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シェイクスピア「ヘンリー八世」(吉田鋼太郎演出2022年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヘンリー8世.jpg
彩の国シェイクスピア・シリーズとして、
蜷川幸雄さんから演出を引き継いだ吉田鋼太郎さんが、
2020年に初演した「ヘンリー八世」が、
今彩の国さいたま芸術劇場で再演されています。

初演は一部公演中止となったため、
満を持しての再演となります。

この作品はヘンリー八世を中心とした英国宮廷の権力闘争を描いた、
シャイクスピアとしては歴史劇のジャンルに属するものですが、
かなり後期の作品であるにも関わらず、
あまりその描写の奥行は深いとは言えず、
単独執筆ではない可能性もある作品です。

史実を元にはしていますが、
結構自由自在に虚構を取り入れていて、
国王が腹黒い枢機卿の企みにより、
忠実な部下を殺し、自分を愛している王妃を追放する、
というのは「オセロ」のようですし、
その前半とシンメトリックに展開される後半では、
枢機卿は追放され、
誹謗された忠臣は王により救済されるという、
裏表の展開からハッピーエンドに至るのは、
「冬物語」などを想起させます。
ただ、内容的には有名な作品の方が明らかに、
その描写や凝集力において優れているので、
この作品がそれほど上演されないのは、
ある意味当然のようにも思われます。
ただ、それが分かるのもこうして上演されているからで、
演劇というのは戯曲を読んでも分からない点が多いので、
演劇ファンとしてはこうした上演も楽しいものなのです。

吉田鋼太郎さんの演出は、
以前は蜷川演出そのもの、
という感じが強かったのですが、
最近は少し傾向が変わって来ているように思います。

彩の国でのシェイクスピア・シリーズは、
もともと他の蜷川さんの仕事と比べると、
低予算の中でシンプルにまとめるという感じであったと思うのですが、
そのギリシャ悲劇的シンプルさが、
吉田さんの演出ではもう少しくだけた感じというか、
ややショーパブ的演出に感じる部分があって、
それが従来の演出と混在しているという印象があります。

コンセプトとしては、
正面にパイプオルガン的な装置があって、
そこでキーボードの生演奏で音効が奏でられ、
ラストは道化の指示によって観客は予め渡された小旗を振り、
その中を客席から全キャストが登場して、
大団円のフィナーレを行うという趣向になっています。
これはいずれも中世のお芝居の様式に適ったもので、
現代的に装飾はされているものの、
古典劇を現在に甦らそうとする意欲を感じます。

ただ、それ以外の部分に関しては、
やや薄っぺらい感じは否めませんでした。

キャストはタイトルロールの阿部寛さんが、
さすがの存在感で舞台を引き締め、
悪役を楽しそうに演じる吉田鋼太郎さんは、
座長芝居でかなりずるい感じはしますが、
本領発揮の楽しさがありました。
悲痛な王妃を演じた宮本裕子さんは今回のMVPで、
その演劇としてのクオリティを1ランク高めていました。
後半に登場する金子大地さんは、
さすが人気者という輝きがありました。
ただ、トータルにはがなる芝居や語尾の不明瞭な台詞が多く、
台詞劇としての明晰さには欠けていました。
これは蜷川演出でも見られた特徴です。

そんな訳でシェークスピア劇としての、
台詞劇の妙味には欠けていたものの、
トータルには楽しめる仕上がりで、
華のあるキャストの競演も楽しく、
納得の気分で劇場を後にすることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「異動辞令は音楽隊!」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
異動辞令は音楽隊.jpg
「ミッドナイトスワン」の内田英治監督の、
今度は刑事ドラマとヒューマンドラマをミックスさせた新作映画が、
今ロードショー公開されています。

「ミッドナイトスワン」は印象的な作品でしたから、
これは是非と思っていたのですが、
もうすぐに公開は終わってしまいそうなので、
慌てて都合を付けて映画館に足を運びました。

これはかなり素晴らしいですよ。

「ミッドナイトスワン」はフランス映画的味わいでしたが、
今回の作品はしっかりベタな日本映画をやっていて、
日本映画全盛期の松竹人情映画的雰囲気と、
「Shall we ダンス?」的な周防映画の雰囲気がミックスされ、
しかもそれが随所で現代的にブラッシュアップされていて、
生き方を変えなければならない事態に陥った時に、
どう行動するべきかという、
古典的かつ現代的なテーマにも切り込んでいます。

オリジナルの脚本が本当に素晴らしい仕上がりで、
登場人物は多いのですがキャラが全て立っていて、
その絡め方が絶妙ですし、
ミステリーではないのですが伏線回収の完成度も高く、
これはもう充分世界水準の台本だと思います。

主人公の阿部寛演じる刑事は、
絵に描いたような叩き上げの暴力刑事で、
家庭も顧みずに仕事に執念を燃やして、
案の定妻には捨てられ、娘とも不和で、
上司にもへつらわず、部下は罵倒し、
当然の帰結として問題を起こして、
左遷をされてしまいます。

ここまでは、これまでに、
何度となく描かれて来た、
もう手垢の付きまくった設定です。

しかし、その左遷先が警察音楽隊というのが意表を付いていて、
そこでは殆ど兼務の警察官が、
嫌々音楽の練習をしているのですが、
そこで昔和太鼓の経験のある主人公は、
ドラマーとして練習を続けることに次第に喜びを見出し、
自分を変えようとするきっかけを見出すようになるのです。

前半は刑事ドラマとして始まり、
音楽隊に舞台が移ると、
今度は素人音楽隊の音楽群像ドラマが始まります。
ただ、環境は変わっても生きるということには違いがない、
ということが分かってくると、
どんな環境でも変わろうとする意思さえあれば人間は変われる、
というある意味これも手垢に塗れたメッセージが、
非常に説得力を持って観客の心に届くのです。

非常にクレヴァーな作劇だと思います。

ただ、勿論話はそこでは終わらずに、
前半の刑事ドラマの部分とその後の音楽群像ドラマの部分が、
最後になって綺麗に結びついて来るのですね。
この辺りも非常に冴えていて、
しっかり刑事ドラマとしてのクライマックスも見せつつ、
ラストは演奏会本番という、
定番の締め括りに至ります。

上映時間が119分。
これ、絶対に2時間は切る映画にする、
という強い意志で作られているんですね。
それでいて端折ったという感じはなく、
全てが十全に語られていて、
全ての登場人物に「しどころ」が用意されています。
台本、演出、編集、どれも高いレベルでないと、
こうした結果にはなりません。
映像は少しアンバートーンに沈んで美しく、
さりげないカットも非常に精緻に丹念に撮られています。

キャストも手練れが揃っていて、
主役の阿部寛は安定感のある芝居で良かったですし、
こうした人情劇には今欠かせない感じのする、
清野菜名さん、磯村勇斗さんの2人が、
それぞれ抜群の芝居をしています。
清野さんはこういう人情劇のサブが抜群にいいですね。

そんな訳でトータルに高い水準で完成された、
極めて日本映画的な人情劇で、
古い日本娯楽映画のお好きな方には、
これはもう絶対の贈り物です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心筋梗塞再発予防におけるポリピルの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ポリピルの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年8月26日ウェブ掲載され9月15日号に掲載された、
複数の薬を1つの錠剤に混合した、
所謂「ポリピル」の、
心血管疾患再発予防効果を検証した論文です。

多くの薬を飲むことの弊害というものが、
最近は行政主導でクローズアップされることが多くなっています。
中には「6種類以上の薬を飲んではいけない」というような、
過激な内容のものも見られます。

勿論薬の種類が少ないに越したことはありませんし、
必要性が高くないのに、
漫然と使用される薬が多いことも問題です。

ただ、病気の状態によっては、
多くの種類の薬が必要となることもありますし、
単剤の使用より複数の薬を組み合わせた方が、
より効果的という場合もあります。

また錠剤やカプセルの数のみで、
議論をするのは乱暴な話です。

薬によっては複数の成分が一緒になっているものもありますし、
市販の風邪薬や胃腸薬には、
10種類以上の成分が混合されていることもあります。
たとえばアスピリンのように、
1種類の成分しか含まれていない薬の1錠と、
10種類の成分が混合されている風邪薬を、
同じ1剤として捉える考え方は、
はなはだ非科学的に感じられます。

それはともかくとして、
必要な薬が複数ある場合、
複数の成分を1つの錠剤に混合する、
という試みが最近評価されるようになっています。

これが「ポリピル」です。

たとえば、それぞれその作用が異なる、
3種類の薬が1つの病気の治療に必要となる場合、
3つの薬を同時に飲むよりも、
それを併せた1つの錠剤を飲む方が、
患者さんの負担も少なくなりますし、
「こんなに薬を沢山飲むのか…」という、
ネガティブな感情の緩和にも繋がるのです。

これまでにも多くの病気に対して「ポリピル」の臨床研究が行われていますが、
今回の論文では急性心筋梗塞を起こした患者さんにおいて、
再発予防のために使用する3種類の薬を、
1つの錠剤にまとめたポリピルの有効性が検証されています。

第3相の臨床試験として行われた今回の研究では、
急性心筋梗塞を起こしてから6か月以内の患者さん、
トータル2499名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は再発予防として、
抗血小板剤のアスピリンを100㎎、
ACE阻害剤であるラミプリルを2.5㎎、5㎎、10㎎のいずれか、
コレステロール降下剤であるアトルバスタチンを20㎎、40㎎のいずれかを、
3種類の錠剤として使用し、
もう一方はその3剤を一緒にしたポリピル1錠を使用して、
中間値で36か月の経過観察を施行しています。

その結果、
心筋梗塞の再発や心血管疾患による死亡、脳卒中などを併せたリスクは、
ポリピル群の9.5%で発症したのに対して、
通常の3剤使用群では12.7%で発症していて、
ポリピルの使用により再発や死亡などのリスクは、
24%(95%CI:0.60から0.96)有意に低下していました。

このように3種類の薬をまとめて1剤にして使用するだけで、
その有効性が明確に改善するという結果は非常に興味深く、
その主な理由は患者さんの薬の飲み忘れや、
意図的な怠薬や薬に対する拒否感が、
低下するためと思われますが、
薬の数が増えることの弊害が指摘されることの多い現在では、
こうした試みは今後より増えることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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人工甘味料の心血管疾患リスク(フランスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
人工甘味料と心血管疾患リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年9月7日ウェブ掲載された、
人工甘味料の健康影響についての論文です。

ゼロカロリーのダイエット飲料の、
身体への影響については様々な意見があります。
その一部は以前何度か記事にもしましたし、
本にも書きました。

高価な砂糖の代用として開発された、
サッカリンがその始まりで、
その後アミノ酸の一種であるアスパルテームや、
スクラロースなど、
多くの「代用砂糖」が開発されました。

これはそもそもは高価な砂糖の代用品として、
商品価格を下げることが目的で、
サッカリンと言えば安かろう悪かろうという、
どちらかと言えば悪いイメージしかなかったのですが、
カロリーのないことを逆手に取って、
ダイエット目的や健康に良いというイメージで、
急速に普及することになったのです。

サッカリンには発癌性の危惧があって、
今でも使用はされていますが、
その後開発されたアスパルテームやスクラロースの方が、
今では主に使用されています。
普及しているダイエットコーラでも、
使用されているのはアスパルテームやスクラロースが主です。

砂糖の入っているコーラを飲んでいた人が、
それを人工甘味料の入ったダイエットコーラに変えれば、
摂取カロリーは減り、
特に肥満の方や糖尿病の傾向のあるような方では、
より健康にメリットがあるように、
普通に考えればそう思えます。

しかし、人工甘味料の使用により、
体重が減少して血糖コントロールにも良い影響が見られた、
という臨床データがある一方で、
むしろ体重が増加して糖尿病の発症リスクも増加した、
というような相反するデータも得られています。

以前ご紹介したように、
人工甘味料が舌の甘味受容体に結合することにより、
身体が反応してインスリンを分泌し、
それが空腹感を増強するため、
結果として過食が誘発されるのでは、
という仮説があります。
またサッカリンにより腸内細菌叢が変化し、
耐糖能異常が生じる可能性を示した、
動物実験の結果も報告されています。

今回のデータはフランスにおける疫学研究で、
103388名の一般住民を中間値で9年の経過観察を行い、
人工甘味料の摂取量と、
心血管疾患の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
人工甘味料を摂取しない人と比較して、
平均以上に摂取している人では、
心血管疾患のリスクが9%(95%CI:1.01から1.18)、
有意に増加していました。
特に脳梗塞などの脳血管疾患のリスクは、
18%(95%CI:1.06から1.31)と高い増加率を示していました。
また、人工甘味料の個別の解析では、
アスパルテームが脳血管疾患リスクを17%(95%CI:1.03から1.33)、
アセスルファムカリウムが冠動脈疾患リスクを40%(95%CI:1.06から1.84)、
スクラロースが冠動脈疾患リスクを31%(95%CI:1.00から1.71)、
それぞれ有意に増加させていました。

つまり、それほど明確なものではなく、
信頼区間がかなり広い点には注意が必要ですが、
人工甘味料の摂取そのものか、
それに付随するような食習慣が、
一定レベル心血管疾患のリスクを高める可能性のあることは、
留意する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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毎日の歩数と生命予後(UKバイオバンクのデータ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
毎日の歩数と生命予後.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年9月12日ウェブ掲載された、
毎日の歩数と生命予後との関連を検証した論文です。

健康のためにはよく歩くのが良い、
というのは健康の専門家かそうでないかに関わらず、
多くの人が言っていることです。

最近ではスマホやアップルウォッチなどの、
所謂ウェアラブル端末が普及して、
簡単に毎日の歩数が計れるようになり、
よりその健康効果が一般に広まりを見せています。

そこで問題となるのは目標とするべき歩数です。

馴染みのあるのが1日1万歩歩きましょう、という基準で、
皆さんも何度もお聞きになったことがあると思います。

海外たとえばアメリカにおいても同様の基準がポピュラーで、
意外にもその元になっているのは、
日本の万歩計の会社の宣伝にあったようです。

ただ、実際にはその根拠は、
あまり精度の高い研究に裏付けられたものではありません。

最近の研究結果は2019年に海外で発表されたものでも、
日本の中之条研究の報告においても、
もう少し少ない1日7000から8000歩程度が、
最も健康への有効性が高い、
という結果になっています。
更に最近指摘されることが多いのが歩行の速度で、
日本の研究では20分程度の「早歩き」を入れると、
より効果が高いというデータが得られていました。
より新しい2021年9月に発表されたアメリカの疫学データでは、
中年期に1日7000歩から10000歩の歩行を習慣化することで、
その後の超過死亡のリスクが低下する、
という内容になっていました。

今回のデータはイギリスの、
最近言及されることの多いUKバイオバンクのデータを元に解析されたもので、
登録時点で40から79歳の一般住民78500名を、
中間値で7年経過観察し、
生命予後と歩数との関連を検証しています。

その結果、
毎日の歩数がおおよそ10000歩までの範囲において、
歩数が多いほど総死亡のリスクも心血管疾患による死亡のリスクも、
癌による死亡のリスクも、
それぞれ歩数が多いほど低下していました。
歩数がその範囲で100歩増える毎に、
総死亡のリスクは8%、心血管疾患による死亡のリスクは10%、
癌による死亡のリスクは11%の低下が認められました。
歩行速度が速いことは、
そのリスクをより低下させる可能性が示唆されました。

今回の結果も、
以前の同様の研究とほぼ一致しているもので、
1日1万歩を目標として歩くことは、
最もその健康効果を最大化する可能性が高く、
それを超える歩数は明確な上乗せ効果は期待出来ません。
一方で歩行速度を早くすることは、
一定の上乗せ効果を期待出来るようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ステロイド剤の脳に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ステロイドの脳への作用.jpg
BMJ Open誌に2022年8月30日ウェブ掲載された、
ステロイド剤の脳に与える影響についての論文です。

ステロイド剤(糖質コルチコイド)は、
強い抗炎症作用と免疫抑制作用を持ち、
膠原病などの慢性炎症性疾患や、
感染症に伴う免疫の過剰反応の抑制、
アレルギー性疾患の治療などに広く使用されています。
全身性のステロイド使用は、
注射や飲み薬として使用され、
湿疹へは外用剤として、
喘息や慢性閉塞性肺疾患に対しては、
吸入剤として使用されています。

ステロイド剤には高い有効性がある一方で、
多くの副作用や有害事象のある薬でもあります。
肥満や耐糖能異常、骨粗鬆症、血圧上昇などの、
身体的な異常以外に、
抑うつ状態や不安障害などの、
精神的な有害事象も、
特に多くの量を長期使用した場合に、
報告されています。

ただ、この精神的な影響については、
身体的な影響と比較するとあまり明確なことが分かっていません。

全身的なステロイドの使用と比較して、
吸入ステロイドなどの局所的な使用は、
副作用や有害事象は軽度に留まると考えられています。
ただ、これも精神的な影響については、
実証的なデータは少ないのが実際です。

今回の研究はイギリスのUKバイオバンクにある、
大規模な臨床データを活用して、
この問題の検証を行っているものです。

対象はステロイドの全身的な使用者222人と、
吸入ステロイドの使用者557人で、
それをステロイド未使用の、
コントロール24106名と比較検証しています。

その結果MRI検査において計測された、
脳組織の白質統合性の低下という所見が、
コントロールと比較してステロイド使用者では有意に認められ、
吸入ステロイドの使用においても、
全身性の投与と比較すれば軽度ではあるものの、
同様に認められました。

また全身性ステロイド使用は、
コントロールと比較して抑うつ症状のリスクを76%
(95%CI:1.26から2.43)、
無関心のリスクを84%(95%CI:1.29から2.56)、
緊張や不安のリスクを78%(95%CI:1.29から2.41)、
全身倦怠感や意欲低下のリスクを90%
(95%CI:1.45から2.50)、
それぞれ有意に増加させていました。
一方で吸入ステロイドについては、
全身倦怠感や意欲低下のリスクを35%(95%CI:1.14から1.60)、
有意に増加させていましたが、
それ以外の指標については明確な差は認められませんでした。

このように、
ステロイドの使用は脳の機能と構造に影響を与え、
抑うつ気分や倦怠感、意欲低下などのリスクを、
増加させることが確認されました。
吸入ステロイドについても、
その影響はより軽度ではあるものの、
倦怠感や意欲低下などのリスクについては、
増加させる可能性が示唆されました。

ステロイドの脳作用とそれに対する対策については、
ステロイドの適切な使用を含めて、
今後より詳細な検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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多量の飲酒習慣と心房細動リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコールと心房細動リスク.jpg
JAMA Network Open誌に2022年9月2日ウェブ掲載された、
アルコールの摂取と心房細動リスクとの関連についての論文です。

心房細動は年齢に伴って発症する不整脈の代表ですが、
頻度は少ないものの20代や30代の若者にも発症しています。
その場合長期に渡る不整脈の持続は、
心不全や脳梗塞などのリスクを高めるという点で、
無視できるものではありません。
カテーテル治療などの方法はありますが、
再発のリスクも高いことが課題として残っています。

それでは、若年性の心房細動は、
どのような理由で起こるのでしょうか?

これについてはあまり明確なことが分かっていません。

飲酒は高齢者においては、
心房細動のリスクになることが分かっていますが、
若い年齢層においても同じことが言えるかどうかは、
データが乏しいのが実際なのです。

そこで今回の研究では韓国において、
登録時点で20から39歳の一般住民1537836名を、
中間値で6.13年の経過観察を行っています。

その結果観察期間中に3066名の心房細動が新たに診断され、
1週間にアルコールを210グラム以上摂取する習慣のある人は、
アルコールを飲まない人と比較して、
心房細動の発症リスクが47%(95%CI:1.18から1.83)
4年以上の期間において有意に増加していました。
この1週間に210グラムというのは、
1日に馴らすと日本酒1合半くらいの分量ですから、
当て嵌まる方は結構多いのではないかと思います。

1日20グラムを超えるようなアルコールの摂取の習慣化は、
多くの病気のリスクを増加させることが報告されていますが、
今後は不整脈のリスクについても、
同様に考えることが必要となるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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超加工食品の摂取と大腸癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
超加工食品と大腸癌リスク.jpg
British Medical Journal誌に2022年8月31日掲載された、
超加工食品と大腸癌リスクについての論文です。

超加工食品(ultra-processed foods)というのは、
2016年に国連の関連する食品についての会議で提唱されたもので、
食品をその加工の度合いによって、
4種類に分類するNOVA分類がその元になっています。

このNOVA分類では、
食品をその加工度によって、
第1群;加工されていないか、最小限しか加工されていない食品
第2群;加工された調味料
第3群;加工食品
第4群;超加工食品
の4つに分類しています。

第1群は果物や野菜や肉、豆は牛乳など、
その由来が見て分かるような食品のことです。
第2群は砂糖や塩などの加工された調味料です。
第3群は一定の加工をされた食品のことで、
たとえば缶詰の桃や自然の製法で作ったパンやチーズ、
ミックスナッツやミックスベジタブルなどがそれに当たります。

そして、第4群の超加工食品は、
通常5種類以上の食品が組み合わされ、
そこに複数の調味料などが加えられたものを意味しています。
こうした食品は他の群の食品では、
使用されないような添加物や化学物質が添加されることが通常です。

これは要するに、
僕達がお店などで手に入れることの出来る、
食事の材料となる食品の分類なのです。

たとえばラーメンを食べようと思った時に、
その材料として、
自然の岩塩などを調味料に使い、
自然の小麦や豚肉、野菜などを調達して、
それを組み合わせて調理すれば、
第1群のみを使用したことになりますし、
塩や砂糖などの調味料は市販の物を使うと、
第2群も使用したことになります。
袋詰めの麺を買い、
スーパーの焼き豚などを買って、
それを組み合わせてラーメンを作ると、
第3群も使用したことになり、
最初からカップ麺やインスタントラーメンを買って、
それを使用すると第4群を使ったことになるのです。

健康のためには、
極力超加工食品を減らそう、
というのがこの国連の会議の、
基本的な考え方です。
超加工食品は料理の手間を減らしてくれますから、
確かに便利ですが、
最初からパッケージ化されているので、
その成分を確認することは出来ませんし、
栄養バランスの調節も難しくなります。

添加物を全て危険視するような考え方にも問題はありますが、
人間の手間を省くために、
本来は必要のない物質を、
多く使用してそれを食べるということ自体が、
人間本来のあり方ではないことも、
また事実だと思います。

それでは実際に超加工食品を多く食べることで、
健康上の害はどの程度あるのでしょうか?

これまでに心血管疾患や糖尿病のリスクと、
超加工食品との間に一定の関連が示唆されるデータが報告されています。

癌に関しても関連があるとするデータもありますが、
今回の大腸癌については、
あまり明確な関連がこれまでに示されていませんでした。

今回の研究ではアメリカで医療従事者を対象とした、
3つの大規模疫学研究のデータを活用して、
超加工食品の摂取量と大腸癌リスクとの関連を検証しています。

トータルで32万人に近い人数を、
24から28年という長期間観察したところ、
観察期間中に3216件の大腸癌が診断されています。

ここで超加工食品の摂取量を5群に分け、
最も少ない群と比較すると最も多い群では、
男性でのみ大腸癌の発症リスクが29%(95%CI:1.08から1.53)、
有意に増加していました。
この大腸癌リスクの増加は女性では明確ではなく、
大腸癌を遠位部(下行結腸からS状結腸、直腸)とそれより口側に分けると、
遠位部でのみ72%(95%CI:1.24から2.32)有意な増加が認められました。

このように今回の大規模な検証では、
男性でのみ超加工食品と大腸癌との関連が認められ、
それは肛門に近い部位の大腸癌でのみ明らかでした。

今回の結果で、
大腸癌と超加工食品との間に明確な関係がある、
とまでは言い切れませんが、
これまでにも多くの病気との関連が指摘されていることを考えれば、
なるべくその使用を控えることは、
健康のために有益であると考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ジュラシックワールド.jpg
「ジュラシック・パーク」のシリーズ6作目で、
「ジュラシック・ワールド」3部作の完結編が、
今ロードショー公開されています。

もう終了の近いような雰囲気なので、
慌てて映画館に足を運びました。
通常スクリーンの吹き替え版での鑑賞です。

これはまあ、想定内という感じで、
今更遺伝子から再生された恐竜が出て来てもなあ、
という感じが抜けませんでした。
過去作の登場人物が出られる人は全員出る、
という感じなので、
祝祭的大団円という感じはあるのですが、
結局ラストは恐竜と人間とが上手く共存しましょう、
というだけのことですから、
怪獣映画のラストと一緒で、
まだまだ幾らでも続編は作れそうな感じです。
でも、また作ったところで然程ヒットはしないでしょうから、
これで打ち止めで良いのかなあ、という印象です。

僕はシリーズの6作のうち5作は映画館で観ています。
第1作は映画としてはそう大したことはなかったのですが、
CGで恐竜を再現するというのが、
当時としては画期的で、
そのころのCGというのは、
アニメの模造品程度の印象しかありませんでしたから、
それであのTレックスの完成度には、
文字通り観客は驚愕したのです。

2作目は前半が島で、後半が都会という、
「キング・コング」を意識した構成で、
ああ続編て、まあこんな感じね、
という印象しかありませんでした。
それで3作目は、もういいや、という感じでスキップしました。

新シリーズになった「ジュラシック・ワールド」は、
要するに第1作のリメイクに近いのですが、
技術は進歩していますし、3Dも全盛という感じの頃ですから、
イベント的な盛り上がりがありました。

次の「ジュラシック・ワールド 炎の王国」は、
個人的にはシリーズ一番のお気に入りで、
これ、前半は明らかに「怪獣総進撃」を意識していますよね。
怪獣島がおどろおどろしくて、
前半で派手に火山噴火で壊滅して、
後半は大富豪の屋敷での、
ゴシックホラーのRPGみたいな雰囲気になるんですね。
前半と後半をガラリと変えたのが成功で、
僕は両方の世界観が共に大好物だったので、
いいな、いいな、という感じで堪能しました。

今回は…

トータルには007みたいな感じなんですね。
巨大なバイオ企業が悪党で、
それと対決するお話になっていて、
狭い路地でのカーチェイスから、
世界を巡って後半はイタリアの秘密基地でしょ。
もろスパイアクションのパターンです。
そこに恐竜を絡めているんですが、
これだと恐竜が全くの添え物的扱いですよね。
目先を変えて失敗、という典型的なパターンなのですが、
じゃあ、どうすれば良かったのかと考えると、
正直やれることは皆やってしまって、
これしかやりようがなかった、
というのが実際ではなかったかと思います。

ただ、映像のクオリティは高いですし、
恐竜も「えっ、こんな大胆なフォルムの恐竜が本当にいたの?」
と驚くような新人がぞろぞろ登場しますし、
キャストも懐かしい顔ぶれが楽しそうに演じていますから、
過去作のファンであれば、
まずまず楽しめる内容には仕上がっていたと思います。

シリーズの過去作が好きな人のみお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ経口薬パキロビッドのオミクロン株への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パクスロビッドの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年8月24日ウェブ掲載された、
ファイザー社による経口新型コロナ治療薬、
パキロビッドのオミクロン株への有効性についての論文です。

パキロビッド(ニルマトレルビルとリトナビルの合剤)は、
日本でも緊急使用の対象として使用されている、
新型コロナウイルス感染症の経口治療薬で、
重症化リスクのある軽症から中等症の新型コロナ患者が、
症状出現後5日以内に内服することにより、
その重症化を予防するという効果の薬です。

その有効性のデータはデルタ株の流行時期に確認されていますが、
今のオミクロン株の流行に対して、
どの程度の有効性があるのかは、
まだデータが不足しています。

今回の研究ではイスラエルにおいて、
40歳以上でオミクロン株の流行期に、
新型コロナウイルスに感染し、
パキロビッドの適応を満たした109254名のうち、
実際に投与が施行された3902名のデータを解析しています。

その結果、
年齢が65歳以上の患者においては、
新型コロナウイルス感染症による入院のリスクが、
パキロビッドの使用により、
73%(95%CI:0.15から0.49)有意に低下していました。
新型コロナ感染による死亡のリスクについても、
79%(95%CI:0.05から0.82)有意な低下が認められました。

一方で年齢が40から64歳の患者においては、
入院のリスク、死亡リスクのいずれにおいても、
パキロビッド使用による有意な低下は認められませんでした。

このように、
65歳以上の年齢層においては、
かなり明確な重症化予防効果が、
オミクロン株流行期においても認められましたが、
若年層においては有効性は確認されませんでした。

こうしたデータを基にして、
今後この薬の適応については、
より詳細な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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