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「セッション」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
セッション.jpg
デイミアン・チャゼルを有名にした、
2014年のアメリカ映画で、
再上映が行われていたので、
これは映画館で是非と思い足を運びました。

師弟の壮絶な対決を描いた音楽映画で、
最初から最後までまさに才気迸るという感じです。

プロのジャズドラマーを目指す、
屈折した家庭環境を持つ青年が、
一流の音楽学校で強烈な個性を持つ教師と出会い、
そのパワハラとしか思えないような指導を受けるうちに、
精神の均衡を崩してゆきます。

最初から全く無駄のない作劇で、
ぐいぐいと作品世界に引き込まれますし、
教師を演じたJ・K・シモンズさんの個性が強烈で、
素材がドラム演奏というのが、
また非常に映像的で素晴らしいのです。

上映時間は107分なのですが、
非常に作劇が濃密なので、
良い意味でもっと長いような印象があります。
前半を観ると「フルメタルジャケット」みたいな感じなんですね。
これだと追い詰められた主人公が、
最後に狂気に陥って暴力的に反逆して、
それで終わりではないか、
というように思ってしまうのですが、
確かにそうしたパートはありながら、
物語はそれで終わらず、
その後でもっと良いお話に着地しかけ、
それはそれで良いのかしら、
と思っていると、
更にそれがひっくり返されて、
殆どの観客の想像を超えるような、
鮮やかなラストに着地します。

後半の展開には特にしびれるものがあるのですが、
何と言ってもラストが素晴らしいですよね。
これ以上はないという鮮やかなタイミングで終わります。
最近はいつ終わったのか分からないような、
タラタラしたエンディングの作品も多く、
それはそれで時代なのかな、とも思うのですが、
この映画のようにビシッとラストの決まった作品を観ると、
やっぱりこれだよね、という気持ちになります。

いずれにしても天才監督の才気が迸る傑作で、
かなりインテリ臭が強いので、
その辺りの好き嫌いは分かれるところですが、
必見であることは間違いがありません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「落下の解剖学」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
落下の解剖学.jpg
フランスのジュスティーヌ・トリエ監督の新作が、
今ロードショー公開されています。
2023年のカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作です。

カンヌのパルムドールというのは、
かなり異常でヘンテコな作品が多く、
アメリカのアカデミー賞の受賞作が、
最近は流行に合わせて変なものもありますが、
概ね倫理的な「良いお話」が選ばれるのに対して、
突飛で通常の倫理観からは逸脱した怪作が選ばれることが多い、
という特徴があります。
カンヌのパルムドールは芥川賞で、
アカデミー賞は直木賞、くらいの違いがあります。

カンヌのパルムドールを数年間分一気見すると、
頭が正常ではなくなること必定です。

その系譜の中では今回の作品は、
比較的破綻のなくまとまっている、
割合と優等生的な作品で、
米アカデミー賞を取ることはないと思いますが、
取っても不思議はないくらいの映画にはなっています。

フランスの田舎の山荘に、
ドイツ人の夫と高名なドイツ出身の作家の妻、
そして4歳の時の事故のために高度の弱視となった息子が住んでいます。
ある日息子が愛犬と散歩をしていた間に、
屋根裏部屋から転落した夫が死亡し、
家で寝ていたと主張する作家の妻に、
夫殺しの嫌疑が掛かります。

舞台は雪の山荘で密室ですから、
夫の死は、事故死か自殺か妻による殺人の、
3択しかないのですが、
妻が殺人容疑で起訴され、
彼女と旧知の間柄の弁護士が立つことで、
事件は裁判の場に舞台を移してゆきます。

どんでん返しのあるミステリーのような出だしですが、
勿論そうではなく、
裁判自体は決着が付きますが、
「真相」は明らかにされることなく終わります。

大岡昇平さんの「事件」に近い感じのお話ですね。
少年がキーになるところも似ています。
ただ、内容は「事件」よりもっとモヤモヤしていて、
観客のカタルシスは一切ありません。

それでも真相を観客が推測するための情報は、
過剰なくらいに与えられているので、
実際に起こった事件を、
報道からああだこうだと、
茶の間で議論しているのと同じような水準と、
言えなくもありません。

役者の演技は非常に卓越していて、
一家の愛犬がまた、
人間に匹敵する芝居をしています。

1つの家族の悲劇が克明に描かれるのですが、
作り手が誰かに肩入れしているという感じではなくて、
それこそ解剖するように、
人間の心理の綾が切り分けられてゆくので、
観た側がそれを自分で物語に仕立てて理解する、
という趣向の映画なんですね。
作り手の視点を排除しているので、
居心地の良くない感じはあるのですが、
それはそれと割り切って観ることが出来れば、
なかなかの魅力を感じることが出来る映画だと思います。

勿論これならノンフィクションでいいではないか、
という批判は成立するのですね。
でも、ノンフィクションでは実際の人間に、
迷惑やストレスが掛かる結果になるでしょ。
それがないのがフィクションの魅力だと思いますし、
それを言いたいので、
主人公も現実を元にして創作する作家にして、
そこにテーマを語らせているんですね。

そんな訳でなかなかの骨太な力作で、
個人的には楽しめましたが、
「何が言いたいんだ!」と怒る方もあるかと思います。
観る人を選ぶ映画の1つなので、
くれぐれも真相の明らかになるお話ではない、
自分で自分なりの真相を作る作品なのだ、
ということを理解して鑑賞するのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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単純ヘルペスウイルス感染症と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業など事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘルペスウイルスと認知症リスク.jpg
Journal of Alzheimer's Disease誌に2024年2月付で掲載された、
非常に一般的なウイルスによる感染と、
認知症リスクとの関連についての論文です。

認知症のメカニズムには不明の点も多く、
ウイルス感染がそのリスクになるという報告も複数あります。

その中で報告の多いものの1つが、
単純ヘルペスウイルスの感染です。

たとえば、2008年の論文では、
急性の感染を示す単純ヘルペスウイルスのIgM抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが2.55倍増加した、
とするデータが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18982063/

また、2015年の別の論文では、
今度はIgG抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが1.636倍増加した、
とするデータ報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25304990/

ただ、2008年の論文ではIgG抗体との関連はなかった、
という結果になっていますから、
データが必ずしも一致しているという訳ではありません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
70歳で認知症の兆候のないトータル1002名の一般住民を、
15年間という長期に渡り観察したものですが、
単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルスの血清抗体価と、
認知症の発症との関連を検証しているものです。

サイトメガロウイルスというのはヘルペスウイルスの一種で、
抗体の陽性率も高いため、一緒に検証されています。
抗体はIgM抗体とIgG抗体が測定されていますが、
感染の急性期のみに上昇するのがIgM抗体で、
IgG抗体は感染後しばらくして上昇すると、
長期に渡り陽性となるので、
その感染の既往を表しています。

その結果、
累積のアルツハイマー病の罹患率は4%で、
全ての認知症の罹患率は7%でした。
全体の82%の対象者は単純ヘルペスウイルスのIgG抗体陽性で、
この抗体の陽性者は陰性者と比較して、
観察期間中に認知症を発症するリスクが、
2.26倍(95%CI:1.08から4.72)有意に増加していました。
アルツハイマー病単独のリスクも、
2.24倍(95%CI:0.79から6.33)増加する傾向は示しましたが、
統計的に有意ではありませんでした。

一方で単純ヘルペスのIgM抗体とサイトメガロウイルスIgG抗体の陽性率、
単純ヘルペスウイルス感染症の治療の有無、
単純毛ヘルペスとサイトメガロウイルスの抗体価については、
認知症のリスクと明確な関連を示していませんでした。

このように、
今回の検証においては、
トータルな認知症リスクと、
単純ヘルペスの抗体陽性(その既往あり)との間には、
一定の関連が認められた一方で、
アルツハイマー病との間では、
有意な関連は認められませんでした。

この結果はかなり微妙なもので、
データを見るとその信頼区間は非常に大きく、
認知症とアルツハイマー病との間に、
それほどの差はないようにも思えます。

単純ヘルペス感染症の既往と、
その後の認知症の発症との間には、
一定の関連のあること自体は事実と言って良さそうですが、
その解釈やアルツハイマー病との関連などについては、
まだ今後の検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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うつ病の運動療法(2024年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
うつ病の運動療法.jpg
British Medical Journal誌に、
2024年2月14日付で掲載された、
うつ病の有効な運動を検証したメタ解析の論文です。

うつ病の現状の治療の柱は、
心理療法と薬物療法ですが、
それらを補う意味で注目されているのが運動療法です。

うつ病においては通常活動性が低下するため、
糖尿病や心臓病、肥満などのリスクを高めることも知られています。

運動にはリラクゼーションの効果もありますし、
緊張で硬直した身体をほぐすことは、
脳にも良い影響を与える可能性が想定されます。
また、うつ病に併発する生活習慣病などの予防にも繋がるのです。

しかし、実際にどのような運動をすることが、
うつ病において適していて、治療効果が望めるのか、
というような点については、
これまであまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究は、
これまでの主だったうつ病に対する運動療法の効果を検証した、
介入試験のデータをまとめて解析することで、
この問題の検証を行っています。

これまでの218の臨床研究に含まれる、
トータルで14170名のうつ病患者のデータをまとめて解析したところ、
ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニング、
の3者が他の運動よりうつ病の改善への有効性があり、
運動強度は高いほど有効性も増すことが確認されました。
特に患者さんへの受け入れにおいて、
ヨガと筋力トレーニングがより優れていました。

今後こうしたデータを元にして、
うつ病の患者さんにおける運動療法が、
より科学的に整備され活用されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症罹患後の認知機能低下(イギリスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19後の認知機能低下.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月29日付で掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
認知機能低下についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
様々な「後遺症」と呼ばれるような体調不良が、
遷延することが報告されています。

そのうちの1つが、
「頭がぼんやりして集中出来ない」、
「物忘れが強くなった」、
などの認知機能の低下です。

こうした現象のあること自体は間違いがありませんし、
私自身も集中力低下などの症状が持続して、
長期仕事を休まざるを得なくなった事例を経験しています。

ただ、実際の認知機能低下がどの程度のもので、
どのくらい持続しているのか、
というような点については、
客観的なデータが不足しています。

そこで今回の研究はイギリスにおいて、
141583名の一般住民にオンラインで認知機能の検査を施行。
検査を完遂した112964名の解析を施行しています。
その結果を新型コロナウイルス感染症の既往の有無で比較検証したところ、
新型コロナウイルス感染症に罹患して回復した人は、
感染の既往のない人と比較して、
0.2SD程度の軽度の認知機能の低下を認めました。
これはIQ検査での3点の低下と同等のものと試算されています。
新型コロナ感染の症状が12週を超えて持続していた人では、
感染の既往のない人と比較して、
より大きく0.4SD程度の低下を示していました。
また集中治療室に入室した重症の新型コロナ感染の罹患後では、
認知機能低下はより大きく0.63SDに達し、
これはIQ検査で9点の低下と同程度と試算されました。

このように、
程度はそれほど大きなものではありませんが、
新型コロナ感染後には認知機能の低下が持続的に認められ、
特に他の症状も長期持続していたり、
重症化したような事例において、
より大きな低下が認められる傾向があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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