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オイスターズ「この声」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事になります。

それがこちら。
この声.jpg
名古屋を中心に活動している劇団
「オイスターズ」の新作公演が、
先日駒場アゴラ劇場で行われました。

この劇団は初見です。
何か初物で面白いものはないかと思っていて、
不条理な会話劇というような感想を読んだので、
どんなものかしら、
と思って観てみたのです。

役者は4人だけで、
ただの平板を置いただけの舞台に、
ちょっとした小道具が置いてあるだけのセットです。
暗幕もなく、
劇場の黒い壁を剥き出しのままで使用し、
ドアやエレベーターもそのまま使用しています。
音効も殆どなく、
照明も地あかりから始まり、
場面により少しアクセントを付けて方向を変え、
ラストに向けて色を少し入れて絞ってゆく、
というだけのシンプルなものです。

上演時間は1時間10分ほどの短さで、
役者の動きもあまりなく、
主に身体を固定したまま2人で会話を繰り返すだけの場面が、
その時間の多くを占めています。

不条理劇と言えなくもないのですが、
会話のすれ違いに、
あまり冴えたところを感じないので、
ただまどろっこしいだけ、
というように感じて、
2場面くらいを過ぎると、
観ているのが苦痛になります。
演技レベルがそれほど高いものではないので、
台詞にリズムがなく、
役者の動きや表情を見ていても、
明確な意識や感情の流れが感じられません。
棒読みと棒立ちは意図的なものだということですが、
仮にそうだとしても、
それを体現する演技水準は低く、
棒立ちと棒読みが芸にはなっていません。

つらいなあ、と思いながら、
最後までどうにか観た、
という感じで芝居は終わってしまいました。

他の方の書いた感想などを読む限り、
過去の作品には面白そうなものもあるので、
この作品のみで評価することは良くないと思うのですが、
正直最近観た芝居の中では、
技術的な面を含めて、
最も低レベルのもので、
この作品でお金を取って上演するのは、
ちょっときついなあ、
と感じたのが正直なところです。

辛口の感想になり申し訳ありません。

以下ネタバレを含む感想です。

舞台は女子高(おそらく)で、
中年の美術の先生(男性)と、
3人の女子生徒が登場人物です。

先生が油絵を描いているところに、
1人目の女子生徒が現れ、
友達がゾンビになりそうなので、
どうすれば良いのか、
という相談を先生にします。

ゾンビになってしまったら、
凶暴で押さえつけるのは難しいので、
ゾンビになる前に友達を押さえつけるべきでないか、
というような話になり、
女性徒は姿を消します。

入れ替わりに2人目の女性徒が現れ、
自分のクラスにいじめがあり、
ある生徒が別の生徒を鎖で縛ろうとしている、
というような話をします。

また入れ替わりに3人目の女性徒が現れ、
死んだらどうなるのか、
というような話をします。

先生はその3人の話を結び付け、
ゾンビになるというゲームをして、
友達をいじめている女性徒がいて、
3人目の女性徒がそのいじめられている生徒だ、
というように思うのですが、
3人目の女性徒にした天国と地獄の話が、
セクハラを受けた、
というような話になってしまい、
自分が責められる様な展開になるので、
慌てて弁明を始めます。
どうやら先生にも裏の顔があるようで、
自分の妻と子供を描いたという、
最後まで観客には見えることのない先生の絵は、
猟奇的な作品であるようにも思われます。
そのうちに、
鎖が舞台に持ち込まれ、
1人目の女性徒によって、
先生は鎖で椅子に縛り付けられてしまいます。

最後に3人の女性徒が一同に会すると、
実際には3人は初対面であったことが分かり、
3人が退場した後に、
先生は縛られて1人残されます。

誰かが虐待されている、
というような話をしているうちに、
している本人が同じように虐待される、
というような話は、
別役実の芝居などでは、
お馴染みの趣向です。

ただ、こうした趣向は、
最初はその人物が部外者であることが明確なのに、
知らず知らずのうちに当事者になってしまう、
という自然な移行にその妙味があるのですが、
この作品では、
1人目の女子生徒が鎖を引きずって登場し、
何の段取りもなく先生を縛り付けてしまうので、
不条理にも感じませんし、
ショッキングにも感じません。

ストーリーの核は先生にあり、
先生の心理が観客に共有されないと、
こうしたドラマは成立しないのですが、
先生役のキャストの芝居が、
あまり自然なものではなく、
大仰なアクションが唐突に挟まれながら、
意識の流れを観客に伝える技術がなく、
表情も乏しいので、
とてもそうした効果は出ていません。

要するにこうしたシンプルな会話劇で、
かつ自然な会話ではなく、
食い違いから物語が進行するような性質の舞台では、
自然に感情を伝えられるような役者の技量が、
何より重要なもので、
それがないと芝居自体が、
体をなさないものになってしまうのですが、
今回の舞台では演技がその水準には達していない、
ということなのではないかと思います。

ただ、戯曲自体もそれほど完成度の高いものとは思えません。

最初にゾンビが出て来て、
それからいじめが出て来て、
最後に天国と地獄が出て来るのですが、
死と暴力とエロスのイメージとして、
あまり観客の想像力を喚起するものではなく、
ゾンビの説明なども、
これまでの引き写しでオリジナルではなく、
イメージが固定化する一方で、
説明は詰まらないので退屈に感じます。

これはもっとオリジナルな設定を用意して、
それを徐々に説明するような手法が、
より良かったのではないでしょうか。

また、先生の内面にももう少し踏み込まないと、
物語が膨らまないと思うのですが、
猟奇的な絵を匂わす場面はあるものの、
それも展開しないままに終わってしまうので、
非常に物足りなく感じてしまうのです。
謎の絵は勿論、
最後まで謎のままで良いのですが、
謎がそれだけで展開がない、
という点が良くないと思うのです。

演出は、
オープニングに上演中の注意事項を、
校内アナウンスとして流す趣向が冴えていて、
そこだけは抜群に面白いのですが、
それ以外は感心しません。
暗幕も吊らずに劇場の壁を剥き出しにしているのですが、
それで壁に向かって結構大声を出すので、
声が反響して聞きづらくなっていました。
これではいけません。

何もない舞台で演じるのであれば、
演技がもっと水準の高いものでなければいけません。
お金を取ってプロとして見せている以上、
「何でお金を取るのか」
という点をもっと考えるべきではないでしょうか?

すいません。
期待が結構大きかったので、
辛口の感想になってしまいました。

これからも頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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