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心房細動の患者さんに対するジゴキシンの使用リスクについて(2015年Lancet誌) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ジゴキシンの死亡リスクLancet.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
心房細動の患者さんに使用した場合の、
ジゴキシンの予後に与える影響を検証した文献です。

ジゴキシン(ジギタリス)は、
非常に古くから使用されている心不全の治療薬で、
脈拍を下げて心臓の負荷を減らし、
心臓の収縮力を高める作用があるとされています。
(ジゴキシンはジギタリス製剤の1つですが、
実際に使用されているのは殆どジゴキシンなので、
ほぼ同義とお考え下さい)

20年くらい前までは、
心不全治療の基礎薬として広く使用されましたが、
ACE阻害剤などの血管拡張剤の効果が、
多くの精度の高い臨床試験で確認されるようになると、
その用途は一気に狭まりました。

その有効性のデータも、
あまり精度の高いものではなく、
ジギタリスは血液濃度を測定しながら、
慎重に使用しないと、
ジギタリス中毒と言って、
血液濃度が増加した場合に、
重篤な不整脈や胃腸症状などが出現するため、
使用にリスクの高い薬であることもあって、
その使用頻度は、
近年減少しています。

ただ、心房細動という不整脈で、
脈が早く動悸などの症状が強い患者さんでは、
脈を下げて症状を安定させる目的で、
このジギタリスが使用されることは、
今日でもしばしば行なわれています。

国際的なガイドラインにおいても、
この目的の使用に関しては、
第一選択の扱いではありませんが、
その使用は認められています。

僕も昔から使い慣れているので、
こうした場合に特に高齢者ではジギタリスを、
少量使用することが多いのですが、
現行の第一選択はβ遮断剤という薬なので、
大学病院の先生などから、
お叱りを受けることもあります。

最近になり、
ジゴキシン(ジギタリス)を心房細動の患者さんに使用することは、
患者さんの予後に悪影響を与えるのではないか、
ということを示唆するデータが幾つか発表されています。

ただ、データの精度はそれほど高いものではなく、
例数もそれほど多いデータではないので、
心房細動の患者さんにジゴキシンが良くないと、
結論付けることは出来ません。

昨年ブログで記事しました、
Circulation誌の文献では、アメリカにおいて、
カリフォルニア州の膨大な医療データを解析することにより、
心不全のない心房細動の患者さんにおける、
新規のジゴキシンの使用と、
患者さんの予後との関連性を検証していました。

その結果では、
心房細動の診断後にジゴキシンを使用し、
平均で1.17年の観察期間において、
未使用と比較して患者さんの死亡リスクは1.71倍に増加し、
入院のリスクも1.63倍に有意に増加していました。

つまり、
心不全のない心房細動の患者さんに対して、
脈拍のコントロール目的でジゴキシンを使用すると、
患者さんの予後が悪化するのではないか、
という結果です。

ただ、これもカルテなどのデータを後から解析したものなので、
それほど精度の高いものではありません。

心房細動の患者さんにジゴキシンを使用した場合のリスクは、
まだ明確とは言えない事項なのです。

今回の研究では、
新規抗凝固剤リバーロキサバンの大規模臨床試験のデータを活用して、
心房細動でリバーロキサバンもしくはワルファリンを、
使用している患者さんにおける、
ジゴキシンの予後に与える影響を検証しています。

そもそもはジゴキシンの影響を検証するためのデータではないのですが、
非常に厳密な方法で行われた試験なので、
その信頼度は高いのです。

登録された14171名の心房細動(発作性を含む)の患者さんのうち、
37%に当たる5239名が、
ジゴキシンを使用していました。
結構な頻度で、実地臨床においては、
まだこの薬が使用されている、と言うことが分かります。
平均の観察期間は707日です。

ジゴキシンを使用している患者さんは、
心不全が多い、糖尿病が多いなどの傾向があるので、
そうした予後に影響を与える因子を補正した結果として、
ジゴキシン使用群は未使用群と比較して、
総死亡のリスクが1.17倍(1.04‐1.32)、
心血管疾患による死亡のリスクが1.19倍(1.03-1.39)、
突然死のリスクが1.36倍(1.08-1.70)と、
それぞれ有意に増加している、
という結果になりました。

つまり、前述のCirculation誌の文献と比較すると、
その増加率は少ないのですが、
矢張りジゴキシンの使用は、
若干ながら患者さんの生命予後を悪化させている、
という結果は共通しています。

そもそもジギタリス製剤の効果を検証したデータの多くは、
心房細動の患者さんを対象としたものではなく、
それでいながら現状のこの薬の使用目的は、
主に心房細動の、それも比較的高齢の患者さんに多い、
という問題があります。

その有効性は現時点で決して否定された、
ということではないのですが、
高齢の心房細動の患者さんにおける、
ジギタリス製剤の使用が生命予後に与える影響を、
より厳密な介入試験において、
検証する必要性は高いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

AF患者

ある関係した本に「病悩3年の患者」と書かれていました。病歴3年などとは読み慣れた言葉ですが、病悩の意味は症状の重いAF患者にとっては至言です。脈拍60~80台の私はワーファリン2㍉/日のみの服薬で時・所構わず起きる強い症状(胸苦・胸部不快・倦怠感等々)に悩みぬいています。かかりつけ医は「うつ」だといわれ、2か月に1回総合病院の招聘医には「膝が痛い、腰が痛い、耳が遠い、物がよく見えない、と同じように受け入れるほかありません」。そうです、何もあちらにもっていくものがありませんのでこれを持っていく、と帰院の車に乗ります。(カテアブは東京に行くほかありません。慢性化しては無理とご診断)
by AF患者 (2015-06-18 09:15) 

fujiki

AF患者さんへ
コメントありがとうございます。
実際に慢性心房細動でも、
持続する症状に苦しんている方も多いのですが、
症状を改善するような、
有効な治療があまりないのが実状だと思います。
by fujiki (2015-06-19 06:41) 

bpd1teikichi_satoh

Dr.Ishihara興味深い記事有難うございます。
爺の故父は7年前に心不全で亡くなりましたが、心房細動の為に
ジゴキシンとアスピリンの治療を続けていました。常水圧水頭症
があり認知症状の為にジゴキシンを過量に飲みすぎて逆に不正脈
なったこともありました。
by bpd1teikichi_satoh (2015-06-19 13:49) 

fujiki

bpd1teikichi_satohさんへ
コメントありがとうございます。
個人的には嫌いな薬ではないのですが、
予期しない中毒もありますし、
問題の多いことも確かだと思います。
by fujiki (2015-06-20 06:35) 

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