インフルエンザ呼気センサーの話 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のSensoorsという専門誌に掲載された、
インフルエンザの呼気センサーについての論文です。
インフルエンザの診断と言うと、
鼻の奥に綿棒を突っ込んで、
鼻粘膜や分泌物を採取し、
ウイルス抗原と試薬を反応させて簡易診断する検査が、
一般に広く使用されています。
この検査の普及によりインフルエンザが、
迅速に診断され治療されるようになった意義は、
臨床的には非常に大きいと思います。
ただ、問題もあります。
この検査は発熱などのインフルエンザの症状が出現してから、
一定時間が経たないと陽性にはならないという欠点があります。
抗原量の影響を受けるのだと思いますが、
小さなお子さんでは、
症状出現から1から2時間でも陽性になる事例がある一方、
高齢者では発症後24時間くらいしてようやく陽性になる、
というケースもしばしば経験します。
検体採取は鼻の奥で咽頭後壁の上方くらいから、
採取しないとその感度はかなり低下しますから、
術者の手技によっても検出感度はかなりの違いが生じます。
そして、奥まで綿棒を差し入れるとかなり痛いですから、
患者さんにもあまり評判が良くはありません。
それでは、理想的なインフルエンザ診断の検査は、
どのようなものでしょうか?
術者の手技によらず感度が安定していて、
感染後どのくらいの時間が経てば陽性になるかが明確で、
それが症状出現と同時に陽性となり、
患者さんが痛みや不快感を感じることなく出来る検査があれば、
理想的であることは間違いがありません。
そんな検査がありうるでしょうか?
その1つの候補として研究されているのが、
今日ご紹介するインフルエンザ呼気センサーです。
感染症が呼気に影響を与えるという知見は以前からあります。
ウイルス感染などに伴い、
炎症性サイトカインが産生されると、
気道の粘膜細胞や肺胞細胞、白血球などから、
揮発性有機物質や窒素酸化物が産生され、
呼気に検出されることが確認されています。
インフルエンザに感染して寒気や関節痛などが生じるのは、
サイトカインの産生が主な要因ですから、
呼気の反応は症状出現後早期に出現する筈です。
更にはその反応はサイトカインの増加と相関し、
サイトカインの過剰な反応は、
インフルエンザの重症化と関係がありますから、
その予後の判断にも使用することが可能となります。
今回ご紹介する論文はその呼気センサーのメカニズムを、
細かく解説したものです。
呼気のイソプレン(炭化水素)とアンモニア、
そして一酸化窒素を測定し、
その上昇パターンでインフルエンザ感染かどうかを判定する、
という仕組みになっています。
ただ、問題は他のウイルス感染でも、
同じような反応が出るのではないか、ということで、
その検証は文献を読んだ範囲では、
実際的にはあまりされていないようでした。
実際のインフルエンザ感染による反応も測定はされておらず、
弱毒生ワクチンであるフルミストを使用して、
同じような反応が出ることが確認をされているだけです。
小さなお子さんでは呼気テストは難しいと思いますし、
インフルエンザのみで特有の反応が出るという根拠は乏しいと思います。
このセンサー自体は2011年頃から実用化の話がありながら、
あまりそうした動きがないのは、
その辺りに理由がありそうです。
ただ、確かにインフルエンザの重症化の予測には、
一定の有効性はありそうで、
自宅で呼気センサーによる検査を行い、
その数値によってすぐに医療機関の受診が必要かどうか判断する、
というような指標にはなりそうですが、
そうした目的でコストが見合うかどうかと考えると、
実用化のハードルは現状では高いもののように思います。
当面はまだ、
現行の迅速診断が優先して活用されることは、
間違いがなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のSensoorsという専門誌に掲載された、
インフルエンザの呼気センサーについての論文です。
インフルエンザの診断と言うと、
鼻の奥に綿棒を突っ込んで、
鼻粘膜や分泌物を採取し、
ウイルス抗原と試薬を反応させて簡易診断する検査が、
一般に広く使用されています。
この検査の普及によりインフルエンザが、
迅速に診断され治療されるようになった意義は、
臨床的には非常に大きいと思います。
ただ、問題もあります。
この検査は発熱などのインフルエンザの症状が出現してから、
一定時間が経たないと陽性にはならないという欠点があります。
抗原量の影響を受けるのだと思いますが、
小さなお子さんでは、
症状出現から1から2時間でも陽性になる事例がある一方、
高齢者では発症後24時間くらいしてようやく陽性になる、
というケースもしばしば経験します。
検体採取は鼻の奥で咽頭後壁の上方くらいから、
採取しないとその感度はかなり低下しますから、
術者の手技によっても検出感度はかなりの違いが生じます。
そして、奥まで綿棒を差し入れるとかなり痛いですから、
患者さんにもあまり評判が良くはありません。
それでは、理想的なインフルエンザ診断の検査は、
どのようなものでしょうか?
術者の手技によらず感度が安定していて、
感染後どのくらいの時間が経てば陽性になるかが明確で、
それが症状出現と同時に陽性となり、
患者さんが痛みや不快感を感じることなく出来る検査があれば、
理想的であることは間違いがありません。
そんな検査がありうるでしょうか?
その1つの候補として研究されているのが、
今日ご紹介するインフルエンザ呼気センサーです。
感染症が呼気に影響を与えるという知見は以前からあります。
ウイルス感染などに伴い、
炎症性サイトカインが産生されると、
気道の粘膜細胞や肺胞細胞、白血球などから、
揮発性有機物質や窒素酸化物が産生され、
呼気に検出されることが確認されています。
インフルエンザに感染して寒気や関節痛などが生じるのは、
サイトカインの産生が主な要因ですから、
呼気の反応は症状出現後早期に出現する筈です。
更にはその反応はサイトカインの増加と相関し、
サイトカインの過剰な反応は、
インフルエンザの重症化と関係がありますから、
その予後の判断にも使用することが可能となります。
今回ご紹介する論文はその呼気センサーのメカニズムを、
細かく解説したものです。
呼気のイソプレン(炭化水素)とアンモニア、
そして一酸化窒素を測定し、
その上昇パターンでインフルエンザ感染かどうかを判定する、
という仕組みになっています。
ただ、問題は他のウイルス感染でも、
同じような反応が出るのではないか、ということで、
その検証は文献を読んだ範囲では、
実際的にはあまりされていないようでした。
実際のインフルエンザ感染による反応も測定はされておらず、
弱毒生ワクチンであるフルミストを使用して、
同じような反応が出ることが確認をされているだけです。
小さなお子さんでは呼気テストは難しいと思いますし、
インフルエンザのみで特有の反応が出るという根拠は乏しいと思います。
このセンサー自体は2011年頃から実用化の話がありながら、
あまりそうした動きがないのは、
その辺りに理由がありそうです。
ただ、確かにインフルエンザの重症化の予測には、
一定の有効性はありそうで、
自宅で呼気センサーによる検査を行い、
その数値によってすぐに医療機関の受診が必要かどうか判断する、
というような指標にはなりそうですが、
そうした目的でコストが見合うかどうかと考えると、
実用化のハードルは現状では高いもののように思います。
当面はまだ、
現行の迅速診断が優先して活用されることは、
間違いがなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
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誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本