SSブログ

SGLT2阻害剤2剤の直接比較臨床試験(2019年韓国のデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病治療4種併用療法の効果.jpg
2019年のDiabetes Research and Clinical Practice誌に掲載された、
2種類のメカニズムは同じ糖尿病治療薬を、
通常治療への上乗せで直接比較した臨床試験の論文です。

2型糖尿病の飲み薬としては、
メトホルミンが世界的に第一選択薬ですが、
その単独の治療で十分な血糖コントロールが達成されない場合には、
DPP4阻害剤やピオグリタゾン、
SGLT2阻害剤やSU剤などの単独もしくは組み合わせての上乗せが、
治療として考慮されます。

現実的にはこのうちの3剤以上の併用も、
決して稀なことではありません。

これらの薬剤のうち、
現時点で最も新しいのは、
尿へのブドウ糖の排泄を促進する作用を持つ、
SGLT2阻害剤で、
最近血糖値を低下させるばかりではなく、
心血管疾患のリスクの低下や、
生命予後の改善に関する有効性を示すデータが、
複数報告されて非常に注目を集めています。

SGLT2阻害剤には多くの薬剤が存在していますが、
その全てが同じような有効性を確認されている、
という訳ではありません。

最も信頼のおけるデータがあるのは、
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)で、
次にデータが多いのがカナグリフロジン(商品名カナグル)ですが、
こちらは糖尿病性壊疽が治療群でより多かった、
というような安全上の危惧を感じさせる報告もあります。
ダパグリフロジン(商品名フォシーガ)も広く使用されている薬ですが、
その心血管疾患の予後改善効果は、
今のところ心血管疾患の既往があるような集団でのみ確認されています。

今回の韓国での臨床研究は、
メトホルミンとSU剤、DPP4阻害剤を充分量投与していても、
血糖コントロールが不良である2型糖尿病の患者さんに対して、
エンパグリフロジンもしくはダパグリフロジンを上乗せで使用して、
その安全性と有効性とを直接比較したものです。

SGLT2の複数の薬剤を、
通常の臨床と同じような条件で、
直接的に比較したような試験はこれまでにあまりなく、
偽薬を使うような厳密な方法の研究ではないので、
その信頼性はそれほど高いものではありませんが、
日本の臨床とかなり似通った条件での検証であるので、
臨床医としては興味深い研究です。

対象は18歳から80歳の2型糖尿病の患者さんで、
メトホルミンを1日2000ミリグラム、
DPP4阻害剤をその薬の上限量、
SU剤のグリメピリドを1日8ミリグラム、
の3剤併用療法を行っていても、
HbA1cが7.5%以上(12.0%未満)とコントロール不良である350名で、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はエンパグリフロジンを1日25ミリグラム、
他方はダパグリフロジンを1日10ミリグラムという上限量で使用して、
52週間の治療を継続してその効果を比較しています。

これは他の薬剤は日本の使用量とほぼ同じですが、
グリメピリドの1日8ミリというのはかなり多い量で、
現状日本の臨床で、ここまでSU剤を増量することは、
稀だと思います。
添付文書の上限量は6ミリですが、
1から2ミリ程度までにとどめるのが、
少なくとも長期的には一般的な考えであると思います。

その結果、
両群でHbA1c、空腹時血糖は、
共に有意に低下していましたが、
その低下幅はエンパグリフロジンがダパグリフロジンを、
有意に上回っていました。
両群の有害事象には明確な差はなく、
体重や血圧の減少効果も同等でした。

このように今回の検証では、
ダパグリフロジンと比較して、
エンパグリフロジンの有効性がほぼ確認されていて、
この結果は日常臨床における薬剤選択においても、
有益な情報を与えてくれるもののように思います。

今のところSGLT2阻害剤の第一選択は、
ほぼエンパグリフロジンと考えて大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(8)  コメント(2) 

「コンフィデンスマンJP」(2019年ロマンス編映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプトの事務作業でクリニックに缶詰めです。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
コンフィデンスマン.jpg
古沢良太さんの技巧的な脚本で、
本格的なコン・ゲームドラマであった「コンフィデンスマンJP」が、
映画版となって今公開されています。

テレビドラマの映画化というのは、
正直あまり好きではないのですが、
最近朝の時間しか映画を観る時間が取れず、
朝の8時くらいからやっている映画を探すと、
こうしたラインナップになってしまいます。
単館上映などは11時くらいからしか始まらないですよね。

欲求不満の今日この頃です。

ただ、古沢さんの台本は、
舞台も悪くありませんでしたし、
トリッキーでひねりがあるので面白く、
このドラマも後半はかなり予定調和で失速する感じがありましたが、
前半はなかなか面白かったと思います。

今回の映画版は、
まあドラマと同じなのですが、
香港を舞台にして現地ロケも交え、
スケール感はアップしているのと、
それほど意外な展開という訳でもないのですが、
2段にひねりを加えていて、
最初に観客が感じる違和感
(ちょっとこれ無理があるんじゃないの?)
という思いを、
逆手に取った仕掛けがなかなかクレヴァ―だったと思います。

ただ、ちょっと予定調和ではありましたね。

続編の製作も決まったようですし、
次回はもっと掟破りの壮大なほら話を、
期待したいと思います。

「スティング」みたいな映画が好きな方には、
そこそこのお薦めです。
意外に良く考えられていて、
爽快感がありますし、
嫌な後味がありません。

キャストは江口洋介さんが素晴らしくて、
あれはもろ「スティング」のロバート・ショウなのですが、
こういう役が嫌味なく板について来て、
今円熟期という感じですね。
愛嬌のある悪党をすっきりと演じられるのは、
彼ならではと思います。
三浦春馬さんは、うーん、こういう役が、
はまるようになりましたね。
後このシリーズの東出昌大さんは、
他の芝居と全然違いますね。
とても自然で良いのです。

そんな訳でお暇な時間をつぶしたいという向きには、
悪くない選択肢で、
誰でも楽しめる1本には、
仕上がっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごしください。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

唐組「ジャガーの眼」(2019年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ジャガーの眼2019.jpg
唐組の第63回公演として、
「ジャガーの眼」が再演されています。
東京公演は明日が千秋楽ですね。

この芝居は唐組としても、
「秘密の花園」と並んで最も再演頻度の高い作品です。

初演は状況劇場の終わり頃の1985年で、
若手の女優さんがヒロインを演じ、
本公演で李礼仙が出演しないという異例の公演でした。

唐組結成間もない1989年に再演(唐組として初演)され、
1995年には「サラマンダ直し版」として、
人形のサラマンダの部分を少し膨らませて台詞を増やした、
別バージョンが再演されました。
更にこのバージョンが1997年に再演されています。
2008年には唐先生が闇坂という、
別のキャラを演じる別バージョンとしてまた再演。
この2008年版は2015年に木野花の演出で「日本の30代」
という企画公演もありました。
それから僕は観ていませんが、
新宿梁山泊も別個にテント公演で上演しています。

このように多くのバージョンの混在するこの作品ですが、
今回は唐十郎+久保井研の演出として、
初演の台本通りの再演になっています。

これは絶対初演のままがいいですよ。

今回の上演は僕の観た中では、
これまでのベスト3のうちには間違いなく入る舞台で、
久保井さんの緻密で唐先生愛に満ちた演出により、
この作品の真価が感じられる舞台に仕上がっていました。

初演はテントも今より大きかったですし、
ラストの屋台崩しも大仕掛けで、
リアルな路地が全て崩れ落ち、
トラックも登場していました。

その点ではそれ以降の全ての再演は、
スケールの面では物足りなさは否めないのですが、
今回の上演は群衆シーンにもそれなりの人数が用意されていて、
まずまずの迫力がありましたし、
セットも3幕の標本室については、
これまでの上演の中で最も良く出来ていました。

キャストはヒロインのくるみに、
ベテランの藤井由紀さんがキャスティングされていて、
最初に男装の麗人として登場し、
2幕には女性の姿で婚約者のある男性を強引に誘惑する、
という2面性を巧みに演じていて新鮮でした。
これまでくるみを上演していた女優さんは、
皆若く元気で一本調子な役作りであったので、
これはそうした役なのかしらと思っていたのですが、
決してそうではなく、
むしろ李礼仙が演じるのが相応しいように、
実際には描かれていたことが分かりました。
今回はラストに男装の麗人に戻り、
それまでとは違う声色で叫ぶところが、
とても新鮮であるとともに、
「あっ、この台詞はこれが正解だよね」
と初めてそう感じました。

この作品には扉探偵とDr弁という、
魅力的な悪役が2人登場しますが、
今回は扉に300時代から活躍している内野智さんが、
Dr弁には最近進境著しい全原徳和さんがキャスティングされています。

内野さんはこうした役柄は合っていて、
その役作りにもこれまでとは違う工夫が見られました。
ただ、ちょっとパワー不足で、
台詞を言うのが精一杯で息切れするような場面が多くありました。
こうした役柄には、
矢張りもう少し若いパワーと体力と肺活量とが、
必要であるようです。

全原さんはこれまでとは違う、
グランギニョール風の役作りで、
初演の金守珍のイメージが強いこの役の、
新しい解釈を感じさせました。
個人的には金守珍の10倍くらい全原さんの方が好きです。
ただ、もっと大暴れして欲しいですね。
やや控えめな芝居で、
雰囲気はあるのに物足りなさは残りました。

今回抜群であったのは、
少年役をフレッシュに演じた大鶴美仁音さんと、
サラマンダを絢爛豪華に演じた月船さららさんで、
このお2人については、
これまでのこの作品の上演史において、
間違いなく最高だったと断言出来ます。

美仁音さんは「吸血姫」を観てしまうと、
今回もヒロインなのかしらと予想していたのですが、
蓋を開けてみると少年役を、
これ以上ないくらい爽やかかつ繊細に演じきっていて、
自然体で演じているようで、
誰の真似にもなっていない、
という辺りが凄いと思います。

月船さららさんは、
昨年の「黄金バット」も最高で、
こうした唐先生の芝居のダークな女性を演じさせると、
ピカイチという感じがあります。
状況劇場から唐組を通じて、
こうした役柄を魅力的に演じることの出来た女優さんは、
これまでほぼ皆無と言って良く、
初演を含めて初めて、
サラマンダという役柄はその本来の姿を、
舞台上に出現させた、と言って良いと思います。

藤井由紀さんも今回は息切れしていて、
台詞がきつそうでしたね。
そこはちょっと残念。
後、サラマンダの吹き替えの人形は、
もっとリアルであると良かったですね。

そうした少しの瑕はありますが、
この作品の素晴らしさを十全に感じさせる素晴らしい上演で、
小劇場ファンには必見と言って良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(3) 

糖尿病のレガシー効果は本当か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
レガシー効果.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
血糖コントロールの「レガシー効果」を検証した論文です。

レガシー効果(Legacy Effects)というのは、
この場合糖尿病のコントロールをある時期厳密に行うと、
その影響がコントロールを緩めても長期間持続する、
という現象のことです。

血糖値をたとえば5年間、
徹底して薬剤や生活指導でコントロールして、
糖尿病のない人と同じ状態にしておくと、
その後の血糖値はより上昇しても、
そうした厳密なコントロールの期間のない患者さんと比較して、
心血管疾患のリスクや生命予後にも良い影響が持続する、
という現象です。

この糖尿病の領域におけるレガシー効果が、
実際にあるのかどうか、という点については、
まだ結論が出ていません。

何度か今までにも紹介していますが、
血糖コントロールをより厳しくして、
理想的にはほぼ正常の血糖値を実現すれば、
糖尿病の長期合併症として最も問題となる、
心血管疾患のリスクが糖尿病のない人と同じかそれに近くなるのでは、
という考え方があり、
それに基づいて通常の血糖コントロール(概ねHbA1cを7.5%以下にするのが目標)と、
より厳密な血糖コントロール(HbA1cを6%未満にすることを目標)と比較する、
大規模臨床試験が複数実施されました。

しかし、ほぼ全ての試験において、
厳密なコントロールを行なっても、
通常の治療と比較して、
心血管疾患のリスクや生命予後に、
明らかな改善は認められませんでした。
むしろ、生命予後は悪化する、
というような結果すらあったのです。

この原因は全て明らかになっているという訳ではありませんが、
人為的に血糖を下げることによる、
低血糖の発生などの影響があると想定されています。

ただ、その一部の臨床試験の追跡調査において、
厳密な治療を行なった期間には差がつかなかったものの、
治療後の追跡期間においては、
厳密にコントロールした方が予後が良かった、
という結果が報告されたのです。

これは厳密なコントロールを一定期間行ったことによる、
血管などへの良い影響が、
その後の血糖は上昇しても、
遺産(レガシー)のように残っている、
という可能性を示唆するものです。

たとえば、1型糖尿病の患者さんを対象とした、
DCCTと呼ばれる大規模臨床試験の追跡結果では、
厳密なコントロール期間の終了後に、
心血管疾患のリスクに差が付いています。

また、新たに2型糖尿病と診断された患者さんを対象とした、
UKPDSというイギリスの大規模臨床試験の追跡結果では、
こちらも心血管疾患リスクと生命予後に、
厳密なコントロールは終了した時期において、
有意な差が見られています。

その一方でACCORD試験やADVANCE試験という、
比較的重症で高齢の患者さんを対象とした同様の臨床試験においては、
このレガシー効果は認められていません。

今回の研究は、
アメリカの退役軍人の2型糖尿病の患者さん1791名を対象として、
通常の血糖コントロールと厳密なコントロールの効果を、
中間値で5.6年の治療期間で比較した、
VADTと呼ばれる臨床試験の追跡調査の結果をまとめたものです。

この試験はその診断から平均で11.5年が経過した、
比較的高齢で罹病期間の長い患者さんを対象している点がその特徴です。

治療強化期間においては、
矢張り治療を厳密にしても予後には差がなかったのですが、
10年(治療強化期間を含む)の追跡調査の結果では、
強化治療群で約17%、
通常治療群より心血管疾患リスクの低下が認められました。

つまり、レガシー効果の可能性が期待されたのです。

今回の検証はより長期、15年の観察期間での結果をまとめたものです。

その結果、
15年の観察期間においては、
心血管疾患のリスクや死亡リスクにおいて、
強化コントロールと通常コントロールとの間で、
有意な差は認められませんでした。

つまり、レガシー効果は今回は否定されたのです。

どうやら、
糖尿病になってまだ間もない時期においては、
HbA1cを6%未満にするような強化コントロールを、
一定期間続けることにより、
より高齢になってコントロールを緩めても、
その影響は持続する可能性が高いのですが、
罹病期間が長く心血管疾患を発症しているようなケースでは、
むしろ血糖コントロール自体は緩めて、
血圧や脂質、禁煙など、
他の心血管疾患の予防策に軸足を移した方が、
効果が見込める可能性が高いようです。

若年の糖尿病の患者さんには極力厳密なコントロール、
高齢になったら、むしろ低血糖に気を付けてコントロールを緩め、
心血管疾患のリスクを低下させるという報告のある、
GLP1アナログやSGLT2阻害剤の使用に力点を置くことが、
現状はベターな選択と言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

超加工食品の心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スーパー加工食品の心血管疾患リスク.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
超加工食品の心血管疾患リスクについての論文です。

以前にもご紹介したことがありますが、
超加工食品(ultra-processed foods)というのは、
一般にはまだ耳慣れない言葉かと思います。
これは2016年に国連の関連する食品についての会議で提唱されたもので、
食品をその加工の度合いによって、
4種類に分類するNOVA分類がその元になっています。

このNOVA分類では、
食品をその加工度によって、
第1群;加工されていないか、最小限しか加工されていない食品
第2群;加工された調味料
第3群;加工食品
第4群;超加工食品
の4つに分類しています。

第1群は果物や野菜や肉、豆は牛乳など、
その由来が見て分かるような食品のことです。
第2群は砂糖や塩などの加工された調味料です。
第3群は一定の加工をされた食品のことで、
たとえば缶詰の桃や自然の製法で作ったパンやチーズ、
ミックスナッツやミックスベジタブルなどがそれに当たります。

そして、第4群の超加工食品は、
通常5種類以上の食品が組み合わされ、
そこに複数の調味料などが加えられたものを意味しています。
こうした食品は他の群の食品では、
使用されないような添加物や化学物質が添加されることが通常です。

これは要するに、
僕達がお店などで手に入れることの出来る、
食事の材料となる食品の分類なのです。

たとえばラーメンを食べようと思った時に、
その材料として、
自然の岩塩などを調味料に使い、
自然の小麦や豚肉、野菜などを調達して、
それを組み合わせて調理すれば、
第1群のみを使用したことになりますし、
塩や砂糖などの調味料は市販の物を使うと、
第2群も使用したことになります。
袋詰めの麺を買い、
スーパーの焼き豚などを買って、
それを組み合わせてラーメンを作ると、
第3群も使用したことになり、
最初からカップ麺やインスタントラーメンを買って、
それを使用すると第4群を使ったことになるのです。

健康のためには、
極力超加工食品を減らそう、
というのがこの国連の会議の、
基本的な考え方です。
超加工食品は料理の手間を減らしてくれますから、
確かに便利ですが、
最初からパッケージ化されているので、
その成分を確認することは出来ませんし、
栄養バランスの調節も難しくなります。

添加物を全て危険視するような考え方にも問題はありますが、
人間の手間を省くために、
本来は必要のない物質を、
多く使用してそれを食べるということ自体が、
人間本来のあり方ではないことも、
また事実だと思います。

それでは実際に超加工食品を多く食べることで、
健康上の害はどの程度あるのでしょうか?

2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
10万人以上の住民の栄養調査の結果と、
その後の癌の発症との関連を検証したフランスの疫学データでは、
トータルな癌と乳癌の発症リスクは、
超加工食品の摂取量が10%増加すると、
概ね10%有意に増加することが確認されました。
大腸癌と前立腺癌については、
同様の関連は認められませんでした。

今回の研究は同じ疫学データを元にして、
今度は超加工食品の摂取と、
心血管疾患のリスクとの関連を検証したものです。

その結果、
105159名を中間値で5.2年観察したところ、
食品中の超加工食品が10%増加すると、
心血管疾患のリスクは12%(95%CI: 1.05から1.20)
有意に増加していました。
食品の中では特に塩辛いスナック菓子が、
1日100グラム余計に摂取することで、
そのリスクが2.03倍(203%)という最も大きな増加を示していました。

このように含まれている栄養素は、
そう大きく変化していなくても、
超加工食品を摂取することにより、
癌に加えて心血管疾患のリスクも明確に増加しており、
今後その比率を下げるための施策が、
色々な分野で問題となることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

第44回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
第44回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
6月15日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。
都合により第4週土曜日の開催となります。

今回のテーマは「生活習慣病と検査所見」です。

最近生活習慣病でもある高血圧症と脂質異常症のガイドラインが、
改訂となりました。

高血圧症については、
ブログでも何度かご紹介しているように、
目標とする血圧値はなるべく下げた方が良い、
という考え方が世界的には強くなり、
それに沿う形で日本でもガイドラインが改訂されています。

脂質異常症については、
特に一次予防(まだ病気を起こす前の予防)としての投薬の適応が、
世界的にも議論となっていて、
一定の結論に至っていません。

今回の健康教室では、
こうしたガイドラインの読み方や、
一般の方に分かりにくい検査結果の読み方など、
病気の検査の理解の入り口の部分について、
まとめておきたいと思っています。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
6月13日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

ミネラルを含む飲み水が血圧に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バングラデシュのミネラル濃度と高血圧.jpg
2019年のJournal of the American Heart Association誌に掲載された、
飲料水のミネラル濃度が血圧に与える影響についての論文です。

海から近い地域の地下水には、
塩分やカリウム、
マグネシウムなどのミネラルが多く含まれていて、
そうした地域の飲料水にも、
内陸部の飲料水と比較すると多くのミネラルが含まれています。

こうした飲料水のミネラル分は、
住民の健康にどのような影響を与えるのでしょうか?

相反する2つの見解があります。

ミネラルを多く含む飲料水には、
塩分が多く含まれているので、
それで血圧が上昇するというリスクが考えられます。

その一方で、同時に含まれているカリウムやカルシウム、
マグネシウムなどのミネラル分には、
むしろナトリウムの排泄を促して、
血圧の低下に繋がるという可能性も考えられます。

一体どちらが正しいのでしょうか?

今回の研究はバングラデシュにおいて、
6487名の住民の血圧の数値と、
季節や地域により変動する飲み水のミネラル濃度との、
関連性を検証したものです。

その結果、
特にカルシウムとマグネシウムを多く含む飲み水を使用している地域では、
よりミネラル濃度の低い地域と比較して、
血圧値は有意に低く、
高血圧の発症リスクも有意に低下していました。

ミネラル分の多い飲み水は、
塩分も多いのですが、
カルシウムやマグネシウムの多いことが、
どうやら塩分の作用を相殺して、
血圧にはむしろ良い影響を与えるものであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0) 

塩分摂取量と肥満との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
塩分と肥満.jpg
2019年のthe American Journal of Clinical Nutrition誌にウェブ掲載された、
塩分の摂取量と肥満との関連についての論文です。

塩分の摂取量が多いと、
血圧が上昇し易くなり、
心血管疾患のリスクを増加させることは、
その程度や摂取量はともかくとして、
大筋ではほぼ確立した事実です。

最近幾つかの報告で、
塩分の摂取量と肥満や過体重との間に、
関連があるのではないかという知見が得られています。

糖質や脂質、総カロリーが多いと、
肥満に結び付くということは常識的に想定されますが、
塩辛いものを食べるだけで、
カロリーは変わらなくても太りやすくなるというのは、
にわかに納得はいかない感じがします。

結局カロリーが多かっただけの話ではないでしょうか?

これまでの研究では、
塩分摂取量を推測する方法が、
食事のアンケートだけであったり、
1回のみの尿のナトリウム濃度測定であったりしているので、
本当の日々の塩分の摂取量が、
反映されているないという可能性が高かったのです。

そこで今回の研究では、
日本、中国、イギリス、アメリカの4か国で行われた、
高血圧と食事との関連を検証する国際的な疫学研究のデータを活用して、
時期をおいて2回測定された尿中ナトリウム濃度と、
肥満との関連を検証しています。

対象者は登録時に40から59歳の、
日本が1145名、中国が839名、イギリスが501名、アメリカが2195名、
トータル4680名の一般住民です。

摂取カロリーなどを補正した結果として、
尿中ナトリウムから推測した塩分摂取量が、
1日当たり1グラム多いと、
体格の指標であるBMIは、
日本で0.28、中国で0.10、イギリスで0.42、アメリカで0.52、
それぞれ有意に増加していました。
また同様に塩分摂取量が1日1グラム多いことにより、
過体重と肥満になるリスクは、
日本で21%、中国で4%、イギリスで29%、アメリカで24%、
それぞれ有意に増加していました。

要するに人種差や地域差はおそらくあるものの、
塩分の摂取量が多いほど、
過体重や肥満が多いことはほぼ一致した傾向が認められたのです。

それでは、
何故塩分を摂ると肥満になるのでしょうか?

塩辛いものが好きな人はカロリーも多くなりやすい、
というのがシンプルな推論です。

勿論データとしてはカロリーの違いを補正しているのですが、
総カロリーは食事調査を元にして算出しているので、
それほど正確ではない可能性があるからです。

ただ、近年ネズミの実験などで示された知見として、
塩分摂取量を多くすると果糖の分解が抑制されて果糖が増え、
それが脂肪の蓄積を促進するというものがあります。
また、脂肪細胞のインスリン感受性を高め、
それにより脂肪細胞の肥大化を招く、
というような報告もあります。

今回の4か国調査では、
中国だけが塩分摂取量と肥満との関連が薄いのですが、
その理由は良く分かりません。

いずれにしても塩分摂取量と肥満との間に、
カロリーに関わらない関連があるかも知れない、
という今回の知見は非常に興味深く、
今後の研究の進捗を見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(8)  コメント(0) 

文楽「妹背山婦女庭訓」(2019年通し上演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
妹背山.jpg
国立劇場の文楽公演で、
大作の「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」が、
15年ぶりに通し上演されました。

最近文楽を観ていないのですが、
これだけは観なければ、と、
昼夜に日を分けて足を運びました。
午前の部が午前10時半から午後3時、
午後の分が午後3時45分から午後9時、
という長丁場です。

この作品はトリッキーで重層的な作風で、
円熟期の人形浄瑠璃を代表する作家の1人である、
近松半二の代表作で、
ほぼ完全な形の通し上演が今行われている、
数少ない文楽作品の1つです。

歌舞伎では何度か観ているのですが、
文楽ではこれまで観る機会を逸していて、
今回は楽しみにして出掛けました。

何と言っても三段目の妹山脊山の段が、
中央に吉野川を挟んで、
両側に2つの敵対する家を配置し、
語りと三味線も両側に分かれて掛け合いをするという、
現行文楽において最大のスケールと言って良い、
豪華絢爛壮絶戦慄の大傑作で、
前半は芝六住家を除けば、
ほぼこの場のための前置きと言って良い構成です。

人形も太夫も三味線も、
この場面にエース級が投入されていて、
後半両側の家を隔てていた襖が落ち、
悲劇が露わになる瞬間の戦慄は、
間違いなく文楽の素晴らしさを代表する一瞬でもあります。

ただ、太夫の力量によってその場面の凝集力にかなりの差があるのが、
文楽の特徴でもあり弱点でもあって、
残念に思う場面もありました。

正直20年くらい前と比較すると、
名人上手も少なくなって、
やや薄味にも感じる文楽ですが、
今回は久しぶりにその世界の豊穣さに触れる思いがしましたし、
時間的にはなかなか足を運べないのですが、
またそう遠くない時に鑑賞したいと改めて思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

「貞子」(2019年公開版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
貞子.jpg
日本のホラーの歴史を塗り替えた傑作「リング」の、
20年ぶりの正統的な続編として、
中田秀夫監督による「貞子」が今公開されています。

「リング」は原作ものの映画ですが、
テレビから飛び出す貞子というのは映画の創作で、
これが予想外の人気となったので、
元々「リング」は続編の「らせん」と同時に公開され、
原作に近い黙示録的世界が描かれていたのですが、
翌年に貞子をフィーチャーした「リング2」という、
オリジナルの2作目に繋がったのです。
「リング」の続編は原作に近い「らせん」と、
原作とは無関係の「リング2」があって、
お互いにパラレルワールドのように別々の世界観という、
おかしなことになったのです。

その後の関連作は、
この「リング2」を起点として創作されています。

「女優霊」と「リング」を観ると、
中田秀夫監督はホラーの天才ではないかしら、
というように思えるのですが、
「リング2」はそれほど怖くもなく、冴えているようなところもなく、
既に「おやおや」というような感じがありました。

その後の「仄暗き水の底から」というのも、
「怖くしよう、怖くしよう」という感じが空回りしていて、
あまり怖くも面白くもなく、
「こいつ、ひょっとしたらダメなんじゃないか」と思いました。
決定的だったのは、「劇場霊」という、
とんでもない駄作を見たことで、
その演出の素人以下の凡庸さには、
呆然とするしかなかったのです。

中田監督の今回の続編は、
そんな訳であまり期待は出来ないな、
と思いながらも、
そうは言っても「リング」の正統的続編として、
監督だって意地があるのではないかしら、
と期待も少し持ちながら、
無理をして夜中のMX4Dでの公開に足を運びました。

観た感想としては、
まあ大したことはなかったのですが、
予想していたほど酷くはなかったという印象でした。

これね、冒険は何もしていないのです。
極めて保守的で、テレビから出て来る貞子とか、
驚愕の表情で死ぬ女性とか、映像に映り込むサブリミナルの髑髏とか、
過去作のアレンジを露骨にやっています。
映像もそれらしい質感にしていて、
もう呪いのビデオでは通用しないので、
You tubeを持って来ているのですが、
そこからの新しい展開みたいなものはないのです。
最後も極めて予定調和的に終わります。

貞子は…もうちっとも怖くはないですね。
監督自身もう貞子を怖がろうという気持ちはないようで、
そのハリボテ感はかなり辛いところです。

唯一「リング」「リング2」に出演している佐藤仁美さんが、
もう少し怪演してくれるかと期待したのですが、
あまりそうした感じではなかったですね。
これも残念です。

そんな訳でかなりガッカリではあったのですが、
こうした物が好きではあるので、
大きなスクリーンで動く椅子でホラーを観られたことは、
それだけで満足ではあったのです。

マニアのみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0)