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薬剤による高プロラクチン血症と乳癌リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リスペリドンの乳がんリスク.jpg
今年のSchizophrenia Research誌に掲載された、
広く使用されている抗精神病薬の、
乳癌リスクについての論文です。

リスペリドン(商品名リスパダールなど)は、
非定型抗精神病薬というタイプの薬で、
そもそもは統合失調症の治療薬ですが、
難治性のうつ病や双極性障害、
認知症の問題行動などの治療にも広く使用されています。

この薬はそれ以前の抗精神病薬と比較すると、
副作用の少ない薬として知られていますが、
脳のドーパミンを抑えるメカニズムを持つため、
乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンが増加します。

非定型精神病薬と呼ばれる薬の中では、
比較的プロラクチンの上昇作用が強いのがリスペリドンです。

プロラクチンは乳汁分泌を促すホルモンなので、
一定レベル以上上昇すると女性では生理が止まり、
乳腺が刺激されて増殖します。
授乳期ではないのにお乳が張って、
少量の乳汁の分泌が見られることもあります。
男性では性欲減退などが起こります。

プロラクチンが上昇した時の問題として、
乳癌のリスクが増加するのではないか、
という危惧があります。

プロラクチンの上昇により、
どの程度乳癌のリスクが増加するのでしょうか?

これはまだ明確な結論の出ていない問題です。

プロラクチンは細胞の増殖を促すホルモンで、
ネズミの実験においては、
明確に乳癌の誘発作用が確認されています。

ただ、人間においては女性ホルモンのエストロゲンの方が、
より乳癌の進行との関連性が明確で、
ネズミとは必ずしも同じではありません。

2013年のCancer Research誌に掲載された、
アメリカの看護師の大規模疫学データを解析した論文によると、
プロラクチンの上昇により、
1.2倍程度の乳癌リスクの増加が認められ、
その影響は主に閉経後に認められました。

要するに基本的には軽微なものなので、
心配をし過ぎる必要はないのですが、
若干のリスク増加はあるので、
念のため頭には置いておいた方がいい、
というレベルのものです。

このデータは薬剤によるプロラクチンの上昇とは無関係のものです。

それでは、
抗精神病薬によるプロラクチンの上昇と乳癌との関連は、
そうではない場合とは別個に考えるべきなのでしょうか?

抗精神病薬の使用により、
高率にプロラクチンは上昇しますが、
その一方で抗精神病薬には、
腫瘍細胞の増殖抑制作用のあることも知られていて、
癌の発症リスクが減少する、
というような報告も複数存在しています。

2006年のBritish Journal of Cancer誌の論文では、
デンマークにおいて、
抗精神病薬を使用している患者さん25000人余を対象として、
その使用と各種の癌とのリスクについて解析していますが、
結論としては大腸癌のリスクは抗精神病薬の使用により、
有意に低下し、
乳癌のリスクについては増加も減少も認められませんでした。

今回の研究は、
国民総背番号制を取るスウェーデンのもので、
リスペリドンを含む抗精神病薬を処方されている女性、
トータル55976名を解析し、
平均の観察期間が2.4から2.8年(薬剤による)において、
抗精神病薬の処方と乳癌リスクとの関連を検証しています。

その結果、
リスペリドンと他の非定型を含む抗精神病薬の間で、
乳癌リスクには有意な差は認められませんでした。

このデータは観察期間が短いので、
これをもってリスペリドンが安全とも言い切れませんが、
抗精神病薬による高プロラクチン血症に関しては、
その数値が高いから即乳癌のリスクを高めるとは、
単純に考えられないと判断するのが妥当なようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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