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大気汚染短期曝露の脳卒中リスクへの影響 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
短期大気汚染と卒中リスク.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
短期間の大気汚染への曝露が、
脳卒中の発症に及ぼす影響についての論文です。

大気汚染が健康に大きな影響を与えることは、
多くの疫学データや動物実験等において、
確認された事実です。

ただ、その影響は多岐に渡るため、
その中には明確な関連性の認められているものもあり、
必ずしもそうではないものもあります。

大気汚染により喘息などの呼吸器疾患が増えることは、
比較的理解がし易い影響です。
しかし、その一方で大気汚染は、
心筋梗塞や脳卒中などの、
所謂心血管疾患の発症リスクの増加にも繋がるという、
これも複数のデータがあり、
そちらについては、
「どうしてなの?」という疑問も感じます。

これまでの研究において示唆されていることは、
大気汚染物質が体内に取り込まれることにより、
血管内皮障害を来たし、
交感神経の緊張の高まりなどと相俟って、
血栓症を惹起し易くするのではないか、
というメカニズムです。

こうした変化は、
かなり短期間でも生じることが確認されています。

短時間の大気汚染への曝露が、
健康な人にいきなり脳卒中を発症させるとは、
さすがに考え難いのですが、
たとえば詰まり掛かった血管があって、
それが大気汚染物質の曝露によって、
そのきっかけで閉塞に至り、
脳梗塞を発症する、ということはないとは言えません。

これまでに心筋梗塞については、
そうした大気汚染物質の後押しによる、
急性心筋梗塞の発症リスクの増加が、
複数報告されていますが、
脳卒中については、
あまり明確な結論が出ていませんでした。

今回の研究では、
これまでの世界中のデータを収集してまとめて解析する、
システミック・レビューとメタ解析の手法を用いて、
28ヵ国における620万件という膨大な件数の脳卒中の発症と、
大気汚染物質の短期曝露との関連を検証しています。
脳卒中の発作から7日間以内の曝露のみが、
検証の対象となっています。

大気汚染物質としては、
ガス状汚染物質として、
一酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄、オゾンが、
粒子状汚染物質としては、
PM10とPM2.5が対象となっています。

その結果…。

対象となった全ての汚染物質の濃度と、
脳卒中による入院と死亡のリスクとの間には、
その程度は僅かですが、
有意な相関がそれぞれに認められました。

一酸化炭素濃度が1ppm増える毎に、
脳卒中による入院と死亡のリスクは1.015倍有意に増加し、
二酸化硫黄は10ppb毎に1.019倍、
二酸化窒素は10ppb毎に1.014倍、
PM2.5 は10μg/㎥当たり1.011倍、
PM10 は10μg/㎥当たり1.003倍、
それぞれ有意に脳卒中のリスクを増加させていました。

オゾンは10ppb当たり1.001倍と、
最も少ない増加に留まりました。

データは概ね、
脳卒中発症当日の大気汚染の影響が、
最も大きく、
時期が離れるに連れて、
その影響は減弱していました。

つまり、
たった1日の大気汚染への曝露においても、
それが脳卒中の発作の引き金として機能し得る、
ということがこの膨大なデータから示されました。

ただそれは、
100万件単位のデータがないと、
有意にはならない性質のものでもあります。

今回の研究ではまた、
発展途上国(その疫学データの主体は中国です)の、
大気汚染の程度がより強く、
それがより多くの脳卒中の発症と関わっていることが示唆されています。
ただ、データの8割は先進国のものなので、
明確に証明された、
という訳ではありません。

汚れた空気の中で生活する、と言うこと自体が、
たとえ1日だけという短期間であっても、
脳卒中や心筋梗塞の発症の引き金になり得る、
という知見の意味するものは大きく、
予防医療というのは、
そうした環境改善の視点を持たなければいけないようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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