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小児甲状腺癌の遺伝子変異(2016年アメリカの報告) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
小児甲状腺癌の遺伝子変異.jpg
今年のThyroid誌に掲載された、
小児甲状腺癌の遺伝子変異の頻度を検証した論文です。

甲状腺癌の頻度は成人でも子供でも、
世界的に増加しています。

ただ、症状のない段階での超音波検査などが、
以前より広く行われるようになったので、
そのために見掛け上頻度が増えている、
という可能性も指摘されています。

20歳以下もしくは18歳以下の小児甲状腺癌は、
成人の甲状腺癌と比較して、
その生命予後はトータルには良く、
甲状腺癌による死亡率は2%未満と報告されています。

その一方で、
小児甲状腺癌はその診断の時点で、
より進行していることが多く、
リンパ節や肺の転移も多いことが知られています。

甲状腺癌には、
幾つかの特徴的な遺伝子変異のあることが報告されていて、
その変異の有無と、
病状の経過や癌の組織型との間には、
一定の関連があることも指摘されています。

こちらをご覧下さい。
甲状腺癌の遺伝子変異の頻度の図.jpg
これは成人の甲状腺の遺伝子変異の一覧ですが、
一番頻度の多いのはBRAFの変異で、
基本的に乳頭癌には多いが濾胞癌にはなく、
進行した乳頭癌の場合には、
その予後に一定の影響を与えると考えられています。

次に多いのがRET/PTCの再配列の変異で、
これもBRAFと同じように濾胞癌にはなく、
主にRET/PTC1とRET/PTC3の2種類があり、
RET/PTC3の再配列の異常は、
放射線誘発癌の特徴の1つと考えられています。

RAS変異というのは、
非常に多くの固形癌に見られる遺伝子変異ですが、
甲状腺乳頭癌には少ないことが特徴です。

甲状腺癌の場合、
この3種類の遺伝子変異が、
重複せずに単独で存在していることが、
1つの大きな特徴だと考えられています。

それ以外に、
PAX8/PPARγの再配列の異常があり、
これはその意義は明確ではありませんが、
乳頭癌にはなく、
濾胞癌に多く見られることが特徴だと報告されています。

ただ、これは敢くまで成人のデータです。

小児甲状腺癌の遺伝子変異は、
成人甲状腺癌とは異なる特徴があるとされています。
BRAF変異が成人より少なく、
RET/PTC再構成の頻度は成人より多い、
ということは複数の報告がありますが、
そのデータは成人と比べると限られています。

今回のデータは、
アメリカ、サンディエゴの単独施設によるものですが、
39名の18歳以下の甲状腺癌の患者さんの切除組織において、
遺伝子変異の有無と種類を検証しています。

39名中29名は女性で、
平均年齢は14.7歳(7.9から18.4歳)でした、

その結果…

39例中53.9%に当たる21名で、
BRAF、RAS、RET/PTC、PAX8/PPARγの、
いずれかの遺伝子変異が認められました。
BRAF変異は9例に、
RET/PTCの再配列異常は6例に認められ、
いずれも甲状腺乳頭癌でした。

甲状腺乳頭癌の患者さん28例中、
57.1%の患者さんで上記4つの変異のいずれかが認められ、
32.1%はBRAF変異で、
21.4%がRET/PTC再配列異常
(5例がRET/PTC1で1例のみRET/PTC3)、
3.6%にRASの変異がある、
という比率になっていました。

濾胞癌5例のうちでは、
1例にRAS系の変異が、
もう1例にPAX8/PPARγ再配列異常が認められ、
濾胞癌の要素を含む乳頭癌6例のうち3例では、
いずれもPAX8/PPARγ再配列異常が認められました。

また、
BRAF変異を持つ患者さんの88.9%は、
15歳を超えていましたが、
RET/PTC再配列異常の患者さんは、
その全てが15歳以下でした。

今回の結果は、
これまでの報告とほぼ一致するもので、
15歳を超える年齢層では、
ほぼ成人と同じ遺伝子変異のパターンを示し、
甲状腺乳頭癌においては、
BRAF変異が主体ですが、
15歳以下においては、
RET/PTC再配列異常が遺伝子変異としては最も多く、
平均2.9年程度の観察期間においては、
その予後には特に差は見られなかったようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

高橋

いつも興味深く拝見しております。
私事で大変申し訳ございません、是非先生の見解をお聞きしたく失礼ながらコメントいたしました。
40代の女性、膵臓の脂肪置換との診断を受け経過観察中の者です。脂肪変性以外は膵管等その他 特に異常はありません。血液検査では膵アミラーゼ・リパーゼは低値ながら正常範囲内、糖尿も今のところありません。指導に従いお酒はやめました。私としては、これまで受けてきた説明などから、今後の経過に注意は必要なものの別段病気という訳ではないという認識でおります。
が、近々の診察の中で「病名としては慢性膵炎」という説明を受け ややショックを受けています。どのように捉えて良いものか、不安が募っております。
診察なしでの見解は本来できかねるかと思いますが、さほど心配しなくてよいのかどうか?何かお言葉を頂けると幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。
by 高橋 (2016-02-29 19:42) 

fujiki

高橋さんへ
膵臓の脂肪変性がある、と言う点から、
そうしたお話があったのだと思いますが、
現状は大きなご心配はないと、
お考え頂いて良いように思います。
by fujiki (2016-03-02 07:31) 

高橋

お忙しい中、ご返信誠にありがとうございました。
コメント頂いて、少し気持ちが落ち着きました。
必要以上に心配せず捉えていこうと思います。
診察の度に右往左往してしまい、なにぶん地方におります故 先生のような方に率直に助言ただけると随分 心の支えになります。
もっと患者力を上げなければと時に反省する次第です。

日々のブログ、楽しみに拝見させていただきます。m(__)m

by 高橋 (2016-03-02 10:27) 

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