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麻薬系鎮痛剤とベンゾジアゼピンの併用による過量服薬死リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ベンゾジアゼピンとオピオイドの併用リスク.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
麻薬系鎮痛剤と安定剤との併用による、
過量服薬死のリスク増加についての論文です。

オピオイド系鎮痛薬というのは、
具体的にはコデインやモルヒネ、
オキシコドンやフェンタニルなどを指し、
その強い鎮痛作用から、
痛みの治療薬として使用されているものです。

従来は癌の疼痛に限って使用されていたのですが、
その剤型が工夫され、
より安全に使用出来るようになったことから、
最近では他の鎮痛剤であまり効果のない痛みに対しては、
癌に限らず広く使用される流れになっています。

日本においても最近そうした使用が始まりましたが、
アメリカにおいては、
その使用量が急増している流れがあります。

それに伴いアメリカにおいては、
麻薬系(オピオイド系)鎮痛剤の関連した、
過量服薬による死亡が、
急速に増加しており、
薬物中毒死の58%を占める処方医薬品による過量服薬死の、
75%ではオピオイド系鎮痛薬が関与している、
という2010年の統計があります。

ここでオピオイド系鎮痛薬の過量服薬死の3割では、
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が、
併用されていた、というデータがあります。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、
それ自体にも依存性や過量服薬の原因となり易い、
という問題がありますが、
ここにおいてオピオイド系鎮痛薬との併用が、
過量服薬死のリスクになるのではないか、
という推測があるのです。

今回の研究は退役軍人の医療保険のデータを活用して、
オピオイド系鎮痛剤を含む過量服薬死の事例2400例を抽出。
そのコントロールとして、
オピオイド系鎮痛剤を使用している420386名を抽出して、
その中でベンゾジアゼピンを併用していたり、
過去に使用していたことと、
オピオイド系鎮痛剤が関連した、
過量服薬死との関係を検証しています。

退役軍人の保険なので、
その9割以上は男性です。

このオピオイドを処方されていた42万人余のうち、
27%に当たる112069名が、
ベンゾジアゼピンの処方歴も持っていました。
そして過量服薬死の事例のほぼ半数に当たる1185例は、
その時点でオピオイドとベンゾジアゼピンの、
同時処方を受けていたのです。

ベンゾジアゼピンの処方歴のない場合と比較して、
同時に処方されていたケースでは、
3.86倍(3.49-4.26)、
以前に処方されていたケースでも、
2.33倍(2.05‐2.64)、
それぞれ有意に過量服薬死のリスクは増加していました。
この過量服薬死のリスクは、
1日換算のベンゾジアゼピンの用量(ジアゼパム換算)が、
多いほどより高いという相関が認められました。

比較対照されているベンゾジアゼピンは、
クロナゼパム(商品名リボトリールなど)、
アルプラゾラム(商品名ソラナックスなど)、
ジアゼパム(商品名セルシンなど)、
ロラゼパム(商品名ワイパックスなど)、
そして日本未発売のテマゼパムですが、
クロナゼパムを対照とした場合に、
そのオピオイド関連過量服薬死のリスクは、
テマゼパムのみ0.63倍と有意に低値となりました。
また、ロラゼパムも有意ではありませんが、
低値の傾向を示しました。
ロラゼパムとテマゼパムは構造上類縁の薬なので、
何らかの意味のある可能性があります。

オピオイド系鎮痛薬とベンゾジアゼピンの併用が、
過量服薬やそれによる死亡の危険を高めることは、
これまでにも報告のある事項ですが、
これだけ多数例で検討されたデータはこれまでになく、
こうした現象がある、という蓋然性は高まった、
と言えそうです。

今回のデータでは、
同時に服用していなくても、
過去のベンゾジアゼピンを服用していたこと自体がリスクになっていて、
このことの解釈は微妙ですが、
ベンゾジアゼピンを使用する原因となるような、
情緒的な不安定さや衝動性などが、
過量服薬死の危険の増加に繋がっている、
という解釈が一番妥当のように思います。

いずれにしても、
ベンゾジアゼピンの使用歴が、
その後のリスクに関わるという知見は重く受け止める必要があります。

医療者としてはその使用を最小限度にすると共に、
他の薬との関連や相互作用にも、
同時に気を配る必要があるように思います。

今後はビッグデータの活用という形で、
それまでの薬の服用歴なども、
一括で検索が可能となることが想定され、
人権面には充分配慮した上で、
ベンゾジアゼピンや抗精神薬の処方歴を、
その患者さんの健康の把握において、
活用するような流れになるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
フェンタニルがフェンニタールと誤記されていましたので、
コメントでご指摘を受け修正しました。
(2015年6月22日午前6時16分修正)
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コメント 2

かわぞえ

すみません。些細な誤字についてです。フェンニタールではなく、フェンタニルでしょうか。
by かわぞえ (2015-06-21 23:31) 

fujiki

かわぞえさんへ
ご指摘ありがとうございます。
さっそく修正させて頂きました。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2015-06-22 06:17) 

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