シェイクスピア「ヘンリー八世」(吉田鋼太郎演出2022年再演版) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
彩の国シェイクスピア・シリーズとして、
蜷川幸雄さんから演出を引き継いだ吉田鋼太郎さんが、
2020年に初演した「ヘンリー八世」が、
今彩の国さいたま芸術劇場で再演されています。
初演は一部公演中止となったため、
満を持しての再演となります。
この作品はヘンリー八世を中心とした英国宮廷の権力闘争を描いた、
シャイクスピアとしては歴史劇のジャンルに属するものですが、
かなり後期の作品であるにも関わらず、
あまりその描写の奥行は深いとは言えず、
単独執筆ではない可能性もある作品です。
史実を元にはしていますが、
結構自由自在に虚構を取り入れていて、
国王が腹黒い枢機卿の企みにより、
忠実な部下を殺し、自分を愛している王妃を追放する、
というのは「オセロ」のようですし、
その前半とシンメトリックに展開される後半では、
枢機卿は追放され、
誹謗された忠臣は王により救済されるという、
裏表の展開からハッピーエンドに至るのは、
「冬物語」などを想起させます。
ただ、内容的には有名な作品の方が明らかに、
その描写や凝集力において優れているので、
この作品がそれほど上演されないのは、
ある意味当然のようにも思われます。
ただ、それが分かるのもこうして上演されているからで、
演劇というのは戯曲を読んでも分からない点が多いので、
演劇ファンとしてはこうした上演も楽しいものなのです。
吉田鋼太郎さんの演出は、
以前は蜷川演出そのもの、
という感じが強かったのですが、
最近は少し傾向が変わって来ているように思います。
彩の国でのシェイクスピア・シリーズは、
もともと他の蜷川さんの仕事と比べると、
低予算の中でシンプルにまとめるという感じであったと思うのですが、
そのギリシャ悲劇的シンプルさが、
吉田さんの演出ではもう少しくだけた感じというか、
ややショーパブ的演出に感じる部分があって、
それが従来の演出と混在しているという印象があります。
コンセプトとしては、
正面にパイプオルガン的な装置があって、
そこでキーボードの生演奏で音効が奏でられ、
ラストは道化の指示によって観客は予め渡された小旗を振り、
その中を客席から全キャストが登場して、
大団円のフィナーレを行うという趣向になっています。
これはいずれも中世のお芝居の様式に適ったもので、
現代的に装飾はされているものの、
古典劇を現在に甦らそうとする意欲を感じます。
ただ、それ以外の部分に関しては、
やや薄っぺらい感じは否めませんでした。
キャストはタイトルロールの阿部寛さんが、
さすがの存在感で舞台を引き締め、
悪役を楽しそうに演じる吉田鋼太郎さんは、
座長芝居でかなりずるい感じはしますが、
本領発揮の楽しさがありました。
悲痛な王妃を演じた宮本裕子さんは今回のMVPで、
その演劇としてのクオリティを1ランク高めていました。
後半に登場する金子大地さんは、
さすが人気者という輝きがありました。
ただ、トータルにはがなる芝居や語尾の不明瞭な台詞が多く、
台詞劇としての明晰さには欠けていました。
これは蜷川演出でも見られた特徴です。
そんな訳でシェークスピア劇としての、
台詞劇の妙味には欠けていたものの、
トータルには楽しめる仕上がりで、
華のあるキャストの競演も楽しく、
納得の気分で劇場を後にすることが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
彩の国シェイクスピア・シリーズとして、
蜷川幸雄さんから演出を引き継いだ吉田鋼太郎さんが、
2020年に初演した「ヘンリー八世」が、
今彩の国さいたま芸術劇場で再演されています。
初演は一部公演中止となったため、
満を持しての再演となります。
この作品はヘンリー八世を中心とした英国宮廷の権力闘争を描いた、
シャイクスピアとしては歴史劇のジャンルに属するものですが、
かなり後期の作品であるにも関わらず、
あまりその描写の奥行は深いとは言えず、
単独執筆ではない可能性もある作品です。
史実を元にはしていますが、
結構自由自在に虚構を取り入れていて、
国王が腹黒い枢機卿の企みにより、
忠実な部下を殺し、自分を愛している王妃を追放する、
というのは「オセロ」のようですし、
その前半とシンメトリックに展開される後半では、
枢機卿は追放され、
誹謗された忠臣は王により救済されるという、
裏表の展開からハッピーエンドに至るのは、
「冬物語」などを想起させます。
ただ、内容的には有名な作品の方が明らかに、
その描写や凝集力において優れているので、
この作品がそれほど上演されないのは、
ある意味当然のようにも思われます。
ただ、それが分かるのもこうして上演されているからで、
演劇というのは戯曲を読んでも分からない点が多いので、
演劇ファンとしてはこうした上演も楽しいものなのです。
吉田鋼太郎さんの演出は、
以前は蜷川演出そのもの、
という感じが強かったのですが、
最近は少し傾向が変わって来ているように思います。
彩の国でのシェイクスピア・シリーズは、
もともと他の蜷川さんの仕事と比べると、
低予算の中でシンプルにまとめるという感じであったと思うのですが、
そのギリシャ悲劇的シンプルさが、
吉田さんの演出ではもう少しくだけた感じというか、
ややショーパブ的演出に感じる部分があって、
それが従来の演出と混在しているという印象があります。
コンセプトとしては、
正面にパイプオルガン的な装置があって、
そこでキーボードの生演奏で音効が奏でられ、
ラストは道化の指示によって観客は予め渡された小旗を振り、
その中を客席から全キャストが登場して、
大団円のフィナーレを行うという趣向になっています。
これはいずれも中世のお芝居の様式に適ったもので、
現代的に装飾はされているものの、
古典劇を現在に甦らそうとする意欲を感じます。
ただ、それ以外の部分に関しては、
やや薄っぺらい感じは否めませんでした。
キャストはタイトルロールの阿部寛さんが、
さすがの存在感で舞台を引き締め、
悪役を楽しそうに演じる吉田鋼太郎さんは、
座長芝居でかなりずるい感じはしますが、
本領発揮の楽しさがありました。
悲痛な王妃を演じた宮本裕子さんは今回のMVPで、
その演劇としてのクオリティを1ランク高めていました。
後半に登場する金子大地さんは、
さすが人気者という輝きがありました。
ただ、トータルにはがなる芝居や語尾の不明瞭な台詞が多く、
台詞劇としての明晰さには欠けていました。
これは蜷川演出でも見られた特徴です。
そんな訳でシェークスピア劇としての、
台詞劇の妙味には欠けていたものの、
トータルには楽しめる仕上がりで、
華のあるキャストの競演も楽しく、
納得の気分で劇場を後にすることが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2022-09-18 11:06
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