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小児甲状腺癌は超音波検査でどの程度鑑別可能なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カラードップラーと小児甲状腺癌.jpg
2018年のthe Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に掲載された、
小児甲状腺癌の超音波診断の正確性についての論文です。

甲状腺癌の診断は、
超音波検査が最も有用で、
超音波検査により悪性が疑われた場合に、
皮膚から針を刺して甲状腺の細胞を採取する、
穿刺吸引細胞診が行われて、
悪性の疑われる細胞が確認されるか、
その可能性が否定出来ない場合に、
手術などの治療が検討されます。

成人においては、
これまでの大規模な研究の結果として、
嚢胞性の部分を含み、正常な甲状腺組織とほぼ同じエコーレベルで、
石灰化や腫瘍境界の不鮮明化、横幅に比べて縦(厚み)が大きい、
甲状腺外へ広がりが見られる、
などの悪性所見が見られなければ、
そのしこりが悪性である可能性は、
10%未満であることが分かっています。

そのために現行のアメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、
上記のような悪性の疑いが低いしこりでは、
大きさが1.5センチを超えない限り、
穿刺吸引細胞診を行なう必要性は低い、
という判断が示されています。

ただ、これはあくまで成人の場合です。

小児(通常18歳以下)においては、
甲状腺に発見されたしこりが悪性である比率は、
成人が5から10%程度であるのに対して、
22から26%の高率であると報告されています。

その点を勘案して現行のアメリカのガイドラインでは、
小児の甲状腺腫瘍は、
悪性を疑わせる所見が1つでもあれば大きさに関わらず、
充実性か部分的に嚢胞性の腫瘍で悪性所見がなくても、
大きさが1センチ以上であれば、
穿刺吸引細胞診の適応とされています。
ただ、この記載の根拠は実際には精度の高い臨床データが、
存在しているという訳ではありません。

小児の甲状腺腫瘍の穿刺吸引細胞診の適応は、
成人のデータからの推測による部分が大きいのです。

今回の研究はその点をより明らかにしようとしたもので、
経過の分かっている小児の甲状腺腫瘍236個を、
2人の経験のある放射線科医に、
ブラインドで超音波所見の読影を依頼し、
どのような所見が悪性の診断と関連が深いのかを検証しています。

その結果、
腫瘍の大きさや石灰化などの悪性所見、
嚢胞部分の比率やエコーレベルなどの指標により、
悪性や良性かの診断を行なったところ、
総合的にみると癌のうちで癌と診断される確率(感度)は58.7%
(95%CI: 46.7から69.9)、
癌でない場合に癌でないと診断される確率(特異度)は91.6%
(95%CI: 85.8から95.6)、
悪性の診断の的中率は78.6%
(95%CI: 65.6から88.4)、
良性の診断の的中率は80.9%
(95%CI: 74から86.6)と計算されました。

個々の所見でみると、
その腫瘍で嚢胞性の部分が25%を超えていることと、
エコーレベルが甲状腺組織と変わらないこと、
そしてドップラーで血流信号が見られないことが、
最もそのしこりが良性である根拠となると、
判断されていました。

成人のしこりにおいては、
良性と診断された場合に、
悪性である確率が10%未満であることが、
穿刺吸引細胞診を行なわない、
1つの指針となっていましたが、
今回の小児甲状腺腫瘍の検証では、
良性の診断の的中率は80.9%とやや低く、
それだけでは細胞診を行なわない、
充分な指標とはなっていない、
ということが分かりました。

今後成人と小児のしこりの診断上の違いを勘案して、
より信頼性の高い指標の確立が望まれるところだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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