SSブログ

「DOGMAN ドッグマン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ドッグマン.jpg
リュック・ベッソン監督の新作アクション映画が、
今ロードショー公開されています。

リュック・ベッソン監督は、
「グランブルー」と「ニキータ」を、
建て替え前のパルコpart3の特集上映で観て、
両作ともそのラストの、
ハリウッド製にはあまりない、
切ない抒情のようなものに魅せられ、
「レオン」、「フィフス・エレメント」、
「ジャンヌダルク」は封切りで観ました。
「レオン」以降は正直オヤオヤという感じがあって、
その後の水増し感のあるアクション映画には、
あまり興味が沸きませんでした。

今回の作品は、アメコミのダークヒーローものを、
ベッソン監督なりに咀嚼した感じのもので、
「ニキータ」の頃のような凄味はないのですが、
最近の作品の中ではかなり力が入っていて、
そのラストの余韻を含めて、
アメリカ製とは違う魅力が充分に感じられる仕上がりでした。

これ、今の世の中なので、
相当苦労した設定になっているんですね。
主人公は狂信的な家族に、
徹底した虐待を受け、
父親の銃撃によって指を失い、
下半身不随になっています。
女装趣味で犬とコミュニケーションの取れる能力があり、
沢山の保護された犬と暮らしていて、
その犬達が主人公を助けて、
ある時は敵と戦い、
またある時は主人公の犯罪行為の手伝いをするのです。

まあ、相当捻った設定ですよね。
今ではこのくらいのことをしないと、
多方面から指摘を受けてしまうのかも知れません。

パターンは「レオン」に近いのですが、
この作品ではアクションやサスペンスよりも、
主人公の生い立ちや心理の動きと、
面談を担当することになった精神科医の女性との交流とに、
力点が置かれているので、
展開の意外性などは語り口で除去されていて、
「レオン」のようなスリルを期待すると、
肩透かしに遭ってしまいます。

ここは昔のベッソン監督の迫力を期待するのではなく、
円熟したある種の境地を、
じっくりと味わうのが吉だと思います。

ベッソン監督のファンであれば、
一見の価値はある作品だと思います。
過度な期待は持たずに、映画館に足をお運び下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

歩行時の息切れの原因は?(スウェーデンの疫学研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
息切れの原因は?.jpg
Respiratory Research誌に、
2024年3月16日付で掲載された、
中年期の年齢層の息切れの原因を調べた論文です。

歩くと息が切れる、
他の人と同じように歩こうとすると苦しくなる、
というような症状は、
中年以降の年齢では10から25%に見られる、
というほど頻度の高い症状です。

ただ、その原因は様々で、
肺気腫や喘息のような呼吸器疾患の場合もありますし、
心臓が原因のこともあります。
また調べても原因が分からないこともあります。

それでは実際に「歩行時の息切れ」が見られた時、
その個々の原因は、
どのくらいの頻度で見られるものなのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンにおいて、
心肺疾患についての疫学研究のデータを活用して、
歩行時の息切れの原因検索を施行しているものです。

対象は年齢が50から64歳の25948名で、
同年代の人と同じような速度で歩こうとすると、
息切れが生じる、というような症状もしくは、
より重い息切れの症状があったのは、
そのうちの3.7%でした。
検査により判明した病名との関連を検討すると、
息切れに最も関連していたのは、
過体重及び肥満が全体の63%(59.6から66.0)、
ストレスが60%(31.6から76.8)、
呼吸器疾患が29%(20.1から37.1)、
抑うつ状態が22%(17.1から26.6)、
心臓病が9.5%(6.3から12.7)でした。
(PAF95%CI)

このように、
歩行時の息切れ症状は、
肥満や過体重を伴う場合には、
それによって生じている可能性が高く、
通常病気として想定される、
呼吸器疾患や心臓疾患の関与は、
それほど大きなものではありませんでした。

勿論鑑別診断としては、
呼吸機能や心機能などの検索は行われるべきですが、
息切れの多くは、
むしろ肥満やストレスが関連しているという、
今回の調査結果は非常に興味深く、
今後日本でも同様の検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

ED治療薬の認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バイアグラと認知症.jpg
Neurology誌に2024年2月7日付で掲載された、
男性の勃起障害の治療薬の、
認知症予防効果についての論文です。

シルデナフィル(バイアグラ)などのED治療薬は、
フォスフォジエステラーゼ5(Phosphodiesterase Type5)
という酵素を阻害する作用を持つ、
フォスフォジエステラーゼ5阻害剤です。
以下これをPDE-5阻害剤と略します。

このPDE-5という酵素はサイクリックGMPという、
血管拡張物質を分解する働きを持っているので、
酵素の阻害により、
陰茎の血管拡張が持続し、
それが勃起機能の改善に繋がっているのです。

ただ、この酵素は陰茎以外にも身体の多くの血管に存在しているので、
陰茎以外の組織にも一定の効果を示すと考えられています。
また動物実験においてはこの酵素の阻害剤は、
血管拡張作用と共に、
血管内皮細胞の機能自体を改善する効果も、
確認されています。

そのためPDE-5阻害剤は男性機能のみならず、
心臓疾患や糖尿病など、
他の多くの病気の治療薬や予防薬としても、
その有効性が研究されています。

その1つが認知症です。

PDE-5阻害剤には認知症の原因の1つである、
タウ蛋白のリン酸化を抑制する作用が、
実験的研究では報告されていて、
この事実はPDE-5が認知症予防に繋がる、
という可能性を示唆するものです。

その実際の有効性はどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
勃起不全と診断された、
登録の時点で認知症のない、
40歳以上の男性269725名を対象として、
中央値で5.1年という経過観察を施行。
バイアグラなどの使用と、
アルツハイマー病の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
PDE-5阻害剤使用群でのアルツハイマー病発症リスクは、
年間1万人当たり8.1件であったのに対して、
未使用群での発症リスクは、
年間1万人当たり9.7件で、
関連する因子を補正した結果として、
PDE-5阻害剤の使用はその後のアルツハイマー病の発症リスクを、
18%(95%CI:0.72から0.93)有意に低下させていました。

こうしたデータは他にも報告されていて、
ほぼ同等の結果が得られていることから考えて、
こうした現象のあること自体は、
ほぼ事実と考えて良さそうです。

今後は実際にこの薬を、
認知症予防に使用することは可能であるのか、
可能であるとすれば、
どのような対象者にどのように使用するべきなのか、
そうした実際的な検証が不可欠であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

赤堀雅秋プロデュース「ボイラーマン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ボイラーマン.jpg
最近活躍が目覚ましい赤堀雅秋さんの新作が、
本日まで下北沢の本多劇場で上演されています。

赤堀さんの実際に観た作品の中では、
「鳥の名前」と「流山ブルーバード」が好きです。
ちょっとオールビーを彷彿とさせるような、
少しブラックで暴力的な家庭劇がなかなかの完成度で、
ちょっと頭のネジが少し外れているような、
異様なキャラクターが魅力です。

ただ、それとは別に、
かなり前衛的でシュールで、
時事ネタや社会性のあるような作品も描いていて、
そちらは正直苦手ジャンルです。

今回の作品はその中間という感じで、
路地裏で何人かの人物が交錯する一夜の出来事を描いていて、
人間ドラマではあるのですが、
それほどの物語的な展開などはなく、
個々のキャラはやや象徴的に、
日本の色々な年齢階層などを代表する立場を、
示しているような感じもあります。

ただ、以前の社会派ものは、
かなりぶっ飛んだ展開のものが多くて、
ちょっと付いて行きかねる部分があったのですが、
今回の作品はあまり非現実的な設定などは登場せず、
色々な含みは残しながら、
敢くまで「路地裏の一夜の物語」として、
完結しているところが良かったと思います。

特に村岡希美さん演じる女性が、
如何にも今風のストレスから、
周囲にまき散らしたゴミを、
何となく集った他の人物達が、
誰からともなく分別し集めるという場面は、
要するに今の日本人の美徳のように語られることのある、
スタジアムなどでのゴミ集めに至る心理を、
見事に再現している感じがあって、
それを持ち上げるでもなく、かと言って揶揄するでもなく、
奇妙なユーモアを持って描いている点が、
とても秀逸で赤堀さんの円熟を見る感じがありました。

また、でんでんさん演じる、
高度成長の業を背負って年老いたような男が、
見ず知らずの安達祐実さん演じる女性に、
「お金を貸してくれ」と言い、
そこからの展開の膨らみの見事さも、
日本人の心理の中にある、
「善行」というものの実体を、
こちらも持ち上げるでもなく揶揄するでもなく、
絶妙な立ち位置で表現していました。

そうした人物達の跳梁する中で、
ボイラー関係の仕事をしていると言いながら、
その背景は不明のままに、
道に迷って彷徨う田中哲司さん演じる主人公は、
おそらく目標を見失って彷徨う、
私たち自身のことなのかも知れません。

キャストはいずれも好演でしたが、
上から目線の失礼をお許し頂ければ、
田中哲司さんは実に上手くなったなあ、
という気がしますし、
今回特筆すべきはでんでんさんの怪演で、
その見事な怪物ぶりは必見と言って良いものでした。

総じて全ての場面が良いということはなく、
完成度はトータルにはあまり高くはないのですが、
前述したような幾つかの場面は非常に秀逸で、
キャストの円熟した演技も見ごたえは抜群なので、
演劇ファンにはかなり豪華なディナーと言っても、
過言ではない佳作であったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

ピロリ菌の感染と大腸癌リスクとの関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘリコバクターと大腸癌.jpg
Journal of Clinical Oncology誌に、
2024年3月1日付で掲載された、
ピロリ菌の感染が大腸癌の発症に及ぼす影響についての論文です。

胃粘膜で生育するヘリコバクター・ピロリ菌が、
萎縮性胃炎や胃癌のリスクとなり、
除菌治療がその予防に繋がることは、
専門家のみならず、
今では一般にも広く知られている事実です。

ピロリ菌の感染は胃癌以外にも、
大腸癌の発症リスクを上昇させることを示唆するデータが、
幾つか報告されています。
例えば2020年に発表されたメタ解析の論文では、
ピロリ菌の感染により大腸癌のリスクは1.7倍に上昇したと報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7489651/

ただ、実際には単独の疫学データで、
それほど大規模なものはなく、
報告によっても結果にはかなりの幅があります。

今回の研究はアメリカの退役軍人を対象とした、
大規模な疫学データを解析したものです。

ピロリ菌の検査を施行した退役軍人、
トータル812736名のうち、
25.2%に当たる205178名が陽性と診断されました。
15年の観察期間において、
ピロリ菌の感染者は非感染者と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
大腸癌により死亡するリスクが12%(95%CI:1.03から1.21)、
それぞれ有意に増加していました。

また、ピロリ菌の感染があって未治療であると、
除菌治療を施行した場合と比較して、
大腸癌に罹患するリスクが23%(95%CI:1.13から1.34)、
大腸癌により死亡するリスクが40%(95%CI:1.24から1.58)、
それぞれ有意に増加していました。

矢張り、今回の大規模な検証においても、
ピロリ菌の感染が持続していると、
大腸癌のリスクも増加することは間違いのない事実であるようです。

それでは、何故ピロリ菌の感染が大腸癌と関連しているのでしょうか?

現時点では不明ですが、
ピロリ菌自体が大腸粘膜においても、
発癌を誘発する可能性を示唆する、
実験的なデータが存在しているようです。

そのメカニズムは今後の検証を待つ必要がありますが、
ピロリ菌の除菌は胃癌予防のみならず、
大腸癌予防に対しても一定の有効性が期待出来るので、
その施行はより積極的に行う必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0)