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電気自動車と心臓埋め込み機器の安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
電気自動車と心臓.png
2018年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載されたレターですが、
電気自動車と医療機器の安全性についての短報です。

携帯電話が普及した時には、
病院内での使用は他の医療機器に影響を与える、
という懸念があり、
その使用は禁止をされていました。
ただ、その後携帯電話の端末の進歩もあり、
医療機器との電磁気的な干渉は殆どない、
という研究結果が明らかになったことで、
その懸念はほぼ払拭されました。

唯一人工ペースメーカーや除細動器などの、
心臓に埋め込んで使用する医療機器については、
心臓に非常に近接した位置に電磁気の発生源があると、
その影響を完全には否定できない、
という考え方から、
電車などでは優先席付近での使用のみが制限されています。

ただ、これも新しい機器を使用する範囲においては、
ほぼ問題にはならないと考えられています。

最近電気自動車が実用化され、
ガソリン使用の自動車の環境問題などもあって、
今後急速にその使用が拡大する可能性があります。

電気自動車はその性質上、
充電や放電の際には強力な電磁波の発生源となります。

それでは、この電気自動車による電磁場は、
心臓埋め込み機器に誤作動などを起こす危険はないのでしょうか?

今回の小規模な研究では、
人工ペースメーカーや除細動器などの、
心臓埋め込み機器を連続使用している、
心臓病の患者さん150名を対象として、
BMW、日産、テスラ、フォルクスワーゲンという、
代表的な電気自動車メーカー4社の製品で、
その充電や運転時の電磁波の強さと、
心臓埋め込み機器に対する影響を検証しています。

その結果、
4社全ての製品において、
現状使用されている心臓埋め込み機器に、
誤作動などの影響は認められませんでした。
ちなみに電磁場の強度は、
充電時に最も強く、
30.1から116.6μテスラと算出されています。

こうした電磁波を発生させるような身近な機器は、
今後更に増えることが想定され、
想定外の医療機器への影響が、
起こる可能性はないとは言えません。
今後もこうした検証が丹念に行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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腹鳴とそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日は腹鳴についての話です。

お腹がグーグーと鳴って気になる、
ゴロゴロという音が鳴り響いて、
周りの人が変な目で見る、
というような訴えは、
外来でしばしば耳にするものです。

ひどい下痢になる訳でもなく、
痛みが出ることもないのですから、
それほど気にしなくても…
と思うところなのですが、
当の本人にとっては、
それがかなりつらいもののようです。

特に女性の場合には、
人前に出ることが出来ない、とか、
一緒に友達と食事をすることが出来ない、
とうような深刻な事態にもなりかねません。

それでは、そもそも何故お腹は鳴るのでしょうか?

これはシンプルには、
胃腸にガスが溜まり、
それが胃腸の動きによって、
急激に移動することによる現象です。

正常でお腹が鳴るのは、空腹の時です。

お腹がグーと鳴ることが、
お腹が空いた合図のように言われるのは、
決して迷信などではないのです。

この空腹時にお腹が鳴る原因は、
食後10から12時間後に、
胃から十二指腸に掛けての平滑筋に、
伝播性の強い収縮運動が起こるためです。

この生理現象を、
migrating motor complex(MMC)と呼んでいます。

このMMCという生理現象は、
ラットや犬などの動物でも確認されていて、
胃や小腸の食べ物の残りかすや細菌などを、
洗い流す一種のお掃除のような作用があると言われています。

このMMCは生理現象ですが、
この時の音が通常より大きいとすれば、
胃腸に多くのガスが貯留しているか、
胃腸の収縮の仕方が、
通常より過大であるという可能性が想定されます。

食物残渣が食後10時間経っても、
まだ残っていたり、
消化が不充分でガスが発生していたりすると、
大きく腫れている胃腸が、
急激に大きくMMCで収縮することになるので、
それだけ大きな音がする、
ということになります。

つまり、
胃腸の働きが低下していたり、
消化や吸収が悪い状態であれば、
それがMMCの音を大きくする要因になりうる、
ということになります。

具体的には慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、
セリアック病などの吸収不良症候群は、
いずれも腹鳴の原因となるのです。

以上は空腹時の腹鳴の話です。

実際にはお腹の鳴る音が大きくて悩んでいる方は、
食事からの時間に関わらず、
お腹が鳴るという症状に苦しんでいることが多いようです。

こうした腹鳴は何故起こるのでしょうか?

これは基本的には空腹時のMMCと、
同じ現象が起こると考えて良いのですが、
それが何故か空腹時以外にも起こるのです。

その原因は明らかではありませんが、
不摂生な生活を繰り返していたり、
生活リズムが不規則であると、
正常なMMCのリズムが崩れ、
こうした現象が起こりやすくなるのでは、
と推測されています。

また、過敏性腸症候群においては、
おそらくは自律神経系の異常により、
矢張りMMCが空腹時以外にも起こっている、
という知見が報告されています。

従って、腹鳴が明らかに強く、
それが空腹時以外にも起こる場合には、
まず吸収不良の病気や、
胃、十二指腸の器質的な病気がないかを検査で確認し、
不規則な生活や暴飲暴食があれば、
そうした生活習慣を改めることが必要です。

今日は腹鳴のメカニズムとその対応についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵の摂取と心血管疾患リスク(2018年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
卵の摂取量のメタ解析.jpg
2018年のEuropean Journal of Nutrition誌に掲載された、
卵の摂取量と心血管疾患リスク、
総死亡リスクとの関連についての論文です。

卵と健康との関連については、
色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。

これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。

ところが

2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。

これは、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。

卵の摂取量と健康との関連については、
日本の疫学データでは、
NIPPON DATA 80の解析結果が、
2004年に発表されています。

それによると、
女性においては、
週に1から2個の摂取と比較して、
毎日1個卵を食べる習慣のある人は、
血液のコレステロールが高く、
総死亡のリスクも有意に増加していました。
一方で男性にはそうした関連はありませんでした。

ただ、2017年に発表された女性の追跡調査を含めた解析結果では、
卵の摂取量と血液のコレステロール値、
また心血管疾患のリスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。

しかしここでもなお、
1日1個摂取した場合と比較して、
毎日2個以上卵を食べる習慣のある人は、
総死亡のリスクが2.05倍(95%CI: 1.20から3.52)、
癌による死亡のリスクが3.20倍(95%CI: 1.51から6.76)、
それぞれ有意に増加していました。

癌による死亡のリスクについては、
1日1個摂取した場合と比較して、
週に1から2個食べる習慣のある人は、
32%(95%CI: 0.47から0.97)有意に低下していました。

つまり、アメリカのデータと同じように、
卵の摂取量とコレステロール値や心血管疾患リスクとの間には、
今回の追跡調査ては関連は認められなかったのですが、
総死亡と癌による死亡のリスクについては、
卵を多く食べると生命予後が悪いという、
一定の関連が認められたのです。

この問題はそう単純ではないようです。

今回の研究は今度は中国において、
登録の時点で心血管疾患のない、
トータル28024名を、
平均で9.8年という長期の経過観察を行なっているもので、
1週間に1個未満という卵の摂取と比較して、
1週間に7個以上の摂取は、
心血管疾患のリスクや総死亡のリスクに、
有意な影響を与えていませんでした。

更にこのデータを含めて、
過去の主立ったデータをまとめて解析したメタ解析においても、
1週間に7個以上の卵の摂取は、
心血管疾患のリスクや総死亡のリスクを上昇させることはなく、
脳卒中のリスクについては、
若干のリスクの低下を認めました。
(HR 0.91, 95%CI 0.85-0.98)

今回のデータも、
無尽蔵に卵を食べて良いというものではなく、
毎日1個を超える卵の安全性は示されていない、
という点には注意が必要ですが、
少なくとも毎日1個卵を食べるという習慣については、
健康上の害は確認をされていない、
というように考えて間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗コリン剤の種類と認知症リスクとの関連(2018年イギリス大規模データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックはいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
抗コリン剤と認知症(2018年).jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
抗コリン作用という、
色々な診療科で使用される薬が持っている作用による、
認知症リスクについての論文です。

抗コリン作用と言うのは、
副交感神経に代表される、
アセチルコリン作動性神経の働きを抑えるというもので、
非常に多くの薬剤がこの作用を持っています。

その中には抗コリン作用そのものが、
薬の効果であるものもありますし、
副作用として抗コリン作用を持つものもあります。

アセチルコリン作動性神経により、
胃や気管支、膀胱などの平滑筋は収縮しますから、
胃痙攣を抑える目的で使用されたり、
気管支拡張剤として、
また過活動性膀胱の治療薬として使用されます。
パーキンソン症候群の補助的な治療薬として、
使用されることもあります。

その一方で、
鼻水や痒みを止める抗ヒスタミン剤や、
抗うつ剤や抗精神薬は、
副作用としての抗コリン作用を持っています。

この抗コリン作用は基本的に末梢神経のものですが、
脳への作用も皆無ではありません。

一方で認知症では脳のアセチルコリン作動性神経の障害が、
早期に起こると考えられています。

そのために、
現在認知症の進行抑制目的で使用されている、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)は、
脳内のアセチルコリンを増やす作用の薬です。

抗コリン剤はアセチルコリン作動性神経を抑制する薬ですから、
これがそのまま脳に働けば、
脳のアセチルコリン作動性神経の働きを弱め、
認知症のような症状を出すであろうことは、
当然想定されるところです。

実際に高齢者に抗コリン剤を使用することにより、
せん妄状態や、記憶障害や注意力の障害など、
認知症様の症状が急性に見られることは、
良く知られた事実です。

通常こうした急性の症状は、
薬剤の中止により回復する、
一時的なものと考えられています。

しかし、
高齢者が長期間こうした薬剤を使用している場合はどうでしょうか?

それが認知症の発症に繋がるようなことはないのでしょうか?

この点については、
あまり長期間の観察を行なったようなデータが、
これまで存在していませんでしたが、
2015年1月のJAMA Internal Medicine誌に、
アメリカにおける、
高齢者の大規模な健康調査のデータを活用して、
抗コリン剤の長期処方と、
認知症の発症との関連を検証した論文が掲載されました。

これは発表の時期にブログ記事にしています。

65歳以上の認知症のない高齢者3434名を登録し、
平均で7.3年間の経過観察を施行したデータを解析したところ、
65歳以上の高齢者が、
3年以上常用量の抗コリン作用のある薬を使用すると、
その薬の種別に関わらず、
最大で1.5倍程度の
認知症のリスクの増加が生じる可能性がある、
という結果が得られています。

ただ、このデータにおいては、
個別の抗コリン作用のある薬の種別と、
認知症リスクとの関連は明らかではありません。

通常に考えると、
泌尿器科などで高齢者に長期使用が常態化している、
過活動性膀胱の治療薬などは、
その脳への作用は限定的であるように、
薬の添付文書などを見る限りはそう思えます。

しかし、それは本当に正しい考え方なのでしょうか?

これまでの文献上での検討から、
抗コリン作用を持つ薬の脳への影響の強さは、
ACBスケールという指標により、分類されています。

これによると、
抗コリン作用自体はあることが確認されているものの、
それが認知機能に悪影響を与えたという報告のない薬が、
ACBスコアで1点、
脳への抗コリン作用が臨床的に確認されている薬が、2点、
そして更にせん妄などの発生が報告されている薬が、3点、
それ以外の薬は0点となっています。

具体的には三環系の抗うつ剤やパロキセチンなどのSSRIの大部分、
胃痛などを抑える、アトロピンやスコポラミン、
過活動性膀胱の治療薬である、
トルテロジン(デトルシトール)やオキシブチニン(ポラキス)、
ソリフェナシン(ベシケア)、
オランザピンなどの抗精神病薬、
ヒドロキシジン(アタラックスP)やプロメタジンなどの、
第一世代抗ヒスタミン剤などが、
このACBスコア3点となっています。

今回の研究はイギリスのプライマリケアのデータベースを元にしたもので、
40770名の認知症の患者さんを、
283933名のコントロールと比較して、
抗コリン作用のある薬剤の使用歴と、
認知症のリスクとの関連を検証しています。

その結果、
ACBスコア3点の薬剤の使用により、
他のリスクを補正した結果として、
認知症のリスクは1.11倍(95%CI; 1.08から1.14)
有意に増加していました。

ACBスコア3点以外の薬剤のリスクは有意なものではなく、
3点の薬の中でも、
抗うつ剤、パーキンソン病治療薬、泌尿器科治療薬のリスクが、
より高いものとなっていました。
こうした薬剤に関しては、
認知症と診断される15から20年前の処方についても、
関連が認められました。

このように抗コリン作用を持つ薬剤の中でも、
抗うつ剤とパーキンソン治療薬、泌尿器科治療薬の認知症リスクが高い、
という知見は非常に重要なもので、
抗うつ剤については抗コリン作用を持つ薬剤は、
次第に使用されなくなる流れにある一方、
リスクの高い過活動性膀胱治療薬が、
やや漫然と長期使用がされている現状は、
問題が大きいように個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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日照時間と急性心筋梗塞との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは通常の診療に戻ります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
日照時間と心筋梗塞リスク.jpg
2018年のJournal of the American Heart Association誌に掲載された、
急性心筋梗塞の発症と季節や日照時間との関係についての論文です。

急性心筋梗塞というのは、
主に心臓を栄養する冠状動脈のという血管の、
動脈硬化による変化を原因として、
狭くなった血管に血栓が詰まるなどして、
心臓の筋肉の一部に血液が流れない状態となり、
その部分の心筋の細胞が死んでしまう状態のことです。

ここで心臓の筋肉の一部ではなく全層が死んでしまうと、
心電図においてはST上昇という変化が見られます。
このためにこうしたタイプの心筋梗塞のことを、
ST上昇型急性心筋梗塞と呼んでいます。
最も典型的な心筋梗塞と言って良いのがこのタイプの梗塞です。

このST上昇型急性心筋梗塞は、
その発症時期に季節性があり、
冬の寒い時期に多く、夏は少ないという報告が、
以前から複数寄せられていました。
また、1日の中でも昼間に多く夜には少ないという違いがありました。

ただ、その原因についてはあまりはっきりしたことが、
分かっていませんでした。

今回の研究は、
経度も緯度も異なる世界中の7つの地域、
具体的には日本、中国、シンガポール、
オーストラリア、フィンランド、イギリス、イタリアにおいて、
季節や時間帯とST上昇型急性心筋梗塞の発症頻度との関連を、
比較検証するという、これまでにない性質のものです。

その結果、
日照時間が長く日差しが強い夏の時期には、
世界の地域に関わらず急性心筋梗塞は減少し、
昼夜の差は小さくなって、
他の季節より夜の発症が増えるという、
一種のサマーシフトが起こるという現象が確認されました。

ビタミンDは紫外線により合成されるため、
血液中のビタミンD濃度(25水酸化D濃度)は、
その日の日照時間と強く相関しているのですが、
このビタミンD濃度と急性心筋梗塞の夜間帯へのシフトとの間にも、
北欧のデータの解析において強い相関が認められました。

この事実は急性心筋梗塞の発症リスクのサマーシフトが、
日照時間と関連の深いことを強く示唆しています。

こうした現象が何故起こっているのかは現時点では不明ですが、
ビタミンDの関与も含めて、
今後急性心筋梗塞の発症メカニズムに直結した、
新しい知見の発見に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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城山羊の会「自己紹介読本」(2018年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日までクリニックはゴールデンウィークの休診です。
明日からは通常通りの診療になります。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
自己紹介読本3.jpg
2016年の小劇場演劇で一番のお気に入りだった、
城山羊の会の「自己紹介読本」が、
三軒茶屋のシアタートラムに場所を移して、
4月の半ばに再演されました。

これについてはまずこちらをご覧下さい。
自己紹介読本2.jpg
チラシの裏面の一部ですが、
初演の時に書いたブログ記事の一部を、
今回引用して頂きました。

これまで演劇関係の記事で、
こうして使って頂けたのは初めてで、
とてもとても嬉しくて、
しばらくニヤニヤしてしまいました。

その縁で今回はご招待して頂いたので、
買ってあったチケットを妻用にして、
2人で今回の再演に出掛けました。

今回の再演は、
劇場は初演時よりかなり大きくなっていますが、
キャストは全く同じで、
ただの自己紹介から始まって、
予測不可能な展開を見せ、
ラストは異次元に観客をいざなってくれるのですが、
それでいて観終わって良く考えてみると、
オープニングに既に全てが終わっていたことが、
明らかになるという、
極めて技巧的で完成度の高い作品です。

それでいて、
全体のイメージは洒脱で軽く、
一種の艶笑奇談にもなっているという、
小劇場史上唯一無二の傑作なのです。

初演はもっと小空間で、
バックステージのかすかな声が漏れ聞こえて来るなど、
小空間ならではの趣向もあったので、
その点では今回は物足りなさも感じましたが、
その一方で今回はセットなど、
よりリアルな距離感で構築されていて、
この作品のまた別個の魅力が、
明らかになったと感じました。

次回の城山羊の会は、
また新作になるようですが、
楽しみに待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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「レディ・プレイヤー1」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日も連休のためクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
レディ・プレイヤー1.jpg
スピルバーグ監督がバーチャルリアリティの世界を描いた、
何かと話題の映画をアイマックス3Dで観て来ました。

これは如何にもスピルバーグという感じの映画で、
娯楽作のツボをしっかり押さえていて、
善悪の区別がはっきりしていますし、
作り手にも観客にも迷うということがありません。

ただ、時代は変わっているので、
アメリカ一番的な世界を構築するのは、
かなり苦しいな、という感じはしますし、
最後の結論が1週間に2日はゲームを止めましょう、
というのは、あまりに金持ち老人の繰り言めいていて、
申し訳ないのですがやや滑稽な感じはしました。

近未来の話で、
アメリカの現実はかなり悪いようで、
そのために架空現実の世界に、
多くの若者はのめり込んでいるというお話です。
それが結局架空現実よりリアルが素晴らしい、
というおしまいになって、
主人公が大金持ちになって、
みんな大喜びというのですから、
何だか良く分かりません。
別に社会の生きづらさは格別変わっていないと思うのですが、
サラ金みたいな悪徳会社が、
1つ潰れればそれでめでたしになるのでしょうか?
その虚無的な感じのする楽観主義が、
如何にもスピルバーグという感じで、
決してオタクの味方のような映画では、
ないような気がするのですがどうでしょうか?

本当にオタクのための映画というのは、
仮想現実の方がリアルになって、
リアルが飲み込まれて消滅するような話だと思うのです。
この映画はそれとは真逆の、
「ゲームばかりしていないで○○しなさい!」
と言っているような世界です。

映像もかなり薄っぺらな気もするのですが、
その密度はなかなか凄まじくて、
実写ともCGアニメともゲーム画面とも、
微妙に質感の異なるその世界は、
スピルバーグ以外がこのクオリティで、
大真面目に作り上げることは、
間違いなく出来なかった、という気はします。
CGの出来上がる工程をそのまま見せていて、
ある種開き直りとも思えますが、
新しい見せ方と言えなくもありません。

そんな訳で個人的には全く乗れなかったのですが、
口当たりの良さは抜群ですから、
この脳天気な大金持ちのおじさんの宝探しの物語に、
乗ってみるのもまた一興かも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「パシフィック・リム アップライジング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日も連休でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
パシフィック・リム アップライジング.jpg
2013年に巨大ロボットと怪獣とが対決する映画として、
オタク心をくすぐってヒットした「パシフィック・リム」の続編が、
今ロードショー公開されています。

本当はアイマックス3Dで観たかったのですが、
もう「アベンジャーズ」に乗っ取られてしまったので、
仕方なく2Dでの鑑賞となりました。
最近はアイマックスも週替わりで別の映画になってしまうので、
封切り直後に時間を作らないと、
観ることが適わないというおかしな状況になっています。

これは前作の10年後を舞台とした正調の続編で、
前作に登場したキャストの登場のさせ方も良いですし、
意外性のあるストーリー展開も面白く、
それでいてクライマックスは、
定番の巨大ロボット対怪獣の対決になります。
盛りだくさんな割には上映時間は2時間を切っていて、
その凝縮のさせ方に一番感心しました。
こうした娯楽大作で2時間半とか3時間というのは、
勘弁して欲しいですよね。

前作は夜の場面が多くて、
良く見えないようなところがストレスだったのですが、
今回は昼間の場面が多くて、
個人的には良かったと思いました。
ただ、感想などを見ると、
それが却って気にくわないというような意見もあって、
個人の感想というのは様々だと思いました。

菊地凛子さんは前作からの再登板で、
出番は少ないのですが、
なかなか良い感じのポジションで、
風格さえ感じさせました。
新田真剣佑さんの出番は、
ほんのちょっぴりです。

欲を言えばもっと個性的な怪獣が、
出て来て欲しいところですが、
今回も前作と同じように、
怪獣はどれも同じようで、
その造作も地味でした。

またトータルには、
トランスフォーマーとあまり見分けが付かない感じの映画に、
近づいているようには感じられました。

ただ、デル・トロ印はいつもオタク心は良く捉えていて、
今回もクオリティの高い、
楽しい娯楽映画には充分仕上がっていたと思います。

こうした物の好きな方にはお薦めします。
そこそこわくわくしますよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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月刊「根本宗子」第15号「紛れもなく私が真ん中の日」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は連休でクリニックは休診です。

祝日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ねもしゅー15号.jpg
小劇場マインドの塊のような根本宗子さんが、
今年初めての純然の新作公演を、
今浅草の九劇で上演中です。

「紛れもなく私が真ん中の日」と題されたこの新作は、
オーディションで選ばれた21人の女優さんが、
極めて緻密かつ奔放に演じる群像劇で、
根本さん自身は出演せず、
戯曲と演出に専念しています。

これは僕が観た根本さんの作品の中では、
間違いなく最も素晴らしい一本で、
小劇場の歴史に残ると言っても、
決して大袈裟ではないと思います。

見逃すと絶対に後悔するレベルのお芝居で、
ほぼ再演は不可能だと思いますし、
仮にしたとしても今回のようなフレッシュさは、
失われてしまうと思います。

掛け値なしの傑作ですので、
僕のことを信じて頂けるなら、
何を置いても是非劇場にお急ぎ下さい。
勿論好みというものはありますから、
全ての方が同じように感動するかは分かりませんが、
このお芝居が本当の本物であることだけは、
全ての方が感じて頂けると信じています。

以下内容に少し踏み込みます。
大きなネタバレはしませんが、
先入観なく鑑賞したい方は、
観終わった後にお読み下さい。

開場からポップな装飾のお屋敷と思しきような場所で、
10人以上の子供なのか少女なのか大人なのか、
良く分からないような女優さん達が、
思い思いに遊んでいる姿は、
何だかあまりに雑然としていて、
とても面白いお芝居になりそうには思えないのですが、
ところがどうしてどうして、
そこから緻密な群像劇が立ち上がると、
意外にも膨らみを持った物語は、
感動的なエンディングまで一気呵成に走り抜けます。

21人のキャストを過不足なく描き分けるだけでも超人的ですが、
物語が中段にさしかかる時には、
その全員が何か僕達の記憶の中に生きているような気分になり、
僕達の記憶の一部に入り込んでくるような錯覚に陥るのです。

そして感動的なラストでは、
根本さんの定番の趣向である、
過去の自分が現在の自分に呼びかけるという構図が、
より切実さを持って描かれ、
観客の誰もが一緒に同じことを呼びかけているような、
そんな錯覚にすら陥るのです。

切なく感動的で、
素晴らしいラストだったと思います。

中学生の「真ん中を目指す」というやり取りの中に、
大人の社会の縮図のようなものを描くという手法は、
昨年の三谷幸喜さんの「子供の事情」が意識されているように思います。
ただ、その風景が更に相対化されるという点では、
この作品は三谷さんの作品の更に上を行っていると思いますし、
そのいじめや格差、自意識過剰におぼれた世界へのシニカルな視線は、
より鋭く深い洞察に満ちていると思います。

更に僕がこの作品を好きなのは、
この作品が純然たる小劇場演劇のスタイルを守っていて、
かつてのアングラに通底する、
美意識をまた持っていると言う点にあります。
キャストのある種の異様さは、
寺山修司の見世物演劇を彷彿とさせる部分がありますし、
テンションの高い一人語りの呼吸は、
唐先生のテント芝居に繋がる息づかいを感じさせます。

つまり、根本さんの芝居は、
紛れもなく現在の芝居であり、
そこで語られる言葉は、
この社会の肉を斬り、
血を迸らせるところから発せられるものですが、
それでいて彼女の演劇DNAは、
深い部分でアングラの地下水脈に繋がっているのです。

役者を調教する演出も冴え渡っていて、
セット構成も、
対角線に倒れた柱が、
時間という断層を切り裂くというアイデアなど、
随所に天才を見せつけています。

唯一僕が不満なのは、
今のお芝居の常で説明過多なところで、
エリート少女の没落を、
侍女の台詞で説明してしまうのですが、
これは台詞自体不自然ですし、
暗示にとどめる程度で良かったように思いました。
ただ、これは昔の難解芝居好きの、
悪い癖かも知れません。
あまり明快に説明されると逆に醒めてしまうのです。
しかし、それを割り引いても、
この部分は流れが悪かったと思います。

ただ、そうした些細な瑕など問題にならないテンションで、
これだけ充実した内容が、
1時間半に濃縮されているのが素晴らしく、
これを観ると、
2時間を超えるダラダラ芝居の多くが、
ただの馬鹿の繰り言のようにしか感じられないのです。

ともかく、「観て!」としか言えない傑作で、
強く強くお薦めしたいと思います。

真面目に凄いですよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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歯科医の特発性肺線維症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻り、
それから短い連休に突入する予定です。

すみません。
またちょっと奈良に行きます。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
歯科医と肺線維症.jpg
これは2018年3月の、
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)のレポートですが、
歯科医と歯科技工士に難病の特発性肺線維症が多く発症していた、
という興味深い知見を報告したものです。

特発性肺線維症というのは、
原因不明の間質性肺炎の中でも、
進行性でその予後が悪いことで知られています。

知らないうちに肺の間質と呼ばれる部分が、
慢性の炎症を起こして固くなり、
息切れや咳、痰などの症状を自覚する時には、
もうかなり病気は進行していることが通例です。

上記レポートにあるアメリカの疫学データでは、
診断された時点での余命の中央値は3から5年と推計されています。
治療は免疫抑制剤に一定の進行予防効果が確認されていますが、
現状予後の改善に満足の行くレベルのものではなく、
胚移植は有効な唯一の治療ですが、
実行可能なケースは非常に限られています。

この病気の原因は不明ですが、
喫煙やウイルス感染症、
埃を吸入する機会が多いような職業の従事などと、
一定の関連のあることが報告されています。

僕の経験の中では、
ある焼き鳥屋さんの従業員と店主の家族が、
次々とこの病気で倒れたという事例がありました。

ただ、これまでに歯科医師や技工士と、
この病気との関連が指摘されたことはありませんでした。

上記の報告によると、
アメリカはヴァージニア州の医療センターにおいて、
1996年から2017年に診断された特発性肺線維症の患者さん、
トータル894名のうち、
ほぼ1%に当たる9名が、
歯科医師もしくは技工士でした。(内訳は歯科医師が8名)
調査の時点でそのうちの7名は既に死亡していました。

統計的に見ても明らかにこの頻度は高く、
歯科材料などの研磨時に発生する金属の粒子の吸入などが、
そのリスクではないかと推測され、
今後その検証が必要ではないかと指摘されています。

日本でもこうしたケースがあるのかどうか、
現時点では不明ですが、
今後日本でも同様の検証が行われる必要性があるように、
個人的には思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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