国産第一号「安心」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日はもう1本演劇の話題です。
それがこちら。
オクイシュージさんの作・演出による、
国産第一号というユニットの公演「安心」が、
本日まで下北沢の駅前劇場で上演されています。
2010年初演作の再演とのことです。
これは松尾スズキさんのツィートで気が付いて、
即効で予約して直前に行くことを決めました。
これぞアングラ小劇場という感じの、
ダークで破天荒で遊び心に満ちた作品で、
これは観られてとても幸せでした。
思わず販売されていた戯曲も買ってしまいました。
特に演出が優れていて、
1時間50分の上演時間に充実感があります。
ただ、最後に明らかにされる「事件の絵図」に、
やや面白みが乏しいことと、
「全ての地獄はお前の頭の中にある」
というような世界観が、
震災後でテロや現実の暴力に満ちた今には、
ちょっと切実感が乏しい思いはありました。
そう言えば、2010年くらいには、
こうした芝居が多かったような気もします。
以下ネタバレを含む感想です。
ある太っちょの冴えない男が、
何処だか分からない黒い部屋に監禁されています。
そこには謎の男女が5人いて、
司会役の男はそこが「矛盾の家」で、
自分の全てをさらけ出し、自分自身に戻る場所だ、
というような話をします。
それから1人ずつ自分が如何にして悲惨な境遇に落ちたかを、
回想を交えて語り、
過去の光景もフラッシュバックするうちに、
別々に思えた個々の人物の物語が徐々に繋がり始め、
「真相?」が明らかになると、
主人公は最後にある決断を迫られることになります。
入江雅人さんが80年代テイストのダンス教師を怪演して、
川上友里さん演じるストリッパーとダンスに興じるなど、
小劇場的には贅沢なお遊びが満載で、
それがオクイシュージさんの的確な演出の元に、
素敵な出鱈目として楽しめます。
実際の関係が明確ではない複数の男女が、
あるモチーフを中心として果てしない遊びを繰り返す、
と言う点では、
鴻上さんの「朝日のような夕日をつれて」に近い構成です。
そのもっとアングラに傾斜した変奏曲、
と言っても良いかも知れません。
ゲームマスターめいた謎の男がいて、
監禁された状況の中で、
残酷なゲームに興じるという趣向は、
映画の「ソウ」シリーズの影響も感じられます。
乙一みたいな感じもありますよね。
ただ、登場する全員が、
実は1つの物語で結び付けられている、
ということが途中で大体分かってしまうと、
今度は隠された真実とは一体何なのだろう、
というところに観客の興味が移るのですが、
その真実というのが、
主人公が酔っぱらって吐いたゲロですべって、
少女が車の事故に遭った、
というような話だったり、
友達と思って部活の後輩に接したら、
それが相手にとっては迷惑だった、
とかといったような、素直にそうかとは、
とても思えないようなストーリーなので、
何となくもやもやしたものが残ってしまいます。
そして、最終的にはハンマーで全員を殴り殺して、
その場を脱出するのですが、
その段取りの必然性もあまり納得がいきませんし、
オクイシュージさん自身が演じる、
謎のゲームマスターの男の正体も、
結局最後まで分かりません。
「朝日のような夕日をつれて」では、
ある1人の女性の絶望を救うことが出来るか、
というような物語なので、
それを聞いただけで何となく納得がいく気分になりますし、
分からない話で感動することも出来るのですが、
この作品の物語は、
主人公が他人に害を与えないようにビクビクと生きることで、
結果として因果が巡って多くの人を不幸にしてしまい、
自分の本能的な情念を開放することで、
その心の迷路から脱出する、
ということのようですが、
それにしては、
主人公がオドオドしている割には、
後輩に命じて女性をさらったりもしているので、
そこにあまり行動の一貫性がなく、
無作為の悪事のからくりにも説得力がないので、
あまり観客を納得させるような感じには、
ならなかったのが残念でした。
良かったのは演出で、
これは非常にセンスに溢れています。
黒一色のセットの背後に2つの換気扇が廻る正方形の窓が2つあり、
それが非常に巧みに全編で使用されています。
その存在自体が禍々しくて素敵ですし、
不意に肖像画が窓に現れる瞬間もショッキングです。
ラストには「安心」の2文字が現れるという趣向も凝っています。
暗転を巧みに利用した舞台転換も鮮やかですし、
ストロボの効果的な使用や、
ラストの大殺戮ではビートルズをバックに盛大に血を流し、
スペクタクル化した趣向も効いています。
役者も曲者を揃えていて、
大仰なアングラ芝居がさく裂するのも楽しい時間です。
ただ、女性陣はもっと際どい芝居が欲しかったという気もしましたし、
謎の男を演じたオクイシュージさんは、
役者としては少し弱かったと思いました。
たとえば、当日観劇もされていた師匠筋の松尾スズキさんが、
同じ役を演じられたとすれば、
また別の次元の作品が生まれたような気がします。
オクイさんが演じると、
何か矢張りもう少し説明を求めてしまうので、
それが結局ないというのが、
非常に物足りない気がするのです。
いずれにしても小劇場の妙味が、
美しくグロテスクにデコレーションされた素敵な作品で、
こうした作品はまた是非観たいと思いました。
頑張って下さい。
欲を言えばオクイさん本人の役はもっと別のものにして、
秘められた物語は、
もっとシンプルでかつ情緒を揺らすようなものにして下さい。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日はもう1本演劇の話題です。
それがこちら。
オクイシュージさんの作・演出による、
国産第一号というユニットの公演「安心」が、
本日まで下北沢の駅前劇場で上演されています。
2010年初演作の再演とのことです。
これは松尾スズキさんのツィートで気が付いて、
即効で予約して直前に行くことを決めました。
これぞアングラ小劇場という感じの、
ダークで破天荒で遊び心に満ちた作品で、
これは観られてとても幸せでした。
思わず販売されていた戯曲も買ってしまいました。
特に演出が優れていて、
1時間50分の上演時間に充実感があります。
ただ、最後に明らかにされる「事件の絵図」に、
やや面白みが乏しいことと、
「全ての地獄はお前の頭の中にある」
というような世界観が、
震災後でテロや現実の暴力に満ちた今には、
ちょっと切実感が乏しい思いはありました。
そう言えば、2010年くらいには、
こうした芝居が多かったような気もします。
以下ネタバレを含む感想です。
ある太っちょの冴えない男が、
何処だか分からない黒い部屋に監禁されています。
そこには謎の男女が5人いて、
司会役の男はそこが「矛盾の家」で、
自分の全てをさらけ出し、自分自身に戻る場所だ、
というような話をします。
それから1人ずつ自分が如何にして悲惨な境遇に落ちたかを、
回想を交えて語り、
過去の光景もフラッシュバックするうちに、
別々に思えた個々の人物の物語が徐々に繋がり始め、
「真相?」が明らかになると、
主人公は最後にある決断を迫られることになります。
入江雅人さんが80年代テイストのダンス教師を怪演して、
川上友里さん演じるストリッパーとダンスに興じるなど、
小劇場的には贅沢なお遊びが満載で、
それがオクイシュージさんの的確な演出の元に、
素敵な出鱈目として楽しめます。
実際の関係が明確ではない複数の男女が、
あるモチーフを中心として果てしない遊びを繰り返す、
と言う点では、
鴻上さんの「朝日のような夕日をつれて」に近い構成です。
そのもっとアングラに傾斜した変奏曲、
と言っても良いかも知れません。
ゲームマスターめいた謎の男がいて、
監禁された状況の中で、
残酷なゲームに興じるという趣向は、
映画の「ソウ」シリーズの影響も感じられます。
乙一みたいな感じもありますよね。
ただ、登場する全員が、
実は1つの物語で結び付けられている、
ということが途中で大体分かってしまうと、
今度は隠された真実とは一体何なのだろう、
というところに観客の興味が移るのですが、
その真実というのが、
主人公が酔っぱらって吐いたゲロですべって、
少女が車の事故に遭った、
というような話だったり、
友達と思って部活の後輩に接したら、
それが相手にとっては迷惑だった、
とかといったような、素直にそうかとは、
とても思えないようなストーリーなので、
何となくもやもやしたものが残ってしまいます。
そして、最終的にはハンマーで全員を殴り殺して、
その場を脱出するのですが、
その段取りの必然性もあまり納得がいきませんし、
オクイシュージさん自身が演じる、
謎のゲームマスターの男の正体も、
結局最後まで分かりません。
「朝日のような夕日をつれて」では、
ある1人の女性の絶望を救うことが出来るか、
というような物語なので、
それを聞いただけで何となく納得がいく気分になりますし、
分からない話で感動することも出来るのですが、
この作品の物語は、
主人公が他人に害を与えないようにビクビクと生きることで、
結果として因果が巡って多くの人を不幸にしてしまい、
自分の本能的な情念を開放することで、
その心の迷路から脱出する、
ということのようですが、
それにしては、
主人公がオドオドしている割には、
後輩に命じて女性をさらったりもしているので、
そこにあまり行動の一貫性がなく、
無作為の悪事のからくりにも説得力がないので、
あまり観客を納得させるような感じには、
ならなかったのが残念でした。
良かったのは演出で、
これは非常にセンスに溢れています。
黒一色のセットの背後に2つの換気扇が廻る正方形の窓が2つあり、
それが非常に巧みに全編で使用されています。
その存在自体が禍々しくて素敵ですし、
不意に肖像画が窓に現れる瞬間もショッキングです。
ラストには「安心」の2文字が現れるという趣向も凝っています。
暗転を巧みに利用した舞台転換も鮮やかですし、
ストロボの効果的な使用や、
ラストの大殺戮ではビートルズをバックに盛大に血を流し、
スペクタクル化した趣向も効いています。
役者も曲者を揃えていて、
大仰なアングラ芝居がさく裂するのも楽しい時間です。
ただ、女性陣はもっと際どい芝居が欲しかったという気もしましたし、
謎の男を演じたオクイシュージさんは、
役者としては少し弱かったと思いました。
たとえば、当日観劇もされていた師匠筋の松尾スズキさんが、
同じ役を演じられたとすれば、
また別の次元の作品が生まれたような気がします。
オクイさんが演じると、
何か矢張りもう少し説明を求めてしまうので、
それが結局ないというのが、
非常に物足りない気がするのです。
いずれにしても小劇場の妙味が、
美しくグロテスクにデコレーションされた素敵な作品で、
こうした作品はまた是非観たいと思いました。
頑張って下さい。
欲を言えばオクイさん本人の役はもっと別のものにして、
秘められた物語は、
もっとシンプルでかつ情緒を揺らすようなものにして下さい。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
今日は休みなので趣味の話題です。
今日はこちら。
ティム・バートンの新作ファンタジー映画を、
新宿の映画館で観て来ました。
ティム・バートンはそこそこ好きなのですが、
「シザーハンズ」以外は、
面白いのに何かが物足りないというか、
何処か決定的な部分で少ししくじっているような感じが、
観終わるといつも残ってしまいます。
今回の作品はオープニングの原色のフロリダの風景から、
如何にもティム・バートンという絵作りでいいな、と思いますし、
時空を超えて永遠に同じ1日を繰り返す「奇妙なこどもたち」に出会うまでも、
ややまどろっこしい感じもありますが、
なかなか上手く出来ています。
少し不満に感じるのはその後の展開で、
対決する敵がかなり間抜けで、
隙だらけの感じなので物語が盛り上がりませんし、
肝心のこどもたちの親代わりのミス・ペレグリンが、
実際には殆ど活躍しないのも物足りません。
主人公の少年も、
簡単に親を捨てて奇妙なこどもたちと行動を共にしてしまうので、
あまり情感や切ない気分が、
醸成されることもないのです。
このように物語としての練り上げは不足しているのですが、
その代わりに奇妙なこどもたちや、
まがまがしい怪物や悪党などのビジュアルは、
ディテールまで作り込まれていて素晴らしく、
大量の骸骨騎士なども参戦する活劇や、
沈んでいた幽霊船が浮上するスペクタクルなどまであって、
2時間余りを退屈させることなく見せきる技量は、
いつもながら素晴らしく魅力的です。
そんな訳でバートンファンには楽しめる作品ではあるのですが、
物語が重層的に盛り上がるという感じではないので、
風変りなビジュアルを楽しめない方には、
退屈に感じるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
今日は休みなので趣味の話題です。
今日はこちら。
ティム・バートンの新作ファンタジー映画を、
新宿の映画館で観て来ました。
ティム・バートンはそこそこ好きなのですが、
「シザーハンズ」以外は、
面白いのに何かが物足りないというか、
何処か決定的な部分で少ししくじっているような感じが、
観終わるといつも残ってしまいます。
今回の作品はオープニングの原色のフロリダの風景から、
如何にもティム・バートンという絵作りでいいな、と思いますし、
時空を超えて永遠に同じ1日を繰り返す「奇妙なこどもたち」に出会うまでも、
ややまどろっこしい感じもありますが、
なかなか上手く出来ています。
少し不満に感じるのはその後の展開で、
対決する敵がかなり間抜けで、
隙だらけの感じなので物語が盛り上がりませんし、
肝心のこどもたちの親代わりのミス・ペレグリンが、
実際には殆ど活躍しないのも物足りません。
主人公の少年も、
簡単に親を捨てて奇妙なこどもたちと行動を共にしてしまうので、
あまり情感や切ない気分が、
醸成されることもないのです。
このように物語としての練り上げは不足しているのですが、
その代わりに奇妙なこどもたちや、
まがまがしい怪物や悪党などのビジュアルは、
ディテールまで作り込まれていて素晴らしく、
大量の骸骨騎士なども参戦する活劇や、
沈んでいた幽霊船が浮上するスペクタクルなどまであって、
2時間余りを退屈させることなく見せきる技量は、
いつもながら素晴らしく魅力的です。
そんな訳でバートンファンには楽しめる作品ではあるのですが、
物語が重層的に盛り上がるという感じではないので、
風変りなビジュアルを楽しめない方には、
退屈に感じるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。