心房細動治癒後の脳卒中リスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
一旦治癒したと判断された心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中リスクを検証した論文です。
心房細動という不整脈は、
弁膜症などを原因としていないものは、
一種の心臓の老化に伴って生じることが多く、
この不整脈があると、
脳卒中の発症リスクは5倍に増加するとされています。
そのため脳卒中の予防のために、
抗凝固剤というタイプの薬が使用され、
適切に使用されればそのリスクを3分の2低下させることが、
精度の高い臨床データにより確認されています。
非弁膜症性心房細動は、
一時的に心房細動が起こってそれが数時間から数日で自然に元に戻る、
一過性心房細動と、
7日以上心房細動の状態が続き、
抗不整脈剤や電気的除細動により元に戻る持続性心房細動、
そして心房細動が長期間継続し、
薬や除細動治療でも再発して、
カテーテル治療などが必要となる慢性心房細動に分けられます。
心房細動は不整脈が一旦なくなり、
洞リズムに戻れば治癒と判断されます。
しかし、抗不整脈や電気的除細動のみならず、
カテーテルアブレーション治療においても、
再発は稀なことではありません。
これまでの報告では、長期的にみると、
カテーテルアブレーション後長期洞リズムが維持されるのは、
20%程度とされています。
ここで問題となるのは、
一旦洞リズムに戻って安定した状態が続いている時に、
脳卒中予防の抗凝固剤の使用をどう考えるのか、
ということです。
上記文献の記載によれば、
イギリスでは治癒後の心房細動の抗凝固療法について、
明確な指針は示されていないようです。
ただ、これは日本のガイドラインでも同じだと思いますが、
通常カテーテルアブレーションが成功した後、
2か月程度は抗凝固療法が継続されますが、
その時点で洞リズムであれば、
「もう治っているので薬は要りません」
と言われることが実際には多いようです。
実際にクリニックを受診される患者さんでも、
そうした経過の方は結構いらっしゃいます。
しかし、実際には洞リズムに戻った後でも、
再発率は非常に高いのが実際なので、
抗凝固療法は継続した方が良いという意見もあるのです。
一方で抗凝固療法には出血などの有害事象もありますから、
どのような患者さんにどのくらいの期間、
抗凝固療法を行うのが妥当であるのか、
その点についての明確な指標がないことが、
一番の問題ではないかと思います。
それでは、一旦治癒と判断された心房細動の患者さんにおいて、
その後どの程度脳卒中のリスクがあるのでしょうか?
今回の研究はイギリスにおいて、
プライマリケアのデータベースを活用して、
実臨床において洞リズムに戻り、
治癒とみなされた心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中のリスクを検証しています。
これは電子コードに、
「治癒した心房細動」という項目があるので、
それを元にしたデータとなっています。
つまり、個々の患者さんの詳細が、
しっかり調べられている、
という訳ではありません。
対象は18歳以上で、
それまでに脳卒中や一過性脳虚血発作の既往がなく、
心房細動が治癒して洞リズムに戻った11159名と、
治療中の心房細動の患者さん15059名、
そして心房細動のないコントロール22266名です。
その結果、
治癒した心房細動の患者さんは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
脳卒中や一過性脳虚血発作の発症リスクは、
0.76倍(95%CI: 0.67から0.85)と低下していましたが、
心房細動のないコントロールと比較すると、
1.63倍(95%CI: 1.46から1.83)と有意に高値を示していました。
治癒した心房細動の患者さんの総死亡のリスクは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
0.60倍(95%CI: 0.56から0.65)と低下していましたが、
これも心房細動のないコントロールと比較すると、
1.13倍(95%CI: 1.06から1.21)と、
これも有意に高値を示していました。
治癒した心房細動の患者さんの中には、
その後再発した患者さんも含まれているので、
それを除外して同様の検証を行うと、
心房細動のないコントロールと比較して、
治癒して再発のない心房細動の患者さんでも、
脳卒中や一過性脳虚血発作のリスクは、
1.45倍(95%CI: 1.26から1.67)と有意に高くなっていました。
このように勿論未治療の心房細動の患者さんと比べれば、
遥かに少ない比率ではあるのですが、
治癒して再発がないとみなされている患者さんでも、
心房細動の既往のない方と比較すると、
明らかに脳卒中などのリスクは高くなっていて、
抗凝固剤を一律に終了するという考え方には、
問題があるように思われます。
それでは全ての患者さんで治癒していても、
心房細動が一時的にあれば抗凝固剤を継続するのか、
ということになると、
それもかなり問題があるように思います。
抗凝固剤は有害事象も無視できない薬であるからです。
いずれにしてもこの問題は、
より厳密な検証が必要であると思いますし、
患者さんや末端の医療者が混乱しないように、
しっかりとしたガイドラインの作成が、
強く望まれるところだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
一旦治癒したと判断された心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中リスクを検証した論文です。
心房細動という不整脈は、
弁膜症などを原因としていないものは、
一種の心臓の老化に伴って生じることが多く、
この不整脈があると、
脳卒中の発症リスクは5倍に増加するとされています。
そのため脳卒中の予防のために、
抗凝固剤というタイプの薬が使用され、
適切に使用されればそのリスクを3分の2低下させることが、
精度の高い臨床データにより確認されています。
非弁膜症性心房細動は、
一時的に心房細動が起こってそれが数時間から数日で自然に元に戻る、
一過性心房細動と、
7日以上心房細動の状態が続き、
抗不整脈剤や電気的除細動により元に戻る持続性心房細動、
そして心房細動が長期間継続し、
薬や除細動治療でも再発して、
カテーテル治療などが必要となる慢性心房細動に分けられます。
心房細動は不整脈が一旦なくなり、
洞リズムに戻れば治癒と判断されます。
しかし、抗不整脈や電気的除細動のみならず、
カテーテルアブレーション治療においても、
再発は稀なことではありません。
これまでの報告では、長期的にみると、
カテーテルアブレーション後長期洞リズムが維持されるのは、
20%程度とされています。
ここで問題となるのは、
一旦洞リズムに戻って安定した状態が続いている時に、
脳卒中予防の抗凝固剤の使用をどう考えるのか、
ということです。
上記文献の記載によれば、
イギリスでは治癒後の心房細動の抗凝固療法について、
明確な指針は示されていないようです。
ただ、これは日本のガイドラインでも同じだと思いますが、
通常カテーテルアブレーションが成功した後、
2か月程度は抗凝固療法が継続されますが、
その時点で洞リズムであれば、
「もう治っているので薬は要りません」
と言われることが実際には多いようです。
実際にクリニックを受診される患者さんでも、
そうした経過の方は結構いらっしゃいます。
しかし、実際には洞リズムに戻った後でも、
再発率は非常に高いのが実際なので、
抗凝固療法は継続した方が良いという意見もあるのです。
一方で抗凝固療法には出血などの有害事象もありますから、
どのような患者さんにどのくらいの期間、
抗凝固療法を行うのが妥当であるのか、
その点についての明確な指標がないことが、
一番の問題ではないかと思います。
それでは、一旦治癒と判断された心房細動の患者さんにおいて、
その後どの程度脳卒中のリスクがあるのでしょうか?
今回の研究はイギリスにおいて、
プライマリケアのデータベースを活用して、
実臨床において洞リズムに戻り、
治癒とみなされた心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中のリスクを検証しています。
これは電子コードに、
「治癒した心房細動」という項目があるので、
それを元にしたデータとなっています。
つまり、個々の患者さんの詳細が、
しっかり調べられている、
という訳ではありません。
対象は18歳以上で、
それまでに脳卒中や一過性脳虚血発作の既往がなく、
心房細動が治癒して洞リズムに戻った11159名と、
治療中の心房細動の患者さん15059名、
そして心房細動のないコントロール22266名です。
その結果、
治癒した心房細動の患者さんは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
脳卒中や一過性脳虚血発作の発症リスクは、
0.76倍(95%CI: 0.67から0.85)と低下していましたが、
心房細動のないコントロールと比較すると、
1.63倍(95%CI: 1.46から1.83)と有意に高値を示していました。
治癒した心房細動の患者さんの総死亡のリスクは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
0.60倍(95%CI: 0.56から0.65)と低下していましたが、
これも心房細動のないコントロールと比較すると、
1.13倍(95%CI: 1.06から1.21)と、
これも有意に高値を示していました。
治癒した心房細動の患者さんの中には、
その後再発した患者さんも含まれているので、
それを除外して同様の検証を行うと、
心房細動のないコントロールと比較して、
治癒して再発のない心房細動の患者さんでも、
脳卒中や一過性脳虚血発作のリスクは、
1.45倍(95%CI: 1.26から1.67)と有意に高くなっていました。
このように勿論未治療の心房細動の患者さんと比べれば、
遥かに少ない比率ではあるのですが、
治癒して再発がないとみなされている患者さんでも、
心房細動の既往のない方と比較すると、
明らかに脳卒中などのリスクは高くなっていて、
抗凝固剤を一律に終了するという考え方には、
問題があるように思われます。
それでは全ての患者さんで治癒していても、
心房細動が一時的にあれば抗凝固剤を継続するのか、
ということになると、
それもかなり問題があるように思います。
抗凝固剤は有害事象も無視できない薬であるからです。
いずれにしてもこの問題は、
より厳密な検証が必要であると思いますし、
患者さんや末端の医療者が混乱しないように、
しっかりとしたガイドラインの作成が、
強く望まれるところだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。