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SGLT2阻害剤のアジア人種での有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エンパグリフロジンのアジア人での効果.jpg
今年のCirculation Journal誌に掲載された、
海外でその心血管疾患予防効果で注目された、
エンパグリフロジンという2型糖尿病治療薬のデータを、
アジア人種のみで解析した論文です。
掲載誌は日本循環器学会雑誌の英語版です。

SGLT2阻害剤は、
尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制する薬剤で、
このことにより、
ブドウ糖が尿に大量に排泄され、
血糖値が低下します。

これまでにないメカニズムの新薬として、
日本でも何種類も発売されています。

しかし、
この薬は膵臓のα細胞に働いて、
グルカゴンの分泌を刺激する作用があり、
それが糖尿病の成因から言って、
病態の改善に逆行するのではないか、
という危惧があります。

そうした点からも、
問題となるのはこの薬の長期成績です。

長期の使用により、
糖尿病の合併症として一番生命予後に影響する、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患に、
どのような影響を与え、
生命予後を改善するかどうかが、
糖尿病治療薬の善し悪しを決める、
最も大きなポイントなのです。

この点について多くの臨床試験が行われていますが、
肯定的な結果が得られたのは、
EMPA-REG OUTCOMEと題された大規模臨床試験が初めてで、
その結果は2015年のNew England…誌に掲載されました。

使用されているSGLT2阻害剤は、
エンパグリフロジン(Empagliflozin)、
日本では6番目に発売されたSGLT2阻害剤で、
ジャディアンスという商品名で使用されています。

世界42カ国で登録された、
7020名の心血管疾患を持っている2型糖尿病の患者さんを対象として、
通常の糖尿病治療(メトホルミンなど)を行なった上で、
患者さんにも主治医にも分からないように、
3つのグループに分けます。
偽薬と、エンパグリフロジン1日10ミリグラム、
そして1日25ミリグラムの3つのグループです。

この用量は日本でも使用されているものと同じです。

平均3.1年の経過観察において、
心血管疾患による死亡と、
急性心筋梗塞と脳卒中の発症とを合わせた事例は、
エンパグリフロジン使用群では、
4687例中10.5%に当たる490例であったのに対して、
偽薬群では2333例中12.1%に当たる282例で、
エンパグリフロジンの使用により、
心血管疾患の発症は、
トータルで14%有意に低下しました。

心筋梗塞や脳卒中の発症については、
両群で有意差はありませんでしたが、
心血管疾患による死亡に関しては、
有意に相対リスクを38%低下させていました。
また、総死亡のリスクについても、
有意に32%低下させていました。

この結果はかなり画期的なもので、
3年という短期間で、
これだけ生命予後に差が付いたというデータは、
あまり例がありません。

その後SGLT2阻害剤は評価が高まり、
日本でも使用が拡大しています。

ただ、ここで1つ問題となるのは、
この薬の心血管疾患予後改善作用には、
人種差があるのではないか、ということです。

上記のエンパグリフロジンの臨床試験は世界で行われ、
その中には日本などのアジアも含まれています。

そこで今回の研究では、
エンパグリフロジンの上記の臨床試験の中で、
アジア人のみのデータを再解析しています。

アジア人種の総数は1517名で、
その内訳はエンパグリフロジン1日10㎎が505名、
1日25㎎が501名、そして偽薬が511名です。

ここで心疾患による死亡と、
急性心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクは、
エンパグリフロジンの使用により、
32%(95%CI;0.48から0.95)有意に低下していました。
心血管疾患による死亡も56%(95%CI;0.49から0.77)有意に低下していましたが、
総死亡のリスクは低下傾向はあるものの、
有意ではありませんでした。

このように、エンパグリフロジンのアジア人種での有効性は、
ほぼトータルな有効性と遜色はなく、
有害事象にも明確な差は認められませんでした。

従って、現状はSGLT2阻害剤の使用は、
国外と同様に考えて大きな問題はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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