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原発性アルドステロン症のスクリーニングに与える減塩の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルドステロン症と塩分.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
原発性アルドステロン症という高血圧の原因となる副腎の病気の、
簡便なスクリーニングの検査に、
患者さんの摂っている塩分量が、
意外に大きな影響を与えているのではないか、
という趣旨の論文です。

原発性アルドステロン症というのは、
治療抵抗性の高血圧の2割に関わるという報告があるほど、
近年高血圧の原因として重要視されている病気です。

身体の水と塩分を保持するのに重要な働きを持つ、
アルドステロンというホルモンが、
副腎の腫瘍から過剰に産生されることにより、
身体が水と塩分を貯留して血圧が上昇し、
塩分(ナトリウム)と交換にカリウムが排泄されるので、
血液のカリウム濃度が低下します。

通常アルドステロンの調節には、
腎臓から分泌されるレニンが関連していて、
レニンがアルドステロンの分泌刺激になります。
しかし、原発性アルドステロン症の時には、
レニンの調整が効かなくなるので、
アルドステロンが増加し、
レニンは抑制されている、
というパターンを取るのが通常です。

ここで原発性アルドステロン症のスクリーニングとして、
アルドステロンをレニンで割り算して、
その数値を利用しよう、
という発想が生まれました。

このアルドステロン/レニン活性比(ARR)のスクリーニングとしての効果を、
最初に検証した論文は、
僕の以前所属していた教室の先輩の手になるもので、
1981年に発表され今でも引用されています。

さて、
日本においてはアルドステロンをpg/mLで数値化し、
レニン活性をng/mL/hrで数値化して割り算し、
それが200を超える場合に、
原発性アルドステロン症の疑いありと診断しています。

一方で欧米ではアルドステロン濃度の単位は、
ng/dLを用いることが多く、
このため比率は20を超える場合を陽性としています。

この簡便なスクリーニングは有用性の高いものですが、
身体の塩分が少ない状態では、
レニン活性はアルドステロンとは別個に上昇するので、
現行のガイドラインにおいては、
この検査は塩分制限は行わずに施行すること、
と記載をされています。

しかし、実際に塩分制限が数値にどの程度の影響を与えるのかについては、
あまりデータが存在していませんでした。

典型的な原発性アルドステロン症においては、
レニン活性は1.0ng/mL/hr以下に抑制されます。

ただ、実際には比較的マイルドなケースでは、
レニン活性が1を超えることもしばしばあることが報告されています。
こうしたレニンの抑制が強くない場合には、
減塩でもレニンが上昇しやすいと考えられます。

今回の検証においては、
24時間のナトリウム排泄をチェックすることにより、
まず1日の食塩摂取量が9グラムくらいと、
塩分摂取量が多い状態で原発性アルドステロン症のスクリーニングを行い、
その疑いが強い事例に対して、
今度は1日の食塩摂取量が3グラムくらいの減塩として、
そこで再び同じスクリーニングを行っています。

まず塩分摂取の多い状態で、
高血圧があり、
ARRが20を超える241名を登録します。
通常スクリーニングで原発性アルドステロン症の疑いと、
指摘をされる人達です。

このうち、典型的な原発性アルドステロン症として、
レニン活性は1以下で、
アルドステロン濃度が6ng/dL(60pg/mL)以上のものを、
よりこの病気の可能性が高いと規定すると、
ARRが20を超える対象のうち、
33%に当たる79名しか、
この基準を満たしませんでした。

そこで更にその79名の陽性者を減塩の状態にして、
再度採血を施行すると、
そのうちの56%に当たる44名では、
今度はレニンが1以下でアルドステロンが60以上という、
基準を満たさない結果になりました。

つまり、レニン活性が高塩分の状態で抑制されていても、
その少なからずは塩分制限をすると、
レニン活性が上昇するので、
スクリーニングの基準を満たさなくなるのです。

上記文献の著者らの見解としては、
マイルドなタイプの原発性アルドステロン症や、
潜在性のアルドステロン症では、
レニンの抑制は充分ではなく、
また減塩によってレニンの上昇も起こりやすくなるので、
塩分は充分に摂取した状態でスクリーニングを行うなど、
スクリーニング法にも更なる検証が必要だ、
という趣旨のものになっています。

ただ、本当にそうでしょうか?

典型的な原発性アルドステロン症は、
レニン活性が抑制されていて、
レニン分泌刺激によっても上昇しないことが、
その特徴である訳です。

従って、減塩でレニンが上昇するというような事例は、
マイルドなアルドステロン症という言い方も出来なくはありませんが、
そもそも典型的な原発性アルドステロン症ではなかった、
という考え方も出来ます。

確かにレニンの抑制が不十分で、
アルドステロンが軽度上昇しているような事例でも、
経過を観察するうちに、
典型的なアルドステロン症となる事例は報告されていて、
そうしたケースでも長期的には、
心血管疾患のリスクは増加する、
というような報告もあります。

しかし、そうしたケースを潜在性アルドステロン症のように名付けても、
治療によりその予後が改善したというようなデータはないのですから、
あまり意味のないことではないでしょうか?

個人的には、
手術のような治療を検討する病気としての原発性アルドステロン症は、
レニンが抑制されて分泌刺激にも反応しない、
典型的な事例に限るべきではないかと思いますが、
ホルモンという狭い専門分野においては、
往々にして、
潜在性なんチャラ、というような言葉のお遊びが、
流行することが多いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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コメント 8

ひでほ

意外と先生の新しい本お高いですね。でもこういう本ないからポチしちゃおうかなあと考え中です。すいません。なんか難解でよくわかりませんが・・・SNMCの副作用で偽アルドステロン症というのがあったなあと思い出しました。原発性とどう違うのかぐぐってみたいと思います。
by ひでほ (2016-11-30 18:29) 

fujiki

ひでほさんへ
すいません。
専門書の扱いになるので高めの値段設定になっています。
ご納得がいけば、お買い求め下さい。
今日の記事はちょっとマニアックだったかも知れません。
by fujiki (2016-11-30 22:01) 

ゆま

私は今、抗がん剤治療一週間目にあたり、意識ももうろうとしていたのですが、先生のこの記事を見て、意識が復活(?)してしまいました!!
なんというか、素人ながら、私の疑問点の一つがちょっと溶けたような気がしてしまいました。つまり、
「PAって、何をしてもアルドステロンが出っ放しだから、PAなのではないのですか?」
というギモンです。もちろん、「手術を検討するくらい重症のPA」ということで、です。
見当違いなことを申しているならすみません。(お薬の影響ということでお許しください。)
これからも、原発性アルドステロン症の論文について、色々教えてください。ありがとうございました。
by ゆま (2016-12-01 00:24) 

fujiki

ゆまさんへ
コメントありがとうございます。
ご治療おつらいと思いますが、
頑張って下さい。
by fujiki (2016-12-01 06:23) 

くぼ

とっても難しいけど
何度も何度も読みました。
ゆまさんのコメントも何度も読みました。
ゆまさんの疑問は解決ですかね
先生のお答えが。。。
レニン抑制のない私は
マイルドチームかな
by くぼ (2016-12-01 06:55) 

アイ

はじめまして。
先生のブログを読ませていただいております。でも実際私には分からない事ばかりで、悩んでいます。
私は「原発性アルドステロン症疑い」で検査入院していました。
外来でのスクリーニングの数値はちょっと分かりません。
入院中、日内変動の検査では、
アルドステロン322、238、132、258
レニン 2.0、 2.2、 1.8、 2.0
でした。全て比率は200以下になってしまいます。薬の影響(アムロジピン)でもなく特に減塩もしていないと思います。24時間蓄尿もしましたが、先生の書かれていた塩分摂取量は分かりませんが、尿中アルドステロンは16でした。CTでは何も写りませんでした。
順番が逆になりましたが、そもそも高血圧で受診。カリウム値はスローケー服用前は3.0でした。
今回の検査入院の結果「原発性アルドステロン症」となったのですが、今は薬で血圧もカリウム値も落ち着いていますが、それをこのまま続けても宜しいのでしょうか。それともやはりまた入院し副腎静脈サンプリング検査を受けるべきなのでしょうか?
私の「原発性アルドステロン症」は、典型的ではなく、潜在性?マイルドなケースとなるのでしょうか?
レニンや比率、そして副腎静脈サンプリング検査について、また私はどのケースになるのかなど教えていただけますでしょうか。どうぞ宜しくお願いします。
長々書いてしまい申し訳ありません。




by アイ (2016-12-06 18:05) 

fujiki

アイさんへ
あくまで私の個人的な意見ということでお読み頂きたいのですが、
数値的には確かにアルドステロンは高めですが、
レニンの抑制は充分ではなく、
典型的な原発性アルドステロン症ではないと思います。
通常の降圧剤による治療で、
血圧とカリウムのコントロールが出来ているようなら、
CTでしこりも見つかっていませんし、
そのまま様子を見ても良いように思います。
ただ、この辺は色々な考えがありますので、
サンプリングまで進むことも、
決して間違いとは言えないと思います。
by fujiki (2016-12-07 10:28) 

アイ

返信いただき、有難うございます。
アルドステロンの数値は高め(それほど高い値ではないのですね)でも、CTでは明らかな腫瘍も写っておらず、レニン抑制も充分ではない(私は1以上ある理由?が未だに理解出来ていませんが)と言うことで、典型的な原発性アルドステロン症ではないのですね。
そうすると、必ずしも手術をしなければならないわけでもないのですね。
副腎静脈サンプリング検査については、今のところ服薬で血圧も基準値内、カリウム値も3.4〜3.7でほぼ基準値内で安定していますので、ゆっくり考えて決めたいと思います。
アドバイス、有難うございました。

by アイ (2016-12-07 19:03) 

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