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「RRR」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
RRR.jpg
昨年からロングラン公開されている、
インド映画のヒット作を遅ればせながら観て来ました。

インド映画は30年くらい前、
友達と2人でインド旅行をした時に、
ベラナシの映画館で一度観たのですが、
恋愛映画でダンスシーンなどはありませんでした。

3時間を超える長さで、1時間半くらいのところで、
一度休憩が入るのが定番なんですよね。
そこで子供の売り子さんが、
お菓子や飲み物を売りに来るのです。
通ぶって頼んでみたのですが、
言葉が良く分からず、
売り子さんも困っていたのを覚えています。

ただ、当時のインドのテレビは、
映画のダンスシーンがひたすら流れていました。

同じ監督のバーフバリは観たのですが、
あまりにCGが多用されていて、
ちょっと違和感がありました。
インド映画はもっと肉弾戦で生々しい方がいいな、
というように思ったのです。

今回の「RRR」は、
勿論今時なのでCGは多用しているのですが、
結構エキストラやセットを大掛かりに用意して、
今のハリウッド製よりスペクタクルの魅力があります。

舞台は1920年イギリス植民地下のインドに設定され、
インド人の警察官と、
イギリス人の悪党に攫われた妹を奪取しようとする、
インド人の青年の2人の友情と闘争が、
まさに血沸き肉躍るという感じで展開されます。

これ、基本的には白人は、
1人の女性を除いて全て悪者なんですね。
植民地時代のイギリスが血も涙もない悪役にされ、
主人公達がイギリス人に酷い目に遭い、
クライマックスではそんな白人を殺しまくるのが見せ場、
という映画です。

最後にはイギリスの国旗とスローガンに、
血しぶきが掛かるようなカットさえあります。
エンドクレジットではインドの国旗を振り回して、
インド建国の英雄を湛えるようなダンスが続きますし、
ここまで徹底したナショナリズム映画とは、
ちょっと予想をしていなかったので驚きました。

これが今のインドの勢いというか、
イケイケのテンションなのかも知れません。

凄いことは確かに凄いのですが、
悪役は白人ではなく、
現実にはいない怪物や悪魔の方が、
個人的には落ち着いて鑑賞出来るのに、
というようには感じました。

こうした映画はまあ世界中にあって、
それが娯楽として成立しているので、
別に文句を言うような筋合いはないのですが、
イギリス統治下のインドと言うと、
クリスティーなど多くのミステリーはその時代が同時代ですし、
「インドへの道」など名作もありますから、
実際のイギリスの統治というか支配というか、
どのような性質のものであったのか、
そんなことを観ながら途中からは考えてしまいました。

そんな訳で大興奮という感じではなかったのですが、
今のインド映画の勢いを感じさせる壮大な娯楽作で、
観て良かったと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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超音波腎デナベーション治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などで都内を廻ります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腎デナベーションの有効性.jpg
JAMA誌に2023年2月28日付で掲載された、
治療抵抗性高血圧に対するカテーテル治療の有効性についての論文です。

高血圧の治療と言うと、
一般に思い浮かべるのは、
降圧剤と呼ばれる薬を飲むことによる薬物治療です。

原発性アルドステロン症など、
ホルモンの病気によって起こるような高血圧があり、
手術治療によって治癒する、というケースもありますが、
多くの高血圧は「本態性高血圧」と言って、
明確な単独の原因は不明なので、
完全に治すという治療はなく、
血圧が高いことによる弊害を予防するために、
薬を飲み続けて血圧をコントロールする治療が、
多くの場合は選択されています。

しかし、
多くの患者さんにとって、
薬を飲み続けお医者さんに通い続けるというのは苦痛ですから、
仮に1回の治療によって高血圧が治癒し、
その後は薬を飲む必要もなく、
お医者さんに掛かる必要のなくなるとすれば、
それに越したことはありません。

2009年のNew England…誌に、
7種類の降圧剤を使用していても、
血圧が167/107と高いままであった患者さんに対して、
腎動脈デナベーションという治療を行なったところ、
血圧が127/81まで改善した、
とする報告が発表されました。

腎動脈デナベーションというのは、
本態性高血圧が生じるメカニズムの1つとして、
全身の交感神経の緊張状態があるとの考えに基づき、
その悪循環を断つために、
腎臓周囲の交感神経を遮断する、
という治療のことです。

具体的には、
血管造影などと同じ手技で、
太腿の動脈からカテーテルを挿入し、
その先端を腎臓を栄養する動脈に進め、
電極カテーテルで通電して、
両側の腎動脈の交感神経を焼却して遮断します。

メドトロニック社という医療メーカーが、
その専用の器具を開発し、
3種類以上の降圧剤を使用しても、
収縮期の血圧が160mmHg以上より下がらない、
高血圧の患者さん153名を対象として、
腎動脈デナベーションを行ない、
その1年後までの経過を観察した文献が、
2009年のLancet誌に掲載されました。
患者さんはアメリカとヨーロッパの専門施設でエントリーされています。
腎動脈デナベーション治療の実用化に向けて、
本格的な臨床試験が始まったのです。
これをSYPRLICITY試験と呼んでいます。

この文献においては、
腎動脈デナベーションは安全に施行され、
施行後1カ月から有意に血圧は低下し、
1年後にもその効果は持続していた、
とされています。
ただ、この試験はデナベーション治療を施行した患者さんの、
治療前後の状態を比較しているだけで、
施行しないコントロールの患者さんとの比較はされていません。

これがSYMPLICITY HTN-1試験です。

その後2014年になって術後3年間の経過観察の結果が、
同じLancet誌に掲載され、
ほぼ同じ血圧の低下が、
3年間持続することが確認されました。

それに前後する形で今度は、
100名ほどの患者さんを、
この治療を行なう群と行なわない群とに分けて、
その後の血圧の経過を見る試験が行なわれ、
その結果は2010年の同じLancet誌に掲載されました。

施行後半年の時点で、
デナベーション治療を受けた患者さんでは、
収縮期の血圧が平均で32低下し、
拡張期は平均で20低下しましたが、
未施行の患者さんでは血圧は低下しませんでした。

つまり、コントロールとの比較においても、
腎動脈デナベーション治療は半年の観察期間においては、
その有効性が確認されたのです。

これがSYMPLICITY HTN-2試験です。

ただ、デナベーション治療はカテーテル治療ですから、
それをやったかやらないかは、
当然患者さんには分かっています。

つまり、
本来は治療をしたかしないかは、
患者さんには分からないようにしないと、
本当の意味での治療の効果を検証することにならないのですが、
そのことは実際的には困難なので、
施行がされていなかったのです。

そのため、SYMPLICITY HTN-3と命名された試験では、
より厳密にコントロールを設定するため、
「模擬手術」を行なうという手法を取り入れて、
腎動脈デナベーション治療の効果を検証し、
その結果が2014年のNew England…誌に掲載されました。

患者さんはアメリカの複数の施設で登録された、
トータル535名の治療抵抗性高血圧の患者さんで、
くじ引きで2つのグループに分け、
364名は実際にデナベーション治療を行ない、
171名は「模擬治療」を行なって、
その後の血圧の変化を、
診察室での測定及び24時間血圧計を用いた測定の両方で、
術後半年の経過観察を行なっています。

「模擬治療」というのは一体どのようにしたのかと言うと、
カテーテルの検査自体は同じように行ない、
腎動脈の走行や狭窄の有無を確認、
患者さんには鎮静を掛けて、
治療群ではカテーテルに通電し、
未治療群はただ20分間カテーテルを入れたまま寝かして置くのです。

患者さんにもご家族にも、
治療が行なわれたかどうかは伏せておきます。

その結果は全く予想外のものになりました。

半年後の診察室収縮期血圧は、
デナベーション治療群で平均14.13の低下、
未治療群で平均11.74の低下で、
両者に有意な差は認められませんでした。
24時間血圧の平均値も、
治療群で6.75の低下、
未治療群で4.79の低下と、
これも有意な差は認められませんでした。

つまり、
「模擬治療」と比較して検討すると、
腎動脈デナベーション治療の効果と称するものは、
煙のように消失してしまったのです。

この結果を受けて今年の1月に、
メドトロニック社は現在も継続中の臨床試験の、
新たな登録を中止する決定を下しました。

治療をしても効果が確認出来ないのですから、
この決定は当然のものと考えられます。

腎動脈デナベーション治療の有効性は一旦否定されたのです。

その後デナベーション治療の新しい器具が登場しました。

それが今回ご紹介する超音波腎デナベーションです。

これは以前の器具がラジオ波による焼却だったのに対して、
特殊な超音波による焼却を行う、というものです。
この方法の方が安全に施行出来、
ラジオ波で生じがちな「焼きムラ」がないので、
より安定した効果が期待されるのです。

今回の臨床試験では、
欧米の複数の専門施設において、
2種類の降圧剤を使用しても血圧が140/90mmHg未満に低下せず、
薬を中止して4週間後の血圧が、
130/85 以上で170/105未満の224名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
150名は超音波腎デナベーション治療を施行し、
74名は模擬手術を施行して、
その後2か月の経過を観察しています。

その結果デノベーション治療群では収縮期血圧が平均7.9mmHg低下したのに対して、
模擬手術群では1.8mmHgの低下に留まり、
その差は有意なものと確認されました。

今回のデータでは模擬手術と比較して、
超音波腎デナベーション治療の一定の有効性が確認されています。

ただ、以前のデータと比較すると、
降圧剤を中止してもそれほど大きな全身的な問題は生じない、
比較的軽症の患者さんが対象となっています。

以前の考え方では、
内服薬ではコントロールが困難な患者さんに対してのみ、
こうした治療が適応されたのですが、
今回はそうではなく、
降圧剤でも一定のコントロールが可能な患者さんに、
カテーテル治療が施行されている訳です。

確かに治療によりその後半永久的に降圧剤が必要なくなるのであれば、
患者さんによってはカテーテル治療を選択する、
という選択肢はあっても良いようには思います。
ただ、侵襲的治療でリスクもあるため、
あまり闇雲にこうした治療が推奨されることも疑問には感じます。
実際には治療後2か月で血圧が135/85未満に低下していたのは、
18.8%の患者さんに過ぎませんから、
この程度の低下作用であれば、
結局は降圧剤も追加する結果になるような気もします。

つまり、この治療の対象をどのような患者さんにするべきかは、
より多角的な検証が必要であると考えられるのです。

いずれにしても、
今後より長期の有効性と安全性とが検証されることにより、
高血圧症の治療のガイドラインは、
今後大きく変化することになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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老年期難治性うつ病の治療の選択肢 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
老年期うつ病の治療オプション.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年3月3日ウェブ掲載された、
高齢者の難治性うつ病の治療の選択肢についての論文です。

高齢者(今回の場合は60歳以上)は、
うつ病の好発年齢層ですが、
若年のうつ病と比較して、
抗うつ剤の有効性が低く、
効果の確認されている抗うつ剤2種類を充分量で試しても、
改善の見られない「治療抵抗性うつ病」が、
多いことが指摘されています。

その場合の薬物治療の選択肢として、
別個の作用を持つ薬剤を上乗せで使用するという考え方と、
薬を切り替えるという考え方があります。

これまでに日本未発売のブプロピオンという、
SNRIというタイプの抗うつ剤の上乗せもしくは変更と、
抗精神病薬のアリピプラゾールの上乗せにより、
難治性のうつ病の症状改善が報告されています。
ただ、こうした治療同士の比較や他の処方との直接比較のデータは、
殆ど存在していないのが実際です。

今回の検証はアメリカにおいて、
60歳以上の治療抵抗性うつ病の患者、
トータル619名をまず3つの群にくじ引きで分け、
アリピプラゾールとブプロピオンの上乗せ、
そしてブプロピオンへの変更に割り付けて、
10週間の治療を継続します。
そこで更に改善が認められなかった場合には、
ステップ2としてくじ引きで2群に分け、
気分安定剤のリチウム製剤の上乗せと、
ノリトリプチリンへの切り替えに割り付けて、
更に10週間の治療を継続します。

その結果、
通常の抗うつ剤の治療に抗精神病薬のアリピプラゾールを上乗せする治療が、
ブプロピオンへの変更より有意に症状の改善率が高く、
アリピプラゾールの上乗せとブプロピオンの上乗せには、
有効性の差はありませんでした。
ただ、アリピプラゾールの上乗せと比較して、
ブプロピオンの上乗せ治療では、
患者の転倒リスクはより高くなっていました。
またこの治療が無効であった場合には、
リチウム製剤の上乗せとノリトリプチリンへの変更に、
ほぼ同等の有効性が確認されました。

こうした点から考えて、
2種類の抗うつ剤治療が無効の高齢者のうつ病に対しては、
まずアリピプラゾールを上乗せで治療することが、
その有効性の面でも安全性の面でも、
最もバランスの取れた治療の選択肢であることが確認されました。

こうした検証はかなり困難なものなので、
今回の臨床試験の意義は大きく、
今後の臨床の指針となり得るものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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サイアザイド系利尿薬による尿路結石再発予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サイアザイド系利尿薬と尿路結石予防効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年3月2日付で掲載された、
サイアザイド系利尿薬の尿路結石予防効果についての論文です。

腎尿路結石というのは、
腎臓から尿管を経て膀胱に至る経路に、
硬い石のような沈着物が出来る病気です。
無症状のこともありますし、
それが尿管の狭い部分を塞ぐと、
お腹や背中の激痛が起こることもあります。
そして、無症状であっても結石の影響によって、
腎臓の機能が低下することもあります。

結石を取り除く手術や衝撃波の治療などはありますが、
一度石が取り除かれても、
再発し易いことがこの病気の厄介なところです。

カルシウムやシュウ酸、尿酸などが結石の成分で、
そうした成分の排泄が多いことや、
尿の酸性度が高いことなどが結石の原因と考えられ、
再発予防のために、
尿酸の産生を抑える薬を使用したり、
尿の酸性度を抑える薬を使用したり、
シュウ酸を多く含む食品を制限する食事療法などが行われていますが、
その有効性は限定的なのが実際です。

こうした予防法の1つとして、
推奨されているのがサイアザイド系利尿薬の使用です。

サイアザイド系利尿薬は、
古くからある利尿薬の一種で、
塩分と水分の排泄を促す働きから、
心不全や高血圧などの治療に主に使用されています。

その副次的な作用として、
尿に排泄されるカルシウムの量を減らす働きがあり、
それがカルシウムを主体とする結石の、
再発予防に繋がると考えられているのです。

実際のその予防効果を示す臨床データが報告されていますが、
データは30年近く前のもので、
その後アップデートされていないという問題がありました。

過去にそのために使用されたサイアザイド系利尿薬の使用量は、
非常に高用量で、
実際には副作用が強くて使いづらく、
エビデンスはあっても、
臨床で結石予防のためにサイアザイド系利尿薬が使用される、
ということはあまりないのが現実でした。

各種ガイドラインには記載されているものの、
日本では保険適応自体がありません。

今回の研究はその有効性を再評価したもので、
カルシウムを含有する尿路結石症と診断された416名の患者を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで複数の群に分けると、
偽薬と、サイアザイド系利尿薬のハイドロクロロサイアザイドを、
1日12.5㎎から50㎎までの用量群に割り付けて、
中間値で2.9年の経過観察を施行しています。

その結果、用量に関わらず、
サイアザイドには尿路結石の再発予防効果は確認されず、
当然のことですが、低カリウム血症や高尿酸血症などの、
サイアザイドに特有の副作用は、
偽薬より実薬でより多く認められました。
尿中のカルシウムは確かにサイアザイドの使用によりやや減少しましたが、
その一方で同じ結石の原因物質の1つであるシュウ酸塩は、
サイアザイド系利尿薬使用群で増加が認められました。

つまり、
カルシウム主体の結石のみで評価すれば、
サイアザイド系利尿薬の高用量で、
一定の結石再発予防効果は可能性があるのですが、
一方でシュウ酸カルシウム主体の結石であると、
却ってシュウ酸塩の排泄増加が、
悪く働く可能性もあるという理屈です。

今後より結石の成分を考慮した上で、
分析が必要な知見ではありますが、
実際的にはこうした薬剤の使いにくさを考えると、
その使用はかなり限定的になるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血友病A遺伝子治療の有効性(治療2年後の評価データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血友病Aの遺伝子治療.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年2月23日付で掲載された、
血友病の遺伝子治療の予後についての論文です。

血友病というのは、
単独の遺伝子の変異による先天性の病気で、
血液を凝固させる際に必要な蛋白質の産生や機能が低下するため、
関節や筋肉など全身の出血を起こすという特徴があります。
このうち血友病Aは凝固系の第8因子の異常により、
血友病Bは第9因子の異常により起こります。

この病気の治療は、
長く血液製剤の補充療法しかありませんでした。
機能の低下する凝固因子を、
定期的な注射により補充するのです。
しかし、これは在宅での静脈注射となり、
週に数回の注射が必要というかなり負担の大きな治療です。
しかもこの治療を一生涯行わないといけないのです。
更には注射した凝固因子に対する抗体が産生されることがあり、
そのために治療の有効性が低下するという問題もありました。

そこに日本では2018年に登場した新薬が、
中外製薬が創薬したエミシズマブ(商品名ヘムライブラ)です。
この薬は二重特異性抗体と呼ばれる薬で、
イメージ的には橋渡し的に2本の腕で凝固因子に結合することにより、
血友病Aで不足している第8因子をスキップして、
凝固を進める働きを持つという、
それまでにない画期的な作用を持つ注射薬です。

注射を一生継続しないといけない、
という点はそれまでの補充療法とは差はないのですが、
静脈注射ではなく皮下注射であるという点と、
週に1回の注射で済むという点が、
患者さんの負担を大きく軽減する効果があります。

しかし、この方法でも注射を一生続けなくてはならない、
という点は解消していません。

そこで注目されているのが遺伝子治療です。

これは遺伝子を運ぶ特殊なベクターを使用して、
凝固因子を産生している肝臓の細胞に、
血友病Aで不足する第8因子を作る遺伝子を運び、
肝臓の細胞に持続的に第8因子を作らせる、
という治療です。

理論的には1回の治療で、
継続的に治療効果が得られるということになります。

その治療の1つとして実用化されたのが、
バクトロコジーン ロクサパルボベク(valoctocogene roxapavovec)で、
これはBドメインという部分を除いた第8因子をコードする遺伝子を、
アデノ随伴ウイルス(AAV)というウイルスの遺伝子に挿入して、
それを注射により身体に送り込むという方法です。

今回の論文ではこの治療を施行して、
2年間の経過を観察しています。

重症の血友病Aで、
定期的な血液製剤の補充療法を施行されていた134名の男性に、
6×1013ベクターゲノム/Kgの、
バクトロコジーン ロクサパルボベクを1回のみ注入し、
その後2年の出血リスクと導入遺伝子由来の第8因子活性の推移を検証しています。

その結果、
データの解析が可能であった112例のうち、
2年後(104週)までの治療を要した出血の発生率は、
治療前より84.5%低下していました。
導入された遺伝子由来の第8因子活性は、
経過とともに低下していて、
その半減期(活性が半分に低下するまでの時間)は、
123週間(95%CI:84から232)と算出されました。
つまり、この遺伝子治療の効果は永久に続くというものではなく、
概ね2から5年の間には治療前のレベル近くまで低下する、
と推測されています。
今回の対象者のうち13.6%に当たる18名では、
2年の時点で第8因子活性は測定不能となっていました。

このように、
遺伝子治療にも現時点では限界もあるのですが、
1回の注入により、
その後数年に渡り出血が抑制され、
定期的な注射が必要なくなるとすれば、
血友病の患者さんにとって意義のあることは間違いがなく、
場合により億を超えると言われる医療費の問題はあるものの、
今後のより安定的で安全な治療の開発にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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変形性膝関節症に対する運動療法の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
変形性膝関節症の運動療法.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2023年1月24日ウェブ掲載された、
変形性膝関節症の運動療法についての論文です。

変形性膝関節症は、
加齢や体重の負荷などによって、
関節でクッションのような働きをしている半月板がすり減り、
膝関節の炎症を起こして膝の痛みが生じる病気で、
進行すれば歩行が困難となって、
ADLの低下にも結び付く、
一般的で身近な病気である共に、
怖い病気でもあります。

進行すれば手術などの治療が行われますが、
初期の段階では鎮痛剤で痛みや炎症をコントロールしたり、
ヒアルロン酸の関節への注入が行われて、
一定の有効性のデータも存在しています。
そして、同じように有効性の確認されている治療法が、
膝に軽い負荷を掛けて動かし、
周辺の筋肉を強化する運動療法です。

運動療法に効果のあることは確認されていますが、
それでは実際にどのくらいの運動量が適切であるのか、
やればやるだけの効果があるのか、
それともやり過ぎれば却って良くないのか、
というような点については、
あまり科学的な検証がされていないのが実際です。

そこで今回の研究ではスウェーデンとノルウェーにおいて、
変形性膝関節症と診断されて痛みの既往のある189名に患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は週に3回、1回70から90分の運動プログラムを施行し、
もう一方は回数は同じですが、
1回20から30分の比較的軽い運動プログラムを施行して、
治療を12週間継続し、その効果を比較しています。

その結果、
どちらの運動プログラムも症状の改善効果が認められ、
その有効性にはスポーツでの症状など、
一部の項目を除いては、
明確な違いは認められませんでした。

つまり、変形性膝関節症の治療として行う運動療法は、
比較的短時間でその有効性は認められ、
それ以上負荷を増加させても、
より治療として有効ということはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ベネデッタ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ベネデッタ.jpg
ポール・ヴァーホーベン監督が、
80歳を過ぎてフランスで監督した新作が、
今ロードショー公開されています。

これは実在の同性愛者の修道女を主人公にした、
中世ロマネスク的な怪作で、
かつては量産されたこともあった、
修道院を舞台にした見世物ポルノ映画や、
ハマーフィルムなどが量産した、
怪奇味もある残酷描写とエロスが売りの歴史劇などのスタイルを、
基本的には踏襲しながら、
部分的には昔のハリウッド製史劇めいたスケール感もあり、
ペストの描写や主人公のキャラなどには、
今を照射する部分もあるという、
複雑な味わいの作品です。

結構1960年代くらいにはこうした映画が沢山あって、
ヨーロッパの見世物映画のジャンル物でもあったのですね。
主軸はホラーと西部劇ですが、
それ以外にこうした修道院物も定番としてあったのです。
その後の女囚物のバリエーションと言えるかも知れません。

ただ、意外に権力批判的な側面と、
フェミニズム的な側面をそうした映画は持っていて、
ラストは権力者が大抵民衆に虐殺されますし、
女性も男性に暴力的に反逆し復讐を遂げるのです。

こうした部分が意外に今に通じているじゃん、
というのがおそらくこの映画の企画の根底にあるもので、
ある意味昔の見世物映画のスタイルを、
そのままに再現しているだけなのに、
観ている方が勝手に「現代的な視点を持っている」、
と誤解することを期待しているようなところがあるのです。
ヴァーホーベン監督としては、
こうしたお遊びを一度はやってみたかった、
というところなのかも知れません。

キャストは皆好演で、
特にシャーロット・ランプリングの修道院長は、
その振幅のある人間味と威厳の表現とが素晴らしく、
他の出演作を観ても、
彼女はキャリアの中で2回目の黄金時代を迎えている、
という思いがありました。

個人的には前作の「エル」と同じく、
かつての力押しの強烈キャラ爆発のヴァーホーベンが好きだった身としては、
勿論ご年齢を考えれば当然のことではあるのですが、
最近のちょっと達観したような作品は、
やや物足りなく感じることも事実です。

映画館は18禁映画では馴染みの光景ですが、
エッチ好きの高齢者で割と埋まっていました。
多分それほど満足はせずに、
映画館を後にされたことと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「#マンホール」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マンホール.jpg
中島裕翔さん演じるエリートサラリーマンが、
社長の娘との結婚の前日に、
酔っぱらってマンホールに落ち、
出られなくなるという、
所謂ソリッドシチュエーションスリラーで、
気鋭のスタッフが揃い、
なかなか意欲的な作品に仕上がっています。

オープニングの映像から工夫が凝らされていて、
その後穴の中に主人公が閉じ込められてからは、
ほぼほぼ主人公が穴の中で騒いでいるだけ、
という絵面が続くので、
観客の興味を持続させるのは、
かなり困難な作業になるところです。
たとえば、これが部屋に閉じ込められたり、
異空間に閉じ込められた、というお話であれば、
もっと変化が付けられるのですが、
マンホールの底では出来ることが限られています。

今回の映画の場合、
SNSを主体に様々なツールを活用することで、
観客の興味を繋ぐように、
なかなか工夫が凝らされています。
後半に意外な事実が露わになるところは、
古典的なミステリー戯曲の傑作と同じパターンで、
その意味では読めてしまうのですが、
これはこうした設定にした時点で、
意外な結末を考えると、
新しい手はそうはないので仕方がないのだと思います。

主人公のスマホがあまりに強靭であったりと、
突っ込みどころも多いのですが、
こうした作品は日本映画は苦手なジャンルなので、
ラストのオチを含めて、
日本映画としては相当頑張った部類だと思います。

1日1回の上映で客席は2人のみでしたから、
興行的にはなかなか厳しい感じとは思いますが、
映画館に足を運ばなくても、
配信で一見の価値はあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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小児慢性副鼻腔炎に対する点鼻ステロイド治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日なのでクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
慢性副鼻腔炎に対するステロイド点鼻の効果.jpg
JAMA Pediatrics誌に2023年2月27日ウェブ掲載された、
小児の慢性副鼻腔炎に対する、
点鼻のステロイド治療の有効性についての論文です。

俗に蓄膿症と言われている慢性副鼻腔炎は、
鼻づまりや臭いのある膿のような鼻水、
頭痛などの症状が慢性に続く、
鼻の奥の副鼻腔と呼ばれる場所の炎症で、
子供と大人を問わず非常に頻度の高い病気です。

その原因については副鼻腔の構造的な問題や、
他のアレルギー疾患との関連、
鼻腔の正常細菌叢の乱れなど、
様々な研究が報告されていますが、
治療については悪化時の抗菌剤治療やステロイドによる炎症の抑制など、
この数十年あまり進歩の見られないのが実際です。

そのうち点鼻のステロイド剤の使用は、
現行の多くのガイドラインにおいて、
大人と子供とを問わず、
第一選択の治療の1つと位置付けられています。

局所のステロイド剤の使用により、
副鼻腔の炎症を抑え症状を緩和する効果が期待されますが、
その一方で細胞性免疫は抑制されますから、
むしろ正常菌叢を乱し、
細菌感染を助長する可能性は否定出来ません。
また、成人への使用と比較すると、
小児への使用のデータは限られていて、
成人と同様に有効であるという根拠は、
あまりないのが実際です。

そこで今回の研究では、
小児アレルギー診療専門のクリニックにおいて、
慢性副鼻腔炎と診断された4歳から8歳の小児、
トータル66名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は一般的な点鼻ステロイドである、
モメタゾンの点鼻を1日1回12週間使用し、
もう一方は未使用(偽薬は使用せず)として、
その有効性を比較しています。

その結果、
臨床的な指標により鼻閉などの症状の改善が、
モタメゾンの点鼻により有意に認められ、
更には副鼻腔の粘膜における細菌叢の多様性が、
点鼻により正常化していることが確認されました。
細胞性免疫の解析では、
自然免疫系のILC3が点鼻により増加していましたが、
その意味については現時点では明確ではありません。

このように、
小児の点鼻のステロイドの使用により、
慢性副鼻腔炎の症状が改善するのみならず、
鼻腔の細菌叢にも良い影響が認められた、
という今回の結果は非常に興味深く、
今後のより精緻な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オミクロン株の感染とインフルエンザの生命予後比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
インフルエンザと新型コロナの生命予後.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年2月15日ウェブ掲載された、
新型コロナのオミクロン株による感染と、
季節性インフルエンザの生命予後を比較した論文です。

新型コロナウイルス感染症の入院事例における死亡率は、
季節性インフルエンザ感染症の2から3倍である、
とするデータが報告されています。
こうしたデータが新型コロナウイルス感染症が重症化しやすい病気であることの、
1つの根拠となっているのですが、
これはオミクロン株が流行の主体となる以前のデータです。

オミクロン株は感染力は非常に強いものの、
比較的軽症で重症化は稀と考えられています。

それでは、オミクロン株の流行期においても、
季節性インフルエンザより重症化が多いのでしょうか?

今回の研究はスイスにおいて、
オミクロン株と季節性インフルエンザの両者が流行した、
2022年1月15日から3月15日の時期において、
入院した両者の患者の予後を比較しているものです。

3066名の新型コロナのオミクロン株由来の感染者と、
2145名の同時期の季節性インフルエンザの感染者とを比較したところ、
条件を補正した上での入院中の死亡リスクは、
オミクロン株の感染者がインフルエンザの1.54倍(95%CI:1.18から2.01)、
有意に増加していました。
一方で集中治療室への入室のリスクについては、
両者で差は認められませんでした。

このように、
オミクロン株が主体になることに伴って、
新型コロナウイルスの感染は軽症化し、
入院中の死亡リスクも低下していますが、
それでも季節性インフルエンザと比較すると、
死亡リスクが高い傾向は認められます。

今後新型コロナの感染と季節性インフルエンザの感染は、
法律上は同等のものとして扱われるようになりますが、
その重症化リスクには差があるということは、
今後も配慮が必要な事項ではあるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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