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大腸癌の血液検査によるスクリーニング(Shieldテスト) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
DNAによる大腸癌検診.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月14日付で掲載された、
新しい血液による大腸癌検診の有効性についての論文です。

大腸癌の多くは早期に発見されれば、
その治療の予後は良く、
そのため検診のメリットが大きな癌として知られています。

現行の大腸癌検診は、
問診と便の潜血反応と呼ばれる検査を基本として、
検査で異常が見つかったり、症状から病気を疑った場合には、
大腸内視鏡検査(含む直腸からS状結腸内視鏡)によって、
その診断を行うという方法が一般的です。

この方法は優れた検診法として、
その評価は確立していますが、
便潜血は痔など他の病気でも陽性になることがあり、
癌になる前の癌リスクの高いポリープなどでは、
陽性率は高くない、などの欠点があります。
また、便を採取することが煩わしいと考える人も多く、
検診の受診率が思ったほど上がらない、
という問題もあります。

そのため、より精度の高い簡便なスクリーニング検査が、
求められているのです。

その候補として最近登場したのが、
便や血液で癌細胞由来の遺伝子を検出し、
それを便潜血検査の代わりに使用する、
という方法です。

今回紹介されているのは、
そのうちの1つが癌細胞由来の遺伝子を、
血液で検出するという方法です。 

細胞の崩壊に伴って、
血液中に癌由来の遺伝子の断片が流出します。
これをcell free DNA(cfDNA)と呼んでいます。
このcfDNAを高感度の測定法によって検出するのです。

この検査は、
「Shield[レジスタードトレードマーク] 大腸がん ctDNA 検査」と呼ばれ、
アメリカのガーダントヘルス社の製品で、
日本では検査会社のBMLを介して販売されています。
基本採血のみの検査ですが、
検査は数十万円と高額で、
血液も40ミリリットルほど必要であるようです。

その精度はどのくらいのものなのでしょうか?

今回の研究では、
年齢が45から84歳で平均的な大腸癌リスクがあり、
大腸内視鏡検査をしたトータル10258名を対象として、
血液の癌検査を施行、
その結果を比較検証してます。
最終的にそのうちの7861名が解析されています。

その結果、
大腸癌が検出された人のうち83.1%は血液検査が陽性となり、
16.9%は陰性の結果でした。
つまりこの遺伝子検査の検出感度は、
83.1%(95%CI:72.2から90.3)でした。
大腸内視鏡検査で大腸癌やその前癌病変が認められなかった人のうち、
血液検査も陰性であったのは89.6%で、
残りの10.4%は血液検査は陽性でした。
この検査の大腸癌と前癌病変についての感度は、
89.6%(95%CI:88.8から90.3)と算出されました。

このように、
便潜血検査と同等以上の有用性が、
血液の癌由来遺伝子検査にあることは間違いがありません。
血液検査である点も利点です。
ただ、偽陰性や偽陽性は一定レベルは認められています。
また現時点では非常に高額な検査なので、
すぐにこの検査を一般の検診に導入する、
ということにはならないと思います。

別個に便の遺伝子検査の研究も進んでいて、
今後どのような検査を組み合わせて実施することが、
コスパや有効性を含めて適切であるのか、
何らかの指針がまとめられることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大西洋ダイエットの健康効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大西洋ダイエットの有効性.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年2024年2月7日付で掲載された、
スペイン発の大西洋ダイエットの健康効果についての論文です。

健康に良い食事の代表として、
推奨されることの多い食事習慣の1つが、
「地中海ダイエット」と呼ばれるものです。
これは地中海に面したギリシャなどの食生活を、
1つの典型としているもので、
その内容は必ずしも報告や研究で一致している訳ではありませんが、
ナッツやオリーブオイルを多く摂り、
野菜や果物、魚を多く摂り、
赤身肉や加工肉はあまり摂らない、
というような特徴は一定しています。

今回の研究で対象となっている、
「大西洋ダイエット(Atlantic Diet)というのは、
スペインやポルトガルの一部の伝統食を元にしたもので、
野菜や果物、ナッツやオリーブオイルなどを多く摂る点は、
地中海ダイエットと同じですが、
それに加えてポテトやパンを多く摂り、
ドライフルーツや乳製品も多く摂る、
という点に特色があり、
地中海ダイエットより肉やワインの摂取も多い、
と記載されています。

つまり、地中海ダイエットより、
動物性脂肪や炭水化物が、
やや多いという違いがあるのです。

今回の研究はこの大西洋ダイエットを広めたいスペインにおいて、
通常の食事と大西洋ダイエットを比較して、
その健康面での有効性を検証しているものですが、
今時の特徴として、
環境への負荷に配慮し、
二酸化炭素の排出量(カーボンフットプリント)の、
比較も行っている点が特徴です。

対象となっているのはスペインの250の家族で、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はそれまでと同じ食事を継続し、
もう一方は専門的な指導の元に、
大西洋ダイエットを実践して、
その効果を6か月に渡って観察しています。

有効性の指標となっているのは、
所謂メタボリックシンドロームの比率で、
食事の変化により、
メタボの改善がどの程度見られたのかを比較しています。
この場合のメタボの基準は、
血圧などの検査値は日本のものと同等ですが、
腹囲については、
男性が110センチを超える、女性が88センチを超える、
という日本とは異なる基準が採用されています。

その結果、
通常の食事と比較して、
家族に大西洋ダイエットを指導すると、
観察期間中のメタボの発症リスクは68%(95%CI:0.13から0.79)、
個別のメタボの項目のリスクは42%(95%CI:0.42から0.82)、
それぞれ有意に低下していました。
一方で二酸化炭素の家庭毎の排出量については、
両群で明確な差は見られませんでした。

正直大西洋ダイエットと地中海ダイエットの違いは、
それほど大きなものとは言えないように思いますが、
食事指導を継続的に行うことにより、
半年程度の期間でもメタボの改善には結びつく、
という結果と考えれば、
意義のある研究ではあったように思います。

地中海ダイエットが持ち上げられ過ぎたので、
スペインやポルトガルとしては、
「いやいやうちの食事も大して違いはないぞ」
という意思表示のようにも思われ、
健康のみならず健康負荷まで評価して、
各地域の料理を比較し序列化するようになるのは、
ちょっと行き過ぎのような気がしなくもありませんが、
良くも悪くも食事もその価値を、
多角的に競争する時代になったのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マイクロプラスチックとナノプラスチックの動脈硬化への影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マイクロプラスチックの動脈硬化への影響.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年3月7日付で掲載された、
最近問題となっているプラスチックの身体への影響を検証した論文です。

近年プラスチックの環境破壊が注目され、
プラスチックの使用量を減らし、
環境汚染を減らそうとする試みが広く行われています。

これは主に環境への影響で、
私達の身体への直接の影響ではありません。

プラスチックそのものが体内に蓄積することは、
通常はないと考えられていたからです。

しかし、プラスチックが分解劣化し、
非常に微細な細片となると、
それが食品に混ざって体内に入ったり、
空気中の微粒子となって呼吸で肺に取り込まれたり、
皮膚から吸収されるという可能性が否定は出来ません。

このプラスチックの細片のうち、
大きさが1μmから5mmのものをマイクロプラスチック、
より小さくnm(ナノメートル)レベルのものを、
ナノプラスチックと呼び、
上記論文ではこれを総称して、
MNPs(Microplastics and Nanoplastics)と呼んでいいます。

最近ではペットボトルの水の中に、
一定レベルのナノプラスチックが同定された、
という論文が発表されて話題となりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38190543/

つまり、こうした分解劣化したプラスチックの細片が、
私達の身体の中に存在していることは、
ほぼ間違いのないことなのです。

それでは、その健康影響はどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究では、
頸動脈の動脈硬化病変に対して、
血管内治療を行った304名の患者から採取された、
動脈硬化巣(プラーク)の組織で、
マイクロプラスチックとナノプラスチックの測定を行い、
それが健康に与える影響を検証しています。
その後の観察期間を完遂して解析対象となっているのは、
そのうちの257名です。

その結果、
全体の58.4%に当たる150名で、
プラスチックの成分であるポリエチレンが、
頸動脈のプラークから検出され、
そのうちの31名では、
通常の測定法でポリ塩化ビニールが定量されました。

そして平均で33.7か月(±6.9)の経過観察期間中に、
心筋梗塞や脳卒中を発症したか、もしくは死亡したのは、
プラスチックの細片が検出されなかった事例では7.5%であったのに対して、
検出された事例では20.0%という高率になっていました。

今回の研究はまだ確定的なものではなく、
マイクロプラスチックやナノプラスチックの健康影響は、
仮定の域を出るものではありませんが、
こうしたプラスチックの細片が、
炎症などの病変部位に蓄積すること自体は、
おそらくは事実であると考えられ、
その健康影響を含めて、
今後の研究の蓄積を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「セッション」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
セッション.jpg
デイミアン・チャゼルを有名にした、
2014年のアメリカ映画で、
再上映が行われていたので、
これは映画館で是非と思い足を運びました。

師弟の壮絶な対決を描いた音楽映画で、
最初から最後までまさに才気迸るという感じです。

プロのジャズドラマーを目指す、
屈折した家庭環境を持つ青年が、
一流の音楽学校で強烈な個性を持つ教師と出会い、
そのパワハラとしか思えないような指導を受けるうちに、
精神の均衡を崩してゆきます。

最初から全く無駄のない作劇で、
ぐいぐいと作品世界に引き込まれますし、
教師を演じたJ・K・シモンズさんの個性が強烈で、
素材がドラム演奏というのが、
また非常に映像的で素晴らしいのです。

上映時間は107分なのですが、
非常に作劇が濃密なので、
良い意味でもっと長いような印象があります。
前半を観ると「フルメタルジャケット」みたいな感じなんですね。
これだと追い詰められた主人公が、
最後に狂気に陥って暴力的に反逆して、
それで終わりではないか、
というように思ってしまうのですが、
確かにそうしたパートはありながら、
物語はそれで終わらず、
その後でもっと良いお話に着地しかけ、
それはそれで良いのかしら、
と思っていると、
更にそれがひっくり返されて、
殆どの観客の想像を超えるような、
鮮やかなラストに着地します。

後半の展開には特にしびれるものがあるのですが、
何と言ってもラストが素晴らしいですよね。
これ以上はないという鮮やかなタイミングで終わります。
最近はいつ終わったのか分からないような、
タラタラしたエンディングの作品も多く、
それはそれで時代なのかな、とも思うのですが、
この映画のようにビシッとラストの決まった作品を観ると、
やっぱりこれだよね、という気持ちになります。

いずれにしても天才監督の才気が迸る傑作で、
かなりインテリ臭が強いので、
その辺りの好き嫌いは分かれるところですが、
必見であることは間違いがありません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「落下の解剖学」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
落下の解剖学.jpg
フランスのジュスティーヌ・トリエ監督の新作が、
今ロードショー公開されています。
2023年のカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作です。

カンヌのパルムドールというのは、
かなり異常でヘンテコな作品が多く、
アメリカのアカデミー賞の受賞作が、
最近は流行に合わせて変なものもありますが、
概ね倫理的な「良いお話」が選ばれるのに対して、
突飛で通常の倫理観からは逸脱した怪作が選ばれることが多い、
という特徴があります。
カンヌのパルムドールは芥川賞で、
アカデミー賞は直木賞、くらいの違いがあります。

カンヌのパルムドールを数年間分一気見すると、
頭が正常ではなくなること必定です。

その系譜の中では今回の作品は、
比較的破綻のなくまとまっている、
割合と優等生的な作品で、
米アカデミー賞を取ることはないと思いますが、
取っても不思議はないくらいの映画にはなっています。

フランスの田舎の山荘に、
ドイツ人の夫と高名なドイツ出身の作家の妻、
そして4歳の時の事故のために高度の弱視となった息子が住んでいます。
ある日息子が愛犬と散歩をしていた間に、
屋根裏部屋から転落した夫が死亡し、
家で寝ていたと主張する作家の妻に、
夫殺しの嫌疑が掛かります。

舞台は雪の山荘で密室ですから、
夫の死は、事故死か自殺か妻による殺人の、
3択しかないのですが、
妻が殺人容疑で起訴され、
彼女と旧知の間柄の弁護士が立つことで、
事件は裁判の場に舞台を移してゆきます。

どんでん返しのあるミステリーのような出だしですが、
勿論そうではなく、
裁判自体は決着が付きますが、
「真相」は明らかにされることなく終わります。

大岡昇平さんの「事件」に近い感じのお話ですね。
少年がキーになるところも似ています。
ただ、内容は「事件」よりもっとモヤモヤしていて、
観客のカタルシスは一切ありません。

それでも真相を観客が推測するための情報は、
過剰なくらいに与えられているので、
実際に起こった事件を、
報道からああだこうだと、
茶の間で議論しているのと同じような水準と、
言えなくもありません。

役者の演技は非常に卓越していて、
一家の愛犬がまた、
人間に匹敵する芝居をしています。

1つの家族の悲劇が克明に描かれるのですが、
作り手が誰かに肩入れしているという感じではなくて、
それこそ解剖するように、
人間の心理の綾が切り分けられてゆくので、
観た側がそれを自分で物語に仕立てて理解する、
という趣向の映画なんですね。
作り手の視点を排除しているので、
居心地の良くない感じはあるのですが、
それはそれと割り切って観ることが出来れば、
なかなかの魅力を感じることが出来る映画だと思います。

勿論これならノンフィクションでいいではないか、
という批判は成立するのですね。
でも、ノンフィクションでは実際の人間に、
迷惑やストレスが掛かる結果になるでしょ。
それがないのがフィクションの魅力だと思いますし、
それを言いたいので、
主人公も現実を元にして創作する作家にして、
そこにテーマを語らせているんですね。

そんな訳でなかなかの骨太な力作で、
個人的には楽しめましたが、
「何が言いたいんだ!」と怒る方もあるかと思います。
観る人を選ぶ映画の1つなので、
くれぐれも真相の明らかになるお話ではない、
自分で自分なりの真相を作る作品なのだ、
ということを理解して鑑賞するのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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