなるのです。
ただ、Coccoさんの最後のモノローグは、
凄まじくも素敵でした。

「コンビニへ行くと、自分が選んだ品物を、自分のためだけに、袋に詰めてくれていて、それを見るだけで世界の優しさに身体が壊れそうになる。それがつらいのでお金で物を買うのだ。世界が幸せで満ちているので耐えられなくなる」
というようなことを例の調子で言うのですが、
とてもとても素敵で衝撃的で、
こちらまで幸せな世界に耐えられなくて死にそうな気分になるのです。

その後の皆で裸になって泣いたりするのは、
ちょっと余計に感じました。

岩井俊二さんの独特の世界ですが、
今回の作品はこなれていて分かりやすく、
入り込みやすい作品でした。
プロの役者さんが主体のキャストですが、
それでいて全編がドキュメンタリーや素人の記録映像の様に撮られています。
独特の空気感の映像と、
わざわざ隠しカメラみたいな位置からのアングルが、
無造作に見えて極めて技巧的で完成度が高く、
そうかと思うと実際に隠しカメラの映像だった、
という落ちまで用意されています。
黒木華さんが全てを捨てて彷徨うところでは、
一転して非常に美しい都会の廃墟が、
スクリーン一杯に広がるのです。
実に素晴らしいバランス感覚でした。
2人の花嫁を上から撮った長いワンカットも、
勿論最高です。

役者は黒木華さんが振幅の大きな受けの演技で素晴らしく、
Coccoさんも存在全体を画面に残し、
また綾野剛さんの得体の知れない心地良い存在感も抜群でした。

テーマには重く暗い部分もあるのですが、
どんな苦境でも平然と生きることしか選択肢にない、
黒木さんの生き様が一筋の光として利いていて、
これは岩井監督の「こんな世界でも貪欲に生き続けろ」
という強いメッセージだと感じました。

ちょっと長過ぎることを除けば、
文句のつけようのない傑作で、
最近詰まらない映画を何本も観てしまったので、
本当に清々しく心に残りましたし、
この作品を大きな映画館の大スクリーンで観られて、
本当に幸せでした。

それでは2本目の映画記事に続きます。